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異の中のカワズ 大海を彷徨う ~誰にも迷惑をかけず釣り人 ときどき冒険者としてスローライフを送るはずだった俺、異世界最悪の逃亡者となる  作者: THE TAKE
第一章 バングル王国編

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第37話 全てを目論むフィクサー


 ランカスター卿の誘拐以降、固く閉ざされた城内は、遠目から見れば慌ただしさは窺い知れるものの、その反面、外界と温度差が感じられるほど冷めたものだった。ある者は疎ましそうに、またある者は心配そうに、ただ動向を見守るほかないからだった。


『それで、これからどうしろと?』


 どう考えても侵入が難しそうな立派な城門を見上げながら、カワズは『諦めましょう』と提案した。しかし彼が発する言葉の一切を無視し、「外壁伝いに西へ移動してください」と命令は続いた。


「少し進むと門兵用の詰所が見えてまいりますので、まずはそちらにお入りください。扉は常に開いておりますので、心配はいりません」


 アメリアの言葉通り、正門の西側には石造りの城壁に埋められる形で備えられた小さな詰所が見えており、カワズは開かれたままの扉から中を覗き込んだ。そこには次番を控えた数名の見張りが待機しており、それぞれが緊張感なく思い思いの会話を楽しんでいるようだった。


「詰所の奥へ入ると、城内の中庭と城壁の合間の空間に突き当たります。そこから壁沿いにさらに西の方角へ進みますと、今度は城壁へと上がる階段が見えてまいります」


 辺りを窺いながら歩を進め、駆け上がった壁の上から城内を眺め見る。

 見張り用の高台は見通しが利き、かつ眺めが抜群に良く、そこから見えた目的地へ向け、ピンポイント、かつ死ぬほどわかりやすい行き先を指示されたカワズは、もはやゴネる理由すら思い浮かばずに、死んだ目をした魚ばりの表情で目的の場所へと急いだ。


「中庭を抜けますと調理場の裏口が見えてまいりますので、そのまま中に入ってください。今はちょうどお休みの時間のはずですから、中にいるのは料理長くらいかと思います」


『料理長がいたらダメなのでは?』という彼の意見は見事黙殺され、「さぁ急いで」と言うアメリアが、少しだけ焦りながらカクレンボ玩具を操った。


「ほら、急いで。そこを抜けると給仕係さんたちの休憩室がございますので、扉の前で五秒ほど息を整えてください。五秒の間にどなたかがお部屋に入ってくるかと思いますので、タイミングを併せて、入れ違いで城内の廊下へと出てください。くれぐれもぶつからないように!」


『そんな都合よくいきませんって』という彼の意見とは裏腹に、休憩室の入口で五秒を数えた直後、扉が開いた。「え、なんなの、怖い」とドン引きする間も与えられぬまま、「ほら、急ぐ!」という彼女の命令だけが彼の鼓膜を激しく揺らした。


「ここまで進めば、後は真っ直ぐ走るだけですわ。大広間を抜けて、礼拝堂を行き過ぎたら、奥にある王の間を目指してください。……ただし恐らくではございますが、その道中で、少々の問題が……」


 アメリアが何か言いかけたところで、魔道具越しに爆発音が響いた。

「何が起こった!?」と声を張り上げたリリーとハーグマンとは対照的に、アメリア一人だけは全てを予知していたかのように、鋭い目を真っ直ぐ向けていた。


「ご安心ください。まだ僅かですが時間がございます。急ぎ目的の場所へ」


 アメリア以外の全員が理解不能状態に陥る中、カワズの耳だけは、遠くから流れてくる怒号のようなものを捉えていた。

 我慢できず、廊下の大きな窓から中庭を覗くと、正門の方向から煙が上がっているのを発見し、嫌な予感から『もしかして』と呟いた。


「お察しのように、国の反乱分子がお城へ攻め込んできたのでしょう。しかしご安心あれ、まだ時間はございます。時間的アドバンテージは、まだまだこちらにございますのよッ!」


 グググと拳に力を込めたアメリアは、揺らめくスカートを振り乱しながら、「急ぐのです、カワズ!」と興奮しながら叫んだ。

 もはや様付けすることすら忘れ、イレ込み気味なお嬢様の変わりように目を奪われたリリーとハーグマンは、口を挟むことすら忘れ、ただただ二人のやり取りを聞き入っているのみだった。


『待ってよお嬢様、なんでそんな完璧に先のことがわかるのー!?』


 城内へ押し寄せてくる賊の姿を目撃してしまったことで、否応なくカワズの緊張感は増していた。しかしそれでも、質問せずにはいられなかった。


「決まっているでしょう。全て、最初からわかっていたからですよ。これらは全て、()()()()が計画した筋書きにのっとり、進んでいるのですから!」


 皆が皆、同タイミングで『は?』と呟いた。

 アメリアの言葉が正しいとすれば、それはそれは大きな問題が生じることになる。


 当然一つは、そんなことを考えた人物が本当にいるのか、という点。

 しかしそんなことよりも、もっと重要な問題あった。

 それは――



『なぜお嬢様が、その筋書きをご存知なのですかー!?』



 仮に計画を考えた人物がいるとすれば、それはいわば賊側の首謀者。

 しかしアメリアは、その全貌を掴んでいると自ら口にした。


 どうして?

 皆の疑問を一身に受け、アメリアは全てを目論もくろむフィクサーのように腕組みし、放胆に言いきった。



「 当然ですわ。この国で起こる全ての出来事は、私の手の中で踊っているだけなのですから 」


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