表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

父親

 悲鳴が聞こえた、何が起きたのか分からないがとりあえず望見さんのところに行こう。

 放送室から音楽室に移動しようとしたが廊下は他の生徒や教員で溢れかえっており少し遠回りをすることになった。

 音楽室には誰も居なかった、どこに居るか検討も付かなかったので無暗に走って、望見さんを探すことにした。

 数分探したのち屋上へ続く扉の前で立ち尽くしている望見さんを見つけた。

「望見さん大丈夫?」

 自分の息を整える事すら忘れて望見さんに駆け寄る。

 彼女はどこか放心したような状態で僕の存在にすら気づいていない様だった。

「私が殺した」

「何を言って」

「太田紫音さんは私が殺してしまった、これからどう生きたら良いか、私には重すぎるこの枷を一生付けて生きていくのが想像できない、いっそのこと」

 誰にでも話す訳じゃなく一人で呟いていた。

 これ以上言わせたら望見さんがどこか遠くに行ってしまう気がした、だから望見さんの手を取り言葉を発する、彼女を守る為の言葉を。

「望見さんその枷なら僕も付けるよ、一生掛けても外せない枷だろうけど、でも二人分の一生なら外せる気がしない?」

 僕が言い終わると望見さんは抱きしめてきて、わんわんと泣き始めた。

「ありがとう、ありがとう、ありがとう、それしか言葉が見つからない」

 いつの間にか校舎に人は残っておらず、望見さんの泣き声のみが校舎内を反響していた。

 望見さんも情緒が整ってきてようやく泣き止んだようだ。

 校舎内は何故か静寂に包まれていた。きっと生徒は帰らされたのだろう、ならなぜ僕らは帰らされなかったのか、ここまで見回りが来ない訳がない、ならなんで。

「とりあえず渚月先輩が心配だ、下に行こう」

 二人歩いてあの二人が落下しただろう場所に向かう途中僕らは信じられない景色を目にした、僕らが見たのは教室で数人の生首が綺麗に並べられていた。

 思わず嘔吐してしまいそうになるがどうにかこらえることが出来たが隣に居た望見さんはどうにも耐えられなかったようだ。

 望見さんの口から消化され切っていない朝食が吐き出される。

 ここに長居するのも良くないと思い望見さんの手を引き外に出ようとすると望見さんに止められる。

「希一さんこの文章を訳すと、『希一地下で待つ」です」

 何を言ってるんだ、これの何処が文章なんだ、陳列された人の生首が、そんな最低な嘘を言うような人でもなければ状況ではないそれに生首の数と文字数が同じだ、ならば直観で分かってしまったのだろう、きっと霊想によって理解しようとする前に理解してしまったのだろう。

「それとこれをやったのは貴方の父親です」

 僕にそんな事を伝える為に七人もに殺した、信じたくないそんな糞野郎が僕の父親なんて、そんなゴミみたいな父親が僕をどこかで待っているなんて、だが僕の親について何か分かるかもしれないとなるとやっぱり行かなくてはならないのだろう。

 地下か僕の家にある地下だろう、地下には大量の本が保管されていたな、当時は全く意味が分からなかったが今思えば知らない言語だったのだろう読めない訳だ。

「希一さん私も付いて行っていいですか?、今は一人にはなりたくないから」

「良いよ、とりあえず渚月先輩のところに向かおう」

 こんな場所には居続けるのは嫌だったから少し早歩き気味に移動した。

 その場は悲惨だった、一人は上半身が砕け散り下半身はズタズタに、もう一人は血まみれになりながらも蹲って小さな声で後悔の弁を述べ続けていた。

 何と声を掛ければ良いか分からない、僕が言葉を選んでいると望見さんが話しかけていた。

「渚月先輩は悪くないですよ、貴方は殆ど関わりない人を助けようとした素晴らしい人です」

「それでもだ、俺はもっと慎重に考えるべきだった、いつも通り適当にやるべきじゃなかった、もっと深く考えて慎重に選択するべきだった、もし望見さんをあの場に留めていたら、もし美波さんを呼んでいたら、もし希一を呼んでいたら、そうしたら彼女を助けられたかもしれない、それだけじゃない、俺の掛けた言葉が行動が一歩一歩彼女を死に追いやったのではないか、そう考えるだけで死にたくなる、生きているのが辛くなる、あの天才は今は無になり何も覚えていないし何を感じる事も出来ないし何を思うことも出来ないのに、俺は何もかもを覚えていて何もかもを感じて何もかもを思ってる、そんな資格俺には無いのにもう死んでしまいたい」

 望見さんが渚月先輩の肩に手を置き渚月先輩は望見さんの顔を見た、その時望見さんが手を大きく振りかぶり渚月先輩の頬を引っ叩いた、渚月先輩は驚いた表情になり、望見さんは泣いていた。

