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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
79/136

思い出の中に心はある

 度々すいません、どっかのタイミングで投稿時間を変えるかも知れません。

 予定ではAM9:00頃です。

 あとプロローグ書き終わりました。

 投稿の形は短編か、本編に埋め込む形になるかそこはまだ決めてないです。

 色々すいませんm(__)m


「フリードは?」


 一旦ん今回救出に成功した子供達を部屋から出てフリードの元に向かった。

 病室にいるはずのフリードがこの場にはいない。

 部屋を見渡せばベットの数は3つ、前に来たときと配置は変わっていない。

 だからフリードの病室は変わらずここのはずだが?

 この部屋にいる残り二人の子供達話しを聞いてみた。


「フリードは今兵士さんからお話を聞かれてる」

「うん、私も聞かれた、ていうかほぼ毎日。教会で何を見たかとか」


 確かに領兵も事実を掴む為に子供達に話しを聞かなければという行動は理解できる。

 だが自分たちが信じられないからと言って毎日同じような事をするか?

 領兵達の行動に少し頭を痛めるが本当に苦労しているのは子供達だ。

 ならば領兵達への不満よりは子供達にご褒美を上げたい。

 

「頑張ったご褒美に購買で何か買ってこよう」

「いいの?」

「私はパンが良い」

「いつものよりは味落ちるよ」

「それでも」

「僕も」

「わかった、先生からの許可が出たらね」


 二人の頭を撫で僕は病室を出る。

 一度看護師さんがいる場所で子供たちに購買の食べ物をあげていいか、確認するために先生と話がしたいと言うと。


「あの2人は意識が戻らなかっただけで体に異常はないので大丈夫ですよ、フリード君も問題はないです」


 そう太鼓判を押されてしまった。

 購買でパンと瓶のオレンジジュースをそれぞれ3つずつ買い病室に戻るとフリードも戻ってきていた。


「お兄ちゃん」


 ここまでは先程の子供たちと同じく僕に抱きついてくる。


「僕は嘘つきだからやっぱり信じて貰えないのかな?」


 その言葉で憲兵達の事情聴取で何かあったのか理解した。

 一瞬顔をしかめたが子供達は気付いていなかったようだ。

 これは俺が原因でもある。

 闘技場で忙しいからと言って子供達を御座なりにした。

 いや、あんな荒んだ気持ちの時に子供達に会いに行きたくなかった。

 一度他の二人にオレンジジュースとパンを渡してから誰もいなそうな病院の屋上に向かった。


「何があったんだいフリード」

「うん、それが」

 

 屋上に置いてあるベンチに腰を下ろしフリードに何があったか聞く。

 最初は踏ん切りがつかず中々喋れなかったが、少しずつ時間を使いフリードは憲兵達との間であったことを話しだした。



フリード視点


「で、何があったんだい」

「それが」


 病院の応接室に大人が3人揃って子供を囲んでいる。

 言葉こそ優しいが自分より大きな背丈の人間に囲まれては子供は喋れない。

 しかも先程まで他人の害意によって死にか掛けていたのだ人間不信になりかけていたフリードは中々話し出す事はできない。             

 そこで浮かんだのはレクトの事だ。

 自分たちを助けるために囮となった友人を救うために彼は勇気を振り絞って話し出すことにした。


「火事だ、みんな外に避難して」


 そう言ったのは少し歳を取った職員のおばちゃんでみな優しい彼女を信頼しており、時々やる避難訓練に従いスムーズに動いた。

 そして外に出ると職員のおばさんが僕らの名前を呼び、点呼を始めた。


「レクトいますか?」


 もちろん一番早く気にしなければいけないことは声を出せないレクトの安否だ。

 だが彼は僕がしっかりと手を繋いで連れてきている。

 彼の変わりに声を出す。


「レクトはここにいます」


 嘘つきのフリード、それがフリードの頭の片隅を過りレクトを連れて職員のおばちゃんが点呼をしている前列へと彼を連れて前に出た。


「フリード、ありがとう。レクトも無事ね」


 おばちゃんは僕の頭を軽く撫で、レクトに視線を向け状態を確認する。

 目元が少し熱く体が震える。

 そんな僕の背中を優しく擦るレクトと一緒に邪魔にならないように後ろの列に戻る。


「レクトありがとう」

「……」


 列の後ろの方に戻り感謝を述べる。

 彼の仕草はとてもシンプルで親指を立て、ニッコリと笑う。

 それに僕も同じく親指を立て笑顔で返す。

 

