4. 俺の妹はまったく...
「あなただれですか?」
「はぁ.....」
ため息をつきながら、俺――目黒 黄泉は状況を確認する。
奥で困惑の表情を浮かべているのは、今日初めて家に連れてきた死神、朝倉 未来。
そして俺の目の前にいるのは、唯一の妹、目黒 彩花。
――そうだったぁぁぁぁ!
正直、ほぼ初対面の女子を家に招くことで舞い上がっていた。すっかりこいつの存在を忘れていた。
いつもならこんなミスはしないのに……なんだかんだで緊張していたさっきの自分を殴ってやりたい。
「なぁ、彩花……」
「お兄ちゃんは黙ってて?」
「あ、はい……」
しゅん……
怒られてしまった。
こうなった彩花は歯止めが効かないということを、俺が一番よく理解している。ダメ元で声をかけてみたが、やはり効果はなかった。
ギロリ。
なんとか宥めようとした俺を黙らせると、彩花は再び朝倉に目を向ける。
「えっと……」
まだ困惑している朝倉は、何を言えばいいのか迷っているようだった。しかし、彼女が言葉を発する前に、彩花が先に口を開いた。
「あなたが何の目的でお兄ちゃんに近づいたのかは知りませんが、もしお兄ちゃんに害をなそうものなら、私は容赦なくあなたを殺します」
その目には明確な殺意が宿っていた。
実際に、彩花の警戒心は並大抵のものではない。まるで本当に攻撃の機会をうかがっているかのように、朝倉を見つめていた。
そんな彩花に対し、朝倉は終始困惑したまま、あたふたしている。
正直、ちょっとおもしろかった。
ぷふっ……
とはいえ、このままでは埒が明かない。
「とりあえず、朝倉」
俺は彼女の手を取ると、少し駆け足で階段へ向かった。
「お兄ちゃん!」
「また後で話すから!」
そのまま勢いよく朝倉を引っ張り、2階へ駆け上がる。
階段を上がる途中、俺と朝倉の足音以外は聞こえなかったので、彩花が追ってくることはないだろう。念のため、部屋に入ると鍵をかけた。
「すまんな、家の妹が」
「いや、全然……」
さっきまで困惑しかしていなかった朝倉だが、俺の部屋に入ると途端にきょろきょろと目を動かし、ソワソワし始める。
俺の部屋は普通の部屋だ。うちは神社を管理しているが、住んでいるわけではない。横に一軒家がある。
とはいえ、いたるところに貼られた御札を除けば、の話だが。
「……あの、聞いていいのかわからないけど……妹さんはずっとああなの?」
「ああとは?」
「さっきの態度……」
「ああ、最初からじゃないよ。彩花がああなったのは、俺が小6のときからだ」
「小6のとき?その時になにかあったの?」
「まあ……簡単に言うと、俺の力が欲しかった女性の術師が、俺を誘拐しに来たんだ」
「なるほど。他の術師が……」
「それ以来、彩花は外部から来る女性に敏感になった。特に初対面の女性には、だいたいあんな感じだ」
「理解したわ」
「ただ、あいつも死導きだし、家族を守りたいだけなんだ。悪いやつじゃないから、できれば仲良くしてやってほしい」
「そんなことで、同じ境遇の人を嫌いになると思う?」
「……いや、思わないな。悪かった、野暮なことを聞いた」
「謝ることではないわ」
その後、話題は妹のことから死導きのことへと移っていった。
◆ ◆ ◆
ぎゅっ……
ソファに座っている俺に、彩花が抱きついている。
時は、朝倉が帰ったあと。
「ごめん、彩花。お前に報告するのを忘れてただけなんだ。朝倉も、俺たちと同じように死導きの宿命を背負って苦しんでいて……放っておけなかった」
「…………」
ぎゅっ……!
抱きつく力が強まる。
目には、確かに涙が浮かんでいた。
しばらく俺に抱きついたまま黙っていた彩花だったが、やがて俺の顔を見上げ、ぽつりと言った。
「お兄ちゃんは……ずっと私のそばにいてね……?」
「……ああ、約束しただろ?俺はずっと彩花と一緒だ」
「うん……うん……!」
――お兄ちゃん『は』、か。
その言葉を聞いた瞬間、幼い頃につけられた胸の傷が疼く。
俺を連れ去ろうとした術師が刻んだ傷。
もう完治しているはずなのに、こうして昔のことを思い出すと、まるで昨日の出来事のように痛みが蘇る。
俺が誘拐されそうになったあの事件。
俺たちの親が再婚した理由。
それは、俺の父親と彩花の母親が、怪異によって命を落としたからだ。
当時、沢山の人が巻き込まれ、命を落とした。
あれは俺が7歳、彩花が6歳の頃の出来事。
幼かった彩花にとっても、それは大きな傷となり、今でも夢に見るほどのトラウマになっている。
もう二度と、大切な人を……家族を失いたくない。
彼女の警戒心の根底には、そんな強い意志がある。
だからこそ、俺は彩花のこの態度を無理に変えさせるつもりはない。
俺だって、父親を失って……もう二度と、大切な人を失いたくないのだから。
そうして俺は、心の奥底に渦巻く闇から目を背けるように、彩花の頭をそっと撫で続けた。
彼女を……守るために。
お読みいただきありがとうございます!できればブクマだけでもしてもらえると.....
ストレス解消に走るのっていいですよね。
その上コケて膝を擦りむいてけがをするのも最高だ!
さいこう......だ......(泣)




