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辺境の町についたらしい

 調べてみると目的の町までの道のりは想像していたよりもずっと長いものだった。

 職場から帰って寝るだけの小さな部屋に荷物なんてほとんどない。最低限の荷物を入るだけ詰め込んだ大きなバッグを背負って、この国に唯一ある環状鉄道に乗って衛星都市に向かった。

 予定では次は乗合馬車に乗って日が沈む前に次の町に向かう。この町でも十分に辺境なのだが、そこから乗合馬車で半日のところにある村に向かう。更に次の村までの乗合馬車は数日に一回しか便がないらしい。その村から更に中継の村までが遠く、早朝に乗合馬車で出て着くのが夜になる。その村でなんとか一泊し、そこから馬車で半日かけて目的の町に着くという感じでかなり大変だ。ちなみにこの村から先は道のない高山を隔てて別の国だ。

 まだ一つ目の衛星都市だというのに、考えただけで気が重くなってくる。

 それにこんな長距離の移動にこの子は耐えられるだろうか。

 スピラの方を見ると、ぼんやりと上を見上げていた。視線の方を見上げると、鳥が空を飛んでいるのが見えた。その鳥は屋根の端に舞い降り、周囲をきょろきょろと見回している。

 そうか、スピラは鳥も見たことがないのか。

 鳥を眺めていると、飛び立ってどこかに行ってしまった。


「あ~~あんなふうに飛んでいければ楽なのになぁ~~」

「飛ぶ……飛べないの?」

「無理無理。飛行魔法ってすーごい難しいんだから」

「う~ん……」


 飛行魔法は希少能力に匹敵するほど習得が難しい魔法の一つだ。宮廷魔法士ですら使いこなせる者は少ない。もし使えたら確実に戦場に駆り出されるだろう。僕も魔法の腕にはそれなりに自信があるが、飛行魔法は体を1m浮かすくらいしか出来ない。

 スピラはじっと僕を見つめていた。

 なに、その顔は。

 むりだよ? ぼくとべないよ?


