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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
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徹底抵抗

「え?」


 それから10分後、領主の娘ナディアが医者を連れて現れた。

 多くの医者を集めつつ統率を取るには旗印が必要だしそれがいいだろう。

 だが僕にとってはそんなことはどうでもいい。

 先程まで強く握っていた拳は力なく開き、先程目の前に寝かされた人達に向けられている。

 体が動かなかった、手も足も不気味なほど曲がらず、脳はただ現状を受け入れられず、唯一活発に動いていた部位は瞼だった。

 瞬きという機能を忘れただ目を皿のようにしてその人達を見つめていた。


「リーザさん、グラントさん……クレアさん……起きて、起きてよ」


 皆深い外傷は見られず顔や肌など素肌の部分の切り傷が目立つ、それだけの傷のはずだ、そうそれだけ、でも彼らは誰一人目を覚まさない。

 心臓がいたい、落ち着くために深呼吸がしたくても空気を擦っても擦っても上手く肺が膨らまない。

 彼らの綺麗すぎる寝顔、脳裏に宿るのは師匠の死に顔だ。

 師匠の青白い顔が目の間のクレアさん達にも重なってしまう。

 

「は、は、は」

「ロスト、落ち着け吸うよりも吐くことを意識しろ」


 満足に息ができなくなりその場で座り込みその場で蹲る。

 そんな僕の背中を擦りながら声を掛けてくれる人がいた。


「アーネストさん?」

「ああ、そうだ、落ち着け。お前に倒れられたら困る」


 ダンジョンの現場トップとも言える彼がそこにいた。

 アーネストさんは膝をつき僕の背中を撫でながら周囲に目をやる。

 僕は吐くことを注視し呼吸を行なっていると粗さも解け立ち上がれる程度には回復をした。 


「立てるか? って大丈夫そうだな。付いて来い俺とお前にサイモンから話があるらしい」

「わかりました」


 アーネストさんは立ち上がり、それに僕も着いていく。

 彼は多くの冒険者が寝ている場所を横切る際に胸のペンダントを握りしめる。

 ペンダントを握りしめた一瞬、僕は彼の後ろにいたから表情までは見えない、ただ彼の背筋が膨らんだ気がした。

 

 そしてアンタレス支部の地下にある唯一の施設、犯罪者を入れておく牢屋に僕とアーネストさんの二人は足を進めた。

 サイモンさんも何故こんな所に僕らを呼び出したのだろうか?

 その答えは目的地に着く前にわかった。

 

「で、どうなんだエルディオ」

「何故僕が貴方達のような信仰を理解しない者に果実を与えなければいけないのですか?」

「貴様」


 地下というのは声がよく響く。

 僕らが一歩ずつ階段を降りる毎にサイモンさんともう一人の声が反響して聞こえる。

 僅かな明かりが照らす階段を降りきり、コンクリートの床を進む。

 

 アンタレスの牢屋はある1つ以外は簡素な作りになっている。

 直線の通路を軸に左右対象に穴が開けられており、そこを檻で封をしただけの仕組み。

 トイレも付けられているが、その場に排泄物を留めておく簡易なタイプで衛生面を考えると長時間拘束するような施設には見えなかった。

 あくまで冒険者は民間組織、犯罪者を拘束し罰を執行するのは領の仕事というわけだ。

 ただ1つの牢屋を除いて。


 そして僕らが向かっているのはアンタレス地下の最下層、特別牢獄。

 そこに至るには10層にも及ぶ壁を潜り抜けなければならない。

 壁の向こうに行く方法は1つ、サイモンさんが管理する鍵を一個ずつ使用するだけ。

 開け方も簡単だ、壁に鍵を触れさせれば10分後に開く。

 問題なのはこの工程を壁のある数計10回、行きだけで100分は掛かる作業をしなければいけない。

 それほど面倒な手順を踏まねば特別牢獄に入ることすらできない。


「地下とはいえ、よくこんな奥のサイモンさんの声が聞こえるね?」

「ああ、ここの地下は最奥の会話が牢屋の入り口で聞こえるように魔法を使っている。透明性が不正をなくすって、サイモンが言ってたよ」


 8層の壁に手帳をかざしながらアーネストさんはそう答える。

 権力を嫌うアンタレスの冒険者支部だから出来ることだと僕は考えることで気を紛らわせようとするが先程のクレアさん達の状態が頭をに過ぎり冷静でいる事が今は何より難しい。


「悪いな、本当はハーブティでも飲んでからと思ったが、上の現状を見るとな」

「大丈夫、下を向いても現状は変わらない。少しでも自分の中で消化する為にも情報が欲しい」

「ありがとう」


 長い、長い待ち時間の後最後である10枚目の壁にアーネストさんは冒険者手帳をかざす。

 さらに10分語壁を開くとそこにはサイモンさんとクレアさん達が捕らえた邪教徒得エルディオがいた。

 

