惚れ薬
昼休みが始まった瞬間になぜか下級生である望見さんが教室に入ってきてクラス皆の視線は一点に集中していた、だんだんと僕に近付いて来て、彼女は言い放った。
「希一さん、私と付き合って」
目立つのが嫌いな僕は皆に注目されていることを不愉快に思いながらもその思いを表に出さぬ様に受け答える。
「いいけど、僕は目立つの嫌だから携帯で連絡してくれよ」
「いや、連絡先交換してないじゃん」
「すまん、なら仕方ないか、とりあえず移動しよ」
「じゃあ私の教室に行きましょう」
望見さんに学校が何を与えていようともはや驚く必要はないだろう。
「分かった」
望見さんに案内される教室に向かう。
去年は確か誰も使っていない教室だった筈だ、だがその教室は望見さんが好き勝手に使っているからだろう、大量の本が置いてあった、その本は大体が学校の図書室から持ってきたものだった。
「どれくらい読んだの?」
この教室で山積みにされている本は軽く1000冊は超えていそうだ。
「全部だけど」
この人が天才だと初めて痛感した、入学してから一週間も経っていないのに、すでにこの量の本を読み切っているとは、恐れ入った。
「じゃあ先輩手伝ってください」
なるほど、昼休みだったので一緒に昼ご飯食べようという意味の付き合ってだと思っていたが、本の返却を手伝ってと、まあ断る意味はないがすべての本を足で持っていくのはなかなか骨が折れる。
「じゃあ始めましょう」
「ほかに助っ人は?」
「大丈夫、希一さんが今日から授業でなくても欠課扱いにならない様に話は通しました、定期考査については私が教えれば大丈夫でしょう、要するに何時間でも時間はある」
なんかすごい事やってくれた、まあ勉強くらい一人でもできるし、望見さんに教えて貰えるならば大丈夫だろう。
「取り合えず、職員室で確認させてくれ、もちろん望見さんも来てもらう」
嘘ではないだろう、今までの会話を考えてもそんな嘘をつく人とは考えられないがもしものためだ。
「分かりました」
二人注目を浴びながら職員室まで行き担任に話を聞いた。
「望見さんが言ってることは全て本当だ、良かったじゃねえか、そんなかわいい彼女と学校で二人っきりの時間が保証された訳だ、ただしテストで点数は取ってもらうからな、それは希一を思って望見さんに押し通した条件だ、まあ望見さんと生涯を共にするならば学歴なんていらなくなるだろうがな」
何かものすごい勘違いされているがまあ良い。
「分かりました」
失礼しましたと言い職員室を後にする。
授業に出なくていいと言われたが何か無い限り僕は今まで通り出席するだろう。
さっきまで居た教室に戻り雑談を始めた。
「希一さん、これで真偽は分かりましたね、先輩には卒業までの二年間私の研究で使わせていただきます」
凄い笑顔で凄い怖い事言い始めた、まずば研究内容を聞くべきだろう、何せ自分が被験者になる可能性が高いのだから。
「ちなみに今はなんの研究を?」
「霊想と人口知能」
人工知能はきっと僕が被検体になることは無いだろうから良いとして問題は霊想かな。
「霊想はどういったことを?」
「一昨日に希一さんが霊想は想像の具現化と言ってたことが気になって、少なくとも今の科学的な霊想の解釈は理屈とかはわからないが確かに使えている、解明不可能な力とされているから」
「僕は親からそう教わったんだけど」
「じゃあ次調べるべきは希一さんの親ですね」
勝手に僕の両親を調べる宣言された、普通は嫌がる物だろう、普通なら自分の情報を調べられるのはきっと嫌な事だろう、でも僕はありがたいと思えた、もしかすると望見さんならば失踪した父親の手がかりが掴めるのではと思ったから。
「まあそんなことはどうでも良い、希一さんに聞いてもわかる訳ないし、とりあえず本を運ぶの手伝ってください、その後で私が作った機械の被験者になってもらいます」
「どういう機械だ?」
「その人の霊想を調べるだけだよ、私には成功したが他の人にも出来るか調べないといけないし」
