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異の中のカワズ 大海を彷徨う ~誰にも迷惑をかけず釣り人 ときどき冒険者としてスローライフを送るはずだった俺、異世界最悪の逃亡者となる  作者: THE TAKE
第一章 バングル王国編

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第28話 よちよちハイハイ


    ★ ★ ★ ★


 潜伏に専念したまま動きがない賊のアジトを諦め、夜半過ぎに抜け出した二人は、どこか他にも怪しい場所がないかと街中を走り回った。しかしそうそう都合よく怪しい場所や人物が見つかるわけもなく、ただただ腹を空かせた『薄汚れ冒険者』が仕立て上がるだけだった。

 夜明けが近付き、遠く東の空にぼんやりと陽の光が差し込み始めた頃、スンスン鼻を鳴らしたカワズは、何かを感じとり徐に行動を開始する。情報がなく、行動する材料もないことから、リリーも欠伸しながらついていくほかなかった。


 (かぐわ)しい匂いに導かれ、ただただ一直線に移動するうちに、二人は厳かな雰囲気漂う一角へと辿り着いていた。温度の低下と天候の変化で辺りには霧が立ち込め、この先へ踏み入っても大丈夫なのと不安なリリーは、見通しがきかない周囲の状況を(かんが)みて、一旦止まるべきと提案した。


「なんかマズくない? 霧凄くて怪しいんですけど……」

「逆に好都合じゃん。見つかりにくいし」

「でも……、何か出てきそう」

「何かってなんだよ?」

「それはアレよ。……お、オバケとか」

「オバケ、オバケですって!? プップススー、妖精がオバケ。ゴーストやアンデッドが存在する世界線で、この残念な子ったらオバケが怖いですってよ奥様!」


 赤面してカワズの頬を飛び蹴りしたリリーだったが、どこからともなく聞こえてきたポチャンという音に背筋を凍らせ硬直する。しかし反対に口角を上げたカワズは、自らの嗅覚を確信し、胸を張って宣言した。


「さぁて毎朝の恒例行事を始めますか。作業、準備開始!」


 邪魔な霧を払いながらズンズン進んでいくカワズは、障壁となる柵や壁を勝手に乗り越え、ついに目的の場所を発見した。彼に続き、恐る恐るその光景を目撃したリリーは、拍子抜けした挙げ句、「このバカは……」と呆れるしかない。


「これより朝飯の調達を開始する。さ~てさて、この美しい湖ちゃんは、あたくしに何をもたらしてくれるんでしょうか~♪」


 二人の前に現れたのは、美しく手入れされた泉だった。

 明らかな人工物感は漂うものの、気にせず釣り道具を準備したカワズは、針先に練り餌を付けて竿を振った。すると数秒もたたぬうちに、グゥッと手応えあるアタリを感じ、嬉々として竿先を持ち上げた。


「開始十秒でフィッシュオーン! 幸先良すぎて震えるぅ~♪」


 浅い泉の奥で針にかかった魚が暴れ、水面がパシャパシャと揺れた。この程度なら力ずくでいけると竿を立てたカワズは、こんなに派手に動いて大丈夫なのかしらとハラハラしているリリーのことなどきれいサッパリ忘れ、釣りを楽しんでいた。


「これは朝から豪華な食事になりそうだぜぃ、うぇいうぇい!」


 糸を手繰り寄せ、いよいよ釣り上げるだけのところで、様子を窺っていたリリーが異変に気付き、慌ててカワズの服を引っ張った。しかしカワズはフゥフゥ口笛吹いて興奮しながら、魚を釣り上げた。


「ヒャッホウ、いいサイズだぁ。これはこれは脂が乗った色鮮やかなお魚さんですこと、フェフェフェ」


「ちょ、ちょっと、ちょっとって!」


 袖を引っ張るリリーに気付き、カワズは大胆かつ優雅にくるりと女優のように振り返った。


 そしてようやく彼は理解する。

 さらにはびっくりしすぎた挙げ句、足を滑らせひっくり返った。



―― そこに いらっしゃるんですね?



 転んだカワズの頭上。

 まだ薄らぼんやりと照らすだけの朝日を背負い、何者かが話しかけた。


 タケノコ採りでヒグマに遭遇したときの婆様と同じく ” よちよちハイハイ ” で逃げようとするも、竿先で暴れた魚の存在がそれを許さない。たとえ二人の姿が見えなくとも、揺れる湖面は隠しきれず、その存在を第三者に知らしめていた。


「マズい、マズいよ、マズいって!」


 カワズを持ち上げて飛ぼうと羽ばたくも、人の体を浮かすには力が足りず、慌てれば慌てるほど逃げる速度は遅くなるばかり。

 音もなく静かに歩み寄る人物の影に怯え、腰を抜かして「はぅはぅ」怯える無様な二人。二人が落ち着き、ずっと静かに待ち続けていた彼女の存在に気付いたのは、それからさらに数十秒がたった頃だった。


「あ、あれ、この()、確かあのときの……?」


 歳の頃は見るからに若く、まだ10代の半ばだろうか。

 早朝にも関わらず優雅すぎる彼女の姿は文字通りのご令嬢そのもので、見窄らしい二人とは明らかに身分が違っている。薄くひらひらとそよぐ青色のドレスと、純白の手袋を身にまとった高貴な様は、一つの焦りもなく淡々としたものだった。


 当初は慌てていた二人も、あまりにも物腰柔らかな雰囲気に飲まれ、自然と彼女の言葉に耳を傾けていた。しかし二人の姿が見えていない彼女の方は、湖面の変化だけを頼りに近付きながら、そこにいるであろう誰かへ向けて、緊張しながら語りかけていた。


「そこにいらっしゃるのでしょう。(わたくし)の話を聞いていただけませんか?」


 彼女は城壁近くの庭園で花の世話をしていた女性だった。

 少し動悸が治まったカワズは、逃げてしまった魚を諦め、深呼吸して息を整えた。


「お願いです、(わたくし)の話を聞いてくださいませ」


 唐突に相談を投げかけた彼女の姿に困惑し、カワズとリリーは顔を見合わせ、互いに首を捻った。


「ねぇちょっとこの、急に話し始めたんですけど(ヒソヒソ)」

「興奮して油断しすぎた。にしても、コイツなんなんだよ(ヒソヒソ)」


 漠然と逃げる算段を立てる二人に勘付いたのか、彼女は一度咳払いをした。そして深々と会釈をしてから、改めて切り出した。


「庭園でお会いした方、ですね。ここで(わたくし)に大声を出してほしくなければ、(わたくし)の話を聞いてくださいませ」



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