第四章 緊急時の緊急 三話
今回のケースで一番の損傷は、何と言っても胸部大血管損傷。
これは折れた肋骨が、肺に刺さってできる傷の一種。
先にそこから治療しないと、患者はろくに呼吸も出来ず、呼吸困難によって死亡するリスクが高い。
なので、呼吸を確保するためにも、こちらから手を付けたのだ。
「開胸器」
「ウイッ」
開胸器で胸部の臓器を慎重に広げ、刺されている肋骨をクッパ―で抜いていく。
トードたちは医療器具の手渡し、観察、輸血の調整、バイタルの確認を死に物狂いでこなしていく。
「ガーゼ」
「ウイッ」
出血量が酷いため、胸腔ドレナージを行い、虚脱した肺を再膨張させ、呼吸の安定を行う。
先程、ネムイの陰口を言っていた二人は、度々小さなミスをし、その度に、ダージュの顔色が険しくなっていった。
呼吸の安定を行うと同時に、循環血液量の減少をアセスメントし、循環の維持に努める。
ダージュは相変わらず、なんの動揺も、緊張もせず、テキパキとこなす。
肺に刺さった骨も取り、肺の傷も塞ぎ、それを確認したトードとアッシュは少し安堵する。
「気を抜くな」
「「ウイッ」」
ダージュの指摘に、再び身が引き締まるトードたち。
着々と手術が進み、肺の修復、棘刺創の除去も終わった。
まだ一時間も経ってないはずなのに、既に半日くらいは居続けたかのような疲労感が、トードたちを襲う。
無理もない。
何せ執刀医はダージュ。
何か少しでも気に食わない事があるならば落第が待っている。
少しの油断も出来ない状態。
すると、とんでもない緊急時が。
着々と進む中、患者のバイタルが急激に低下し始めた。
「バイタル低下! 脈も弱まっています」
「心臓が上手く機能してないな。輸血では間に合わなかったか」
医学生の一人が慌てているが、ダージュは至って冷静だった。
「CPRを行う」
「ウイッ!」
ダージュの言葉にすぐさま動くトードたち。
患者の左胸に、非道電気ショックを行うダージュ。
しかし、脈は戻らない。
「バイタル、更に低下!」
「どうします! ダージュ先生⁉」
狼狽えるトードたち。
そんな中でもダージュは取り乱す様子もなく、家のリビングで呑気にテレビでも見ているかのようなやる気のない声で「単純にショックが足りないだけだ。もっと強い衝撃が必要だ」と落ち着いた声音で口にする。
「防弾チョッキを着させ、壁に患者を貼り付けにしろ」
「「っ!」」
とんでもない事を淡々と口にするダージュに一驚するトードたち。
「早くしろ」
「「ウイッウイー!」」
慌てながらもダージュの指示に従うトードたち。
その間、ダージュは、棚からリボルバーを取り出し、慣れた手際で弾を装填する。
「あ、あの、ダージュ先生。こちらの患者は、今、胸部の骨が」
「その患者は右の肺の胸部骨折だ。左に異常はない」
戦々恐々としながらアッシュが異議を申し立てようとするが、ダージュは軽く受け流す。
そして、トードたちが患者に防弾チョッキを着させ、壁に貼り付けにすると、その患者の前で、ダージュが弾を装填し終えたリボルバーの銃口を、患者の左の胸、心臓に向ける。
緊張と恐怖が高まる中、ダージュは涼しい顔をしたままだった。
「さあ、心臓マッサージといこうじゃないか」
ニヤリと笑い、患者の心臓目掛け、一発の弾丸が火を噴く。
見事、患者の心臓に命中すると、次々と弾を撃つダージュ。
計、五発の弾を撃ち終えると、なんと患者のバイタルが正常に戻った。
「バイタル安定しました!」
「残りの傷の縫合だ。それからお前」
「あ、はい?」
「血液型は何型だ?」
「えーと、О型ですけど」
「なら丁度いい」
何気ない日常の会話でもするかのように、ダージュは言い終わると、銃口を瞬時に医学生の一人に向け、発砲した。
額から血飛沫をあげ、仰向けに倒れる医学生。
「うわっ!」
それを目の当たりにしたもう一人の医学生は驚愕し、恐怖で全身が震え、硬直してしまう。
「そこの二番。その死体の血をこの患者に輸血する。すぐに取り掛かれ」
「ウイッ!」
ダージュは何の淀みもなく口にしながら傷の縫合を続け、アッシュは恐怖と言う感情を押し殺し、すぐに死体となった医学生の血を、患者に輸血していく。
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