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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
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願望

 翌日僕はのサイモンさんに呼ばれ、ギルドの倉庫に来ていた。


「ちょっと、待て今開けるからなぁっと」

 

 倉庫の更に奥、厳重に施錠された少し錆びた鉄の扉を押す。

 少し錆びていたのか、開く時に金属が擦れるぎぃぃという力の抜ける音、部屋の中は窓1つない暗闇だったが、サイモンさんが部屋の入り口にある電気のスイッチを押す事で全貌が見える。

 その中は部屋というよりトンネルだった。

 天井の壁を木を組み合わせる事で支え形を保たせている昔ながらの方法。

 倉庫は倉庫でも一昔前の坑夫の休憩所見たいな場所だ。


 僕が部屋に入るとサイモンさんは部屋の扉を再び閉める。

 そしては内側から鍵を掛け右側の棚に置いてある、四角いリモコンのような物をを手に取りボタンを押す。

 すると部屋中に薄い魔力の膜が浸透し結界が張られる。


「防音の魔法を掛けた。悪いがこれから話すことは機密が多くてな、まずこれを」

「何かを図る道具?」


 サイモンさんは3段目の棚にある道具箱を足場を使って取り出すとこちらに持ってきた。

 道具箱の上段を開けると大量のメーターが無造作に入れられており、その中の一つを僕に下投げで渡す。

 右手で受け取った後そのメーターを覗くがそれが何を表すかはわからない、ただこの部屋に居てもそのメーターの針が1から2の所を動き続けている。


「それは魔素を図る物だ、そしてこれが……と」

 

 今度は道具箱の上段を取り外し、下段に入っていた又別のメーターが付いている道具を僕に再び投げ渡した。

 左手で受け取り中を見る、こちらの方は針が3つあるタイプのメーターだがどれも針が動いていない。


「それはダンジョンの座標を表すものだ」

「この道具はいったい?」

「ああ、俺等が普段ダンジョンの救援で使っているものだ。魔素はダンジョンの脅威度を、座標はダンジョン内のどこに居るかを表すものだ。ちなみにそれ2つを同時に使用するとダンジョンを内の障害物や空間を無視して移動できるダンジョン透過装置になる、貴重なもんだし、それ以上に命綱だから壊すなよ」

「この道具渡していいの?」


 僕は急いで両手に持っていた道具をサイモンさんの目の前に突き出す。

 ダンジョン透過装置こんな道具があることはクレアさんから聞いていない。

 これは言うならばダンジョンにおける最高機密にして知識の結晶だ。

 長年彼らが築き上げ、安全なダンジョンの管理と緊急時にのみ使われる物だそれを僕に渡すなどとは。


 彼女が聞いた普段の仕事の流れは、ギルドから指定されたダンジョンに向かい状況を把握し報告、後日核を砕くかの指令が降りる。

 道具など専門的な物はほぼいらない。

 いつも通り魔物を討伐する、違いは場所がダンジョンの構造と魔物の種類が違うくらいとクレアさんは言っていた。

 

 そういえばアンタレスの冒険者の死傷者数は少ないという話しを前に聞いた。

 長年積み重ねられたノウハウから来る情報収集方法、そしてそれを1度纏めリストを作る事で今日どこの座標にパーティーが入るか、調査日か核を砕くための作業日をはっきりさせている。

 あと必要な事はダンジョン内との連絡手段だが……ダンジョンない?

 ここはギルドの建物内の1階、ちなみにアンタレスの地下の殆どは独房にスペースを取られている。

 この土塊でできた洞窟見たいな倉庫、そこから推測されるのは……。


「ここダンジョン内?」

「ああ、俺等救助隊はこのギルドに作られたダンジョンから透過装置を使って目当ての座標に飛び対象の救助を行う、その後ギルドが管理している比較的安全なダンジョンに移動してから怪我人を連れて上に戻る」

「いいの、そこまで言って」


 やはりこれは受け取れない。

 2つの装置をサイモンさんに突き返すが、彼はそれを受け取らない。

 逆に僕の突き出した腕を押し返す、そして

 

「ああ」


 とだけ声を返す。

 サイモンさんは呼吸を吐き出すと共に言ったその言葉には微笑みと共に納得が込められていた。

 これ以上は野暮だと考え両手を強く握り直しつつ言葉を待つ。


「エルディオの話を信じるのであるのならばロスト、お前とアーネストを一緒に行動させたい。しかし今は人手が足りない。この後ロストにはアーネストの部下を二人程付けられる。新人ではないがベテランとも言い切れない。恐らく若く体力が有り余っている二人だろう。そしてまだ探られていない未開地ダンジョンがお前たちの探索範囲になる。だから最低限の支援としてこの程度は教えなければ行けない。ダンジョンで人が死ぬことがあってはなないのだから」


