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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
87/136

妨害

 ダンジョンアタック内での予想戦力関係はこうだ。

 スピードが最も早いのがリヒターさん、次いで僕、そしてガストロさん。

 魔物を倒す速度が早いのがガストロさん、リヒターさん、僕といった具合だ。

 

「っち」


 ダンジョンアタックの課題をこなす中でどうしても僕は一歩遅れる。

 ガストロさんは鉤爪を振るのではなく置くことで指定の魔物であるワームを切り裂き一切の減速なしに進んでいく。

 リヒターさんは雷を纏い、槍を振るう際に僅かに足が止まるがその直進速度でロスをカバーする。

 しかし今の僕では一振りする毎に足を止め、1体1体丁寧に処理していく羽目になり効率よく狩っているかという面では疑問に残る。

 これは武器を振るうなら腰を落とせというこだわりのせいではある。

 そのせいで課題を終え走り出す時には差ができ、現在なんとか追いすがっている状態だ。

 狩りの速度では負け、移動速度でも負ける。

 それでも戦闘集団に居続けられる理由は小回りが利く点と走行ルートのライン取り、この2つで勝っているからだ。

 このダンジョンアタックが始まるまでの僅かな時間で気功術をそれなりに仕上げてきた。

 気功術の利点は主に2つ。

 魔力とは違うアプローチでの身体能力の向上、そして魔法性能の向上だ。

 本来はここに生命能力の感知があるが、それは僕には必要ない。

 魔法での身体能力強化は外部的な物だ、鎧を着込む感じ。

 それに対して気功術での身体強化は内部的なもの、体だけじゃなく三半規管など内蔵そのものも強化される。

 これが別のアプローチでの強化という意味だ。

 そしてここからが重要、魔力に気功術で作ったオーラを混ぜ込み魔法を使うと普段の魔法より威力がある。

 まぁ、配分を間違うと魔力式事態発動しなくなる場合もあるが、僕の様に魔法式を使わないオリジナルの魔法しか使用できない人間からすると考えなくていい問題点だ。

 

 ダンジョンという立地は確かにあるし、戦闘ではなく走るというのが主なダンジョンアタック面も強い、それでも強化された探知魔法のおかげで鈴がなくてもただ走るという行為だけなら、足を踏みしめる際に起こる衝撃だけで十分精細な足運びが可能となった。

 

 ここまでが現状のいい点だ。

 そして一つ厄介な事がある。


「じゃまだ、貧乏人共」


 僕たちのやや後方ではリヒターさんと同じくらいの歳の銀髪の男が我が物顔で道のど真ん中を進んでいる。

 周囲には複数の闘技者達が彼の邪魔になるものを排除し、ほぼ中央は独占状態。

 初期の段階でリヒターさんは前列に抜けられたようで餌食にならなくて良かったが、そいつらに中央を分断されたせいで、後方の闘技者達は前列に上がることが出来なくなってしまった。


「ちょ」

「アイツ何やっているんだ」

「ふざけやがって」


 そんな声が後ろから響いてきた。

 探知魔法で情報を掻き集めている僕だが、その銀髪の行動が信じられずに一瞬後ろを向いてしまった。

 銀髪の男は休んでいた、取り巻きの男性達が背負う籠の上で。

 

 皆自らの足を使い戦う。

 その前提条件が崩されれば集合場所でのダンジョンアタックの熱量的に考えれば、この場で殺されても文句は言えないだろう。

 現に一人の闘技者がレースを諦め、その銀髪に斬りかかるが。


「ぐっは」

「坊っちゃんに何をする」


 取り巻きの一人に返り討ちに合ってしまう。

 そして一人の呟きが伝播する。


「誰だアイツ」

「そう言えばあのガキの周りにいる闘技者も見たこともない」


 人混みの中の誰かがそう言った。

 疑念が確信を生む、そもそもダンジョンアタックはアンタレスの闘技場で実績を積んだ人間が出るもの。

 こういったら何だが、見知らぬ闘技者がいるという点がそもそもおかしいのだ。


「ねじ込まれたお坊ちゃんとその護衛か」


 ランクすらもでっち上げ、美味しいところだけを貰っていこうという算段。

 その上体力の温存までしていると考えると優勝を狙っている?