聞いた限り危ない物ではないし、本人で実験済みなら心配はいらないだろう。
「分かった、それで台車とかは無いの?」
「そんなもの無いですよ、運ぶ手段は己の体だけ」
数時間に渡る千冊程度の本を図書室に戻す作業が始まった。
「これ何冊あるの?」
「764冊だっけな」
少々多く見積もりすぎたらしい、だがその量の本を一週間足らずで読み切っているのは凄い。
「とりあえず運び始めようか」
本を運びながらも雑談は続けた。
「希一さん、急に話変えますが、希一さんの霊想って何ですか?」
霊想か一度も使ったことは無いが親からはずっとこう言われてきたからきっとこの霊想なのだろう。
「僕の霊想は殺した人の霊想を使うことが出来る、まあ一生使うことのない霊想だな」
「希一さんが言うには霊想ってその人の想い、要するに小さいころの願いってことですよね?」
「そうなるね」
「じゃあいつ霊想が目覚めました?」
確か物心がついた段階で既に親にそう言われていた。
「物心ついた時点では既に」
「じゃあ希一さんは小学校に入学する以前に人を殺してでもその人の霊想を使いたいと想った訳だ、違和感しかない、やっぱり希一さんには謎が多すぎる」
確かに今思えばおかしい、僕が人を殺したいなんて思ったことが無いのにこの霊想、親の教えが間違っているのか、そもそも僕の霊想はこれで合っているのだろうか。
「まあ先輩のことはもっと調べさせて貰います、つま先から海馬の中身まで全部調べさせて貰うね」
「僕に実害が出ないなら良いよ」
「善処する」
僕自身も気になるところだ、本当に実害が出ないならば良いがまあ心配はいらないだろう。
何時間かかったのだろうか、本を全て片付け終えた時には既に日は暮れていた。
「希一さんありがとうございました」
「まあいいけど、これからは本を読むときには此処で読むと約束」
僕の言葉は遮られ望見さんが口にする。
「嫌です」
すごい速度で否定され少しばかり悲しい気持ちになった。
「なんで?」
「だってこの図書室出るじゃないですか」
何が出るのだろうか。
「なにが?」
「お化け」
そういえばそんな噂があったな、いじめが原因でこの図書室で自殺した生徒の霊が出るらしい、しかし意外だ、望見さんがお化けが苦手なんて。
「お化けが出るから極力この場所には居たくないんです、今だって本当は怖いんですよ」
望見さんを観察すると少々足を震わせている様に見えた。
「もうそろそろ図書室から出ませんか?」
十分休憩はとれたからここに残る理由もないだろう。
「じゃあ行くか」
本を全てしまったかなどを確認すると、人影が見えた様な気がした、さっき霊の話をしたのが原因で起きた錯覚だろう。
「希一さんまだですか?」
図書室の前で待機している望見さんに催促される。
置いてあった鍵を取り、電気を消し、図書室を出た。
「じゃあ希一さん行きましょう」
施錠し望見さんの後を追う形で職員室に鍵を返しに行った。
「先輩今日はありがとうございました、今日は実験できませんでしたが、明日よろしくお願いします」
「じゃあ、また明日」
家に帰り、お母さんにいろいろ聞いてみようと思ったが、なにせ姿をくらました父親の話を出すことになる、お母さんが父親の事をどう思っているのか分からないが、もしかしたら今も引きずっているかもしれない、そう考えると聞くことをためらってしまった。
一夜明け今日も普段通りに授業を受けようと準備をしていたところに望見さんがやってきた。
「なんで来ないんですか?」
「え?」
唐突な問いに対しこう答えるしかなかった。
「昨日から私と付き合うって」
何だろうか、すごい悪意のある言葉を選んでいる気がする、別にどんな勘違いをされようと別に良いが、まあそれに僕が忘れていたのが悪い。
「取りあえず希一さん行きましょう」
腕を引っ張られ、引っ張られるままに体を任せていたら数分で望見さんの教室に着いた。
「取りあえず今日実験で使う道具の仕組みを教えますね」
「分かった」
望見さんは教室においてあった物の内1つを持ち上げ説明を始めた。
