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(おかしい....)
いくらなんでもおかしい。
おかしすぎる。
なぜ俺がこんなに違和感を感じているのか。
それはありえないからだ。
主に死霊の数が。
この間説明したように、俺はこの寺の所有者として、死神の使命を持つものとして、定期的のこの墓の死霊を行っている。
そのため、ここの死霊の数は、どれだけ増えていたとしても俺の想像を超えるほどは増えないはずなのだ。
だが、実際に現実は俺の想定とは異なっている。
この数は明らかにいつもの発生数を超えていた。
「こんなにいっぱいいるなんて埒が明かないわ!フッ!!」
朝倉も俺ももう随分長い時間戦っていて、疲労は確実に溜まっている。
一度はほとんど討伐したのに、一気に数が増えた。
まるで.........
いまここで増殖しているかのように.....
このまま戦い続けてもろくな結果にならない気がする。
俺は意識を霊気に向ける。
俺の霊気、朝倉の霊気、死霊の霊気。
それらを完全に感知して総数を探る。
その最中、自分の背後側の上空。
いきなり霊気が膨れ上がっていく。
ぞくっ!!
「.......ッ!!」
一瞬背筋が凍るような感覚とともに俺は反射のままにその場を飛び退く。
その瞬間、俺のいた場所に氷の柱が生成された。
「へー、いまのを避けますか」
「随分と物騒なご挨拶じゃないか」
「えっ!誰あの子!?」
俺はとっさに現象の主に声を掛ける。
そこには、氷のようなドレスを着た高校生くらいの女性が宙に浮いていた。
彼女の周りには雪の結晶らしきものが浮遊しており、青く光る目でこちらを見つめている。
「申し遅れたかしら。私はルナというわ」
「へぇ、そうか。できれば急に攻撃してきた理由をぜひとも教えてもらいたいものだな」
「こっちが名乗ったのに、そっちは名乗らないのね」
「敵に名乗る名前なんてないもんで」
「ふふっ、それもそうかもしれないわね」
「あわあわ.........」
俺は冷静に状況を分析しながら会話をする。
朝倉は何がなんだかと言った様子なのだが、まぁ気にしなくてもいいだろう。
「さて、とりあえずどういう了見か聞きたいが、あいにくその時間はなさそうだな」
「ええ、お互い暇じゃないでしょうしね」
そう言って女は手を掲げる。
「雪は何よりも白く、何よりも純粋。ふふっ♪【イノセントスノー】」
そうして女の詠唱が終わった瞬間に、空から雪が降ってきた。
まだ7月、普通の雪など降るはずもない。
十中八九彼女の能力だろう。
俺はとっさに警戒し、雪に当たらないように務める。
すると落ちてきた雪が木に触れると、まるで溶けるかのようにドロドロになっていく。
まるで触れた部分から侵食していくような.......
「何が純粋なんだ、この腐敗雪」
「腐ったら死ぬ、純粋でしょう?」
「その感性は俺にはわからないな」
流石にこの量を避け続けるのは骨が折れる。
俺も俺で手を掲げて、相棒の名前を呼ぶ。
「来い、小雪!」
そして先程同様、俺の手に一振りの刀が握られる。
「理心流:冬の型【上吹雪】」
俺は小雪を自分を中心に360度振り回す。
すると、俺を中心として、雪を纏った竜巻が発生して彼女の生成した雪を上へ上へと押し上げていく。
「すごいですね。これも防ぎますか」
「これくらいでやれると思われるとは、いささか心外だ」
「もう何がなんだかわからない.......」
俺は竜巻で防ぎ、朝倉もああ言いながらしっかりと能力で防御していた。
なんだかんだ言って朝倉は冷静だ。
状況をしっかりと分析している。
あの女が敵であることも理解していると思う。
まったく.......頼りがいの有りそうな友達だよ。
「朝倉、少し飛ばすぞ。気をつけてくれよ?」
「え、なにを..........」
「ふふっ♪」
「理心流:創の太刀【絶界】」
「すべてを無にする白の壁【スノードーム】」
俺は刀を振り抜く。
それと同時に、ぱり......と空間が割れた音がした。
ズガガガガ...........!!
まるでなにもないところに壁があるかのように空気にヒビが入っていく。
そうしてルナまで到達すると........
パリンッ!
ルナの体は.......粉々に砕け散った。
そうして雪の破片となったルナからは霊気は感じられない。
「人形.........か」
『正解♪楽しかったわ。また会いましょうね、本当の死神さん?ふふっ♪』
最後、なにもないところから言い残すように声が聞こえて、ルナは去っていった。