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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
77/136

枷が薄れる中で垣間見えた本性

 予約投稿をやめたので、AM8:00から1,2分遅れることがあるかもしれないです。

「待たせたか?」

「その子は?」


 エルヴィンさんの隠れ家に着いた俺はソファーに寝転がり少し目を瞑って休んでいた。

 10分ほど経つと扉が開く気配を感じそれと同時に意識も覚醒する。

 入ってきた人物に目を向ける、一人は見知った人物エルヴィンだがもう一人は女性でこちらは初対面。

 エレノアの事もあったため正直新しい人間をこの場に入れるのはやめて欲しいがエルヴィンの人手が足りないのならしょうがない。

 僕はエルヴィンに顎を数度動かし、彼女の説明を促す。


「ああ、問題ない。コイツは身元もしっかりとしているし知り合いに頼んでコイツの実家にまで行って貰い経歴の確認も済ませている。スズカ騎士自己紹介をしてくれ」

「は、はい、私はスズカです、え、ええと、よろしくお願いします」


 騎士にしては小柄、だが女性にしては大きい背丈身長は170後半といっったところか。

 明るい栗髪にポニーテールの髪型、頭を大きく下げ挨拶をする彼女には皆好感を持てるだろうが、今欲しいのは好感ではない、優秀かどうかだ。

 この際性格が悪くても気にしない。

 流石に悪すぎたら矯正してやればいいのだ。


「スズカさん、何が得意で何が苦手化を教えてください」

「は、はい私は戦闘が苦手で、でも記憶力に自信があって……それから」

「ロスト、少し圧を下げろ、新人が潰れる」


 普通に聞いていただけだが確かにスズカは目元に涙を溜め今にも泣き出しそうだ。

 一度目を瞑り心を鎮める、するとスズカも少し息の荒さと体の震えが止まったようだ。

 彼女の能力は情報処理に特化しているということか。

 純粋な戦闘能力だけなら領兵に協力してもらうだけでいからな。


「そんなに今回の事件って色んな組織が入り組んでるの?」

「ああ、あまりに該当組織が多すぎてな。……ただその苦労のかいあってレイナードが協力を申し出てくれた。元々王都からの緊急な招集に対応するために、補佐を連れて来ようは思っていたからな丁度いい」

「もしかして俺の闘技者生活必要なかった」


 レイナード、この地アンタレスを昔から支えてきた組織の内の1つ。

 彼らが手伝ってくれるのであれば情報屋が俺等に金さえ出せば信用をして情報を売ってくれる。

 

