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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
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明るい話題

「で、ロスト隊長何をやっているんですか?」


 少しペースを抑えダンジョンを進むことに決めた僕はコボルトが持っていた木の盾を下敷きとして利用し、用紙にペンで地図を描きながら歩いていた。

 僕が何をしているかと疑問を持ったのか、レナさんが声を掛けてきた。

 元々ダンジョンの地図は書いていたがそれに様々な物を足していく。

 例えば罠の位置や魔物種類、調査時にいた魔物の数などだ。


「ペースを落とすならより多くの情報を持ち帰ろうと思ってね。これから出来るだけ罠も掛からないように気をつけよう。もちろん場所も教える、できるだけ後続が突入してきた時、書いている情報と違わないようにね」

「了解です、って上手いものですね」

「咄嗟に描いたにして良く出来てる」

「ありがとう、これでも絵を書くのは趣味の1つだから」


 僕の背丈は140cm未満と小さい方だ。

 レナさんとドットさんの身長は150cm以上はあるだろう。

 僕の背後に立てば自然と僕が持っている用紙の中身を確認できる。


「といも簡易な物だけどね」

「いえ、助かると思います」

「だね、後できればなんですけど、ダンジョンのモンスターはリポップ位置が決まっているのでそこも描いたほうが良いと思います、核の位置が把握できれば簡単にわかるので少し待っていて下さい」

「了解と」


 地図を描きながらも足は止めない。

 先程までの無理な行進に比べれば明らかに速度が落ちるが、その分レナさんやドットさんとも話が出来るし二人も何かがあった時に咄嗟の判断ができる。

 それでも探索ペーストしてはまだ早いらしく通常のペースの1.5倍程らしい。

 迷わず進めるというのはストレスの観点でも体の疲れが出にくい。

 現在のペースは1時間に10個程度ののダンジョンの調査を終わらせられるペースだ。

 ならば僕らがやることは。


「とりあえず、さっき回ったダンジョンにも行くよ、情報とは規格を合わせることも重要だし」

「えっとだから」

「残り29個のダンジョンを回る」


 レナさんとドットさんは足を止め、その場で顔を下げ項垂れる。

 僕は後ろを振り返り、げんなりとする彼らに苦笑いをする。

 仮にも一度調査を終えたダンジョン、調査終了から一日と経っていない、そういう意味では今のうちに行けばダンジョンの変化が少ない内に調査を終えられる。

 そのため最も時間が掛かる作業は僕の地図を描く事だ。

 

「ほら顔を上げる、それに一度は踏破したダンジョン、それほど難しくないよ」

「確かに」

「数に圧倒されました」


 二人は顔を上げ、僕を追い越し先に進む。

 僕は少し溜息を吐きながらも目は手元の用紙に、そして意識は彼らに向かう。

 先程とは違い、探索中でありながらも無駄な力が抜けている状態。

 余裕が生まれているのならよかった。

 押さえつけるのは良くない、礼節を持ちながらも気の抜けるときには気を抜く、それが僕の考える理想のチーム像だ。

 小走りを始めそうなレナさんとドットさんは失念している。

 あくまでこのダンジョン再周回、大変なのは僕だということを。

 

「ま、絵を描くのは元々趣味だから良いんだけどさ」


 合法的に趣味が行えるのは悪くないが、仕事と考えるのだけはやめよう。

 趣味はあくまで趣味に留めておくのがまた楽しむコツのひとつなのだ。



「明らかに魔素濃度が高いな、どう取るか?」


 僕は作った資料を持ってギルド2階の会議室に来ていた。

 サイモンさんは資料を左手に目を通しながら落ち着きなく会議室を歩き回る。

 様子から考えるに対応を決めあぐねているようだ。


 そしてこの会議室にいるもう1人の人物であるアーネストさんが今度は僕の地図に手を出した。

 彼は椅子に座りその地図を見つめる。

 目を一度通した後は椅子に深く重心を預け、目を瞑りながら上を向く。

 それを何度かこなした後、アーネストさんは椅子を回転させ僕に笑顔を浮かべた。


「良かったよ、これで安心して部下を預けられる」

「はは、最初は失敗しちゃいましたけどね」


 アーネストさんは立ち上がり僕が座っている方にやってくると軽く肩に手を置いた。


「最初はそんなものだ。それに気付いているだろうがあの二人はお前の為の保険だ。しっかりと力を引き出してやればダンジョン内で死ぬことはない」


 そして手書きの地図で僕の頭を軽く小突く。

 

「それに今くらいの先行調査の情報量がちょうどいい。そもそも問題にはなっていたんだ、先行調査で得られる書かれた報告書の情報が突破可能とい情報のみで済まされている現状に」


 僕の頭に被せた地図を持ち、アーネストさんは椅子に戻っていった。

 