 サイモンさんは目を釣り上げ両手の拳を強く握りしめる。

 憎むべき相手が目の前にいる、そう彼の中では夢想し体をより力ませる、もしかしたらその憎むべき相手は責任感が作り出した形なき相手かもしれない。

 そんな時目が僕を写し、ふと怒りが消え去る。

 サイモンさんは気まずくなったのか道具箱を片付けだした。

 そんな彼に答えるにはこの事件を無事、被害を出さずに乗り越えるしかない。


「すまんな、忘れてくれ」

「ねぇ、サイモンさん安全を確保する方法は確立されているんだよね?」

「完全はないが、ほぼ未開の場所でも大丈夫だ」

「ならしっかり教えてよ。ダンジョンが悪用されないように、ダンジョンが理由で人が死なないように、そしてダンジョン内で人が死なないようにさ」


 僕の薄っぺらい言葉を背に受けサイモンさんは少し曲がっていた背筋をピンと伸ばす。

 そして僕の方に向き直り、左頬のみ上げた、悪ガキがしそうな笑みを浮かべる。


「元々教えるつもりだガキ、生意気いうな」

「悪いね僕ガキだから」


 サイモンさんは部屋の奥に置かれている、作戦室で地図が置かれているような大きな机の上に棚の2段目に置かれていた大きな筒から保護されていた用紙を取り出し広げる。

 

「覚えておけ、ダンジョンの透過は上に行けても下には……」

「ちょっと待ってよ」


 サイモンさんは僕がまだ用紙が見える位置に居ないのに始めてしまう。

 急ぎ机の元に行き、椅子から乗り出すように現在ギルドが管理しているダンジョンの安全地帯が書かれている用紙を見つける。


「冗談だ、始めるぞ」

「はい」


 そのまま時間一杯までサイモンさんのダンジョン講義が始まった。

 知識は力であり過去の結晶それは僕も痛いほど理解している。

 そっと広げられた用紙を優しく僕は擦った。

 


 

 これからのギルドの活動として未踏破ダンジョンの調査が割り振られた。

 その理由として僕の能力が元々斥候向きだからだ。

 探知魔法を使った周囲の把握に体重が軽いゆえに足音も少ない。

 これでも足掻いてきた人間だ、鍵開け、魔法理論による魔法罠の解除と幅広く手が届く。

 そういう意味ではある意味僕は適任だ。

 だが今回の任務はダンジョンの調査、気付かれない工夫も必要だがそれ以上に重要なのは魔物との戦い。

 それにダンジョンの調査と言っても1日に1つというゆっくりとしたペースではない。

 最低での10箇所回るリスクを取った探索が必要とされる。

 そんな中で僕一人で調査をさせるわけにはいかないといった話になりアーネストさんが指名した二人の冒険者と組むこととなっている。

 そして今僕はギルドのロビーでその二人と顔合わせをしているわけだ。

 

「ロストこの二人を頼む」

「はい」

 

 アーネストさんが二人の背中を叩き挨拶をするように促したのだが……ただその……二人の冒険者の動きはとても硬かった。

 二人は凄い目つきで僕を見ているが、敵意は感じない。

 それより怖いのはむしろその後ろのアーネストさんだ。

 私の部下を頼む、そう目で訴えかけているのだ。

 サイモンさんもアーネストさんも皆考えは同じ犠牲は入らない。

 彼に己の覚悟を示すためにもアーネストさんへ強い眼差しで見つめ返す。

 互いに睨み合う僕とアーネストさんを見て二人は落ち着きもなく僕らの表情を往復する。

 恐らく険悪な雰囲気だと勘違いしているのだろう。

 僕とアーネストさんは表情を同時に緩めた時に二人の冒険者は疲れた顔をした。


「頑張ってくれ」


 アーネストさんは手を振りギルド2階の会議室に行くため階段を登っていく。

 ちなみにアーネストさんは僕らが調査したダンジョンのコアを砕く係だ。

 

 現状敵の情報はあまりに少ない。

 元々闘技場で働いていた邪教徒の情報は罠ではない。

 そもそも邪教徒の情報がもたらした拠点もそれほど重要な物のはずではなかった。

 だからサイモンさんは人員をあえて掛けた。

 確実にまずは1つ、冒険者の士気を上げる目的で多くの人員を掛けたはずがその慎重さが今回裏目に出てしまった。

 

 現在アンタレスの支部で動ける人数は10人、僕ら先遣隊が3人、そして攻略組が7人。

 調査隊が求められるのはスピード、ダンジョンの全体図と核の位置を把握したらすぐさま別のダンジョンに向かう。

 踏破は求められていない、だからこその人員が集められた。


「初めまして私はレナです」

「は、初めましてオラ、トッドです」

「よろしく」

 

