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というわけで。
いや何がというわけでだやかましい。
要約すると、小雪の話を聞いたあと、婆ちゃん家に行くことを知った朝倉が付いてきたというわけである。
ちなみに道中も俺の後ろでずっとバチバチしてたのは言うまでもない。
やめてほしいね。
俺の心臓が縮みっぱなしだから。
まあそんなことはさておき現在。
俺達は婆ちゃんに案内され大広間に来ていた。
畳が敷き詰められた、まるで旅館のような外見のこの部屋には、今は俺達しかいないもののいつもは少なくとも三〜四人の霊術師がたむろっている。
俺達は複数置いてある座敷の一つに腰を下ろす。
向かい合う婆ちゃんがこちらに微笑みかけていった。
「で、今日はどうしたんだい?」
「まずは小雪の霊力測定、できれば朝倉の魂言鑑定もお願いしたいと思って」
「そうかい、魂言鑑定は時間がかかるからねぇ。まずは小雪、おいで」
「はーい!行ってきますね主様!」
「おう」
そうして小雪は婆ちゃんと一緒に部屋を出た。
大広間に沈黙が流れる。
部屋が広いからか異様に静かに感じられる。
正直この気まずい空気に耐えられない。
俺は朝倉の方を向く。
すると、同じことを考えていたのかぱっちり目があってしまった。
お互いに目を逸らし、またもや沈黙が流れる。
き、気まずい.........
俺が耐えかねて口を開こうとしたとき..........
「あ、あの.....魂言ってなんなの?」
沈黙を破って朝倉が聞いてきた。
「魂言を知らないのか?」
「言ったでしょ。私の霊術に関する知識は完全に独学なの。どんな能力みたいな体験からくる曖昧な知識しかないわ」
「そうか.....」
「ちょっと!泣きそうな可哀想な目で私を見ないで!」
いや~だって、ねぇ?
そりゃそんな顔にもなりますよ。
今まで大変だったなあって目頭が熱くもなりますよ。
まじで、本当に下心とか一切なく、気づけば俺の手は朝倉の頭へと伸びていた。
「ちょっ......!急になに......!」
「あ、ああ.....すまんつい.....」
当たり前だが、突然撫でられた朝倉は困惑した目でこちらを見つめてくる。
心做しか頬が朱い。
きっと恥ずかしかったんだろう。
俺としても無意識だったし本意ではなかったので、すぐに手を離す。
「あっ........」
そうすると朝倉はどこか名残惜しそうな顔をしてしばらくお口チャックをしていたが......
「やっぱりやめないでぇ.......」
ぷるぷると震えながら顔を真っ赤にして小さな声でそう言ってきた。
え、可愛すぎません?
◆ ◆ ◆
さて、お互い真っ赤に顔を染めたまま撫でを遂行したあと。
「こほん。じゃあそろそろ魂言について説明してもいいか?」
「え、ええ........」
俺はもうある程度持ち直したが、朝倉は相変わらず顔が赤い。
まぁ........めちゃくちゃ可愛いとだけ言っておく。
平静を保ちつつ俺は朝倉の方を向いた。
「魂言ってのは魂に刻まれた言葉のことだよ。勇気とか、信念とか。そして、魂言はその人の本質と才能を写してる。だから魂言を見れば、その人の能力や適性がはっきりわかるんだよ」
「そうなんだ.....」
「朝倉はまだ自分の力でも曖昧なところがあるだろ?魂言がわかれば、今まで気づいてなかった能力があったり、能力の応用もしやすくなる」
そう、今日朝倉をここに連れてきたのは朝倉が来たいと言ったからだが、もし今日来なくてもいずれは連れて来ようと思っていた。
魂言を知るっていうのは、霊術師が基本一番最初にする行動であり、いままで霊術師に会ったことがない朝倉が魂言を知っているはずもない。
しかし、自分の魂言を知っているかどうかで、霊術師の強さってのは驚くほどに変わる。
例えば、今まで水の適性しかないと思っていたら、少しだけ炎の適性もあって霧属性が使えるようになったり。
例えば、固有の能力しか使えないと思っていたら、性質付与の霊術を持っていたり。
魂言を知ることは自分を知ること。そして自分を知ることは強みを知ることになる。
魂言を知ることで実力がアップする訳では無いが、能力を応用しやすくなることで実質的に強くなれる。
だからこそ、今日朝倉をここに連れてきたのだ。
「婆ちゃんはただの気の良い婆さんに見えてエグいくらい強いからな。魂言を教えてもらうついでに戦い方なんかも教わったらいいよ」
「うん。そうするわ」
朝倉は俺の話を聞いたあと、やる気に満ちた目で俺の方を向いた。
ちなみに、俺も婆ちゃんに色々教えてもらった一人である。
まぁ..........正直思い出したくもない苦い記憶だが。
そんなわけで朝倉に魂言鑑定を受けてもらうことになった。
これで朝倉は多分何段階か強くなることだろう。
なんて、俺が思っていたその時。
「あ、黄泉兄ぃだ!今日来てたんだね!」
「お兄さん、こんにちは.........」
どんっ.......!
俺の背中に柔らかい4つの感触が伝わってきた。
非常に嬉しい状況ではあるのだが.......
「な・る・か・み・くん?」
それはもう黒い笑顔でこちらに微笑みかける朝倉。
どうやら、素直に喜ぶことはできないらしい。