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異の中のカワズ 大海を彷徨う ~誰にも迷惑をかけず釣り人 ときどき冒険者としてスローライフを送るはずだった俺、異世界最悪の逃亡者となる  作者: THE TAKE
第一章 バングル王国編

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第46話 完全勝利


 無意識に動きを止めたジェイドは、そのまま視線だけを動かし、声の出所を探った。視線の先では、ひらひらと揺らめく綺羅びやかな格好で、腰に手を当て堂々と胸を張る小柄な女性が立っていた。


「ジェイド、そこまでよ。剣を置きなさい!」


 彼を止めたのは、先程まで魔道具を通して会話していたアメリアだった。壊れた貯水池入口の階段をトントンと小気味良く降りてきたアメリアは、くるりと一回転しながら着地し、《 テヘッ♪ 》と戯けてみせた。


「…………お嬢様。これはどういうおつもりですか」


 カワズの額に剣の腹を突き付けたまま、ジェイドは王族であるアメリアにも殺気を滲ませたまま質問した。


「ちょっとした()()()、とでも申しましょうか。どうです、楽しかったでしょう?」


「楽しい……? 苛つく、の間違いでは」


 両者の状態を確認したアメリアは、遠慮なくツカツカ近付くと、ジェイドの腕に触れながら「それなりに苦労したみたいですね」と不敵な笑みを浮かべた。


「やっぱりわたくしの見立ては間違いありませんでした。油断大敵、強すぎて今や敵なしの貴方も、今回ばかりは反省したのではなくって?」


 嫌味に質問するアメリアに、怒りと困惑が入り混じったジェイドは返答に口ごもる。そうしている間にも、アメリアを追ってきた誰かの声が遠くから聞こえてきた。


「ちょっと、ちょっとお嬢様!? 早い、早いんですって、待ってったら!」


 クルクルと旋回しながら瓦礫の合間を縫って現れたのはリリーだった。


「お嬢様、勝手に行かないでくださいよ、って……、なんなのよ、この状況!? うわ、うぇえぇぇえぇ、アイツ、あんときの大男じゃん!? って、アンタもなんで殺されかけてんのよ~!?」


 現れるなり騒ぎ倒すマヌケな妖精の登場に、王族を始めとする皆の口がポカンと開いた。さらに少し遅れて登場したハーグマンは、「まったく……」と頭を掻きながら、リリーを空中で掴まえるなり、ジェイドの隣で敬礼し、すぐひざまずいた。


「まずはお母様にお兄様、ご無事で何よりです。それにカワズも、どうやら生きていらしたようで、本当に良かったですわね、クスクス」


 皆が皆、困惑し閉口する中、「アメリア殿下、それでは説明が足りておりません」と、また別の何者かが付け足した。

 その人物はどこか申し訳なさそうにゆらゆら揺れながら現れ、今なお怒りの収まらない" 上官 "と目を合わさぬように近付いた。


「……なんでお前が?」


 姿を見せたのはエイヴだった。

 彼女は顔を強張らせながらジェイドへ詫びを入れるように敬礼したのち、王族三名の前で跪いた。


「この度は度重なる失態、まことに申し訳ございませんでした。しかしこうしてまた両陛下や殿下と御目通りが叶い、恐悦至極に存じます!」


 取ってつけたような気のない定型文を述べたのち、事態の報告を進言したエイヴは、放心しているカイルの頷きを確認してから、コホンと一つ咳払いし、事の顛末を語り始めた。


「まずは状況のご報告を。つい今し方、我が部隊が賊の一団を掃滅そうめつ。指揮を取っていたマクシルにおきましても、身柄を確保しております」


「お、おお、そうか!」


「また賊に拉致されておりましたランカスター殿下におかれましても、お怪我はあるものの、無事に奪還、保護しております。現在は治療班が対応しておりますが、後ほどすぐにお会いできるかと存じます」


「叔父上も無事か! それは喜ばしい」


「合わせまして、この度、殿下の誘拐を企てた賊の数名も同じく捕らえてございます。その中には、暗部へ忍び込ませていたと思われる小型モンスター数匹と、定点へ人を転移させる呪術を用いる者の存在も確認できております」


「何?」とジェイドが言葉を漏らした。しかしすぐに目を瞑り、口を噤んだ。

 概略をエイヴに説明をさせ、謀ったように割って入ったアメリアは、人さし指を立てながら続けた。


「と、ここまでお聞きしたところで既にお気付きかと思いますが、今回の誘拐事件を引き起こした賊は、既にこちらで確保済みでございます。その事実を前置きし、改めてもう一度命じます。ジェイド、剣を下ろしなさい」


 無言で剣を下ろしたジェイドは、不服さを滲ませながらも、跪き低頭した。


「お母様、それにお兄様も。恐い思いをさせてしまい、本当に申し訳ございませんでした。私がもう少し早く計画に気付いていれば、もっと安全にお二人をお救いできていたはず。愚かな私めをお許しください」


 ペコリと会釈したアメリアは、打ち上げられた魚のように動けないカワズの額にデコピンし、「お疲れさま、カワズ♪」と悪びれることなく詫びた。

 クワッと目を見開いた青年は、言葉にならない何かをグチャグチャほざきながら、悔しさを露わにするだけだった。

 キャハハハと爆笑するリリーを横目に、呆れて言葉もないハーグマン。そしてどうやら全て理解した一行の肩から、ストンと力が抜けた。

 しかし唯一人、険しい顔を崩さないアメリアは、蒼白い炎蠢く氷の上に立ち、カワズたちが逃げてきた城内へと続く抜け道を指さしながら言った。



「ということで、今回は私の完全勝利。……ですよね、お姉様?」


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