「全員いますね、よかった。な、今度は何?」

 

 点呼を終えおばさんが一息つく、その後すぐに大きな爆発音が近くから聞こえる。

 みな孤児院の方を見るが変化はない、レクトの方を見ると彼は教会の方を一心に見ていた。


「お兄ちゃん」


 爆発源は教会だった、屋根に火が付き燃え始めている、誰もが気づき始めていた何かが起こり始めていると。


「……」

「僕も行く……友達だから」

 

 レクトが一人教会に向け走り出そうとした時手を掴みそれを制止する。

 彼は少しキツイ目で僕を睨むが共に行くと意思を表すと嬉しそうな顔に変わった。

 僕は少し照れくさくて顔を背けながら言ったがレクトは軽く僕に肘を突きながらからかっている。

 僕らも余裕ある態度を取っている理由はあのお兄ちゃんだからという信頼もあった。

 僕らが教会に向け足を動かそうとした時それが現れた。


「はい、そこまで」

「ザックの兄貴、連中の仕掛け動くんですかね」

「知らん、強そうな奴もいないしな俺はどうでもいい」


 3台程の馬車が孤児院の前に止まり10人近い大人たちが孤児院の敷地内に入ってきた。

 いや一人僕らに歳の近い少女を連れて。


「リリィちゃんだ、お〜〜いリリィちゃん」


 孤児院の少女の一人が男性達に囲まれている少女に声を掛ける。

 その少女は僕にも見覚えがあった。

 近くの料理屋の子供で良く孤児院に遊びに来ており僕らとも仲がよかったからだ。

 でも何故彼女があの大人達と? そう疑問を持つと。


「……」

「レクト?」


 リリィを見た瞬間レクトが怯え始めた。

 彼女に何かがあると考え、僕も目をこらすと彼女の周りに何か青い玉が浮かんでいる。

 リリィーが僕らに指を向ける、すると青い球が僕らの方に飛んできて、何事もなかったかのように僕らの体を通り抜けた。

 通り抜ける際に何も感じなかった、だから大丈夫と思っていたのだが。

 

「こっちに来て」

「……」

 

 そうリリィーが声を出すと僕らの体は自分の意思とは無関係に動き出した。

 僕が助かったのはひとえにレクトのおかげだ。 

 勝手に動く僕の体にレクトは拳を固め思いっきりぶん殴った。

 

