3. 仲間
「あなたが……死神……?」
「ああ、そうだよ。俺も死神だ。あんたと同じだ」
状況が飲み込めていないのか、彼女は俯いてそれ以降言葉を発さない。
「大量の幽霊を墓で見たこともある。友達の後ろにドロドロしたやつが付いてくるのを見ることもよくあるし、街を歩いていたら通行人みたいに人じゃないものに会う」
彼女は俺が話し始めた途端、パッと顔を上げる。
どうやら心当たりがあるらしい。
まあ、同じ悩みを持っているんだろうな。そりゃ、同じ苦悩を背負っているんだから。
「どうだ?信じる気になったか?」
彼女は俺の言葉にしばらく呆然としていたが、はっと我に返るとクスクスと笑い始めた。
「ふ……ふふ……!正直信じがたいわ……信じ難いけど……信じるわよ。私が信じなくて、あなたが傷ついちゃ嫌だもの」
「そう言ってくれると思った」
「ええ、そうね。あなたも……そっか」
そう言って駒込はその言葉を噛みしめるように、ずっと待ちわびていた時間を堪能するように笑みと涙をこぼした。
「どうだ?少しは楽になったか?」
「ええ……ええ!とっても!」
彼女は涙を拭い、嬉しそうに笑う。
やはり彼女は笑顔のほうが似合うと思った。
駒込は、ひとしきり涙を拭くと、俺の方へと向き直って言った。
「ねぇ、目黒くん。私たち、友だちになれるかしら?」
「なれるさ、きっと。いや、絶対だ。だって、そこら辺の他人よりも、俺たちはお互いのことを知ってる。違うか?」
「ふふっ!それもそうね」
いいぞ、駒込。
その調子だ。
そうやってずっと笑っていてくれ。
犠牲になるのは───だけで十分だからな。
◆ ◆ ◆
「ただいま〜」
現在時刻は5時。
学校が終わり、家についた俺は門をくぐった。
そして……
「お、お邪魔します……」
駒込が控えめに挨拶をする。
俺の家である久遠霊寺は、学校から歩いて30分くらいのところにある。
あの高校を選んだ理由も、一番は近いからというのが大きい。
そんなわけで俺は駒込を家に招き入れていた。
出会って初日で自分から女の子を家に招くほど俺は陽キャではない。
というか、陰キャだしな!
家に呼ぶことは愚か、一緒に帰るつもりもなかったのだが……
あれは30分前のこと………
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ねぇ駒込さん!一緒にどこか寄らない?」
「いやいや、駒込さん!俺たちと一緒に………!」
「いやいや俺たちと………!」
授業が終わり、放課後。
みんなが窮屈な学校から解放され、浮足立つ。
誰と帰ろうかとか、どこか遊びに行こうとか、部活とか。
これぞザ・青春!という雰囲気が教室に充満する。
そんな中、青春とは程遠く、一人さびしく帰ろうとしていた俺氏。
うん、泣いてもいいよね?
陽キャたちの騒がしさに目を背け、なるべく無視を貫き帰ろうとするが……
嫌でも隣の席が目に入ってしまう。
そう、駒込 未来の席である。
現在、駒込の席は四方八方からの陽キャ砲にさらされていた。
ちょうど授業で習った四面楚歌状態だ。
そして、とうの駒込本人は……死んでいた。
ぐたっとしている。え、なにそれかわいい。
なにはともあれ、陽キャ砲の威力に駒込のライフは消滅寸前である。
やめて!駒込のライフはもうゼロよ!
ちなみに言わずもがな、砲手を務めている陽キャの大部分は男子である。
まぁ……
転校生、それもとてつもない美人ときたら、仲良くなりたい女子よりも欲のある男どもが多いのは仕方ないことなのかもしれない。
俺もその気持ち、わからないじゃないぞ、陽キャたちよ。
漫画みたいなシチュエーションだし、憧れるよね。
そして、まだ人脈がない駒込が、唯一の理解者である俺に向かって助けを乞う目をするのも……テンプレなのである。
「はぁ……」
はっきり言うと、俺はあまりクラスに関わっているわけではない。
どちらかと言うとボッチだし、陰キャの部類だ。
すいません、盛りました。普通にガチガチの陰キャです。
決して友達がゼロなわけではないので、そこは勘違いしないでほしいけど。
まぁ、そんなわけで、こんなに人数が、それも陽キャがいる戦場に駆り出され、駒込という囚われのお姫様を助けに行くのはなかなかにハードルが高いんだが……
そんなことを考え、俺が声をかけるのをためらっていると……
ふと駒込と目があう。
すると駒込は周りにバレないように口パクで
『と・も・だ・ち・よ・ね・?』
と伝えてきた。
くっ、友達!
その甘美な響きが俺の思考をかき回す。
友達が少ない俺にとって、友達とは何者にも代えがたい。
お金を積んでもできないだろうし。
俺は陰キャであってもボッチではありたくない!
だがとなると、助けに行く以外に選択肢がない。
はぁ、仕方ない。不本意だが行くかぁ。
「はい、どいたどいた。駒込、一緒に帰ろうぜ」
立ち上がり、俺は陽キャ混みをかき分けて駒込のところまでたどり着く。
急に割り込んできた俺に一斉に視線が集中する。
なんだこいつ的な視線が痛い。
くそっ、気まずい。
早くも凸ったことを後悔した。
しかし次の瞬間、その目線はすべて駒込に向けられることになった。
「いいわよ。一緒に帰りましょう」
駒込は一言そう言うと、立ち上がって帰り支度を始めた。
いままで誰の誘いにも反応しなかった駒込が即反応した。
これにはクラスメイトも驚きを隠せないといった様子で駒込に疑念の視線を向けている。
だが幸い、これ以上食い下がろうとするものはいなかった。
駒込が不機嫌オーラを振りまいていたのが主な原因だろう。
俺はそのまま駒込に腕をがしっと掴まれ、引っ張られるがままに教室をあとにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなわけで、一緒に帰ることとなったのだが……
駒込が死神について詳しく教えてほしいと言ってきたのだ。
駒込は死神についての知識がほとんどない。
周りに教えてくれる人がいなかったのだから、当然だろう。
そして、それを知りたいと思うことも必然のこと。
俺はこのお願いを聞くことにした。
まぁ、協力すると言った手前、断るという選択肢は最初からなかったように思えるが。
と、こういう経緯があって俺は現在、駒込を家に招いていた。
のだが…………
帰って早々、問題が発生した。
「だれですかあなた……」
「え?」
「はぁ……」
俺と駒込の間に立ちふさがるように立って、シャー!とまるで猫のように威嚇するものがいたのである。
俺の唯一の兄妹であり、義妹である目黒 彩花だった。
お読みいただきありがとうございます!ブクマだけでもお願いしますです!
テスト終わったので開放感の赴くままに書き殴りたいと思います!