 そんな憶測が皆の頭に過る。

 ただ僕はほんの僅かな罪悪感に苛まれていた。


 勝手な思い込みだが、何故ゴルドラ一派がこのような事をしたか? それは今年で彼らは運営から追い出される事が決まったからだ。

 当然それは僕の個人売上が今シーズン一位になったことを意味している。

 

 ゴルドラ一派の思考としては次がないのなら最後は好きにやらせて貰う、という半ば破れかぶれでこのような事態を起こしていると僕は予測する。

 そうなると今後の妨害は間違いなく厳しいものになる。


「そうさ、僕が今回のダンジョンアタックを優勝する。いくらあのガストロとは言えど妨害をし続ければいずれ動きは鈍くなる。そこを僕がぶち抜き優勝だ。この下僕共の役目は僕の体力を温存させる事と、ガストロの足止めだ」

「ふざけんな」

「悔しかったら止めてみればいいさ、そろそろ君達も篩に掛けられる頃だしな」


 篩いに掛けられるその意味を理解していない闘技者はここにはいなかった。

 このダンジョンアタックは中盤で3つのルートに振り分けられる。

 ルートの振り分けは順位で本来はされる筈だが恐らくゴルドラ一派がすでに闘技者一人一人に振り分けているはずだ。

 銀髪の男のいるグループは殆どの罠どころか課題すら起きずに走り抜く、ロスなきルート。他のルートに進む者は高難易度の課題を割り当てられ、それだけじゃない仕掛けられた罠に対応しながら走り抜けなければならない。

 そして僕の行くルートは最もきついルートとなるだろう。

 それはそうだ、ゴルドラ一派からすれば僕は闘技場から自分たちを追い出した張本人。

 肩から力を抜かずに息を口から吐く。

 

 僕はこれでも闘技場に感謝し、そして又アリサさんを通じてこの闘技場から熱を貰った人間だ。

 怒りはない、ただアイツラを優勝させるほど恩知らずでもない。

 そしてこのダンジョンアタックを優勝するのが、今年の闘技場荒らした、その責任の取り方だという認識を今した。


「おい、俺は待ってる負けんなよ」

「期待に沿えるように頑張るよ」


 ガストロさんは僕にそう言った。

 彼の表情もまた眉間の皺を深く作り、怒り心頭という表情だった、ただ他の人達と違うところは。


「気に入らない奴を潰すだけじゃつまらないもんね」

「そういう事だ、やるなら企み事だ」


 ガストロさんはそもそもプロ意識の塊のような人だ。

 ダンジョンアタック開始直後のタックルも僕の事を信頼して行なっていた。

 タックルを行ったのは観客を楽しませるため、彼の見せ方、その流儀であるヒール役に徹していたのだろう。

 だが今からは違う。

 ガストロさんよりも優れたヒールが現れてしまった。

 だから彼は右拳を握り込み僕に差し出す。

 それを見て僕左拳を突き出し応戦。

 互いに拳を合せ、同時に。


「「待ってるよ」ぜ」


 そう言って僕らは指定されたルートに沿って別の道を歩みだした。



 ダンジョンアタック運営本部


「パウロ様は安全なルートに入りました」

「他の闘技者は?」

「ガストロ、リヒーターは地獄ルートに、ロストは詰みルートに入っていただきました」

「良くやった。ふふ我ながら素晴らしい作戦だな。散々我々に損害を与えてきたロストはこれで優勝争いから脱落、しっかりと罠も入れておけよ。出ないと怪しまれるかも知れないしな一応、一応な」


 ジョンは高級そうな椅子に座りながらそう言った。

 ロスト、奴のせいで今年で企業連は闘技場を追い出されるかも知れない。

 ダンジョンアタックで生まれる収益は大きい。

 そしてパウロ様が優勝したその瞬間、彼の親から莫大なお金がこの闘技場に注ぎ込まれる手筈となっている。

 それさえ上手く行けばまだなんとか、闘技場の運営に残れる可能性がある。

 

