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第3話 グレーテストテイルキング



「おーい、ライルズいるか。……って、いないのかよ」



 何者かが彼を探している ――


 歳の頃は三十代後半。中肉中背で、ところどころ白髪が混じったナイスミドルである。困り顔で彼の不在を悩んでいたところ、ホクホク顔の家主がタイミングよく戻ってくる。


「煮付けか、それとも塩焼き。はたまた天ぷら、いやいや、ここは南蛮漬けという手も」


「お、ライルズ戻ってきやがったな。また朝っぱらから釣りかよ。お前の(おつむ)は釣りしかないのか?」


「うげっ、ランドのジジイ。余計なお世話だ。そもそも勝手に家に入るなし。サッサと帰れ、シッシッ!」


「そう言うな。ちと頼みたいことがあってな」


「頼み……? 嫌だね!」


「聞くだけ聞けよ。お前にとっても悪い話じゃねぇ」


「そう言ってキサマはいつも面倒事を押し付ける。どうせ今回もそうだ!」


「そう言うなよ。それに、……どうせないんだろ、コイツがよ?」


 ランドが指先で円を形作った。


「ウグっ、そ、それは……」


「あればあるだけ使っちまうからな。ちったぁまともに生きてみろ。そんなじゃ娘一人寄りつかないぜ」


「不要不要。俺は釣りがあればそれでいーの!」


「……バカなの、お前」


「黙れ。それで用はなんだよ」


 ベッドと小さなテーブルと椅子しかない簡素すぎる部屋の端に魚保管用のポッドを置いたライルズことカワズ(以下カワズ)は、ランドを対面に座らせ、ドスンと腰掛けた。それから嫌そうに口を尖らせ、「で?」と(うなが)した。


「そこでいうと、俺様は依頼人であり客だぞ。茶くらい出せよ釣りバカ、……いや()()か」


「いいからサッサと用件言えよ!」


「……今回は、" アレ " を集めてほしくてな」


「アレ?」


「そう、" アレ "、だ」


「アレ……?」


「だな、" アレ "、だ」


「アレアレうるせぇよ。そもそもアレって " ドレ " だよ!」


 肩で息するカワズを笑い捨て、ランドが徐にコロンと何かを転がした。


「うんにゃ、……ま、まさかこれは!?」


 素っ気なくテーブル中央に鎮座していたのは、まさにキラキラとした光沢を放つ、一枚の金ピカコインだった。


「ば、ば、バカな。き、金貨だと!?」


 金貨といえば、一枚で上級傭兵半年分の給金と同等の価値があるという。それなりの立場の者でなければ、生涯拝むことすらできない代物、である。


()()()()()()()を入手してほしい」


「勿体ぶらず言え。何が必要なんだよ」


 ランドはわざとらしくフゥなどと息を整えてから、カワズの目を正面から見つめて言った。



()()()()()()()()()()()()。そいつの尾を取ってきてくれ。報酬は金貨一枚。良い条件だろ?」


「…………グレートポンポコピー?」


「グレーテストテイルキングだ。アーシュラダンジョン最深層にいるキマイラ系魔獣だ。名前くらい聞いたことあるだろ」


「知らん!」


「イバるなバカちん!」


「知らんものは知らん。で、そのなんとかサボタージュはどの地区の何処にいるって?」


「……お前それでも冒険者か。アーシュラといえば、駆け出し冒険者でも知ってる有名ダンジョンだぞ」


「知らーぬ!」


 呆れ果てて頭を抱えるランドだが、なぜか会話は止めず、さっさと話を進めた。


「期日は明日から一週間、費用やアイテムはこっちで用意する。必要な物をピックアップしてくれ。……えぇ、なんだって、飯だけでいい!!? よーしわかった、俺がドンと用意してやる。ほれ、さっさと行ってこい!」


「勝手に話を進めるなし。そもそも行かんし」


「……前にツケで売ってやった強化糸あったよなぁ。しゃーねぇ、利子5倍で今すぐ返済してもらうか」


「き、きったない奴め、そうやってすぐ足元見やがって!」


「使えるものは全て使う。それが賢い商売人ってやつよ、ガハハハ!」


 理不尽条件の誓約書をピラピラと舞わせたランドは、悪魔のような笑顔で舌先を左右にピロピロ振った。


「そんじゃ早速出発してくれ。死んでも死なずに帰ってこいよ~」


「うるせぇ!」と最後まで了承しないままでも、ランドは尻をパシパシ叩いて挑発し、ぽーいとダンジョンまでの地図を投げ捨て、スキップしながら帰っていった。


 金を人質に自由を奪われた悲しい趣味人は、図らずも仕方なく、こうしていつものようにダンジョン巡りへと興じることと相成るのである。


「クソジジイめ。さっさと借金返済して、こんな生活おさらばだな」


 地団駄踏んだカワズだったが、それでも金貨一枚となれば話は別。確実に商品を入手し、報酬を受け取る必要がある。しかし上級傭兵半年分の給金ともなれば、その入手危険度は相当に高い。しかも期限はたったの一週間で、準備時間もたったの一日ときている。


 普通の冒険者であれば、まず不可能な案件である。しかし彼に不安の色はまったく見られない。それどころか、楽しそうな雰囲気すら漂っている。


 ランドが置いていった地図を拾い、カワズは目的地とダンジョン深度を確認し、ものの数秒で必要な工程・行路を試算し、組み上げていく。


「ふむ、合計4日と20時間てとこか。残りは……」


 地図を指で追い、目的のポイントをつらつらと探す。とはいえ、彼にとっての目的など一つしかないのだが……


「余った2日をどうするか……、ヒッヒッヒ♪」


 貧相な安物の魔道リュックに道具を詰め、腰に伸縮自在の竿を装着したカワズは、ランドから食料(たった4日分。セコい!)を受けとるなり、そのままダンジョンへ向け出発した。




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