第1話 無関係に生きてます
本日(6/15)から新連載始めました!
ひとまず12話程度を本日中に更新予定。お読みください!
激しい息遣いが、硬い岩盤に反響し、ダンジョン内を駆け巡るーー
焼けるほど熱された空気が立ち込め、回廊のように続く細く長い一本道に、一瞬の閃光が抜けていく。
「ハッ、ハッ、くそっ、エリス、大丈夫か!?」
緊張感に押し潰されるほど切迫した声は、世の中ごと掻き消してしまうほどの金切音によって、無惨にも上書きされてしまう。
息を切らして駆けていく冒険者の影が、赤く照らす炎の揺らめきを躱すように通り過ぎていった。
「もう無理よ、逃げ切れない!」
「まだだ、こんなとこで諦めてどうする!?」
「だけど!」
男女の声に続いて、再びの金切音。
続いて迫るのは真竜の咆哮。
「アイツ、またアレをやるつもりじゃ……」
「こんなところで吹かれたらもう逃げ場なんて!」
大口を開けて構えた赤褐色の巨大竜は、腹底から絞った魔力を喉奥に溜め、猛禽類に似た強者の眼で、冒険者を見つめている。
「終わった……。俺たち、ここで死ぬんだ」
「い、いやよ、いやぁぁぁぁ!」
悲鳴に次ぐ悲鳴。
断末魔の叫び、とでも呼ぶのだろうか。
死を待つばかりの、無様で無念さだけを滲ませた言葉の数々が闇に吸い込まれていく。赤みを増した竜の肉体は、寸分の迷いもなく、無慈悲に魔力を蓄えている。
数秒後、熱線に焼かれて絶命する。
もはや冒険者たちは、開き切った瞳孔の奥から溢れた涙にも気付けない。
一人は失禁しガタガタと膝を震わせ、一人はガチガチと歯を鳴らし、手にした武器を地に落とした。
「いやだ、死にたく、……死にたくねぇよ」
「やめてよ、おか、お母様……」
《 ……うんにゃ? こぉの手応えは 》
「俺は、俺は、こんなとこで死ぬのか」
「マ、ママ、イヤ、あついのヤダぁ」
《 キタよ……コレ、キタんじゃないの? 》
「やめて、こ、ころしゃないれ」
「は、はは、ダメだ……、終わった……」
《 フィ…… 》
『ん? フィ……?』
《 フィッ………… 》
『フィッ…………?』
フィッッーーーシュッッァ!!
なんですか?
死を覚悟していた冒険者たちの視線が、明後日の方向へと振れる。しかしその視線の先には誰の姿もない。
なのに確実な、何らかの動き ――
否、確実な生体反応。
「フィッシュッ、フィッシュ、フィーーッシュ、キタコレ、キタキター!」
なんの騒ぎですか?
竜を含めた全員が、動きを止め、何もないはずの空間の奥の奥を見つめる。
ダンジョンの袖を流れる毒の沼地。
バシャバシャ揺れる水面。
嬉々とした躍るような何者かの声。
ギシギシとしなりを上げる異音。
鼻を突く腐った水と地面との境目で、バシャバシャと何かが蠢いている。口を開け、ブレスを撃つ寸前だった竜は、ギロリと眼線をズラし、何もない(?)空間を睨みつけた。
「ウグギギ、グギギギギギ」
軋む音と、地面を擦る異音に混じり、苦悶する人の声が漏れていた。「誰?」と呟いた冒険者の言葉にいち早く反応した竜は我に返り、遅らせていた咆哮を冒険者へと吐き出した。
「ウガガガガ、舐めんなよ、オニドル風情がぁぁ!」
全てを溶かすほどの灼熱の炎が発されると同時に、沼地の水面がドゴンと爆ぜた。飛び出したのは、身の丈10メートル以上はあろうかという巨大な " 魚影 " だった。
「いっっよっしゃー、遂に、遂に釣り上げた、やった、やった……、って、ハァァ!? 火ぃぃ!?」
迫る炎と、釣り上げられた巨大魚が、空中で見事に交錯する。
巨大な炎の玉を全身で受け止め、「グギョォォ」という世の終わりを彷彿とさせる魚の悲鳴とともに、竿片手に頭を抱えた見窄らしい青年の悲哀に満ちた叫びが、ダンジョン内に響き渡った――
お、俺の
俺の釣り上げた、オニドルマン ガーゴイルフィッシュちゃんがー!!(大泣)
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