「私もさっきまでそうでした、さっきまで私が彼女を殺したとずっと思ってました、いや今も思っている、でも私は気づきました、彼女は私たちを恨むことは無いし、絶対に私達に否はない、私たちはその場で考えられた最善手を取っていたはずです、ならば私たちに彼女は救えなかった、彼女は孤独を嫌っていた、自ら死ぬ覚悟を決めたのもそれが理由だった、なら死ぬ前に彼女と話した私たちは彼女にとって救いになれたのでは無いでしょうか、そして彼女と共に落ちたのを見ると貴方もフェンスを越えて同じ場所に立ったのでしょう、ならわかると思います、彼女がどれだけ覚悟をしたか、私には想像しか出来ません、でも貴方ならその覚悟の一環を垣間見たはずです、たとえ自身の霊想で安全を保障されている貴方でも恐怖したはず、あなたにその覚悟がありましたか?」

 きっと紫音さんがフェンスを越えた時点で誰にも遮る事の出来ない覚悟を持っていたのだろう、だから僕らには止められなかった。

 渚月先輩は静かに嗚咽を零しながら泣き始めたがすぐに泣き止み立ち上がった。

「すまん、醜い姿を見せたな」

 少し違和感は残るがおおむねいつもの渚月先輩に戻った。

「そんでこれからどうするんだ二人は」

「僕の家に向かう予定です、父親に言われたので」

「父親か」

 渚月先輩は僕の家庭事情をある程度知っているのでそこそこの情報は察しただろう。

「あの、私も付いていきます」

 校門から美波さんが校庭に入ってきながらそう言った。

 凄く久しぶりにボランティア部がそろった気がする、まあ二日しか経っていないが。

「まずは風呂入っても良いか?」

「まあその状態だとね」

 渚月先輩の家で僕ら三人は渚月先輩が風呂を出るのを待っている間に今日起きたことの情報を共有していた。

「まずあの音楽が流れだして数人が自ら命を絶つことを考え始めていました、それは生きる事の恐怖が急激に膨らんだようでした」

 多分紫音さんの霊想によるものだろう。

「それから私はその数人を監視し続けました、いつ自殺されても止められるように、そうしている間に音楽は止まり自殺を考える人は居なくなっていました、でもそこに拳銃を持った不審者が現れました、皆は怯え逃げ出そうとしていました、でもその不審者言いました『助かりたければ、出席番号2番8番10番11番13番18番そして25番を残して帰れ、全校生徒と全教員だ、出なければこの学校に仕掛けた爆弾を爆破させる』と言い放ちその場から消えました」

「その人は何を考えていた?」

「それが、分からなかったんです、ずっと読もうとしていました、それでも読めなかった、まあそういう霊想なんだと思います」

「風呂出たぞ」

 渚月先輩の私服は初めて見るがまあ中性的な服装だ、出来るだけ女物にならない様に似合う服を選んでいるだろうな。

「どうする、もう行くか?」

 それよりも先に話すべきだろう、きっと僕らはボランティア部を続けるうえで今日の事はずっと引きずっていくだろうその状況の僕らには人を助けられるとは思えない。

「まずボランティア部についてだけど、廃部しようと思うんだ」

「まあいいんじゃねえの、何か考え合っての事だし、そもそもこの部の部長は去年から変わらずお前なんだ、お前の判断に文句言うような奴はここには居ないぞきっと」

「あと二人はこれでも良いか?」

「まあ先輩の考えには同意しますよ」

「私も同じです、また今日みたいな事が起きたらと考えると」

「じゃあ今日の事が収まったら顧問に言っとくよ」

 これで僕から言事は無くなった。

「みんな、これ持っていこうか」

 そう言って渚月先輩が渡してきたのはナイフだった。

「今から会いに行く相手は希一の親の前に殺人鬼だ、今日だけで七人も殺したんだからな、まあ銃を持ってるからこのナイフは殆ど意味をなさないけどな」

「じゃあ行くか」

 渚月先輩の家を出て十分歩いた頃に僕の家に着いた、そのまま流れるように目的の場所である地下に着いた。

 恐らくここが父が居る場所だ、たしか五年くらい前に好奇心で入ってみたが知らない言葉しかなかったからつまらなくて直ぐに出ていった場所だ。

「多分この中にいる」

 そう言いながら僕はドアノブを捻る、それと同時に発砲音が聞こえ木製の扉に穴が開き木片が飛び散り、美波さんが倒れた。

 僕らは反射的にドアノブを離して扉の前から離れた。

「私が美波さんの応急処置をしておきます、だからお二人は希一さんの父親を頼みます」

 こういうならば死んではいないのだろう、きっと助けられるのだろう、でもなぜ撃ってきたのか分からない、思考を巡らせきっとある答えを探しているとき。

「どうした?入ってこないのか?それとも俺が出た方が良かったか?」

 怒りが込み上げてきた、こいつは何か理由があって人を殺していないそんな気がした、そんな予感がした。

 もういい、打たれても良い、僕が死んでも良い、だからこいつを殺さないと、人を七人殺しておいて何も悪びれた様子がない、僕をここに呼びつけるだけならば黒板に書くだけでよかった筈だ。

