5. 私の気持ちは...
◆ ◆ ◆
(駒込未来視点)
(あり得ない、あり得ない、あり得ない!)
髪を崩さないように気をつけながらも、私は頭を抱える。
目黒くんの家からの帰り道で、私、駒込未来は自分の感情と必死に戦っていた。
夕焼けに染まる空の下、小学生くらいの子どもたちが不思議そうな目で私を見ながら通り過ぎていく。
だが、そんな視線を気にしている余裕は私にはなかった。
(まだ会って1日なのに……それなのに……)
私は豊満な胸に手を当てる。
目黒くんの家にいたときから、いや、正確にはその前からずっと、顔が熱い。
やけに心臓の音がうるさく感じるし、胸のあたりがキュンキュンして苦しい。汗ばむほどに体温が上がっている。
そんなあからさますぎる身体の変化に、私は困惑しながらも必死に否定の言葉を探す。
しかし、どれだけ打ち消そうとしても、心臓の鼓動は早くなるばかり。
そして、あるひとつの事実を突きつけてくる。
(目黒くんのこと……気になってるなんて!)
目黒くんのことが気になる。
つまりは……恋。
愛などではない。
恋……である。
いや、まだ恋と言うには早すぎる。
落ち着いて、私!
第一、私は恋愛経験がまるでない。
死神の仕事の影響もあって、人間不信気味だった私は、恋どころか友情すらまともに感じたことがほとんどなかった。
……あれ、涙が……。
いや、今はそんな感傷に浸っている場合じゃない。
そんな圧倒的恋愛弱者の私が、この気持ちを恋と断定するのは早計すぎる。
だからこそ、今少しでも「恋かも?」と考えている自分が間違っている可能性が高い。
……高い、はず!
数少ない友達の一人が「恋をしたら直感でわかる」と言っていたが、これは違うはず。
(さすがに会って1日で好きになるなんて、そんなちょろい女じゃないわ私は! た・し・か・に! 私は恋愛経験ゼロだから、経験豊富な子に比べたらちょろいかもしれないけれど、それでも1日で落ちるような女じゃ……ないはず!)
そう自分に言い聞かせながら、ため息交じりに肩を落とす。
自分でも、必死に否定しているのがわかってしまうのが嫌なところだ。
まるで、ツンデレヒロインのようではないか。
私の恋愛アニメ知識から言うと、これは確定演出では……?
(大丈夫。きっとこれは、初めて私の話を信じてくれる人に出会ったから、と・も・だ・ち・と・し・て! 好感を持っているだけよ! 決して恋なんかじゃ……違うわ!)
そう結論付けることにした。
無理がある気もするが……思い込みは大事。
ふと空を見上げる。
さっきまで朱色に染まっていた空は、少しずつ闇に包まれ始めていた。
まるで、モヤだらけの私の心のようだ。
でも……。
「恋とか関係なく、目黒くんとは今後も仲良くなりたいわね……」
彼と仲良くなりたい。
それは、紛れもなく私の本音。
彼は少し、眩しすぎるかもしれない。
ずっと暗闇にいた私にとって。
同じ死神という宿命を背負いながらも、彼は普段から笑顔を絶やさず。
自分だって辛いことがあるはずなのに、私に寄り添ってくれて。
私に微笑みかけてくれた。
彼は強い。
まだ出会って間もないから、本当の強さかはわからない。
もしかしたら、ああ見えて彼にも私と同じように暗い部分があるのかもしれない。
でも、私と違って、彼は前に進もうとしている。
諦めずに、どんなに不可能だと思っても、もがこうとしている。
そんな彼は、久しぶりに光を見た私の目には少し眩しすぎるかもしれない。
でも……。
私が閉じ込められていた箱を開けてくれた彼のように。
私も彼が前に進む手助けになれたらいいなと思う。
同じ死神の仲間として。
ボーーーーーー
(って、私目黒くんのことばっかり考えてるーーー!!?)
結局、私はこの正体もわからない気持ちに振り回され、心の中で叫ぶのだった。
◆ ◆ ◆
妖界。
現世にいない間に怪異が存在する、怪異の隠れ家。
そこに建つ一つの家にて。
「ヴンヴンヴーン♪」
包丁を持ち、野菜……には見えないおどろおどろしい物体を切り刻む怪異。
それを、同じようにどろどろと紫色をした鍋に放り込む。
そうして蓋を閉めると、後ろを振り向き、一枚の写真立てを見て……。
「んひ♪」
恐ろしい顔で笑った。
お読みいただきありがとうございます!できればブクマだけでもしていただけると...
そろそろ卒業式なので歌の練習をしているんですがなんで合唱なんてするんですかね。
もう普通に原曲をみんなで歌えばいいのに。
めんどくさいわぁ。