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二人を落ち着けたあと.......
「それで、この女は誰なのよ」
と、不機嫌オーラ全開で聞いてくる朝倉さん。
そんな睨まんでもええですやん。
怖いですやん。
ていうかなんでですかん。
「こほん。紹介するよ。こいつは1個下の後輩の小雪だ」
「どうも!ある.....じゃなかった、先輩の未来のお嫁さんです!」
びきっ!!
と、なんだかデジャヴな音が聞こえ、また言い争いになりそうな雰囲気がしたので、朝倉をなだめ気を取り直して。
「後輩っていうのはわかったけど、あなたと関わっているし、只者じゃないんでしょう?」
「そうだな。まあ端的に言っちゃうと小雪は人間じゃない」
「え.......?」
「俗に言う付喪神ってやつなんだ」
首を傾げる朝倉に俺は説明をする。
付喪神。
みんなも聞いたことが一度はあるだろう。
日本古来より伝承されている物体につく神。
付喪神はみな、ものであるときの姿と魂姿、そして人型の姿を持つ。
小雪はそんな付喪神の一人というわけである。
先程の会話で、狐なのは否定しないといったのは、小雪の魂姿の姿が狐だからである。
「小雪は刀の付喪神なんだ。俺は能力とは別に付喪神の力も借りて戦ってるんだよ」
俺が説明を終えると、朝倉は一瞬理解したように頷き......再び首を傾げた。
「でも.......付喪神ってそもそも人を嫌う類の神じゃなかったかしら」
「まあ、そうだな........」
朝倉からの問いに答えあぐねる。
言っておくと、朝倉が言っていることは真実だ。
付喪神というのは大抵の場合、人間に捨てられる事によって怨念が神格化することで生まれる。
一度人間に捨てられる以上、人間に好印象を抱いていない付喪神がほとんどだ。
それなのに俺が付喪神と仲良くできている理由。
それは、なぜかはわからないが俺が付喪神に好かれる体質であるということもあるだろう。
だが、小雪の場合は......
「私は人間は嫌いですよ?もちろん全部の人間嫌いってわけじゃないですが、少なくとも初対面で好感度がマイナスから始まるくらいには嫌いです。でも........」
と、俺の思考を遮るように言う小雪は一度言葉を区切り、俺の方へと目を向ける。
「先輩だけは、主様だけは特別です。付喪神になった頃の私を救い出してくれた主様だけは.......」
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「寒い......」
もうどれくらいここにいいるだろうか。
ここに立てられてからもう随分と時がたった。
隣に倒れていたはずの持ち主の影はもうない。
雪で埋もれてしまったのか、はたまた骨すら残さず地に帰ったか。
大事なことの.......はずだったのに。
それすらも忘れてしまうほどには年月がたった。
私という刀が付喪神へと生まれ変わったのはもう遠い昔の話。
権力者たちの生臭く泥臭い争いごとに巻き込まれて命を落としてしまった持ち主。
彼は命が尽きる間際、私へと言った。
『お前はなぁ、いい刀だ。ドジで間抜けな俺だったが、お前に何度命を救われたことか!俺が今日まで生きてこられたのも全部お前のおかげだなぁ......!』
腹に刺さった刀を抜く気力も起きないまま、名も忘れた彼は私に向かって無理に微笑んだ。
『もし聞こえてんならお前はきっといいやつなんだろうなぁ。次は、もっと優秀でいいやつに使ってもらえるといいなぁ...............ぐふっ!!......もうすぐ俺は天に行っちまうけど、お前はまだこの世に残るんだもんなぁ』
彼の言葉は、どれだけ経っても忘れることはない。
たとえこの先どんなことが起ころうとも、彼の存在だけは......忘れたくない。
『そうだ。俺が天に行ったらよぉ。神様にお願いしておこう。お前が次拾われたとき、幸せに慣れますようにってなぁ。刀相手に何を思ってんだって思われるかもしれんけど、絶対にお願いするからなぁ』
彼は最後の気力を振り絞るように、先程よりも明るい笑みを浮かべた。
そうして彼の命の音が........少しずつ消えていった。
私の心にぽっかり穴が空いたような気がした。
それからは変わらない日々が続いた。
何度も何度も雪に埋もれたり溶かされた雪によって濡れたり。
たまに人が通ることはあったが、私に気づくことはなかった。
さやに入っていると言っても所詮は刀。
時間が立つごとにサビが増えていった。
そうして長い年月を経て、私の心には、彼に対しての思いと地面の冷たさを残して何もなくなってしまった。
自分が付喪神であることを知らなかった私は、人化することもなくただ存在するだけ。
神様なんて馬鹿らしいし、彼が本当に言ってくれたかなんてわからない。
だから、きっと私はここで朽ちるんだろうなって思った。
別に嫌とも思わない。
朽ちるなら朽ちるでそれでいい。
一つ心残りになのはあの人の言った通りにならなかったこと。
彼の願った私の幸せを私が掴めなかったこと。
それだけが心残りだった。
だが............
そんなある日、私の運命を変える出来事が起きる。
その時は冬で、私は雪に埋もれ、相変わらず何も考えずにぼーっとしていた。
その時だった。
ボッ!!!
爆発みたいな音がして、私の上にあった雪が一瞬で水とかした。
急に体への重みがなくなった。
上を見ると、見ることのできなかった冬の空が広がっている。
そうしてしばらくして、急な出来事に困惑していた私のもとに足音が近づいてきた。
「派手にやっちゃったなぁ。被害出てないといいんだ、けど?」
近づいてきたのは、一人の少年だった。
中学生くらいだろうか。
黒く美しい髪に整った容姿。
その顔には、まだ幼さやあどけなさを残している。
身には神社でよく見かけるような神々しさを感じる着物をまとっていた。
少年は、私の前で足を止めた。
彼は私を見つめる。
この少年に会ったことなんてあるわけない。
私がここにいるのは、きっと彼が生まれるずっと前からだろうし。
初対面なはずだし、なんなら今始めて声を聞いたはずだ。
なのになんだろう。
初めて会った気が気がしない。
初めて聞いた気がしない。
彼という存在に、どこか懐かしさを感じてしまう。
そんな彼から感じる心の温かみ。
それは..........
「付喪神さん、大丈夫?」
あの人に........よく似ていた。