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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
97/136

何事も初めては上手く行かない物だ

ドット視点


「というわけだよろしく頼む」


 オラ達はギルドの緊急招集に呼び出されダンジョンからの帰還を余儀なくされた。

 帰ってきたらそれも納得の事態だった。


「なんのなのこれ?」


 ギルドのロビーに敷き詰められた冒険者達の寝たきりの姿に相方のレナは驚きというよりは恐怖をその声に宿しており、肩が震えていたのを見て一度その場を離れるために背中を押した。

 勿論オラだってあんな光景は1度も見たことはない。

 気を紛らわせる為にも彼女の好きな事をさせようと行きつけの居酒屋に向かう。

 といっても完全に店主が趣味でやっている居酒屋で名前は鬪観場、名のごとく闘技場が好きな親父が闘技場が好きなお客とワイワイやるために作られたものだ。

 当然レナもそしてオラも闘技場の戦いを見るのは好きだ。

 気を紛らわせる為に今年のダンジョンアタックを見ることにしたのだが。


「え、今年のダンジョンアタックは映像ないの?」

「ああ、すまないなレナの嬢ちゃん、ドット坊」

「そんな」


 膝から崩れ落ちるレナを誰も心配などしない。

 体調不良などの理由ではない事は皆わかっている。

 オラが駆け寄ればいいが、オラもショックで店の入り口付近で呆然としている。

 そんな店側からしてみれば営業妨害とでも言える筈の行為だが誰も注意しない。

 寧ろ同情の視線が強いのはこのお店だからだろう。

 

「うん? 何だお前ら……ってレナとドットじゃないか、いや惜しかったなダンジョンアタック見れなくて」


 後からお店に入ってきたラルクという常連がオラとレナの肩をそれぞれ叩く。

 その声色はえらく上機嫌で顔の口角の上がりようからしても次の言葉は推測できた。


「ま、俺は当日見たがな」

「うう」


 そんな残酷な宣言にレナは膝を落とし、遂に泣いてしまった。

 ラルクはそんなレナの表情を見ても悪びれる事もなく店の奥、厨房が近い席に着き店主へとお酒を注文した。

 床に座り込んだレナを見て、流石に喪失感を押しのけることができたオラは、レナの肩を揺すり。


「大丈夫か、一度席につこう」

「うん、あっち」


 彼女を連れラルクの席に向かう。


「なんだよ、当日の話が聞きたいって? 只なら嫌だな」


 そんな話を席に座る前にし始めたラルクをレナは強く睨みけ構わずラルクの対面に座った・


「おいおい駄賃をーー」

「払ったわよ、女の子の涙をね」

「は?」

「女の子を泣かせた代金は高いって知らないの?」


 強かなレナのセリフにラルクは口を開けポカンとしていた。

 レナのセリフに援護をするように店の常連が声を上げる。

 最後に店長の一言。


「ま、女の子を泣かせたんだ、駄賃としては安すぎるな、お前ら今日のお代はラルク持ちだってよ」

「そんな大将!! ったくわかったよ、言えば良いんだろ言えば」


 そしてラルクは話しだした今年のダンジョンアタックで何があったかを。


「たっく、何回目だと思うんだよこの話」

「言ってもよ、話したかったんだろ」

「どうしてだ?」

「話したくないなら他人を煽るような話し方はしないだろう?」

「違いねぇ」

 

 店長はオフモードに入り、酒を持ってラルクの隣に座り話し始めた。

 その対面のオラ達はラルクの話を聞きその話に圧倒され今だ満足に喋れずにいた。

 運営の不正、それに打ち勝った闘技者達、そして最終局面の追い上げ。

 そもそも今年は闘技場の試合事態が中々見ることができなかった。

 ダンジョン内の魔物、その数が例年の3倍以上多かったからだ。

 その対処にどの冒険者もてんてこまい、オラ達も駆り出されまさしきフル稼働だった。

 だからロスト・シルヴァフォックスという今年始めて現れた闘技者の存在など全く知らなかった。


「見たかった」

「違いない」

 

 ようやくだせた言葉にありったけの感情をこめたレナはそれだけじゃ飽き足らず机を叩き、椅子に座ったまま足をばたつかせる。

 本来なら苦言を呈すところだが対面がラルクである事とオラ自身彼女と同意見だった為止めず余韻に浸っていた。


「痛い、痛いって、別に良いじゃないか、お前ら」

「何が?」


 レナは机に顎を押し付けラルクを半目で睨む。

 ラルクは机の下から蹴り上げられるレナの足を手で止めながら羨ましいと言ていた。

 羨ましいのはこちらのセリフだ、ダンジョンの対処で忙しかった時に自分だけ闘技場の試合を見て楽しみやがって、そんな恨みの気持ちから、レナのラルクへの攻撃においらも加勢する。