「いや、その組織達が信頼してくれたのはロストの名前が売れ始めたからだよ」

「わかってるよ、からかっただけさ」


 エルヴィンは奥の豪勢な机の引き出しから紙の束を取り出し放り投げる。

 そこにはノルディス商会に突入をする際の領主許可済みの作戦書が書いてあった。


「これがお前の成果だ」

「で、明日始めるのか?」

「ああ、早い方がいい」


 そしてエルヴィンは一息しっかりと吐き出してから背筋を伸ばし立ち上がる。

 見下ろすように宣言する。


「始めるぞ」

「ああ」

「は、はい」


 同意を述べると明日に備えてソファの上で目を瞑る。

 ようやくだ、ようやく始められる。

 明日丁度いい事に闘技場の試合はない。

 いやレイナードが協力してくれる以上闘技場に出る必要はない。

 もうアンタレスの土地からの信頼は必要ないのだから……それでももう少し闘技者でありたい、そんな我儘が己の心を満たす。



 明日の作戦まで俺のすることは簡単だ。

 剣を研ぎ、装備の確認をして鍛錬を。

 ソファーの上で寝転がっていたのは少しでも体を休めていからだ。

 どうせ目をどれだけ瞑っても眠れぬことなどわかっていた。

 眠るには鍛錬をするしかない。

 一刀で体から全ての力を吐き出し、倒れ伏し起きた時にはもう時間だ。


「では行くぞ」


 エルヴィンに連れられるまま俺とスズカは今回の作戦、その集合場所まで移動する。

 今回のノルディス商会の強制監査は3つの組織が関わり行われる。

 1つ目はもちろん俺等、2つ目は領主お抱えの領兵、3つ目はノルディス商会のある地区が縄張りを持つ裏の組織レイナード。

 レイナードは義に厚い組織らしく、子供たちを攫ったノルディス商会にブチギレていた。

 しかしノルディス商会は複数の組織と手を組むことによってレイナード単一組織での壊滅は難しいレベルになっていた。

 自分達の縄張りであっても中々手出しがで出来ず、そして好き勝手をするノルディス商会に怒り心頭であったレイナードは信頼できるとエルヴィンは言っていた。


 そしてレイナードが用意した建物に入る。

 人数的には領平が50人、レイナード構成員が100人、僕ら3人が主な戦力だ。

 そしてこの会場で目立つのが主に二人、レイナードの青黒い髪と褐色の肌が特徴の男性と女性の憲兵? だ。


「挨拶に行ってきます」

「は」

「俺も行ってくる」

「はい、兄貴」


 上等な生地を着た金髪の女性と褐色の男性がこちらに向かってくる歩いてくる。

 金髪の女性は僕をいやスズカを一瞥しただけで不機嫌そうに視線を逸らした。

 褐色肌の男性はむしろ逆、俺に視線を一瞬向けた後にエルヴィンに向けた、ただしこちらは不機嫌というわけではない。


「エルヴィンであってるか?」

「ええ、よろしくお願いします。貴方はレイナードのあるベルトで大丈夫ですか?」

「ああ、そうだ。今回の件協力を頼む」

「はい、こちらこそ。ただ……私はナディア様がこの場にいる事には驚いたが」

「気安くてすまないが、だよな」

「何ですか…… 私が来てはマズいですか?」

「ああ」

「ええ、流石に領主の娘さんが来るのは問題でしょう」

「領兵が気持ちよく働くためです。流石に王都から来た見知らぬ騎士と反社の次期ドン、こちらも上の人間が必要だったんです」


 互いに挨拶をしているだけだろうが、それだけでも彼らの人間関係が伺える。

 領主の娘であるナディアとエルヴィンは元々知り合い。

 そしてナディアとレイナードの時期トップと言われている男性も勿論知り合いだろう。

 そして男性陣二人はナディアをダシにして会話を作り互いの心の距離を縮めている。

 

「あの……ロストさん、凄いですね、あの光景」

「そうか、そうだな」


 剣を抱きしめ壁を背もたれに作戦開始を待つ。

 待ちきれず人差し指で組んだ腕を何度もトントンと触れているとそれを見たスズカは顔を青くし頭を下げる。


「すいません、不快な思いをさせてしまいました」

「いや、スズカさん貴方のせいじゃない、僕が待ちきれないだけだ、それにスズカさんはちゃんと出来てるよ」


 何故か目に涙を堪えながら俯くシズカにはあえて触れずに自分の状態を確認する。

 集中力が暴走気味な事は承知している。

 昨日からほぼぶっ倒れている時以外は1度も切れていない。

 むしろ少しずつだが集中力が上がってきている。

 感覚が研ぎ澄まされているが故に周りの会話が今日もよく聞こえる。


「あれが噂の」

「ああ、闘技場の今最も熱い男だ」

「怖」

「一度生で見られて良かったな」


 そんな呑気でありながらも初めてに近い初対面の人物からの好感触。

 でも耳に入っても今は何の感情もわかない。

 そんな自分を少々不安に思ってしまう。

 だから己を焚きつける。

 目を瞑れば依然浮かび上がるのは教会が焼けたあの日の無力な自分と孤児院の子供たちの笑顔、自分の不甲斐なさを告げるような光景が今も脳を焼き続ける。

 歯を食いしばり悪夢と向き合う。

 それが俺の一番のモチベーションの取り方だ。

 

「では作戦を始める」


 そんなエルヴィンの声が悪夢を振り払い現実に戻す。

 この場に集まった全ての人間が彼ら3人に目を向ける。


「作戦としては最も数の多いレイナードの方々が周辺を包囲、憲兵とナディア様、あとアルベルトと包囲に参加していないレイナードの方々も同時に突入、そして私エルヴィンとスズカが情報をまとめ統制、指示を出す。そして最後にロスト、約束だったな……殺さなければ好きにしろ」