「サイモンそちらはどうだ?」

「ああ、魔素濃度+2で見ようと思う。後日原因を探さないとな」

「1つ疑問なんだけどいい?」


 僕が手を上げそう言うと、二人の視線が一斉にこちらに向く。

 二人の眼差しに一瞬言葉を呑み込んでしまったが足に力を込め、昨日から疑問に思っていた事を話す。


「サイモンさん、エレノアさんって覚えてますか?」

「ああ、王都にしょっぴかれた奴だな」

「エレノアさんがクレアさんに、タイロン先輩が20年前に起こった魔物の氾濫を起こそうとしているって言ったらしいです」

「ああ、それらの情報はクレアから報告を受けているが……だからコンラートか、ちょっと待て、確かあの時の資料は」

「え、えっと」


 僕の話を聞き何か思いついたようにサイモンさんは動き出した。

 会議室に置かれている大きな棚の下段から紙を紐で纏めた資料がいくつも取り出され、サイモンさんを囲うように詰まれていく。


「ただ僕はエレノアさんも嘘を付いたようには思えないって、言おうとしただけなんだけど」

「ま、何かを思いついたかは知らないがここはサイモンに任せよう、私達は後のための作業をしよう」

「後のため?」

 

いつの間にか立ち上がり会議室の扉を開けているアーネストさん、その左脇には僕が作った地図を抱えている。

 戸惑っている僕に右手で手招きこちらに来いと促される。

 僕が扉の前に立つと左手で僕の右手で掴み、隣の部屋に引っ張られる。


「何をするの?」

「決まっている、先行調査に今後何が必要を共に詰めようか」


 隣の部屋に連れ込まれ椅子に座らさせられたのは果たして気遣いからなのだろうか。

 僕は逃げばを奪われただけだと考えてしまう。

 アーネストさんは立ったまま地図とは別の用紙に改善点を書いていく。

 胸ポケットから使いふるされた、革が所々破れている手帳まで取り出し始めた。


「えっと……どこまでやるの」

「できる限り、十年くらいは不満点のでないものを作ろう」


 彼がここまで機嫌が良いのにはまた別の理由がある。

 それは現在エレボスの一撃を受けた冒険者は全員意識不明であった。

 そう昨日までだ、エイナルの指示の元、治療を行ったおかげでまずは一人だけだが今朝目覚め、受け答えもしっかりとしている。

 後遺症もなく、他の冒険者達mp後日目覚めて行くことが予測される。

 たった一人されど一人。

 実例ができた事は僕たちにとて大きすぎる希望だった。


 そして纏まった内容が。

 

 罠の種類の把握、魔物のリポップ位置や種類など基本的なものばかり。

 細かいものは無数にあるが、この3つを確実に情報として得ると内容を固める。


「今までよくこの程度の情報もなかったよね」

「そう言わないでくれ、先行調査に参加していた人間の1人は必ず本調査に参加していたんだ。その人物から聞けばいいと思っていた悪い慣習みたいな物だと思ってくれ」


 アーネストさんは少しバツが悪そうに、目を反らし、指先で机を叩き音を鳴らしている。

 彼が悪いわけではないと僕も知っているため、目線を気になる項目に目をやる。

 

「罠の種類だけでいいんだね」

「ああ、種類だけでな」


 僕の疑問をアーネストさんは正しく理解したらしい。

 それでも彼はもう一度考えるために顎に右手を当て、視線だけ上に向ける。


「ああ……種類だけでいい、罠の張られていた状況までは必要ない」

「罠の状況だけ追われても困るって事? 冒険者の対応能力が落ちるから」

「そういう事だ」


 アーネストさんの話を聞いて僕は頷く。

 罠の張り方は千差万別、見られる事を前提の罠があるくらいだ、

 一つの実例のみを追われては、別の張られ方をしている罠を見落とし、いずれ痛い目に合う者が出てしまう。

 多少の手間だろうが緊張感を持ち、正しくダンジョンに潜るためには必要な隠すべき情報だ。


「おい、ポイントの割り出しができたぞ」

「早いなサイモン、じゃロスト行くか」

「はい」


 僕等は再びサイモンさんがいた隣の会議室に戻り今後の話し合いをすることにした。



「サイモンさん相談があるんだけど」

「なんだ?」


 アーネストさんが本調査の準備の為に会議室から出て行って5分後位に僕は会議室の長机に座ったまま、再度書類を見返していたサイモンさんに話しかけた。


「レナさんとドットさんにもダンジョン透過装置を貸仕出して欲しい」

「あの二人なら……ありか、だがロストお前の考えをまずは教えてくれ」


 サイモンさんは手に持っていた書類を机の上に置き、椅子の向きを変え左側に立っている僕の方に向けた。


「僕が気にしているのはアーネストさんが当たりを引いた際の事、この前のエレボスの襲撃時多くの冒険者が意識を奪われた。その時と同じでアーネストさん率いる冒険者達の多くが再び意識を失われた場合の保険として二人にダンジョン間を素早く移動できる手段を与えたい」


