第五章 闇の中 二話
「ねえ、ハラアはどうしたの?」
トードは心配した面持ちでイムたちに聞く。
「……ハラアは……落第した」
「えっ⁉」
先陣を切って重々しく口にするカズイ。
それにトードは一驚する。
「俺の助手を務めていたんだが、臓器移植の時、臓器提供者の肝臓を落としてな。それを目にした試験官が、ハラアを撃ち殺した」
「……くそ」
打ち震える様にして悲しみながら怒りが沸々と沸き起こるトード。
カズイも心中穏やかではなかった。
その日の内に、五十七人中、二十二人が生き残り、最終試験に挑むことになった。
講習中に、カズイ、ライア、ネムイは、その場で試験免除の通知を貰ったが、なんと三人はその申し出を断ったのだ。
トードとイムが、怪訝な面持ちで三人に断った理由を聞いてみた所、カズイとライアは、自分たちだけ飛び級しても、それは平等ではない、と言う、利己的な部分を嫌い至っての答え、だと言う。
しかし、ネムイだけが違った。
ネムイは悲しそうな面持ちで、「認めさせてやりたいのよ。全てに置いて試験を通過し、現場でも対応できたと言う実績が欲しいの。そうでないと、誰も私を認めない。それはあの人も、例外じゃないから」とそれだけ言って講習の場を去っていった。
最終試験は、追って通達されるので、それまでは学業に専念する様にと指示を受けたトードたちは、言われた通り、黙々とカリキュラムをこなしていった。
緊急事態から三日後、ダージュはある人物とあるやり取りをしていた。
広いオフィスで下には豪華そうな赤い絨毯。
上にはシャンデリアまで完備されている。
そんな広いスペースのガラス張りの窓付近を背に、椅子にもたれかかっているダージュ。
天然パーマの黒髪。少し焼けた肌。眼鏡をかけ、常に鋭い眼力をしている。
首を斜め下に曲げながらとある人物と電話をしていた。
「貴様、一体何をした?」
「私はただ言われた仕事をこなしただけよ。貴方とは無関係な場所でね」
ダージュが話す相手は、三十代の女性。
ルックスが良く、相手を欲情でもさせるかのような妖艶な面持ち。
その女性は雑居ビルの屋上から電話をしていた。
「今回の爆破テロ。あれのおかげで、私の医療機関に保管してある、臓器の大半を消費する事になった。マチルダ。お前が昔、殺し屋として活動する中、私はお前を拾ってやった。溝鼠として暗躍する毎日に辟易とした所を私は救った」
「ええそうね。でも貴方が私に依頼する仕事は結局、汚れ仕事じゃない。この前何て、医学生が脱走したから、殺してくれ、だったかしら? それに今回の爆破テロがどうこう言ったって、貴方の所の医学生たちが死人となれば、臓器何て腐るほど手に入るでしょ?」
ダージュが声に圧を掛けながら、ある話をしようとした時、マチルダと言う女性は、話を少し逸らそうとしたのか揶揄う様に話し始める」
「話を脱線させるな。あの爆破テロ、首謀者がまだ詳らかになっていない。手下と思える残党は、全て機動隊員に射殺され、既に迷宮入りされかけている。新聞やネットニュースもその話で持ち切りだ。だから私は聞いている。お前、今回の爆破テロに絡んでないか?」
「何を根拠に聞いてるのかしら? 是非、貴方のその小さな脳みそと打診したいわね」
マチルダはクスクス笑いながらダージュを煽る。
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