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第13話 生きていける算段


 そのたった一言に、ランドがおいおいと呟き頭に手をやる。


 言葉の意味がわからず、カワズが「なんだそれ?」と質問した。ランドは空気の読めない彼の頭をパンとはたき、「いただけねぇな」と首を振りながら低い声で言った。


「アンタ、自分の口にした言葉の意味を、本当に理解してるんだよな?」


「わかってるつもりよ。だけどもう私たちには、これしか方法が、……残されていない」


「俺ぁこれでも界隈じゃ " 物知りランドさん " として知られちゃいるが、そんな俺でなくても簡単に見えちまう未来があるぜ。聞きたいかい?」


 頭をさすりながら「叩くなジジイ!」と手を振り払ったカワズは、話の流れが読めず、リリーから奪った小袋を覗き込み、目を細めながら言った。


「こんなゴミキレで何ができんだよ。チリだぜ?」


 さらに一発カワズの頭を叩いて袋を手に乗せたランドは、至極シンプルな言葉にまとめ、端的に言った。


()()()()、な。もちろんアンタだけじゃねぇ、一族もろとも、皆殺しだ」


「皆殺しぃ? 大袈裟だろ、なんだよそれ」


「お嬢さん。アンタもコイツと同じ意見かい?」


 アイテムを手にしたときの喜びから一転し、現実を突き付けられたように黙りこくったリリーは、絞り出すように、「それでもやるしかないの」と返答した。


「全て理解したうえでやる、ってか。……しかしいただけないな。それを聞いてもなお、俺がこいつをくれてやると?」


 ハッとしたリリーは、これを渡すわけにはいかないと、ランドの手元から袋を取り上げ、背後に隠した。


「悪いけど、返すわけにはいかない。アタシには、これが必要なの」


「そう言われてもね。何よりアンタがそのつもりなら、俺たちにだって何らかの影響が及ぶ。なおさら渡せねぇって」


「そこは安心して。アタシはこの事実を誰にも言わないし、アナタたちに迷惑をかけるつもりもない。何が起こったとしても、アナタたちには無関係よ」


「……ふぅ。なら質問を変えよう。ところでアンタ、生まれは?」


「カイエン=ウルホスよ。それが何?」


「なるほど……。やはり噂は本当だってことかい」


 シリアスな空気が店を包み、置いてけぼりにされたカワズは、" いぃぃぃぃ " と額にシワを寄せ、「仲間外れにしないで!」と割って入った。


「まったく……、これだから俗世に興味のないバカは気楽でいいよな」


「バカって言うなし。わかるように説明なさいよ!」


 天板をバンバン叩く。


「面倒くせぇなぁ。……さすがのお前でも、世界には多くの種族が存在することくらいは知ってるよな?」


「あ、それバカにしすぎ。当然知っておる!」


「だったらここ数百年で起こっている、エルフと妖精(フェアリー)の事情も知ってるな?」


「それは、……うん、知らない(テヘッ)」


「知っとけ。ここ百年ぽっちの短い期間で、この二つの種族はその数を大幅に減らしてる。もちろんそこには大きな理由がある。言ってみろ」


「わ、わかったぞ、世の男子どもが草食化したからだ。どの世界も似たようなもんですなぁ」


「(草食化ってなんだ?)……なんだか知らんがぜんぜん違う」


 ランドは店の奥から古びた一冊の本を取り出し、二人の前で開いて見せた。


「彼女ら二種族には、切っても切れない歴史がある。エルフは妖精に、そして妖精はエルフに支えられ、これまで存在を(つむ)いできた。その程度は知ってるよな?」


「知らない」


「ハァ……。元来よりエルフって種族は、魔力の消費量が他の種族より少々多いらしくてな。そんな性質もあって、彼らは常日頃から魔力をなんらかの形で補填しなきゃならない。補填の方法は色々あるんだろうが、ここで重要になってくるのが"妖精(フェアリー)族"の存在だ」


「ふん、なるほどなるほど」


「(コイツ、聞いてねぇ……)妖精族は、ありとあらゆる物体に " ()() " と呼ばれている特殊な性質のようなものを付与することができる稀有な種族でな。付与できる対象物には、水や食料も当てはまるときたもんだ」


「へ~」


「この祝福の面白い特徴ってのが、与えられたものに特殊な魔力のようなものを付与できるって点でな。祝福を受けた水や食料なんかには、特殊な力が上乗せされるって寸法さ。ただその効果も向き不向きがあって、俺らヒューマンが食べたところで大きな影響はないが、事エルフにとっては大きな意味をもっていた」


「どんな?」


「魔力が得られんのさ。その祝福をいただく見返りとして、エルフは妖精たちに力を与えた。見ての通り、妖精族は小さく力もない。一種族で生き抜いていくには厳しい世界だからな。そうしてエルフは力を、妖精は魔力を分配しながら、これまでずっと互いを支え合ってきたんだ」


「だったら別に平和じゃん」


「しかし五百年ほど前か。妖精の王ジルべは、その相互の関係から大きく舵をきった」


「ほっほ~、なるほど。ふふっ、わかってしまったぞ。アレだな、ショタだろ。その王はショタコンだったのだ。でかい妖精の王と、ぴったりサイズ感の合うエルフの少年を誘い込み、あ~んなことや、こ~んなことを企んだうえ、言葉にできない卑猥な、そう、卑猥な関係になった挙げ句、揉めに揉めた! そうだろ、そうに決まってる!」


「お前なぁ、少しは自重しろ。……ジルベはエルフ族との関係性を解消し、生きていく道を選んだんだ、唐突にな」


「くそぅっ、ショタじゃないのか、ショタじゃなかったのか! しかしでも待て、ショタじゃなかったにせよ、力をわけてもらわずに生きていけんのかよ、妖精族は!」


「そう、……生きていける算段は立てたんだ。だよなぁ、お嬢さん?」



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