 流石に2体1での攻撃にラルクは机から逃げ出した。

 そしてオラとレナにとって無視できない言葉を吐き出した。


「だってよ、今回のダンジョンアタックの優勝者ロストは冒険者なんだぜ、事実上引退した闘技者といっしょに働けるのは貴重な体験だぜ」

「!!!!!!」

「お〜〜い、ドット起きて、ラルク、ダメじゃん、ドットは闘技者オタクなんだから、しかもダンジョンアタック優勝者と同じ組織にいるとか言ったら、脳がパンクするに決まってんじゃん」


 レナがドットの顔の前で手を振るが反応を示さない。

 こりゃだめだと両腕を横に広げる。

 その間もドットの目の瞳孔は正面を向いているが一切動かない。

 彼が再起動したのはそれから30分も後だった。 


「見せてやるよ、その闘技者の映像を」


 ラルクは例の闘技者ロストの映像を持って来るといい店を出る。

 ラルクの職業は闘技場の運営、ただ最下層のこっぱ役人だが闘技場の内側にいる分色々融通が聞く。

 今回も闘技場が保管していた闘技者のデータをこっそりとコピーし広げないことを条件に私達に貸し出してくれる。

 そしてオラとレナは店で待つ。

 もしかしたら明日から肩を並べて戦うかもしれないという期待を抱いて。


 そして翌日。


「すまない二人共、お前達にはある人物の下についてもらう」

「こんな状況じゃしょうがないですよね、で誰なんですか?」


 ギルドに来てそうそう、アーネストさんがギルド2階の会議室にオラ達二人を呼び出す。

 扉を開ける前に3回ノックをし会議室に入り、椅子の前に立つと、アーネストさんが手の平を表にして椅子を指す。

 進められるままに椅子に座りオラ達の話し合いが始まった。

 今のギルドの状況からして先行調査専門のチームを作ることになるだろう。

 そしてオラ達二人が呼ばれたのならほぼそういう役割だ。


「レナのダンジョンコアの感知能力とダンジョン内でも使える脱出魔法、ドットお前の防御魔法が頼りになる、頼めるか?」

「はい」

「勿論です」


 尊敬している上司にこう言われると少し照れる。

 オラとレナは頭を左手で掻いているがアーネストさんの表情は優れない。

 

「多分だが大変な仕事になる」

「大変な仕事?」

「ああ、特にお前たちの上司が問題だ」

「気難しい人物なんですか?」

「いや、語弊があったな。性格は悪くはないが、自他ともにめちゃくちゃ厳しい人間だ。なんていうか、常に限界を目指すみたいな男だからな、ただ任務の内容が激務になるだけだ」

もう少しはっきり言ってもらえますか? どう激務になるかその詳しい内容まで」


 激務その言葉にレナは反応する。

 オラもレナも普段からダンジョンに潜っているため体力に自身があるのだが、そんな事はアーネストさんも理解している。

 普通の組織ならレナの態度は怒られるだろう。

 上司の言うことに口答えするな、ただ黙って聞けと。

 だがこれはアーネストさんが言ったことだ。

 私に文句があれば言ってくれと、そこには信頼と尊敬があってこそだが、勿論レナもそれは持ってアーネストさんに接している。

 命を掛けねばならない仕事だ、不安定要素は何があっても知らねばならない。

 

「多分だがお前たちが今まで行ってきた先行調査の中で最も速いペースでダンジョンを駆け抜ける事になる」

「それくらいーー」

「覚悟しておけ、止まって敵や罠を探るなんて事はない、足が止まる時は敵と接敵したときだと思え、アイツの目はダンジョン内では万能になるからな」


 アーネストさんの目の真剣さはそれこそ未開地ダンジョンのボスに挑む時の顔をしていた。

 未開地のダンジョンのボスの討伐は命がけだ、どんなタイプの魔物かわからない、わからない詰まる所命を奪う手段を持っていると同義、だからこそ強い危機感をオラ達冒険者は持つ。