「とべないの?」


 すごく飛びたそう……

 僕は小さくため息をついて、スピラを抱きかかえる。

 そして、飛行魔法で身体を浮かせた。


「すごいっ、すごいすごいっ、飛んでる!」

「ふふっ、これが限界」


 1mほどの高さに飛び、10秒ほど浮いて、ゆっくりと地面に降りた。

 これ以上の高さには浮けないし、移動しようとすると体が縦に回って頭をぶつけちゃうんだよな。

 めちゃくちゃ危ないから2度とやらないことにしている。


「もう一回、もう一回~~っ!!」


 スピラは大きく眼を見開いて、きらきらと瞳を輝かせてこっちを見た。

 こんなしょぼい魔法が面白かったらしい。ここまで楽しんでもらえるとは思わなかった。

 こうなると僕もノリノリである。


「しょうがないなぁ~」


 もう一度飛行魔法を使い、身体を浮かせる。

 嬉しそうにはしゃぐスピラ。あばれるなよ~、急に魔法が切れて地面に落ちちゃうだろ~。

 その時、一陣の風が吹いた気がした。

 涼やかな風が僕たちの周りで弧を描き、そして渦になっていく。

 なんだ、この妙な感じは。

 不思議な力の流れを感じる。これは、スピラから感じたあの不思議な力の流れだ。

 突然体が軽くなり、どんどん浮き上がっていく。限界だった1mの高さを軽々と超え、建物を超えどんどん上昇していく。


「わぁ~~! クーっ! すごいっ、高いよ、高いよ~~!」


 いやいやいや、落ちたら死ぬんだが……

 血の気が引いていく僕の横でスピラが嬉しそうにはしゃいでいた。

 慎重に魔力を操作し、上昇を緩やかに止め、そして完全に静止する。眼下に見える見事な街並み。人の姿が小枝の様に小さく見えた。

 慎重に魔力を操作し、身体を動かす。ゆっくりと前方に進み、少しずつ加速していく。

 信じられないが完全に扱えている。

 この僕が、飛行魔法を。

 嬉しい反面、この事は絶対に黙っていようと思った。飛行魔法を使える者を国が辺境にほったらかしにするはずがないのだ。特に戦時下の今は。

 少しずつ加速していくと、どんどん、どこまでも速くなってく。もう鉄道より速く飛んでいるんじゃないだろうか。もうこのまま目的の町まで行けてしまう気がする。

 衛星都市から伸びる街道に沿って空を飛び、平原を過ぎ、山を越え、渡り鳥を追い越していく。

 楽しすぎる。

 空を飛ぶのに熱中していると、半日も経たずに目的の町に着いてしまった。

 陸路で行けば一週間はかかっていただろう。もし歩きだったら一ヶ月ほどかかったかもしれない。

 人目に付かないところに着陸し、領主がいるらしい館に向かう。いや待て、あまりにも早く着きすぎたから不自然に思われないだろうか。とりあえず今日はこっそり宿屋に泊まって考えよう。

 夕暮れの大通りに宿屋を見つける。中に入ると、食事をする客で席の半数は埋まっていた。寂れた町だと聞いていたが、思っていたより賑わっている。

 とりあえずカウンターで帳簿を付けている中年の女性店員に声をかけた。


「すみません、一泊したいんですが。あと、食事も」

「はいこんばんわお兄さん。その子と2人だけかい?」

「ええ……まあ」

「ふぅん。ほっそい子だねぇ! あんたちゃんと食べさせてるのかい?」

「う……」


 スピラが怯えた様子で僕の後ろに隠れた。


「まぁ……いろいろありまして」

「はぁん。そうかい。なんだか知らないけど、あんたもしっかり食べてくんだよ」

「あはは……お気遣いありがとうございます」


 案内された2階の部屋に荷物を置いた後、1階の食堂へ向かった。

 空いたテーブルにスピラと向かい合わせで座る。

 周囲から凄い視線を感じる。得体の知れないよそ者なわけだし、警戒されて当然か。

 そういえばこの子は今までどんな食事をしてきたのだろう。十分な食事を与えられなかったのは明白だけれど、苦手なものとかは無いだろうか。

 不安に思っていると、それほど待つことなく料理が出てきた。

 カットされたパイ。断面を見るとミートパイのようだった。僕のところには2切れ、スピラには1切れ。そして皿には芋や豆を炒めたものが一緒に乗っている。それとスープ。なんだか妙にドロっとしていて緑の野菜が結構たくさんぶちこまれている。飲み物なのか食べ物なのかわからない。

 ミートパイを掴んで一口食べてみる。

 まずくはない。不味くはないけど妙に臭みがあって好みが分かれそうだ。

 これミートパイだとは思うが、普通の肉じゃないなぁ。あんまり食べたことのない感じで、たぶん内臓か何かが混じってそうだ。あれか、キドニーパイとかいうやつか。これスピラは食べられるかな。

 スピラは小さな口でミートパイを齧る。

 最初は不思議そうな顔をしていたが、2口、3口と続けて頬張り、美味しそうに笑顔を浮かべていた。これ美味しいのか。

 ただ確かに臭みに慣れてくると肉の旨味がしっかりと感じられ、なかなかクセになる味だ。どろっとしたスープはポタージュスープの様で塩気のない淡白な味でわずかに甘味がある。葉野菜の方も青臭くなく悪くない味だ。見た目はアブラナ科っぽい感じだが、何だろう。

 しばらく考えて、ある野菜が頭に浮かんだ。

 ルタバガだ。王都ではあまり見ないが、寒さに強く寒気の強い年でも安定して収穫が見込めるおかげで、この地方では重宝されるのだろう。


「あまり口にしたことのない料理だけど、おいしいね」

「おいしい……?」

「うん、おいしいよ」

「おいしいっ!」


 笑顔を浮かべるスピラを見ていると、こっちも楽しくなってくる。

 そういえば誰かと一緒に食事をするのもかなり久しぶりだ。


「おう兄ちゃん、ルディラは初めてかい? よかったら一杯やろうや」


 2切れ目のパイを食べ終わったところで肌の焼けた背の高い筋肉質の男に話しかけられた。

 テーブルに酒の入ったビアマグを差し出し、満面の笑みを浮かべている。身体にはところどころ傷が目立ち、いかにも戦士という風体だが、確かこの町には冒険者ギルドは無かったはずだ。傭兵なら戦場に行ってるだろう。衛兵か遍歴商人といったところか。


