第五章 闇の中 三話
それに対し、ダージュは目を細める。
「これだけは言っておく。私とお前はただのビジネスパートナー。貴様が何か、トラブルを抱えれば、私との縁はそこまでだ。分かったな?」
「それはこっちの台詞、とでも言っておくわね」
電話越しだと言うのに、子供が聞いたら失禁でもしそうなくらい、穏やかではない二人。
マチルダがそう言うと、電話は切れた。
「……ふん、殺人鬼の分際で」
ダージュは眉を顰めながら携帯をテーブルの上に投げ置く。
「さてと、……もしもし、大統領かしら? 例の件、順調よ。あの爆破も貴方の要望通り、多くの人間を犠牲にさせたわ。これでまた、ブラックバイソンクリニック、ダージュに一泡吹かせられるわ」
マチルダは先程とは別人の様に変わり果てたかのように、別の電話相手に対し、悪魔的な笑みになる。
一体、マチルダの狙いとは?
その頃、アッシュは、他の医学生たちの目を盗んで、ある人に電話をしていた。
「……もしもし、ルイか? 体調はどうだ?」
「うん。ルイ元気だよ。早くお兄ちゃんに会いたい」
心配しながら電話をするアッシュの相手は、アッシュの妹、ルイだった。
ルイは無邪気にはしゃでいる様子だった。
それを聞いたアッシュは胸を撫で下ろす。
「そうか。兄ちゃんはまだお見舞いに行けないんだ。今最終試験前で勉強しなきゃいけないし、外出も許可が下りないんだよ」
「そうなんだ」
申し訳なさそうに言うアッシュに、ルイは声が萎れていく。
「でも大丈夫だ。兄ちゃんが医師免許手に入れたら、真っ先にルイの病気を治してやるから」
「うん、約束だよ」
「昔からのな。大丈夫。兄ちゃんを信じろ」
アッシュは元気づけようとする言葉をかけていく。
それでも、ルイは不安だった。
父親を亡くし、母親は仕事で出張し、妹のルイは脳梗塞を患い、手術が必要な段階まで悪化していた。
しかし、高額な手術費を払えなかったアッシュは、自分が医師となり、妹を救うと言う決断をすると、三万から四万ドル支払わなければいけない。しかし、奨学金制度に入ったアッシュは、今の所、費用は掛からない。
それだけでなく、アメリカの医師は、他の国に比べ、年収も高く、すぐ返せる。
アメリカ人の九十パーセントの医学生たちが奨学金制度に入っていると言う噂もあるくらいだ。
それで、アッシュは、自分が医者になり、外科医として妹の脳梗塞を無料で治療しようと考えていたのだ。
「じゃあなルイ。医師や看護婦さんの言う事ちゃんと聞くんだぞ。兄ちゃんも頑張るから、ルイも後ちょっとだけ頑張ってくれ」
「うん。お兄ちゃん。大好きだよ」
「ああ。兄ちゃんもルイの事、愛してるぞ。それじゃあな」
愛情いっぱい与える様にしてルイを励ますアッシュ。
ルイはずいぶん寂しそうにして切った事が、アッシュにとっては苦悩だった。
大きく深呼吸をし、再び気合を入れ、授業のため研修室に戻るアッシュ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で第5章は終わりです。
次章からも是非ご一読ください。
宜しくお願いします。