 僕が扉の前に立ち扉を開けたが何も無かった、さっき撃たれた理由がどう考えても分からなかった。

「よお、久しぶり、お前からしたら初めましてか」

 悠々とそこに座り込んでいたのは正真正銘僕の父親だった。

「どうした?イラついた様子だが反抗期か?まあさっさと本題に入ろうか、俺がここにお前を呼び出した理由だが、そんなものは無い、強いて言えば父として息子の成長具合を見たかっただけだ」

 特に理由もなく人を七人も殺して僕を呼び出した訳だ、本当に意味が分からない、本当に救えない屑にしか見えなくなっていく。

 人を殺すってのはどんな気持ちだろうか、まあいい今から分かることだ、この様子だと得られる情報は無いだろう、国から全くの情報を遮断されているこいつは国に裁かれるか分からない、だから僕が裁く。

 そこからの行動は速かった、怒りに任せ父親の前まで行き鞄に忍ばせてあるナイフを振りかぶり父親の心臓に突き立てた。

「糞野郎さようなら」

 せめてもの父親にすべき行動だろう、どれだけ恨んでいようとも家族な訳だ弔わなければならないだろう。

 父親を見るとなぜか安堵のような後悔のような表情を浮かべていた。

「これでようやく俺の役目は終わったわけだ数世紀にもわたった俺の役目は終わった」

 何をいっているのだろう、数世紀にもわたった役目だと?今までの行動は全て何かの意図があっての事なのか。

「もう駄目だ、やっぱり俺はお前が言った通り糞野郎だな、こんな役目が終わる前に役目を放棄しちまう、希一愛していたよ、ずっと会いたかった、普通の家庭に出来なくてすまなかった、希一よりも世界を救うことを選んだ俺らを許してくれ」

 さっきから何を言っているか分からなかったがもっと分からなくなった、世界を救うためだ?ずっと愛していた?何が本心でなにが何が嘘なのだろうか。

「まあ俺の言ってる事はお前の彼女さんに聞けば分かるよ、彼女のみが知ることが出来る」

 今分かることは少なくとも父親は僕に殺されようとしたのだろう、だから僕が父を殺す理由を作った、でもそんなことは今はどうでも良い。

「すまんな、最後まで糞野郎を演じきれないような糞みたいな父親で、許してくれ、でも本当に愛していた、ずっとお前に会いたかった、ずっとお前と過ごしたかった、三人で幸せに暮らしたかった」

 父親はだんだん重くなっていき力がだんだん抜けて行ってる事がわかる。

「父親ってのはもっと大きな存在でもっと偉大で、息子にとって目標の一つになるもんじゃないのか、それがなんで」

 いつの間にか涙が溢れてきて、視界がぼやけて、どうにか父親の最期をきちんと視界に留めようと涙を拭うが涙がさらに溢れ、今まで溜め込まれていた感情が溢れ出して、どうにもならなくて。

 気が付いたら望見さんが抱きしめていてくれて、渚月先輩と美波さんはどこかに消えており、父親はすでに亡骸になっていて、自分が父親を殺したという事実だけが残って。

 どれ程の時間泣いていたのだろうか。

「希一さん大丈夫です、私が居ます、私が付いています、私があなたの支えになります、私はあなたの支えになりたいです」

 もう立ち直る時だろう、自分を押し殺してでも、あの二人がそうしたように僕も立ち直る時だ。

「もう大丈夫、望見さんは十分僕の支えになってる、だから僕も立ち上がるよ」

「辛いときはいつでも言ってくださいね、私もそうしますから」

「じゃあ僕の父がなぜあんなことをしたのか調べたいんだけど、僕にはここにある本を読めないから僕に本の内容を教えてくれないか?」

「それくらい、頼まれなくてもしますよ、ここにある本は日記と科学の文献と歴史書です、たぶん日記を読めばある程度の事実は分かる筈」

「じゃあその日記を」

「それがここにある九割が日記なんですよね」

 数世紀に及ぶ役割と言っていたからおかしな話ではないのだが、この数千冊にも及ぶ本の九割が日記か。

「そういえばあの二人は?」

「二人はこの地下から去りました、あと美波さんは撃たれましたが傷口はありませんでした、まあどこかで貴方の父親と手を組んだのでしょう、心を読めなかったといったあの時本当は読めていたとか、それと美波さんから伝言がありました、父親は嘘をついていませんって」

「すまん、この部屋から出ていても良いか?」

 この部屋に居ると、また感情を抑えきれなくなってしまいそうになる。

「いいですよ、きっとここに居るのはつらいでしょう、私が本を厳選して扉越しに伝えます」

「お願い、俺は扉のすぐそばで待ってるから」

 部屋を去り適当に望見さんの話が聞こえるところに座り込んだ。

「じゃあ日記は第三次世界大戦がはじまったところからで」

こっから日記を書くか書かないかどっちにしたら良いんだろうね、まあ多分書くから一週間くらい投稿されないかも、なので待っていただけるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