「これは、これを被った人の記憶を情報化する機械です、それで人の記憶を読み込み、それをPCに送り、その情報をPCの方で処理して、霊想が芽生えるに値する想いを絞って、霊想を調べる」
要するに記憶の中で霊想が芽生えているだろう想いを調べるだけだ、話を聞く限り危険性は無い、それに本人も使ったらしいからよほどの事は起こらないだろう。
「分かった、僕はいつでも良いよ」
「じゃあ、早速」
望見さんが持っているヘッドフォンにも似た機械を頭に被らせられて、実験は開始した。
「今から五分間は何を考えても良いですが、何もしないでください、じゃあ始めます」
「3.2.1始め」
実験が始まった、僕自身はヘッドフォンの様な物を頭に被っているだけなので特に実験している感覚は無いが、この実験は僕ら1億人に満たない人類が霊想の事を知るうえでは必須の実験なのだろう。
なんやかんやいろいろ考えているうちに記憶の読み込みは終わった。
「お疲れ様、記憶の読み込みは出来たのであとは結果待ちです、一時間程度かかるのでまずは聞きたいことを聞かせて貰います」
「良いよ」
「じゃあ希一さん、貴方の両親は何者なんですか?」
僕の両親は一点を除いて普通のはずだ、父親が跡形もなく失踪した以外は普通のはずだ。
「普通の両親だと思うけど」
「昨日帰ってから調べたんですよ、まずは戸籍を調べました、名前を聞くのを忘れていたので希一さんの戸籍に書いてあるはずの両親の名前を見ようとしました、でもそこには何も書いて無かった、そこで私は行き詰りました、そこからは何故無記入なのか私なりに考えました、一つだけ考えうる事と言えば、貴方の両親は国から匿秘されている、理由は分からないけど、確かに国が記録を残したくないと考えているはずです」
過去に何があったか僕は何も知らない、父親の話を出すと決まって母親は悲しそうな顔をする、そんな顔見たくないから極力聞かない様にしているが流石に聞くべきなのか、だがどう聞けば良いのか分からない。
「僕なりに調べてみるよ」
母親に過去の事を聞くことはしたくない、母親の悲しい顔を見たくないから、両親が過去に何をやったのか、それらを知る勇気を僕は持っていなかった。
「助かります、それにしても暇ですね、化学実験室で何か面白い薬でも調合しましょうか」
凄く恐ろしいことを平然とそれに笑顔で言ってるのは薬品にたいする危険性を理解しているからだと思っておこう。
「まあ良いんじゃないかな、安全なら」
最後の一言が一番重要だ、安全なら僕は良い。
「じゃあ行きますか」
二人教室を出て化学実験室に移動した、もちろん授業中なので会話などはせず静かに移動し化学実験室に入った。
「いらっしゃい、コーヒーでも飲むか?」
そこには先生が居た、授業が無くて暇を持て余しているだろう先生がビーカーでコーヒーを飲んでいた。
「僕は大丈夫です」
コーヒーは苦手なんだが、それ以前にビーカーで飲むのが怖い、まあこの先生が飲んでいる以上安全ではあるのだろうがな。
「私は貰おうかな、砂糖もしくは甘い薬品たっぷりで」
望見さんはコーヒーを飲むらしいが苦いのは苦手な様で砂糖もしくは甘い薬品を入れてもらうらしい、甘い薬品とはと思ったがまあ化学室だし作れたりするのだろう、僕はそこら辺の知識は全くと言っていいほど無いがな。
「これどうぞ、そういえば希一は授業を受け持っていたが君とは関わりが無かったな、私は野口まあ野口先生とでも呼んどいてくれ」
「野口先生ありがとうございます」
「適当な席に座っていいよ、それで何しに来たんだ?」
言われる通りに適当な席に座った。
「面白そうな薬を作ろうかなと」
「君なら私が安全管理しなくても大丈夫だろう、なんでも好きに使っていいよ」
やはり望見さんは天才なのだろう、先生が圧倒的信頼を置いている、それもこの危険しかないと言っても過言ではない空間でさえ。
「ありがとうございます」
まあ僕が何か出来るとは思えないが参考程度に聞いておこう。
「望見さん、何を作るの?」