 アーネストさんの表情にオラ達は武者震いではない、本物の恐怖で体を震わせていた。


 そこから顔合わせが行われ、昨日映像で見た人物が目の前に現れガチガチに緊張していたオラ達だが彼の温和な雰囲気に流されるように、緊張が解された。

 そしてダンジョンに入った時ようやく気づく、アーネストさんが言った激務の真の意味を。


「少し休もうか」

「いえ、ぜはぁ、大丈夫です、ぜはぁ、ねドットも」

「……」

「ドット!!」

「少しでも体力残したいから喋らさないで」


 レナの返事を流すと、彼女は僕を心配して大きな声を出した。

 彼女の気遣いはありがたいが、自分も後ろを向けないほど消耗しているのなら大人しくして欲しい。

 オラとレナは互いに肩で息をし膝に手を置きなんとか体を支えている。


「少し歩こう……ゆっくりで大丈夫だから」


 土塊の壁に息苦しさを覚えながら、オラ達の視野内に死角が生まれるT字路が現れた。

 ロストさんは右側の壁を手で伝いながら歩き、T字路の直前で壁に張り付くと右側の通路の死角に入る。

 その時オラ達も気付く、軽い足音、体を動かす時に擦れてなる装備の音が。

 彼は剣を鞘から抜き死角である右側の通路に持った剣を突き刺した。

 遅れて叫びだされた魔物の悲鳴、その時にはすでにロストさんは右側の通路に突入していた。

 完璧な奇襲から生まれた意識の混乱、それを利用し、オラ達が歩きながらT字路に着く頃には全てが終わっていた。

 右の通路には10匹ほどのコボルトの死骸が転がっていた。

 対処のスピードは確かに早いが、それ以上に驚いたのは彼は戦闘音を全く立てずに戦うのだ。

 剣から滴る血を拭いながら彼はそう言っていた。


「大丈夫、安全第一で行こう」


 ロストさんは胸元からある丸い装置を取り出し見ている。

 オラ達に呼吸をさせるための僅かな時間を作り出すためのものなのだろうが、彼の言っている言葉その意味を理解すれば、やはり今年のダンジョンその異常性をはっきりと感じられる。


「5か、高すぎるな」


 オラ達がダンジョンを回って2時間、すでに計30程のダンジョンを回っていた。

 1時間に計6個のダンジョンを回れれば先行調査を生業とするものなら一流と言われている。

 ただ今はそれが問題ではない、ダンジョンの平均魔素は3、それほど深く潜ってない現状でダンジョン魔素濃度が5というのは確かに高すぎる。

 そして魔素濃度5は今日周ったダンジョンの中で約10箇所あった。

 全体的にダンジョン内での魔素濃度が高い傾向があるということはそれだけ魔物の数が多く手強いということを表している。

 気を引き締めなければとレナと合図を送り合い、オラ達は立ち上がった。



「5,か高すぎるな」


 僕は肩から息をするレナさんとドットさんを休ませるために、左胸の中にしまってある魔素計測装置を取り出す。

 サイモンさんの話では魔素濃度は3で通常、5などの魔素濃度は非常に高く滅多に出ないらしい。

 そして今度は右ポケットにしまってあったダンジョン空間座標装置を取り出した。

 こちらはXのメーターが4、Yのメーターが2、Zのメーターが4だ。

 Xは横、Y高さ、Z奥行きを表している。

 それほどダンジョンとしては深い空間にいない筈なのにこの魔素濃度の高さは異常だと思い、腰袋から手帳を開き書く。

 さて休憩はこのくらいで十分かと思ったが、どうやらまだのようだ。

 レナさんとドットさんの呼吸の中からようやく雑音が消えた状態、まだ少し休息が必要だろう。


 僕は周囲を探知魔法で確認するため鈴に魔力を流し音を生み出す。

 ダンジョンつまりは土塊でできたトンネルのような狭い場所、地上に比べこのダンジョンという環境は波が反射しやすく探知魔法の発動頻度の回数を多めに確保で来る。

 その結果、より繊細でより密度の高い情報を得ることができる。

 同時にダンジョンアタックで学んだ、オーラによる結界術も合わさり、今までより精度の上がった踏み込みを行える、そのおかげでより疲れにくく速い足取りでダンジョン内を駆け抜ける事ができた。

 

 そして二人レナさんとドットさんに目を向ける。

 今回のダンジョン調査に関してだが、ダンジョンの地図を書く以外は止まらず走っていた。

 罠に関しても探知魔法を使えば踏むこともないし、避けられない所があったら、モグに生み出させた石礫を投げ、安全圏から罠を発動させることで、危険を避けていた。

 

