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はいどうも。
健全な男子高校生、鳴神黄泉と申します。
えー今日は大変お日柄もよく、川のさえずりが心地よいですね。
まるで三途の川のようです。
なんて冗談、ではないがおいといて。
現在、俺の両脇には俺の腕に抱きついてきゃっきゃうふふしている女子が二人、対面に若干キレ気味な女子一人という盤面配置である。
前に座る女子は言わずもがな朝倉未来。
そして俺の両脇に座るこの子達は──────
「どうも!双人熱菜!中学三年です!」
「こんにちは、双人水綺、同じく中学3年生です」
双人姉妹である。
名字からも分かる通り、この二人は血のつながっている双子だ。一応熱菜が姉で、水綺が妹という立ち位置である。ふたりとも霊術師で、その強さは婆ちゃんのお墨付き。霊術界最強の双子である。
「そう、私は朝倉未来。よろしくね」
「よろしくお願いします!」
「よろしくです」
「と、自己紹介も済んだところで‥‥‥‥」
「ちょっと」
俺が話し始めようとしたタイミングで、朝倉が俺の方を向いた。
朝倉は俺に耳を貸せと手で合図してくる。
「あの子達、なにか訳アリよね」
俺が近づくなりそう言ってきた朝倉。
やっぱり気づくんだな‥‥‥‥‥‥
正直朝倉なら、彼女たちと状況は違えど似たような経験をしたこいつなら、二人に寄り添ってくれるかもと、俺は心のどこかで期待していたのかもしれない。
ここに朝倉が来ることが決まったとき、俺の頭に二人の顔がちらりとよぎった。
彼女たちもまた、過去に囚われている異能持ちの被害者だ。
三人とも、死神という役目によって不幸になってしまった。
だからこそだ。
「二人のこと‥‥‥こいつに打ち明けられないか?」
「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」
「俺さ、思うんだ。霊術を持ったせいで人生を狂わされる人がいなくなればって。でもさ、どうやっても全部なくすなんて無理だろ?もうすでに狂わされた人だっているわけだし」
彼女たちは顔も知らない誰かのために命さえかけているのに、なぜ不幸にならなければならないのか。
それはきっと、俺は一生理解できないししたくもない。
「だけどさ、心の傷って簡単には直せないけど絶対治らないわけじゃないだろ?傷の舐め合いっていうと言い方悪いかもしれないけど、理解し合える仲間が増えれば増えるほど元気が出ると思うんだ」
そう、きっと方法はあるはずだ。
かつての俺が‥‥‥そうだったように。
俺の言葉に彼女たちはしばらく俯いて考え込んでいたが、姉の熱菜が口を開いた。
「このお姉ちゃんからは‥‥あいつらみたいな嫌な感じがしないね!」
「私も同感です。なんだか、わたしたちと同じ匂いがする気がします」
「じゃあ‥‥‥!」
「だけど」
と、さっきまではキラキラさせていた瞳を少し暗くし、姉の熱菜は話を切る。
「だからといってまだ私達のことは話せないよ!」
「「‥‥‥‥‥‥」」
「なぜなら、信用がないからです。お姉ちゃんも私もあなたのことは知らないし、逆もまた然り。あなたも私達のことを知らない。だから私達のことについて今は話す気はありません。信用っていうのは‥‥‥‥‥この世で最も大事なものですから」
水綺が話し終わり、じんわりとしたなんとも言えない空気が流れる。
湿っていて、それでいてどこか重々しい空気。
そんな空気に耐えきれず、はぁと息を吐く。
「ごめんな。もしかしたらとも思ったが、俺の余計なおせっかいだったみたいだ」
俺は彼女たちに向かって頭を下げる。
彼女たちの過去を、その心に住み着く闇を理解していてこの問いを投げかけることは不躾だったかもしれない。
ほんとに、申し訳ないことをしたと反省した。
すると、俺の謝罪を聞いた彼女たちはお互いに顔を合わせあうと、ふっ!と微笑んでこちらを向く。
「気にしないでください。今はと言っただけでいつか話せるくらい信頼できる日が来るかもしれないですし、わたしたちのためを思って言ってくれたということはわかっていますから」
「そうだよ!黄泉兄はいつも私達の事考えてくれてすっごく感謝してるんだから!」
「ふたりとも‥‥‥‥‥」
さっきまでの湿っていた空気が一転、室内に明るい雰囲気がもどる。
二人の優しい言葉に目頭が熱くなる。
信頼してくれる仲間はたくさん‥‥‥とは言えないかもしれないけれどいるが、こうやって心からの感謝を伝えられることは多くない。
まあ、性格上の問題もあるかもしれないがともかく。
俺は涙をハンカチで拭いて二人の方を向く。
すると二人は、こちらに小悪魔的な笑みを浮かべて近寄ってくる。
「でも〜、ちょぉぉぉっと傷ついちゃったなぁ?涙が出ちゃいそうだなぁ?」
「そうですね。気にしていないとはいえ少しばかり心が痛くなったのは事実です」
「え?え?」
いきなりなにをいってるんだ!?
「「そんなわけで‥‥‥‥」」
二人はとびっきりの笑顔で言った。
「「添い寝を所望する(します)!」」
「え〜〜〜〜!!?」
「は‥‥‥‥?」
その後、抱きついた二人の相手をしながら俺は、怒りながらも抱きついてくる朝倉の対応に追われるのだった。
いやなんで‥‥‥?