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2. 夢のようなホントの話

「やめといたほうがいいと思うけど」


その言葉を聞いて、俺の前に立っている人物は少しビクッと体を震わせ、こちらを振り向いた。


ここは本校の屋上。


うちの学校は、最近では珍しい屋上を自由開放している学校だ。


危険だからという理由で禁止している学校が多いが、うちの学校は屋上では危険なことはしないという信頼のもと、朝、昼休み、放課後に屋上が開放されている。


朝はあまり使用されていないが、昼は昼食をとる者たちが、放課後は談笑するものや美術部などの姿が見受けられる。


なんだかんだ生徒たちに愛されているスポットなのだ。


陰キャである俺も愛用のスポットである。


ちなみに今は放課後。


昼の透き通るような空色だった空は、今では夕日によって朱色に染められている。


今日は美術部は休みで、屋上には俺と彼女以外見当たらない。


はぁ、なんかザ・青春!みたいな雰囲気なのにな。


そんな空気になる気がしないのが涙しか出ない。


彼女は、屋上を囲む手すりに足をかけながら言う。


「や、やめときなって何の話かしら?」


「ごまかすのは無理があるだろ。あんたが今そこから飛び降り自殺をしようとしていたことは見たらわかるし」


「しょ、証拠は?私が本当にそうしようとしていたかなんてわからないじゃない?」


女子生徒はそう言い放つと、一度も俺の方を見ることなく目を泳がせる。


誰の目から見ても慌てているなぁ。


態度があからさますぎて呆れるを通り越して感心するレベルだ。


相当純粋な性格をしているんだろう。


正直この動揺っぷりから、もう肯定しているも同然なのだが、実際に確固たる証拠はない。


「まあ、たしかに証拠なんて持ってるわけないよな」


「で、でしょ!?だったら.......」


「でもさ、本当のことはお前自身が一番わかってるんじゃないのか?」


「......!」


目の前の女子生徒は、はっと息を呑む。


人の気持ちはその人にしかわからない。


読み取ることは可能だし、予測することも可能だが完全に理解することは不可能だ。


今自分が何を考えているのか。


そのすべてを知ることができるのは紛れもなく本人だけだ。


いや、本人ですら完璧ではないのだから、他人に理解しろという方が無理があるかもしれない。


「別にあんたが自殺しようとしていたことを、俺が知ってても知らなくても、それをお前が認めようが認めまいが、そんなことは大した問題じゃない。大事なのは、お前がこれからどうするかだろ」


さっきまで目をそらしていた女子生徒は、今はじっと俺の目を見つめている。


どうやら思うところがあったらしい。


「さて、そろそろ本題に入ろう」


俺はそう言って、屋上のベンチに腰を下ろす。


俺がぽんぽん、とベンチの横に座るよう促すと、彼女は少し警戒しながらも俺の隣に腰を下した。


「それで、どうしてこんな馬鹿なことをしようとしたんだ?駒込」


今しがた自殺をしようとしていた女子生徒、駒込未来は顔を背ける。


正直、なんとなく予感はしていた。


このタイミングでの転校。


この時期は別に転勤とかが多い時期でもないし、転校には他の理由があると考えた。


真っ先に考えついたのはあまり良くない内容。


いじめとかである。


うちの学校はごく普通の学校なので、もし身体的なもの、例えば起立性調節障害などが原因だとしたら、通信制の学校に行ったりする気がするので、多分ないだろうな。


消去法でいって確率が高いのはいじめなどの後ろめたい理由だと思った。


「.......」


駒込はしばらく黙っていたが、観念したように口を開いた。


「ねぇ、目黒くん。もし、今から私が夢物語にみたいな馬鹿なことを話しても信じてくれる?」


「まぁ、内容によるかな」


「そこは確約してほしかったけれど.......」


「すまんな。できない約束はしない主義なんでね」


はぁっとため息を吐き、駒込は目を伏せて話し始める。


「私はね、死神っていうのに選ばれた人間なの。高校一年のときに、起きたと思ったら何もない空間にいて..........姿のない声が聞こえたの。たくさんの魂を救って、沢山の人を助けろって」