 それにしても時期が悪かった。

 今シーズンの闘技場その殆どの人気試合はロストが参加した試合。

 ランク調整なんて言葉が出る時期なのも原因で殆どの高位ランクの試合の人気が落ちる。

 そのためこちら子飼いの闘技者が勝ってもそれほどの売上にならず、そして今年の注目の的であるロストはハイドラ側の陣営の為、満席試合の売上、その殆どを闘技場運営に持っていかれたのは本当に痛かった。

 ま、これもロストの闘技場での試合の映像を徹底的に出さない方針にしたお陰で最小限のダメージで済んだ。

 ここに来てこのリカバリーも奇跡的に噛み合った。

 

 ただ今回の事態を受けて、兄からパウロさまの優勝とロストという闘技者をダンジョンアタック中に始末しろとのご命令を頂いた。

 流石に殺すのはやりすぎだと思ったが、上の指示だからしょうがない。

 私も鬱憤が溜まってるので丁度いいと心の中で思ったことは内緒だがな・


「やりすぎたのだよ、君は、はははは」


 ここて働く職員の月給10人分ほどの高級椅子に座りワイングラスを掲げながらジョンはそう言った。


 *


 闘技場その観客席に私、クレアはいた。


「はぁ、いい加減機嫌直してくれないクレア」

「別に直してもますよ」

「いや、綺麗な顔から怒りが漏れ出してるぞ、そもそも今回はそれを防ぐ為に行動しているんだろ」

 

 近くにいるリーザとグラントの言葉に反発するが彼らの目は何故か温かいものだった。

 ちなみに先程のジョンの会話は全て盗聴している。

 ロストの殺害命令が出ていることを私は知って怒りが溢れ出ていた。

 その殺害命令の理由もあまりに自己中心的でロストが我々に恥を欠かせたからその報復に殺すとは。


「ほんとにロストの事が好きよねクレアは」

「好きですよ、それ以上に信頼しているというのが正解なんですが」

「正直クレアのロストに向ける信頼があまりに私達と違いすぎてそこは図りきれないけどね」

「当然です」


 胸を張りながらそう応えると、より温かさが増した瞳を向けられる。

 ただ思い出されるのはエレノアさんが私にのみ聞こえる様に語り掛けた言葉。


「わかってるでしょクレア、貴方が私とロストに感じる安心感その正体は、恨む理由がないからだと」


 その言葉を聞いて驚いた。

 エレノアは私の事情を完全に理解していた。

 ロストにすら話していない、今まで誰であろうと隠し通していた秘密を彼女は知っていた。

 でもロストへの信頼はそれだけじゃない。

 彼への期待、いずれ本当の私を受け入れてくれるのではないかという期待だ。

 

 リーザさんに言い切られた事が恥ずかしいのも事実で、


「だ、だめですか?」

「いや、ロストの事もいいが、今回の俺達の本命を忘れるなよ。邪教徒の内通者が企業連の中に、しかもこの大闘技場にいるって事を」

「わかってます、タイミングはたしか」

「ああ、闘技場が盛り上がりだしてからだが……まじかよそこまでやるかよ」


 私とリーザさんはそれほどダンジョンアタックに興味がない為、雑談に夢中だったがグラントさんの声で意識をダンジョンの中を写すモニターに戻す。

 そこには壁が行く先を塞ぎ、進めなくなったロストの姿があった。

 そしてアナウンスが流れる。


「誠に申し訳ありません。Cルートが不具合によりダンジョンの壁を制御する機構が狂い塞がってしまいました。ただいま復旧を急いでおります」


 これには観客たちも大ブーイングをしていた。

 

「ふざけるな」

「今までこんな事なかっただろう」

「そんな、ゲン選手の最後の試合なんだぞ、ふざけんな」


 それこそ思いは千差万別。

 モニターの中には勿論先頭を走っていたロストの姿もある。

 ただ彼は相変わらず? 

 ロストは風呂敷からあるものを取り出していた。

 何故かその姿に酷く私は惹かれ……。


「予定とは違う盛り上がり方だが行くぞ」

「ええ」

「はい」


 グラントさんの指示で私達は企業連がダンジョンを運営している場所に向かった。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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