 レナとトッドは勢いよく頭を下げた。

 緊張しているようで下げた頭が中々上がらない。


「え、えっと頭を上げていいよ」

「「は、はい」」


 指示を出し顔を上げさせるが今度はそのまま固まってしまい会話が続かない。

 頭を掻きながらこの状況でダンジョンに潜ってもいい結果は出ないだろうと考える。

 体が固く咄嗟の判断が遅れ、その焦りがさらなる混乱を招く。

 厳しい状況ほど不安要素が増えるなど堪ったものではない。

 ならまずしなければいけない事は。

 

(まずは緊張を解く所からか)


 肩を張り体も顔も硬い二人に背中を向け、鼻や頬を摘でから二人に振り返る。

 所謂変顔という奴だ。


「「っぷ」」

「よし、で二人は何で緊張しているの?」


 渾身の変顔を見た二人は肩を震わせ唾を吐き出す。

 顔に少々掛かったが別に問題ない。

 過剰ともいえる硬さもも取れた、これなら会話で距離を詰める事ができるだろう。

 あくまで、柔らかな声音で二人の話しを聞く。

 

「その、ロストさんはダンジョンアタックで優勝したんですよね」

「まぁ、はい」

「なら凄い人じゃないですか、そんな人の下に私達が入ると思うと緊張して」

「ああ、アンタレス効果か」

「アンタレス効果?」

「ごめん忘れて」

「は、はい」


 レナさんの言葉に隣のドットが頷いていた。

 僕は半目になりつつ、誰もいない天井に目を向けながら最近自分の中で名付けた、アンタレス効果という言葉をついつい口に出してしまった。

 

 闘技場にダンジョンアタック、同じものではあるがアンタレスで特に影響力がある2つで功績を残してしまったので僕は一躍時の人になりかけていた。

 さらに拍車を掛けた要因としてダンジョンアタックでの記録映像が出回ってないことにも起因する。

 爆破の光景や冒険者の運営組織への突入などの表沙汰にできない情報が多々入ってしまった為に中々表に出せず、また販売券も現在企業連が主催の年だったため彼らにある。

 企業連が己の不正の証をわざわざ大大的に発表するとは思えない。

 そのせいで映像が残されない謎のダンジョンアタック制覇者として人の記憶に刷り込まれる事になってしまったというわけだ。

 ほんとはギルドで普通に活動できる程度の名声でよかったのだが。

 こそばゆいが、それでも冷たい目を向けられるよりはよっぽどいい。


「とにかく気楽にやろう」

「「はい」」


 手を叩きながら目元を緩め微笑みを作る。

 彼らも気楽な雰囲気を醸し出す僕に少し気が緩んだのか握手に応じてくれた。


 緊張から意気込みに。

 どちらにしてもまだ二人の動きは固い。

 だがそれはこれから解いて行けば良い。

 声が届く距離感になったのなら今はそれで大丈夫だ。

 

   

 正式な方法でダンジョンに初めて入る僕はレナさんとドットさんの案内でダンジョンの入り口目指して街のハズレに足を進めていた。

 二人は世間話をしつつ僕の様子が気になるようにチラチラと後ろを見ている。

 その度に笑顔で軽く手を上げる。

 そうすると二人共良く笑うのだ。

 そんな彼らの背中を見ながら僕は不思議な感傷に浸っていた。

 

 冒険者として人を率いるのは初めてだ。

 そしてそれが彼らで良かったとも考える。

 人の第一印象は会う前から作られる。

 今回はアンタレスで作った名声のおかげで彼らも好意的に接してくれているため違うが、かつてのシリウスでは人の悪意ある噂が僕を貶め僕自身が見られることは殆なかった。

 僕を貶す人間の中にも良い人は勿論いたのかも知れない。

 ただ噂が本当か、それを確かめる労力を払う人間はそうそういない。

 このアンタレスという地で人が経歴をどれほど重視しているかを僕はようやく理解できた。

 シリウスのギルド長、グレゴールも僕の経歴に傷が付くような事には反対するわけだ。

 この場所アンタレスは僕がこれから始めて行く土地の中でも一番待遇のいいギルドだ。

 だからこそこの地の人々を大切にした。

 だからこそ守りたい。


「着きましたよ」

「まるで洞穴だね」

「オラもそう思う」


 洞穴のようなダンジョンの入り口に付いた時、3人揃ってまず点検したのが靴紐だった事に笑いが起こり、さらに団結感が生まれる。

 もう一つのサイモンさんから聞いたこの作戦の重要性。


「もしかしたらだが、ダンジョンから魔物が氾濫する可能性がある」


 多くの冒険者が今だ目を覚まさない現状が続けばその可能性も生まれる。

 それにコンラートという男が何故ダンジョンの中で施設を作ったかも気になる。

 最近ダンジョン内の魔素濃度が上がっているという話も聞いている。

 であるならば、この任務は失敗するわけでにはいかない。


「行くか」


 そして2度目のダンジョンに向けた歩み始めた。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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