「ありがとう、頂きます」


 遠慮なく酒を流し込んだ。褐色のビールは見た目に反して苦味が少なく、香り高くうまい。


「う~~!」


 スピラが物欲しそうに手を伸ばしてくる。


「いやいや、だめだって。子供は飲めないの」

「だめなの?」

「ごめんね、ダメなんだ」

「むぅ」


 スピラがしょんぼりした様子で俯いた。


「ああもうしょうがない子だねぇ。ほら、あんたにはこれ」


 いつの間にかカウンターにいた女性店員が薄桃色の液体の入った小さなコップをスピラに差し出した。どうやら牛乳に果実を混ぜた飲み物の様だ。


「いいの?」

「いいよぉ。好きなだけお飲み」

「わぁ~い、ありがとうっ」


 小さな手で、両手でコップを持ち、スピラは口を付けた。


「あまぁいっ」

「ふふっ、よかったねぇ」


 おそらく牛乳に潰した苺と蜂蜜を混ぜたものだろうか。スピラは美味しそうにイチゴミルクを飲み干してしまった。


「色々と気を使ってもらってありがとうございます。僕はクウレリイ、その子はスピラと言います。王都から転勤でこちらに参りました。医薬品を作る予定です」

「かたぁ~い。硬い硬い硬いぜあんちゃんよ。まあいいけどよお。俺はグレッゾ、商人をやってる。一応、これでも元Bランク冒険者だ」

「あたしはモーリン。この宿屋をやってる。見ての通りさ。薬を作ってくれるなんて助かるねえ。高くてとても買えた物じゃないからねえ」


 医薬品の価格は国が決めているが、国が販売する薬を買った後、転売することは禁じられていない。そして国は工場のある町と王都、そして衛星都市でしか薬を販売していない。必然的に医薬品工場から離れれば離れるほど転売によって高くなり、王都から遠く離れたこの町だと10倍程度の価格で売られていても全くおかしくはない。


「あはは……そうですよね。そこはまあ、なんとか頑張ってみます」


 愛想笑いを浮かべるしかない。

 この町で工場が稼働しなくなった理由は容易に想像がつく。流通の関係で王都周辺ほど、原料を安く仕入れることが出来ないからだ。そして赤字になるからといって価格を上げることは法的に出来ない。その場合どうするかというと、薬の品質を大きく落として売ることになる。同じ薬、同じ値段なのに地方によって効果が違うという事態が発生するのだ。これをやってしまうと医療そのものへの不信に繋がり、誰も国産の薬を使わなくなる。結果、利用者が減って利益が出ないの負のスパイラルが見事に出来上がるのだ。

 つまり僕がこの地で働く上で求められているのは、割高の原料で品質の保たれた薬を王都と同じ値段で供給して黒字にしろというかなりの無茶という事だ。普通に考えてどうやってもムリ。


「必要なものがあったらうちで買ってくれよな。薬草もたくさん仕入れて来るからよ!」

「ありがとうございます、是非お願いしますっ」

「うちは宿屋だけど飯屋も兼ねてるからね。ひいきにして欲しいねえ。ま、大したもんは出せないがね!」

「いやぁ大したことありますよ。とても美味しいです」

「ほんとうかい? 嬉しいねえ。また来とくれよ!」



 食事を済ませると、次は風呂屋に向かった。

 スピラは一人でお風呂に入れるだろうか?