「大丈夫かサイモン!!」

「ああ、アーネストとロストか良く来たな」


 アーネスさんが声を掛ける前にサイモンさんは立ち眩みを起こし少しふらつく。

 それを見たアーネストさんは近くに置いてあった折りたたみの椅子を持ってサイモンさんの元に駆け寄り、座らせる。


「本当に大丈夫ですかサイモンさん」

「ああ、なんとかな」


 サイモンさんの二の腕、太腿の部分は服が破れており、その破れた服の箇所から包帯が見える。

 それに服にも土埃がついている。

 先程まで書類仕事をしていた人物の汚れ方ではない。


「サイモンのダンジョン内での役割は救援、だから書類仕事をしながら常に俺たちの為に備えてくれている。365日24時間、そのせいでサイモンは好きだった酒と、大好きな孫の生まれた瞬間と成長過程を見れないでいる」

「余計な事を言うなアーネスト、俺が好きで……俺が望んでやっていることだ。それにギルド長の仕事も所詮は待ち時間を有効活用しているだけだ」


 サイモンさんは椅子の背もたれに深々と体を預けていた。

 そこに己を誇る声色は一切ない、むしろ彼の声色には怯えの感情の方が強いらしく、膝の上で握った拳が震えている。

 思い出しているのだろう23年前の悲劇を。

 ただそれだけでもないはずだ。

 先程の冒険者が担架で運ばれている様子から考えると、間違いなく救援の必要な事件が起こったと考えられる。

 当然ながらサイモンさんもその救援に参加していた筈だ。

 つまり救援を終えた足で此処に来たことを示していた。

 

 だが此処で疑問なのは何故僕が呼ばれたかだ。

 非番の人間を集めた?

 アーネストさんの服の状態から今日が非番であった可能性は大いにある。

 それか今日がギルドの決めた大規模作戦の日だったかだ。

 アーネストさんは後方で待機、敵さんの守備が薄れている箇所に突撃し作戦成功率を高める。

 本人が目の前にいるのだ、実際に話しを聞いたほうが早いか。


「で、僕たちを何故ここに呼んだの?」

「それはこのエルディオのせいだな」

「エルディオ?」

「ああ、リーザとグラントが捕らえた奴だ」

「ああ、あの時の」

 

 僕は手を叩き思い出す。

 アンタレスに来て初めての事件、クレアさんが不運にも誘拐されたあの事件だ。

 資料によればその際にグラントさんとリーザさんが捕まえた相手だったはず。


「おやおやおやおや、そこにいるのはロストとアーネストじゃないですか? まさか殺害対象が二人もいるとは」


 その一言に最も眉を潜めたのはサイモンさんだった。

 椅子から立ち上がり、檻を拳で全力でぶん殴る。


「ふざけた事言ってると殺すぞ」

「はいはいと」


 檻が揺れ、鋭い眼光がエルディオを睨むが彼は胡座をかき手錠で両手を封じられながらも器用小指で耳をほじっている。

 指に付いた耳垢を息で吹き飛ばすとエルディオは立つ。

 一緒に足にも着けられた鎖の音と、その先の鉄球の音が重たらしく鳴る。

 そして檻に顔を擦り付けながら。


「協力してやってもいい」

「どういう要件だ?」


 すでに何十時間という尋問をした後なのだろう。 

 今更何を言い出す。

 本来ならそう思いこの戯言を無視してもいいが、僕らの事情も変わってしまった。

 冒険者が大量に負傷し多くの人間が今だ意識不明、罠であっても飛び込まねばならない。

 サイモンさんは手を強く握り警戒を顕にするがエルディオはその逆腕を広げ僕を受け入れろと言っているようだ。


「といっても僕は身内を売る気はない、ただエレボスに対しては教えてやってもいいここには」


 そう言うと僕、アーネストさんに順に目を向け、


「闇に適性がある古代種に過去の経験から備えを蓄えて来た者、これらが居るのならエレボスに一泡吹かせられる」

「目的はなんだ」

「黙れよサイモン、お前には選択肢は存在しない。当事者に僕は聞いているんだ、100%負ける蹂躙を100%負ける戦いにするかを」


 エルディオの言葉にサイモンさんは強く歯をギリという音がするほど噛みしめる。

 そして僕とアーネストさんは選択を提示される。

 機嫌よくまるで劇の演出家を気取るエルディオに。

 ただ僕らにも選択肢があるとも思えない。

 この地アンタレスに少しでも思い入れがあるのなら、この冒険者ギルドに大切な人が一人でもいたのなら。 

 

「いいぜ、俺は乗ってやる」

「僕もいいよ」

「さて始めようか、我々の抵抗を」


 片頬だけを異常に上げエルディオは楽しそうにゲラゲラと全身を使って笑った。

 そして僕らの文字通り抵抗が始まった。



「エレボスとの戦闘をするには闇への耐性が必要だ」

「なかったらどうなるの?」

「死ぬ、簡単に言えばロスト・シルヴァフォックス、お前の魔素適応障害と真逆の事が起こっている。この時代の人々はな魔素への適正を獲得した代わりに光と闇への適正を殆ど失ってしまった。最悪な事にエレボスの闇は原初に準じる闇だ、耐性のない人間からしたら遅効性、しかも死亡率100%の猛毒見たいなものだ。それになエレボスの全盛期は国1つ簡単に落とせるレベルの化け物だ。当時の力はないとはいえ真正面から策もなく挑んで勝てるとは思うな」