「ああ」


 驚くほどに掠れた声、しかしそれは喋る機能がこれからの戦いにおいては邪魔だと体が認識し始めたせいだと俺は理解していた。


「では行くぞ」


 その掛け声の元、皆ノルディス商会に向け歩みを始める。

 もちろん現地集合だ。

 そしてようやく意識を完全に戦闘に持っていける。

 闘技場では抑えていた本当の意味での戦闘意識を僕はようやく発揮できる。



「頼む東側の部隊の連絡が遅れている」

「わかった、俺が行く」


 自由にやっていい、そうエルヴィンは僕に聞き覚えのない約束を果たしてくれようとしたが、それを断る。


「いいのか?」

「ああ、確実性が大事だ、俺個人の感情なんて捨てればいい」


 自分自身の手でやり返したい、その気持は当然ある。でも最優先は孤児たちの確保だ。

 それの重要さに比べれば僕のプライドなんてものは肥溜めに捨てた方がましだ。

 それに今は早く戦いの場に出たい。


「だから教えてくれ、僕は何処に行けばいい、何処が今回の作戦の穴だ」


 そして入った連絡は東側から突入した部隊との連絡がおくれている事だ。

 包囲戦、攻め落とすのに最も簡単な方法は補給路を断つ事だが、1商会相手にそんな時間は掛けていられない。

 では攻め入るならば? 四方からの同時攻撃が有効だ。

 1方位が遅れたり、潰されたりすればそこに数を掛けられ逃げられる。。

 逆にこちらが同時タイミングでの攻めをすることができれば相手に不可避の混乱を与えられる。


「あ? 何だお前は」

「レナートの人達、被害は?」

「ほぼないが足止めを食らってる」

「優秀だね、ここは俺がやる、先に行け」

「だが……わかった」


 今回の穴、その原因は指揮者の格不足だ。

 北にはレイナード時期ドンのアルベルトが南にはアンタレスの領主の娘であるナディアが西には指揮と同時にエルヴィンが、本部はスズカが情報の精査をしている。

 そういう意味ではアルベルトの直属とはいえ東を指揮する人物は少々格が落ちる。

 俺の指示を受けレイナードの構成員達は互いに肩を貸しながらも前に進む。

 少々負傷者も多い気がするが、いないといるではまるで違う。

 それに多少の負担なら他の方位の方々に任せても大丈夫だろう、エルヴィンならそれくらいの余裕は前もって作戦に組み込んでいる筈だ。

 今回は指揮役のミスと言うよりはハズレを引いた分も実はかなり大きい。


「随分大人しかったな」

「正直お前の方が面白そうだからな」


 レイナードの面々の負傷が多かったのはこの人物のせいだろう。

 2メートルを超す巨漢、髪がモヒカンの為ヒューを思い出すがまぁ所詮そこまでの印象しか受けない。

 強いとか弱いを肌感覚で感じてみても普通としか思わない。

 正直昨日戦ったゾイルの方が強いだろう。

 俺個人で評価を付けるのならば論外、武器の手入れが甘すぎる、その大剣だと相手を斬れない。


「俺の名前はーー」

「っち」

「てめぇぶっ殺してやる」


 武器を大事にしない奴は嫌いだ。

 そんな奴の名前なんか知りたくない、ついつい舌打ちを出してしまったがそれを聞いて相手は頭に血がのぼり乱雑に大剣を振り回す。

 こいつの名前はザック、昨日隠れ家で見た情報によるとノルディス商会に雇われた腕利きらしいが、噂は間違っていたらしい。


「何でだ、このそれほど広くない場所で」

「だからだろ」


 確かにパワーは目を見張るものがある。

 大剣を振り回すには小さすぎる部屋、普通なら大剣の軌道を壁に防がれ動きが止まる所をパワーで部屋の壁を削り振り抜いていく。

 だが。


「ふざけんな、なんで、なんでた」


 男も自身の大剣を躱されたことくらいはある、しかし男の目には確実に当たるタイミングで振った大剣が悉く外れ続ける。

 そして焦りのあまり優れたパワーと逃げ場の少ない部屋、その2つが合わさり攻防一体になっていた男であっても致命的なほどの大振りを晒す。

 大剣による左からの一撃を鼻先に掠めるように回避し、開いた隙間に一気に滑り込み、走りこんだ勢いそのままに回し蹴りを男の腹部に放つ。


 体の大きさに比例せず、僕の一撃で男は宙に浮き一回転する。

 ただこれは俺が起こした結果でない、この男が自分で飛んで衝撃を逃しただけだ。



「てめぇ、やるな」


 不思議な男だ、蹴られて何故か冷静になるとは。

 男は腹を擦っているが大したダメージはないだろう。

 だが俺もいい感じだ、いい感じに研ぎ澄まされていく。

 そして剣を抜き男の対面に立つ。

 

「は、はは、面白え。面白えぞ」


 言葉とは裏腹に男の体は震えていた。

 そして俺は自身で自覚する、集中力、今まで己を研ぎ澄ましつずけた効果か? そのピークが来ようとしていることに。


 男が大剣を振るうそれが合図だった。右からの振られる今日1の速さと力強さを宿した一撃。


(躱されるのなら当たるまでだ)


 ザックはそんな事を考えていたのだろうが、事態はここから変化する。

 俺はは襲いかかる一撃を回避せずに大剣の先端部分を己の持つ剣で斬り落とす事で攻撃を無力化する。

 今までは切れていたはずの集中力、それが常態かする。

 俺が距離を詰める最中もザックは大剣を振り続けるがナタで小枝を払うように男が大剣を振るう度に先端となった部分を斬り落とし細かくしていく。

 そしてザックの胸元に近づく頃には彼の大剣は持ち手の部分のみで刃先はもう存在しない。


「な、何なんだお前は」

「……」


 怯え動けなくなったザックの両膝を鞘で打ち、足を曲げさせ上半身を下げさせる。

 そのまま鞘で顎下を横から掠めるように当て脳を揺らす、そのまま地面に寝転した後動けぬ男に雷を流し、男の体その背面から足で踏みつけ拘束する。


「終わったよ、エルヴィンさん」

「ああ、こちろも孤児たちと、ノルディス商会会長を確保した」


 僕が願うことは救われた子供達が一人でも多いことだけだ。


 ただここだけの話しザックの強さには物足りなさを感じていた。

 この感覚はもう闘技場で晴らすしかない。 


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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