 順調に見えるかもしれないがその実態は僕が調子に乗っていただけかもしれない。

 部下のいる身でありながら己のペースしか考えずに走り抜けた。

 さらに考えるとしたら、何故部下を付けられたのかを考えるべきだった。

 部下を付けられた理由は不足の事態に対処するためだ。

 余裕がなかれば小さな変化には対応できず、予想外も同じ、下の人間が全力であることは重要、ただ上の人間まで余裕がない全力では、もしもの対応は絶対にできない。

 二人には失礼かもしれないが、彼らは僕が自分をそして周りをを確実に守るために作られた枷なのだ。

 ただ失っていい枷ではない、レナさんの感知能力とダンジョン内限定で使える転移魔法はあらとあらゆる状況で危機を脱せられる切り札。

 そしてその切り札を使うための時間稼ぎができるドットさん、ここまで安全を考えられたパーティーもそこそこないだろう。

 僕の思考が浅かった結果レナさんとドットさんは自分たちが足手まといじゃないかと考え始め、下を向き無言を貫き落ち込み始めている。

 彼らは別に足手まといじゃない。

 安全を確実に確保する彼らと今まで命を掛ける事が前提条件だった僕とでは今までの歩んできた役割が違いすぎただけだ。

 だから反省する、合わせる。

 生き方を変えるつもりはない、でも今にあったやり方に。


「ちょっといい二人共」


 僕から距離を取り、左壁際で小さくなっている彼らの方に歩み声を掛ける。

 声を掛けると体が小さくピクリと動く二人、目の前に立つと勢いよく立ち上がった。

 二人は再びを固さを取り戻していた、顔を下げ、目は意地でも僕を見ない。

 これから僕が君たちは足手まといだと二人に告る、彼らはそう考えている。

 そんな事はしない、僕は見られてないとしてもレナさん、ドットさんに向かって頭を深々と下げた。


「ごめんなさい」

「「へ」」


 口を大きく開け、動かない二人を置きざりにしながらも、聞いていると信じて頭を下げながら話を続ける。


「二人共役立たずとか思ってないから、だって僕とは役割が違う」


 僕は顔を上げレナさんの方に向く。

 彼女は今だ口を開け次の動きを見せないでいるが彼女の前を向いた目をしっかりと見つめる。


「レナさんはダンジョンでも即座に逃げることのできる転移魔法の使い手、しかも複数の人間を同時に転移させる事ができる、それだけでも十分過ぎるほどの役割だ」


 次に僕はドットさんの方に顔を向ける。

 流石に持ち直す時間はあったのか僕が顔を向けるとドットさんは背筋を伸ばし言葉を待っている。


「ドットさんはレナさんが転移魔法発動まで時間を稼ぐ役割、アーネストさんからは全方位全くの隙がない完璧な防御魔法だって聞いている」


 今度はしっかりと意識して聞いていた証拠にドットさんは少し顔を赤くし別の意味で下を向いていた。


「僕が本来二人の速度を合わせなくて行けなかった、本当にごめんなさい」


 正直うまくこの場をまとめる方法なんか分からない。

 だから真摯に謝るしかない。

 頭を下げて、腰を折り、できるだけ姿勢を低く謝るしかわからなかった。


「いえ、オラ達が付いて行けなかったのが」

「待ってドット、はい、ロスト隊長次から気をつけて下さい」

「ありがとう、レナさん」


 レナさんは強く拳を握りしめ、歯を食いしばっている、

 彼女からしてもそれは己の力不足を認める結果にもなったのだろう。

 それ以上に上の人間に偉そうな事を言えば自らの今後が不利になる。

 この場が僕達だけだから問題ないが、今のレナさんのセリフは彼女が泥を被ったとも言えるわけだ。

 

 勿論レナさん達が悪い訳では決してない。

 全ては僕のミスだ。

 僕のミスは周りの人達の状態を見なかった事だ。

 焦っていたのも事実だがそれを把握せずこのペースで進んだら死人が出てたかもしれない。

 それが僕か、ドットさんか、レナさんかは分からない。

 そこでアーネストさんが僕ら3人を引き合わせた時の言葉を思い出す。


「頼んだぞ」


 パーティのリーダーに置いて最も重要なのは死人を出さないこと。

 それをアーネストさんは最初から教えてくれていた。

 ごめんね二人共、だからもう間違えない。

 周りを見て最大限に生かし続けて見せるそう思いつつ僕の余裕ある今をどう利用するか? と頭の中で考え始めていた。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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