「どうしようか、候補としては惚れ薬か媚薬か酒かな」
どれもまともではない上に最後のは法に触れる筈だ、密造酒とかで。
「急に話に入り込むようで申し訳ないが、君らってボランティア部だったよね」
「そうですね、依頼ですか?」
「そうなるかな、その最近妻と上手く言ってなくてだな、惚れ薬か媚薬を飲んで勢いに任せちゃおうと思うってるんだが」
そう言いながら目の前に液体の入った小瓶を出してきた。
「これの作用を確認して欲しい」
頭おかしいんじゃねのかなこの人、いや目上の人にこんな事を思うのはものすごい失礼に当たると思うが、それでもなお、頭おかしいと思ってしまう、そもそも惚れ薬が存在するわけないし、そんな薬があったとして好きな人とか配偶者ではなく自分に盛るのか、だが法的には問題ないし、あくまでも教員だしそこら辺はきっちりしていると思っておこう、まあ断る理由もない。
「分かりました、その依頼受けます」
「頼むよ、その薬は飲んでから最初に見た人間に惚れる筈だ。じゃあ次授業あるから私は出ていきますね、鍵はここに置いておくので職員室に返しておいてください」
野口先生は次の授業の準備に行った。
「じゃあこの惚れ薬をボランティア部の誰かに使う必要が出たわけだけどだれにする?」
「まあここにいる私達は省くべきです、惚れ薬と言う物の存在を知った以上少なからずプラシーボ効果だのが邪魔をしますから、そして美波さんはこの薬の作用を確認するのに必要ですから、まあ一択ですね」
渚月先輩か面白そうだしそれで良いか。
「じゃあ放課後二人を呼び出すか、僕は渚月先輩呼ぶから望見さんは美波さんをお願い」
「分かりました、じゃあ今からこの薬について調べますか」
「まあ安全か確認するべきか一応、まあ余程大丈夫だとは思うが」
「それ以上に複製したいので」
何に使うかは聞かないでおこう、どうせ変な薬だ変な事にしか使わないだろう。
「多分だけれど五分もあれば終わると思うので待っててください」
望見さんは僕にはどんなことを行うのか到底分からないような機械を使いその惚れ薬を調べ始めていた。
「終わったよ」
本当に数分で終わった。
「速いね」
「まあここにある薬品から安全になるように惚れ薬を作ったとなればある程度絞れますから」
僕には到底出来ない芸当だな、やはり僕とは住む世界が違う天才なのだろう。
「凄いね、僕には出来ないや」
「本を一冊読んだら誰でも出来るよ、じゃあ私が作ろうとした惚れ薬も手に入れたことですし戻りますか」
新しい玩具を買ってもらった物静かな子供の様に嬉しそうに望見さんはそう言った。
「じゃあ職員室に返しに行こうか」
「そうですね」
二人静かに職員室に移動し職員室に鍵を返して望見さんの教室に戻った。
「もう解析終わってますね」
「結果はどう?」
「少し待ってください」
望見さんがPCの画面を覗きながら操作をして数十秒経った時、彼女はボソボソと何か独り言をしながら熟考している様子だった、話しかけない方が良いだろう。
何秒か経って望見さんは振り向き僕に聞いてきた。
「希一さん霊想を使った事はありますか?」
「無いよ、人を殺すなんて出来る訳ない」
「希一さんには霊想が無いと結果がでました、霊想があるかないのか確認するまで分からない、でもこの状況も何人かにこの装置を使えば解が出るはず、ボランティア部の二人に頼んでみますか」
「ひと段落着いたけど、これからどうする?」
「じゃあ放課後まで暇つぶしですね、じゃあ勉強教えましょうか?」
「頼もうかな」
「じゃあ今から数学IIの一学期中間の考査範囲全てを教えるので、全部叩き込んでくださいこれをまあテストまでに三回くらいやれば平均点以上は取れるはずです、それに希一さんはどうせ家で勉強するでしょう」
「まあそうだね、じゃあお願いします」
「そういえば数学ってどう勉強してますか?」
「公式覚えてその公式を問題に当てはめて解く、解けなかったら解き直すってな感じでやってます」