 ……たぶん無理だ。

 最初のうちは覚悟を決めて一緒に入るしかない。

 暗くなった夜道を手を繋いで二人で歩く。その手に、汗がにじんだ。

 宿屋に近いところにあった風呂屋に入り、店員に聞いてみる。


「あの、二人だけで入れるところってありますか?」

「ええと、あんたと、その子かい?」


 受付の初老の女性が、僕とスピラの顔を何度も何度も見直している。


「あんたら2人だね?」

「ええ。そうです」


 念を押された。

 なんだ、何があるんだ。


「あんた見た事ない顔だけどね、出すもん出してくれたら衛兵には言わないよ」

「えっ、ええっ!?」

「当たり前だ。未成年相手にしたのがバレたら捕まる事くらい知ってるだろ」

「いやいやいやいや、違いますっ、違いますって! 普通にただの入浴です! この子はまだ一人ではお風呂入れないんです!」

「なぁんだ、そうかい……本当だろうね?」

「本当ですって!」


 そうか、そういえばそうだった。風呂屋の個室って普通はそういう用途なんだった。使ったことがないから完全に忘れていた。やめろ、やめてくれ。全然そんなこと考えてなかったのに、意識しないようにしていたのに変な事考えてしまうじゃないか。

 忘れろ、忘れろ、忘れろ。

 僕は顔を赤くしてあやふやな会話でお金を払うと、スピラの手を掴んで風呂場に向かった。

 薄暗い、狭い脱衣所で服を脱ぐ。スピラの身体を出来るだけ見ないように注意しながら。

 風呂場に入ってみると、少人数で入るにしては広い。前住んでいた自宅の部屋くらいあるように思う。浴槽の横には木製のマットが敷かれていた。ちょうど、ベッドと同じくらいの大きさの。横になっても痛くないように角が丸くなっている。


「これ、へんなかたち、おもしろーい!」


 スピラが凹型の木の椅子を掴んで持ってきた。


「うん、ソウダネ。ヘンナカタチダネー」


 僕はスピラから椅子を貰ってそっと体にタオルを巻いた。

 風呂桶でお湯を汲み、二人で交互に頭からお湯をかぶった。お湯を張ってから時間が経っているのか、ぬるい。水温の操作は仕事でも頻繁に使うので得意中の得意だ。浴槽のお湯の温度を魔法で上げてついでにお湯も足しておいた。

 石鹸を手に取り、泡立てる。やり方をスピラに見せて、同じ様に泡立ててもらう。泡立てた石鹸で、頭と身体を洗う。出来るだけ、自分一人で出来るようになるために、手を出さないようにして。


「クー、なんかいたいよぉ」

「ああ、もうっ、石鹸が目に入っちゃってる。しみるから、顔洗ってっ」

「しみるぅ」


 風呂桶にお湯を汲んで顔を綺麗に洗い流す。

 あまり髪を洗い切れていないような気もするけれど、今日はもうこれでいっか。お湯で全身の泡を綺麗に洗い流してあげた。そして一緒に湯船につかる。体を見ないようにして……


「あったかい」

「うん。お風呂あったかくて気持ちいいね」


 伸ばした膝の上にスピラがちょこんと座っている。

 改めて体の細さが目についてしまう。首も腕も細く、肩も背中も骨が浮き上がっている。これからちゃんと食事をとっていけば、普通の女の子の様になっていくだろうか。普通の女の子になった頃には、僕はこの子をどんな目で見ているだろう。この子は僕をどんな風に見るだろう。もしかしたら僕の事を嫌がって一人でどこかに行ってしまうかもしれない。そして、きっとそれが理想なんだろう。


「クー……なんだかぼ~っとするぅ……」

「えっ、あっ、そっか。のぼせちゃうから、早く上がろう」


 小さい子だから、あんまりお湯の中に長く浸かっているのはあぶないかもしれない。考え事をしていたら、長く浸かりすぎてしまった。あわてて湯船から上がり、スピラを倒れないように支えて脱衣所へ連れていく。丹念に水気をふき取り、服を着せてあげた。


「なんかふらふらするぅ」

「ああもう、もうどうするんだよこれ」


 お風呂でのぼせただけだというのに、不安になって混乱してしまう。

 とりあえず床に座らせて、口を開けさせる。

 