「レクト何するんだ? あれ動く」

「……」


 僕は胸を撫で下ろす。

 そしてレクトと互いに顔を合わせ行動に移る。


「分かってるレクト、できるだけぶん殴る」

「……」

「やろう」


 僕らはすぐさま行動を開始し近くにいる子供たちをひたすらにぶん殴り続けた。

 僕も流石に女の子を殴るのは気が引けたがレクトはお構いないしに殴り続ける。

 そんな遠慮のないレクトにこの時少し憧れそうだった。

 だが僕らの快進撃は長くは続かない。


「あれ? 好き勝手やらせ過ぎじゃない」


 黒髪の男が教会の方から現れた。

 その男が現れた瞬間中心にいる大男以外は一歩下がり怯えたような表情を向けていた。


「エイナル俺の部下を脅すな」

「なら仕事をさせてよねザック、流石に棒立ちはマズいでしょ。さ君達子供を攫って攫って」

「行け」

「「「はい」」」


 そして男たちが動き出す、意思を今まだ取り戻していない孤児たちは無抵抗に連れ去られ、意思を取り戻した子供も力の差で簡単に攫われていく。

 その光景を見て僕とレクトは判断する。


「行こうレクト」

「……」


 逃げ道のない僕らは自滅に近い選択肢を選ぶ、そう火の付いた孤児院へと逃げ出す道を。

 そんな僕らを見て意識を取り戻した二人も僕らに追従する。


「ほら、追え」

「ですが」

「もういいや、僕が行く」


 後ろでのやり取りが聞こえる。

 この感じだと追ってくるのは一人だけ、なら逃げ切れるそんな甘い考えを僕らは持っていた。


「そんな」

「……」

「どうするの? ねぇどうするの?」

「終わりだ」


 灼熱を纏った孤児院の廊下を走るがそれもすぐに火の手が塞いでいた。

 焼かれた木材が崩れ、廊下を塞ぎ行き止まりとなっている。


「逃げても無駄だよ」


 姿は見えないが、鮮烈に耳に残っている声が後ろから追ってくる。

 急ぎ焦る僕らに対し、冷静に考えたレクトが出した答えは。


「……」

「え、ここに入れって」

「でも隠れる場所はここしかないって」

「うん、隠れよう」


 それは最近孤児院に寄付されたクローゼットだった。

 子供の男女が一人、そして僕が入っても全然余裕がある。


「レクトも早く、え」

「……」


 レクトはクローゼットには入らずそのまま扉を閉めると、隣の棚に入っているクローゼットの鍵を取り出し掛けた。

 僕はすぐさまクローゼットの扉を叩く。


「レクト馬鹿なことをしないでこっちに来い」

「っし。バレるぞ」


 男の孤児の一人が僕の口を塞ぐ。

 すぐさま黒髪の男がこちらにやってきて。


「おや、一人だけか?」

「……」

「なるほど喋れないから見捨てられたって事か……まぁいいや。僕達が欲しいのは逃げた彼らではないですしね」


 黒髪の男はそのままレクトの背後に移動し彼の顎下に腕を通し持ち上げる。


「では行きましょうか」


 宙で足を振り回し抵抗するレクトを意に介さず男はその場を去っていった。

 レクトの犠牲により気づかれなかった僕らも鍵を掛けられているためクローゼットの中から出られない。

 外から入る熱さに抵抗力を奪われそのまま意識を失っていった。


「レクト」


 そう声を上げるのが僕の最後の抵抗だった。



「この話を兵士さんにしたんだけど信じてくれなくて」

「どうして信じてくれなかったんだ?」

「通り過ぎるだけで意識を奪う物なんかないって。ねぇお兄ちゃん僕嘘つきなのかな? 何度も何度も兵士さんに訴えたんだ。レクトを救えるのは僕だけだって、でも負けそうになるたびにお兄ちゃんの活躍を聞いたんだ。だから僕ももう少し頑張ろうって。でももう無理で……」


 フリードは涙を流しながら僕に訴える、この涙はどういう意味があるのだろう?

 自分の言葉を信じてもらえない悔しさか、助けたい人がいる、それなのに真実を言っても信じてもらえない、兵士への失望と無力感か、ただ僕が言えるのはもう十分だろうという考えだ。

 確かにフリードは嘘つきだった。

 それでも友達を助けてたいそう思う気持ちは人より多く持っている。

 だからもう嘘つきとしての贖罪は十分だろう、十分過ぎる。

 誰も彼を信じないのであれば俺が信じる。

 彼がこの先自分を卑下しないように。

 思い出の中に将来挫けてしまった時立ち直る力が宿るように。

 

「信じるよ」

「本当に? お兄ちゃん」

「ああ、信じる。大丈夫だレクトの事は任せておいて」

「うん、うん」


 約束という安心感を与える事もできた。

 ただ純粋な気持ちで人を信じるその心を捨てて欲しくなかった。

 悪意ある人間は勿論いる。

 世の中ただ純粋なだけでは貪り食われるだけで終わってしまうだろう。

 それでも人が信じるには何かの心の支えが必要だ。

 ふと振り返った時、思い出が心の支えとなるようにあくまで彼ら自身の足で歩めるように。


「そもそも僕に子供達を信じないという選択肢があるか怪しいけどね」

「お兄ちゃん、何か言った?」

「いや、何も、もう暗いし戻ろうか」

「うん」


 日が沈み太陽が地平の彼方に消え始めた、夜風が体に当たる前に手を繋ぎフリードと病室に戻った。

 


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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