 エレボスの襲撃時は救助隊の面々は倒れている冒険者をギルドが管理できている安全なダンジョンへと移動させていた。

 ただダンジョン透過装置はそもそも一人用の装置だ。

 正確には装置所有者と直接触れている者にも効果はあるが、安定性を求めるのなら、透過装置1つにつき、二人までが使用制限だ。

 アーネストさんのパーティーが7人、いや今朝目覚めた人間が追加されたから8人か。

 そして救助隊の現在の動ける人員が4人。

 問題なのは救助隊が4人フルで動いたとしても1度に運べるのが4人。

 そして救助に来たとしても一度に4人運べるなんて状況はまずないこと。

 その場から人数が減ると言うことは、ダンジョン内で残っている人間の戦力が減るということ。

 安全を考えると脱出に2人、その場に残って戦う人員が二人、最低でも3往復は必要となる。

 

 又これはダンジョン透過装置の明確な弱点なのだが、ダンジョン透過装置での移動は上から下への移動はできても下から上への座標の移動できない。

 ダンジョンで使われる座標を把握する機械は少し独特なメモリとなっている。

 X軸(横)とZ軸(奥行き)は+−が存在するがy軸(高さ)には存在しない。

 理由は機械内に示す位置がなかったという理由もあるがアンタレスのダンジョンは地下にあるものだ。

 詰まる所一番上を0に指定し、下に潜る程に数字を得ていくように数えればマイナス表示は必要ない。

 

 ここでいう透過装置の弱点だが1から3への移動は可能だ。

 しかし3から1への移動はできない。

 この理由は簡単だ、あくまで装置はダンジョンを透過するための物だ。

 空を飛ぶことができない人間では階段など上に登る手段がない限りは、上のダンジョンに行くことはできない。

 ここで生まれる問題が人を救出した際にどうやって地上に連れて行くかだがそこはギルドが解決策を持っている。

 ギルドは一定座標毎のダンジョンに魔物を生まれさせない工夫を作り、ダンジョン丸ごと安全地帯に変えてしまった。

 それでもダンジョンという中を人を背負いながら動けば突破するまで時間がかかる。

 

 僕がレナさんとドットさんに透過装置を渡して欲しいといった話はここに繋がる。

 注目した点はレナさんの転移魔法。

 これを使えばダンジョン内から外に直接転移することができる。

 さらには一定範囲内にいれば人数の制限はない。


「レナさんの存在があれば透過装置1つで多くの人を外に、そして1度に連れ出せる」

「ならドットには必要ないはずだ。最悪ドットはレナ透過装置を使ってくればいい」

「それもダメですね。ドットさんはレナさんと別口で帰ってもらう。より安全性を高めるために、最後まで防御魔法でレナさんを守って貰うために」


 何度かダンジョン内で見せて貰ったが、転移を行う際にドットさんは防御魔法を解いてからレナさんの転移魔法効果範囲に入る。

 彼らの話を聞いた所、魔法同士が干渉してしまうため、転移魔法の範囲内で広範囲の防御魔法は使えないらしい。

 ならばドットさんが安全に変えれる転移魔法とは別の方法を確立できれば、より隙のない転移魔法が完成する。


「それに救助とは鬼気迫った状況が殆ど、その間に透過装置の受け渡しが出来ますか? そして今は確実性をより掴み取りたい。サイモンさん、透過装置の安定性って人数が増えれば難しくなるんですよね」

「ああ」

「その安定性、二人同時に確実かつ安全に使用出来るまでにどれくらいの修練が必要ですか」


 僕の話を聞いてサイモンさんは少しサビが表面に残っている鍵を机の上に置いた。


「もってけ、納得のいった話だ、頼むぞ」

「はい」


 僕は机から鍵を取り、急ぎ立ち上がると倉庫に向かって歩き出す。

 部屋を出る際にサイモンさんへと向き深々と頭を下げた。

 彼も僕が頭を下げていた姿を見えていたようで、視線はよこさず軽く手をふり応えているた。

 別にサイモンさんは機嫌が悪かったわけじゃない、ただ理由を求めただけだ。

 気軽に使っているがこのダンジョン透過装置はダンジョンを安全に管理するための最後の切り札、渡す人間を慎重に見極めるのは当たり前のことなのだ。

 そして同じくらい僕が自分のパーティーメンバーの安全を確保するのはリーダーとしても義務。

 言い争い近くなってしまったのは僕と彼の主張故だ。

 

 そのまま会議室をでた僕は1階の倉庫に向かい、鍵の掛かった扉に手を掛ける。

 


 アーネスト視点


 そして翌日の本調査


「まさか一発でだとは」


 サイモンの割り出したダンジョン、その最奥で私はエレボスと再び出会った。

 予想外の出会いは、エルディオとの作戦その破綻を意味していた。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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