第四章 緊急時の緊急 二話
「頑張ろうぜ。ネムイ」
「近付かないで。この落胆者」
ライアは親しみやすくネムイに近付くが、ネムイは反吐が出る様な形相でライアを睨みつける。
ライアは何も言い返せなくなり、せめて行動だけでもと、ネムイの背中を軽く叩く。
その時のライアの表情は、とても切なそうだった。
三人が研修室から出ていくと、トードたちにも召集がかかる。
トードたちは不安と期待を胸にし、何とも言えない足取りで、患者が運ばれたオペ室へと足を運んでいった。
「なあ、ライアとカズイはともかくとして、ネムイはぜってー贔屓されてるよな?」
「ああ。ウイリー教官の実の妹だから、賄賂さえ渡せば、出世できそうだしな。執刀医の器じゃねえし。ハハハハ」
班分けさせられ、手術の服を着て、各々が執刀医の元に向かおうとしてた時、態度の悪い医学生たちが、ネムイの陰口を言っていた。
影で、ネムイは嫌味を言われていた。
近寄りがたく、話しかけただけで、毛嫌いされるような空気を醸し出し、トードの様に危害にあった生徒も少なくない。
だからネムイは、医学生たちの間では陰口を言われたり、根も葉もない噂話を流されていたのだ。
それを聞いたトードは不快感を感じていた。
胸の内で沸騰する怒り。
そこで、意外な人物がその二人の陰口を止める。
「おい、それ以上他人にかまけていると、死ぬぞ。今もこれからも、他人に干渉している余地何てないんだよ」
声に圧をかけ、その二人の医学生を睨みつけていたのはアッシュだった。
二人は怯み「あははは、そうだよな」と苦笑いで答える。
トードはアッシュが根から悪い人とは思っていなかった。
アッシュにはアッシュなりの理由があり、きつく言ってしまう。
そうこうしている内に、手術室に入るトードたち。
脇腹あたりに番号が振り分けられていた。
トードが五番。アッシュが二番。
中に入ると既に全身麻酔で眠らされていた男性の患者がいる。
トードたちはその男性の患者のカルテを見る。
レントゲンを見ると、所々、傷がついていて、爆破の時に起きた破片が、至る所に突き刺されていた。
それぐらいなら、トードたちにも手術は出来るが、問題なのは、肋骨骨折。
ただの肋骨骨折なら手術する事も無いのだが、その骨折した骨が、肺に刺さっていた。
渋い面持ちでカルテをしっかりと見たトードたちの後ろから、扉が開く音がした。
一瞥して見ると、今回の執刀医は、なんとダージュだった。
「だ、ダージュ先生⁉」
驚愕するトードたち。
その横で、カルテをほんの三秒ほどしか見ていなかったダージュは「何を呆けている。始めるぞ」と落ち着いた声音で口にする、と全身麻酔で眠らされてる患者の元に足を運ぶ。
「「ウイッウイッ―!」」
トードたちは身を引き締め、すぐにダージュの後に続く。
「これより、外相の縫合、棘刺創の除去、並び、胸部大血管損傷のオペを行う」
「「ウイッウイー!」」
「メス」
「ウイッ」
テキパキとした動きで、ダージュが次々と指示を出していく。
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今回はここまでです。
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