 そしてエルディオは僕とアーネストさんに向けて手枷が付けられている両手で差す。


「ロストとお前は古代種だ。つまり闇の抵抗能力があるという訳、そしてアーネスト、お前は過去の経験から備えてきた筈だ、そう例えば10年前にオークションで落札した黒竜王の鱗とかな」

「つまり、アーネストの装備と同じ素材を使えば対抗できると」


 その言葉を言ったサイモンへエルディオは首を振る。


「わかってないな、そんな貴重な品そうそう手に出来る分けないだろ。そもそも完全に防げる訳じゃない。アーネストレベルの盾の技術が合って成立するものだ」

「っぐそうか」


 サイモンさんはエルディオの言葉に体を硬直させ射殺す勢いで睨んでいるが、今回はエルディオの言葉が正しいと認め、何も言い返すことはなかった。


「攻め手はどうする、アイツはありえないくらい固いぞ」

「あれ、アーネストさんはエレボスと戦った事があるの?」

「ああ、昔、一度だけな」


 顔を上げ、胸元のペンダントを握りしめる。

 どこか此処ではない場所を夢想しているアーネストさんを僕は見つめていた。

 アーネストの言葉にエルディオは初めて人をおちょくるような表情を崩す。

 歯を食いしばり眉を潜める、今だ見つからない答えを探すように


「ねぇよ」

「え」

「ないんだよ。アイツの防御、その闇の衣を突破する方法はな。だからなお前らが時間を稼ぐんだ。その間にあのクソ爺を突破するしかない」


 封じられた両腕を地面に強く叩きつけ、エルディオは吠えた。

 それは正しく慟哭だったがどこか悲鳴にも似た声に彼の悲痛さを感じた。

 そこで僕らは気づく、この場の誰よりもエルディオは真剣にエレボス攻略に挑んでいたことに。



 一度状況を整理する為、僕らは牢屋を出て1階に戻ってきていた。

 相変わらず多くの冒険者が寝かされており僕の足も自然とクレアさん達の方に向けられていた。

 手の中にある鈴を握りしめ少し青白い顔をしているクレアさん達に目を向ける。

 エルディオの話では顔が青白いのは抵抗力のない者が闇をその身に受けた弊害だそうだ。

 嘘を付く必要もない為その言葉を信じる。

 

 そして思い出されるのは先程の特別牢獄での出来事。


「お前を待機にしていた理由は保険だ」

「保険?」

「そう、実はダンジョンアタックの際に捕らえた狂信者がな今回の事件の黒幕コンラート・ソマヴィラだと言う事とその隠れ家を吐いた」

「コンラート?」

「知らないのか? 本当に悪趣味な奴だよ。特にゴーレムの生体コア関係の技術で右に出るものはいないがそのコアの制作に人の命を平然と利用する、国家間指名手配の大悪党だ」


 大悪党、その言葉をなぞるように思考に取り込む。

 小指から親指へと拳を作るように力を込めていく、勿論拳だけじゃない、そいつを捉えるために体を作り直す、意識と心で目的という名の輪郭を作って行く。

 僕の目の色が変わったからだろうかサイモンさんは僕の肩を叩き。


「まだ早い、生憎俺のミスで仲間達が罠に嵌められてしまった。だから全くといっていいほど手掛かりがない、すまないがお前の力を貸してくれ」


 サイモンさんはそう言うとポケットに手を入れ、僕に何かを手渡す。

 冷たい輪郭にその物体を僅かに動かすとチリンと音を鳴らす。

 手の平の中には僕がアンタレスでずっと探していた鈴の魔導具があった。


 特別牢獄を出る際にサイモンさんが僕ら二人に向かって頭を下げる。


「まぁ、いつも通りやるわ」


 アーネストさんはそう軽く呟く。

 言葉とは裏腹にその決心は軽いものではない、足取りは力強く特別牢獄を防ぐ壁を解除しその場を去っていった。


「それとすまなかったな、ロスト」

「えっと何がですか?」


 アーネストさんが特別監獄を出て少しした後にサイモンさんはそう話し掛けてきた。

 謝られているからか? それとも僕が図太くなったからか?

 アンタレスというギルドのトップと話している筈だが全然貴重しない。


「初めてお前たちと会った時の態度だ。この年になると中々変われない、特にお前の境遇を知っている俺からしたら好ましく思っていたが、他の奴らへの体裁もあってな冷たく当たっていた。そしてお前は自分の力で信頼を勝ち取った、だから言わせてくれすまなかったと。そしてお前個人に頼りにしていると」


 ギルド長の仮面を脱ぎ去り、少し目元を緩めたサイモンさんが笑いながらそういった。

 認めている、そう正面から言われると流石に照れくさい。

 だから少し言い訳じみた返答をしてしまった。


「僕は……所詮仕事だから、まぁでも大事なものが増えすぎたとだけ言っておきます」

「そうか、頼む」


 照れ隠しであることはバレているだろう。

 だからこそ思いは同じだと伝わった。

 そして特別と成った場所ここアンタレスを守るために剣を振るうことを僕は再び誓った。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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