「.......」


「最初は、というか一時までは割となんとも思ってなかったわ。そんな超能力みたいなこと最初は信じてなかったけど、実際に能力を使えたり、幽霊を実際見たりしたし。それこそ、当時の私は、人を救いたいって言う正義感にかられていたと思う」


過去を懐かしむように上を向き、少し微笑んでいた駒込。


だが、急に顔が陰った。


「でもね、私が魂を浄化しようとすると、流れ込んでくるの。その魂に刻まれた記憶が、思いが。もちろんそれは悪いものばかりじゃない。いい人生だったんだろうなって思うものもいっぱいあった。でも......」


「.......」


「ある時、見てしまったの。その思いを見るだけで、感じるだけで。それだけで恐怖を抱いてしまうような、そんな感情。その思いは、私にトラウマを植え付けるのには十分すぎる恐怖を孕んでいたの。そして私は......死神という仕事が怖くなった」


「......」


「今でもね、毎日夢を見るの。私の浄化した魂たちが私を恨みながら迫ってくる夢。寝ることすら怖くなって、最近はずっと寝不足」


そこまで言うと、駒込は俺の方を向き自嘲気味に笑う。


「笑ってくれていいわよ?バカみたいでしょ?夢を現実だと勘違いしているだけだって思うでしょ?私だって同じ立場だったら信じて.......」


「駒込」


俺は言葉を遮って彼女の名を呼ぶ。


もっと軽いものだと、すぐに解決できるだろうと楽観視していた自分を恥じた。


これに比べたら、いじめなんて比べ物にもならない。


彼女が持つ傷はそれほどのものだ。


「信じるよ、俺は」


「え?」


「だから信じるよ、あんたが今行ったこと全部」


「...え........え.......?」


俺はしっかりと駒込の目を見て、自分の素直な思いをぶつけた。


駒込は顔を驚愕に染め、信じられないといった様子で少し震えている。


その震えが何からくるものなのかはわからないが、少なくともその震えの中には、少なくない恐怖が含まれているような気がした。


その表情が、今までの駒込を写しているようだった。


人に信じられることに恐怖を感じてしまう。


駒込は頭を振って言葉を絞り出す。


「そんなこと言っても結局信じてないでしょ.......こんなバカみたいな話.......内心では私のことを笑ってるんだわ......」


「いいや、そんなことはないぞ」


「なんで........!そんな訳あるはずない.................!!こんな現実味のない話、信じる人なんているわけがない!!」


「それは.........」


駒込は困惑し、取り乱していた。


その目はまるで、目の前にある状況を信じたくないとでも言うような。


もはや信じてほしくないと縋るような。


希望から目を背けるような。


そんな目だった。


人間というのは、期待を裏切られ深く傷ついたとき、期待することを辞める。


期待しなければ裏切られることもなく傷つくこともないからだ。


そして、それは次第に期待することに対する恐怖へと変わる。


期待することそのものが傷つくことだと勘違いしてしまう。


きっと駒込は、いままで誰にも信じてもらえなかったんだろうな。


信じてほしくて、信頼をおいていた人に話して、でも信じてもらえなくて。


何度も、何度も期待して、そのたびに裏切られて。


裏切られるたびに傷を負って。


ああ、結局誰も信じてくれないんだって絶望して。


ああ、わかる、わかるさ、その辛さ。


俺も同じだったんだから。


間違いなく俺のそれと彼女のそれではレベルが違う。


彼女の抱えているものは、俺に比べるとあまりにも大きい。


彼女が負っている心の傷は、きっと死神の仕事によるものだけではなかったのだろう。


そんな彼女の苦しそうな顔を見て、俺も昔を思い出し、胸が痛む。


そんな彼女に俺が今できることは.........


そうして驚愕と絶望の入り混じった目を俺に向ける彼女に向かって俺は精一杯の笑顔で迎え撃つ。


「信じるさ、だって.......俺も死神に選ばれた人間なんだから」


「え.........?」


別に俺に彼女を助ける理由はない。メリットもない。


だけどさ、あいにく...........


女子の泣き顔ってのは、大嫌いなんだよ。

お読み頂きありがとうございました!

自分気の強い子が弱さ見せてくれるの大好きっすね、はい。

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