7. 戦闘開始
「さて、始めるか?」
「ええ、そうしましょう」
俺と駒込は死霊たちに向き直る。
一つ、確認しておこう。
怪異、悪霊、死霊などの霊的な存在は、基本的に物理攻撃が効かない。
正確には“完全には”効かず、倒し切ることはできないし、効果も限りなく薄い。
では、俺たち霊術師はどうやってそれらに立ち向かっているのか?
答えは、霊気を用いた覚醒だ。
霊気とは、要するに魂の力。
魂を持つものはすべて霊気を宿しており、その大小、密度、性質は個体によって異なる。
霊術師はこの霊気を応用し、霊的存在に対抗している。
霊気覚醒には大きく分けて三種類の系統がある。
自身覚醒──自分の身体能力や特性を強化する。
環境覚醒──魔法のように外部に霊気を作用させる。
補助覚醒──自分以外の対象に効果を与える。
厳密にはこのほかにも例外があるが、それはまた後で説明するとしよう。
「おい駒込、お前の系統は?」
「私は自身覚醒よ。あなたは?」
「俺は全部だ」
「はぁ!?!?」
俺の答えに、駒込が驚きの声を上げる。
無理もない。
現在、公式に確認されている限り、適性を持てるのは二系統までが限界。
三系統すべてに適性を持つ人間など、存在しないはずなのだから。
「まぁ、あんまり気にすんな……よっ!」
「いやいや、気になるでしょうが!!」
駒込の抗議を背に、俺は死霊どもへ突進する。
──途端に、群がる無数の死霊。
ざっと50ほどか。
死霊自体はそこまで強くはない。
だが、厄介なのはその数。
まるで無限に湧き出るかのような圧倒的な量が、奴らの脅威を増している。
……だが、問題はない。
数が多いなら、
──すべてまとめて葬ればいいだけの話だ。
「来い、小雪!」
右手を突き出すと、手元が眩く光る。
光が収まると、そこには白銀の刀が握られていた。
「どこから現れたの!?」
駒込が驚きの声を上げるが、今は無視。
俺は居合の構えをとり、目を閉じる。
攻撃する自分をイメージし、集中を高め──
──そして、
「理心流:冬の太刀【絶対零度】」
横薙ぎに刀を振るう。
瞬間、
墓にいた半数以上の死霊が、一瞬にして氷の破片と化した。
パラパラと散っていく氷片は、どこか幻想的ですらある。
「……え……え……?」
駒込は目を見開き、呆然と立ち尽くしていた。
そりゃそうだろう。
事前に説明を入れなかった俺のミスだな。
──と、そんなことを考えていると。
「グワオオオオオオオオオォォォォ!!」
死霊たちが駒込に殺到する。
「しま──」
助けに入ろうとした、その瞬間。
──ブシャッ!!
空気が張り詰める。
駒込に群がっていた死霊の中心に、突如として大穴が空いた。
霊核。
死霊の弱点であり、それを破壊されると即死する。
その弱点だけを的確に抉る、精密な攻撃。
……すごい。
驚いて駒込を見ると、彼女を中心に緑色の半透明のドームが形成されていた。
そこから無数の棘が生え、死霊たちを次々と貫いていく。
さっきまで呆然としていた駒込の姿はそこになく、
──目を鋭く光らせ、完全に戦闘モードに入った彼女がいた。
「守られてばっかりだと思わないことね!」
「どうやら、守る必要もなさそうだな」
「レディは男が守るものよ!」
「……さっき自分で“守られてばかりじゃない”って言ったよな?」
「“ばっかり”って言ったの! “守らなくてもいい”とは言ってないでしょー!」
そんなやり取りを交わしている間にも、死霊たちはどんどん数を減らしていく。
俺の実力は理解していたが、意外だったのは駒込の強さだ。
彼女は死神として独学で鍛えてきたと言っていた。
つまり、この戦闘技術は誰かに教わったものではなく、彼女自身の努力の賜物。
……それでこの強さか。
元々、戦闘センスが桁違いだったのかもしれない。
──戦闘開始から15分後。
気づけば、死霊の姿はほとんど消えていた。
駒込の口調が、さっきより砕けているのは戦闘に集中していたからだろう。
……このほうが、彼女と話しやすい気がする。
──とはいえ、それをわざわざ指摘する気にはならなかった。
お読みいただきありがとうございます!できればぶくまだけでも...
友達が書いた小説バク伸びしてとても嬉しいんよ。
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