「公式の理解は重要ですよ、どういう理論なのか、教科書の公式くらいなら理解できるはずです」
確かに公式の理解はさほど重要視していなかったが言われてみてば重要だ数学において最も重要だといっても過言ではない。
「じゃあそこら辺を徹底的に教えるので」
そう言われ多少覚悟していたが望見さんの教えは丁寧で分かりやすかった。
途中で昼食を取ったり定期的に休憩も取りながら勉強を続けて考査範囲を終わる頃には六限終了のチャイムが鳴る五分前になっていた。
「これで終了です、じゃあ掃除しましょうか、まあ箒で床を掃くくらいで十分ですが」
「じゃあ始めるか」
二人雑談を交えながら教室の掃き掃除をした。
「これくらいで良いでしょう、じゃあ私は美波さんを呼びます、惚れ薬の件は伝えておくので渚月先輩には告白したい子が居るとでも言っておいてください」
「分かった」
渚月先輩のいるはずの三年五組に向かった。
少しばかり速かった様でまだ帰りのホームルーム中だった、なのでホームルームで担任教師からの話を聞く時間の筈だが、渚月先輩は机で先生にばれないようにスマホを見ていた、そのスマホの画面には競走馬が走っている様子が映し出されていた、いつも通りだな。
数分適当に渚月委先輩の様子を見ていたらホームルームが終わっていたので適当に話かけることにした。
ドアを開け渚月先輩のもとに歩み寄り一言。
「何円勝ちましたか?」
「二万」
結構勝ってるなつまらん。
「そんで何か用か?一応受験生なんだがな」
「どうせ勉強しないでしょう」
「まあそうだな、勉強なんて死んでもしたくねえな」
「じゃあ来てください、今は詳しくは言えないけども依頼です」
「分かった」
希一と二人でボランティア部の部室に行くと既に望見が居た。
「来たね、中で美波さんが待ってるよ」
美波さんが待っているのは何故だろう、と思いつつも考えたところで分かるものじゃないので取り合えず教室に入る事にした。
「こんにちは美波さん、何か依頼で呼ばれたらしいのだが」
「私も詳しくは聞いてないですがこれを渚月先輩に飲ませろと」
そう言いながら液体の入った小瓶を渡してきた、取り合えず小瓶の蓋を開け匂いを嗅いでみたがほんのりと甘い匂いがするだけだった、まあ希一達の事だ安全面はちゃんとしてるだろうと想い小瓶に入った液体を飲んでみた、味はこれと言った特徴は無く匂いと同じ様にほんのり甘いだけだ。
これでとりあえずやれと言われたことはやったが、ただ甘い液体を飲ませたわけじゃないだろう、だとしたら何かの薬か、なんの薬か思考を巡らせたとしても分からなかった。
「渚月先輩」
「どうした?」
そう言いながら美波さんをみるとどこか体のどこか、いや体なんかよりももっと内側のどこかに違和感を覚えた。
やばい違和感の正体が多少分かった、たぶん異性への気持ち、恋なのか愛なのか分からないが確かな異性への美波さんへの気持ちが思いが募っていく、たぶんさっき飲んだ液体が原因だろうな、性的興奮はしてないし惚れ薬の類だろう、だめだどうにか思考を続けて気を紛らわせねば、薬で出来た偽りの気持ちが本物になりそうだ。
どうにか思考を巡らせ出来るだけ美波さんを意識しないようにしていたが追い打ちをかけるように美波さんが近づいて大丈夫か聞いてくる、その優しさにまた胸が高鳴る。
「渚月先輩、聞こえてますか?大丈夫ですか?」
理性を捨てて美波さんの優しさに甘えたら楽になるのだろうかそれも良いかもしれない。ただ一つこんな常にギャンブルをしている様な俺を好いてはくれないだろうな。
「私はそこそこ好きですよ」
嬉しいがその言葉を言っては欲しくなかった、俺が理性を手放してしまう。
「こんな俺でも好いてくれるのか?」
「はいさっきの言葉に嘘はありません、私を救った人を好かない理由がある?」
「それもそうか、まあ多分さっき飲んだ惚れ薬か何かが原因だから今の事は無かったことにしてくれ」
「その偽物の気持ちが例え本物になろうとも受け止めますよ」
本当に告白でもしようかと思ってしまう。
「からかうのはやめてくれ」