「口に少しずつ、お水いれるから、ちょっとずつ飲み込んで」

「うん……」


 水魔法でスピラの口の中にぽたぽたと水滴を水魔法で生成して落としていく。

 コップ一杯分程度の水を飲ませたところで横に寝かせ、冷えないように乾かしたバスタオルで身体を覆った。しばらく様子を見るが、どうもそのまま寝てしまったらしい。

 仕方ないので背負って風呂屋を出た。

 そのまま宿屋まで行き、部屋に戻ってベッドの上にスピラを寝かせる。

 しばらく様子を見てみるが、どうやらぐっすり眠っている様だった。よかった。


 さて。

 僕も寝る前に、少し確認しておきたいことがある。

 部屋の窓を開け、身を乗り出し、飛び立つ。そして飛行魔法を使い、そのまま空へと浮き上がっていった。空へ、どんどん上へ上へと上昇していき、雲と同じ高さになった。

 やっぱりおかしい。

 こんな簡単に、自在に飛行魔法を使えるようになるわけがない。これは明らかに、僕の力ではない。

 スピラの力が加わった結果なのは間違いないと思うが、それはそれで不自然な点が多すぎる。

 まず、眠ったまま補助魔法を使うなんてのは有り得ない。しかもこんなに遠くに離れても効果が出るとは考えられない。とすると、効果時間がまだ続いているという見方が出来るが、その場合は昼間に使った魔法が未だに僕の身体に影響しているという事になる。これもありえない。術者から離れても効果が持続する補助魔法は確かに存在するが、効果時間は短いものだ。せいぜい数分。長くても1時間程度だろう。しかも普通、時間が経つほど効果は弱まる。

 スピラが僕に使ったのは普通の補助魔法とは全く異なる別次元の能力と考えるのが自然だ。

 僕の知識にはこの現象にぴったりと合致するものがなかった。

 これが永続的な効果だとするなら、能力の書き換えとも言える理不尽で強烈な力だ。今回は能力を高める方向で効果が現れたが、当然逆も出来ると考えたほうがいいだろう。生魔研の連中はこの能力の可能性に気づき、接触禁止にしたのだろうか。

 そして厄介なことに、おそらく本人がこの能力を自覚していない。

 なんとなく出来たらいいなと思った、それだけで発動してしまっている様に見える。

 困ったものだ。使わないように本人に指導しようにもまずは能力を理解し自覚するところから始めなければならない。その第一歩に到達するまでに一体どれだけの影響が出るだろうか。

 僕がそれをなんとかしないといけないのだ。

 小さくため息をついた後、頬を叩く。

 やってやろうじゃないか。


 高度を落とし、僕は宿屋の自室に戻った。

 窓から中に入ると、ベッドにスピラがいない。

 ああー、もう早速だよ。

 ただ当然、はぐれる状況は想定している。やり方さえ知っていれば場所を知覚できる魔道具が、彼女の体には埋め込まれている。脱走の可能性を想定して、生魔研が埋め込んでいたのだ。渡されていた資料を思い出しながら、初めて使う魔法を慎重に発動する。

 近い。すぐそこだ。良かった。

 窓の外に飛び出し、大通りを一人とぼとぼと歩くスピラの元へ飛んでいく。


「スピラっ、大丈夫かっ!」

「クー……?」

「ああ、そうだよ」

「どこいってたの、ひとりにしちゃ、いやだよお」


 スピラは泣いていた。

 鳴き声を上げずに、ただ涙をぽろぽろとこぼしていた。


「ごめん、ごめん。もう勝手に離れないから」

「もう、ひとりは、やだよぅ」


 細い体を抱きしめる。顔が熱い。

 そのまま抱きしめて、泣き止むのを待った。そしてしっかりと手をつなぎ、部屋に戻った。

 僕から離れようとしないスピラと一緒に布団に入り、なかなか寝付けない夜を過ごしたのだった。

『割高の原料で品質の保たれた薬を王都と同じ値段で供給して黒字にしろ』

これ現在の日本の医療の現状そのものです。

ファンタジー世界ではありますが、この問題をどう打開していくかという点にも挑戦してみたいところです。

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