14
ギシギシと心地の良い音が響く。
私、朝倉未来は鳴神くんたちから婆ちゃんと呼ばれる人の後ろを歩いていた。
そう、魂言を見てもらうためである。
先程行われていた鳴神争奪戦は、小雪とおばあさんが帰ってきたことにより幕を閉じた。
正直死ぬほど恥ずかしい。
おそらくまだ赤面が治りきってはいないだろう。
そう思った私はちらりとおばあさんの方を見る。
優しくて温厚そうな顔つきをしている。
私にもおばあちゃんがいたらこんな感じだったのだろうか。
3歳という幼さでおばあちゃんを亡くした私にとって、今の状況は新鮮であった。
そんなとき、おばあさんが突然後ろを振り向いた。
「お嬢ちゃん、あんたは神を信じるかい?」
まるで宗教みたいな質問だと私は思った。
「信じるかどうかと言われると難しいですけど、霊がいるわけですし、いると思います」
「そうかい‥‥」
おばあさんはそういって少し笑うと前を向く。
「きっとこの世には神様はいるんだろうねぇ」
ちょっぴり悲しそうな声でおばあさんは言う。
「でもね、もしあんたがこの先神に会うことがあっても、決して自分を曲げちゃいけないよ。死神ってのはただでさえ神の雑用を押し付けられてる仕事だけどね、そんなのは関係ない」
私は黙って聞いていた。
その言葉のどれを取っても、私の心には深く響いた。
「結局ね、自分が一番信じられるのは自分だからねぇ」
「一番信じられるのが自分‥‥‥」
「そうさ。なにかしたいときに思い通りに動くのも自分。それが失敗したときに悔しくて泣くのも自分。人間ってのは無意識のうちにずーーっと、自分を信じて、期待しているもんだよ」
おばあさんの言葉は、今まで周りから信頼されないことで悩んでいた私の心に深く突き刺さった。
「だから、たとえどこの誰がなんと言おうと‥‥‥‥‥自分だけは自分を信じてあげるんだよ」
このおばあさんは私のことをそこまで知らないはず。
今日あったばかりだし、鳴神くんが話していたとしてもそこまで多くは知らないと思う。
だけどその言葉はまるで私のみに向けられているように感じる言葉で。
私の心にどうしようもなくすっと入ってくる言葉だった。
「ごめんねぇ、急にこんな話をして」
「いえいえ!とても‥‥‥嬉しかったです」
おばあさんは少し微笑んだ私の顔を見てにっこりと笑った。
◆ ◆ ◆
その後、魂言の鑑定を行ったのだが思いのほか終わるのが早かった。
方法は水晶に右手をかざし、左手をおばあさんとつなぐだけ。
そうすると、おばあさんの霊力が私を通って水晶へと流れ、魂言が映し出されるという仕組みらしい。
「お嬢さんの魂言は「守護」「変形」「助力」。どうやら補助霊術の才もあるようだ」
守護はいつも使ってるバリアの能力だろう。
変形はそのバリアを思いのままに操る能力。
そして、今回のことで初めてわかった助力こと、補助霊術の才能。
基本私はこの3つらしい。
「魂言は減ることはないが、増えることはある。何かで危機に陥ったときや、何かを極めたときだ。突拍子もなく現れることもあるから、お嬢さんの好きなときにここにおいで」
「ありがとうございます!」
「それと、補助霊術に関しては得意な子をひとり知っているからその子に教わると良い」
そして、おばあさんの知り合いに稽古をつけてもらえることも決まった。
なんだか今日一日でいろんなことがあったけど、強くなれると思ってわくわくしている。
ここに来てよかったと心から思ったのだった。
◆ ◆ ◆
「あそこが例の……」
「ええ、霊術師たちの巣窟……」
霊杏家を見つめる二人の女。
その顔は狂気に満ちており、とてもこの世のものとは思えない。
右側にいる女、レイスは顔の右側に大きな傷があり、おどろおどろしい。
左側にいる女、ラスタは外見こそ普通の女性であるが、その奥には残虐な思考が眠っている。
彼女たちがここに来ている理由はただ一つ。
霊杏家の破壊、及び霊杏家に滞在している霊術師の殺害である。
「つまんないの〜」
「まあまあ。そんな言わないの」
年上のレイスが始まる前から不平不満を漏らし、年下であるラスタが彼女をなだめる。
それが彼女たちのいつもの光景であった。
もっとも、年上といってもレイス本人はもう数えてすらいない。
というか、数えられる年月じゃない。
自分が死んでから何年経っただろう。
そんなことすら思い出せないほどには彼女たちは長くこの世に留まっていた。
彼女たち、悪霊は。
全てに絶望し、すべてを破壊することを目的としている悪霊の組織、ラルティア。
そこに属する二人もまた、何も考えずに破壊のみを実行するただの人形だ。
ただ、彼女たちはそれでも構わない。
自分が嫌いなこの世界を壊せるのなら。
「じゃあ、行こうか」
「さっさと終わらせちゃいましょう?」
しかし、彼女たちはまだ知らない。
この日新たに、存在する理由を得る出会いがあることを。