「どっちでしょうね」
そう笑いながらはぐらかす目の前の俺よりも二歳ほど若い少女に胸がさらに高鳴り、本当に恋に落ちそうになる。
凄いな本物だったとは、それよりも外から見ていると面白いな、いつもは冷静で何を考えているか分からないような人だが今は違った、まあ十分遊ばせて貰ったしまあそろそろ良いだろう。
教室に入り二人に話しかける。
「惚れ薬の効果はどうだった?」
「やっぱりか、まあ本物だよ、正真正銘惚れ薬だ」
「私からも補償します、渚月先輩は今も私に惚れてます」
今もかあの薬の効果時間は五分は持つ訳だ。
「じゃああとは野口先生に結果報告するだけか」
「あいつか、昨日急に実験やるとか言い出して化学実験室で授業して生徒に指示だけ出して何か調合していたがそういうことか、おかげで競輪見れなかったぞ」
どっちもどっちだな。
「じゃあ野口先生の場所に行きましょうか」
四人で職員室に向かったがそこには野口先生は居なかった。
なら化学実験室に居るだろうと思い向かったらそこに居た、昼時と同じようにビーカーとアルコールランプで作られたコーヒーを嗜んでいた。
「惚れ薬はどうだった?」
「ちゃんと作用しました、今も渚月先輩が美波さんに惚れてます」
野口先生がその話を聞くや否やフハハと悪役のような笑いをした。
「面白いな、因みに半日程度続くからなまあ頑張れ、それにしてもお前が恋とかイメージ出来ねえや、つっても告白されたら断れなさそうだな」
確かに渚月先輩は告白されたら優しさ故に付き合うだけ付き合いそうだ。
「俺も恋すること全然ありますけどね、てか生物学的に誰にも恋しないのは異端ですよ」
「お前は人類に生物学が通じると思ってんのか?人間って生物学を否定するような道具である避妊具を作っているが」
避妊自体は猿とかもしているとどこかで聞いたことがある気がするが確かに生物共有の目的である主の繁栄を人間は欲していない、それ以上に個人の幸福を求める、個人の幸福に子供が邪魔ならば、パートナーが邪魔ならば作らない選択をする、確かにそれは生物学を否定しているのかもしれない。
「ありがとう、これで妻とも上手くいくかもしれない」
「上手くいくと良いですね」
「じゃあ私は帰るよ、妻に速く会いたいし、君らはここに用ある?」
「無いです」
「じゃあ私がカギを返しておくからみんな出て」
言われる通りに化学実験室を出て先生と別れた。
「これからどうする?」
「親交を深める為に遊びに行きません?」
確かに今までは二人だったからそんなものは無くても勝手に仲良くなっていたが四人ともなればそうは行かないだろう。
「僕は良いよ」
「俺もまあ断る理由は無いかな」
「私も大丈夫です」
満場一致だった。
「じゃあみんな行きたい場所ありますか?どこでも私が奢れますから」
多分研究で稼いだお金が有り余っているのだろう、だからこんなことも平然と言えるのだろう。
「私カラオケに行ってみたい」
カラオケか行ったことは無いがまあ歌うだけだし何とかなるだろう。
「男子の二人はそれでも良い?」
「僕は良いよ」
「俺も最近行ってなかったし久しぶりに行きたいかな」
「じゃあ行きましょう」
四人で雑談しながら学校から徒歩十分程度の場所にあるカラオケに向かった。
カラオケについて歌い始めたが望見さんと渚月先輩は90点程度を取っており、美波さんは80前半で僕は70点後半を取っていた、まあ僕は少し下手なくらいでその他は上手なのだろう、そんな感じで二~三時間ほど歌っていた。
「これからどうする?優にに晩御飯の時間は過ぎてるけど」
時間を確認すると午後の八時過ぎだった。
「もう夜も遅いですし帰りますか」
一度遊ぶことにより大体の人柄が分かっただろうし十分だろう、望見さんと美波さんを家まで送って僕と渚月先輩は学校の前で別れて帰った。
家に帰ってからはご飯を用意して食べて風呂に入って寝ただけだった。
次の次暗いから話は動きます。
SF的な要素も入れつつ、やってくのでまあ楽しめたのなら楽しんでってください。