心身を研ぎ澄ます
タイトルを明日変更予定です、変更名は、自虐冒険者の英雄道+サブタイの形にしようかと思っています。
自分でも色々試していきたいと思っているので今後も変わるかも知れません。
告知という形で前日には発表しようと思いますのでこれからもよろしくお願いしますm(__)m
ディルク視点
闘技場のVIPルームでの話しだ。
俺はハイドラに呼ばれてここにいる。
この戦い、ロスト・シルヴァフォックスの初戦、その意味を知っている者ならこのハイドラと共に席をしたい所だろう。
「で、彼の調子は?」
「硬いな。不思議な奴だよ本当に。欠点としてはロストはスロースターターな所か」
「ああ、私の屋敷で貴方が負けた時は確かに何十人と私の部下を倒した後でしたからね」
「っぐ、なんか言葉に棘があるな」
席に座り、珍しく日がある時間帯に酒を飲む上機嫌なハイドラを見てどうしても聞きたいことがあった。
「なぁハイドラ、ロストがお前がこの状況で望んでいた人材なのは俺にも理解出来た。しかしあいつには」
そう俺が言おうとした時にハイドラは目で制した。
私自身がいうと。
「そう、あの子の本当の枷が外れた時の欠点、それは忘れてしまう事です」
そして俺も同意する。
「ああ、アイツは戦いの中で集中しすぎると忘れちまうんだ、剣以外の事を」
そうロストには魔法がある。
しかし集中しすぎると魔法という存在そのものが頭から抜けてしまう。
いや魔法だけじゃない、レブレサック商会での戦いを見ていたがあの時に使っていた足捌きも何もかも。
「で、忘れた彼に負けた人間もいますよね」
「悪かったですね。だがどうする? 今年からレガリアが導入される。つまり」
「問題ないですよ、だって言ったでしょ貴方彼はスロースターターだって」
「言ったが……」
「それに私からもディルク、貴方に質問ですが最近ロストにはどんな訓練をしているのですか?」
「ああ、気功術の訓練だな」
「そうですか……そうですか」
嬉しそうにそう呟くハイドラを見て心配は杞憂だったと考え始めていた。
そもそも俺が今回聞きたかったのはそういう意味ではない。
ハイドラのいいたい事はわかっている。
あの屋敷でのロストはピークではない。
彼に気功術を教えている中で妙な鍛錬をしている時から気になっていた。
「おい、またぶっ倒れてたぞ」
「ディルクか……何を言ってるぶっ倒れるように振ってるからな」
「どういう事だ?」
このロストとかいう男は気功術の鍛錬ととある魔法技術の練習以外ぶっ倒れている所しか見ていない。
正直鍛錬が下手だとずっと思っていた。
「体力の把握も練習しないと駄目だろう」
その話しを彼にすると本人が目の前にいるのに大きなため息をしやがった。
だが彼の本心を聞いた時に同時に思った。
あ、俺はこいつに生涯勝てないと。
「ディルク、あんたこそ何いってんだよ。俺の鍛錬は一振りで全ての体力を使い切る、己の全てを一太刀に込める鍛錬だ」
正直そんな発想はなかった。
毎日がむしゃらに剣を振ってきた人生、それが無駄だとは思わない。
だが何故か敗北感を覚えた。
武術としては負けてはいないが、この男に俺は武器と向き合うという点に関しては決して勝てないと。
根本的に俺達とは別の道を歩んでいるのと理解してしまった。
それと同時にこの鍛錬その有用性に気付く。
彼の鍛錬それを言語にするのなら振り絞る鍛錬だ。
普通の人間はそんな事をしない、精々振り絞るといっても全力で走るくらいが限度だ。
これを数字にするなら、100から5エネルギーを使い続ける程度だ。
鍛冶場の馬鹿力な100から20。
彼は100から100を使い切ろうとする。
全てを使い切るには腕や足、体の隅々まで全力を出し切るように、いやそれでは足りない。
己全てに注意を測り、まるで崖から転げ落ちる未来を許容するように己の全てを放棄する。
その証拠に彼は一振りをすると眠ってしまう。
どんな剣術家よりも彼の剣はまさしく生き方という言葉があってしまう。
勝てるわけないのだ、一振りの質であの子に。
所詮俺達はただ集中して振っているだけ、相手を斬り伏せ己の思いや行動を成そうとする。
そんな不純物がただ最高の一振りを剣という存在に捧げ続ける彼に。
ここまで俺は大げさに言ってる自覚はある。
つまるところ俺は惚れちまったわけだ。
あのロストシルヴァフォックスという人間に。
「確かにロストが負ける事は考えられないな。この一戦以外は」
「そういうわけです。まだ一戦、しかし彼が己を研ぎ澄まし続けるのなら最初の一戦こそ最大の難関。何にせよ枷が完全に外れる事は今はないですからね、楽しみましょうか、彼がどこまでいけるのか」
そして先程のロストの控室の動きを見ていた感想がつい口から出てしまう。
「動きが悪いな」
ハイドラに気付かれぬように横目で見るが、彼が今の言葉を聞いていた素振りはない。
それにほっとしながらロストの事を再び考える。
本当に不思議な男だ。
あれだけ不遜な態度をしておきながらさっき控室を覗いた時は緊張していた事に。
「だがお前は負けないだろう。ロスト・シルヴァフォックス」
そう届かぬ期待を俺は込めていた。
*
「うるさい、集中もさせてくれないのか」
今日が僕の闘技者としての最初の試合だ。
負けたら終わり、名声を高めるにしても最低10連勝はしなければいけない。
何故連勝に拘るか、それは僕が新人闘技者だからだ。
まず闘技者のランクはブロンズ→シルバー→ゴールド→プラチナ→マスターと言う括りになっている。
その中でも1ランク毎に階級も存在する、シルバーまでは1つのランクに階級が3つ。
ゴールドからは階級が5つ、例に出すならシルバーのランクはシルバー1,2,3でゴールドは1,2,3,4,5といった感じで、一番高い階級に行った後に指定ポイントを貯めればランクがあがる。
さて次は何故僕が連勝を意識しているか? これは新人闘技者の特別制度が理由だ。
闘技場のルールで例え実力があっても新人闘技者はブロンズから始まる。
その国一番の実力者が闘技者に転身したとしても変わらない。
だがそれでは低ランクの試合を荒らされてしまう可能性がある。
試合の公平性と正しいランク、賭けも公式に認められている闘技場からしても試合を荒らす強者は問題視する。
そこで定められたのが闘技者の新人特別制度。
闘技場側は新人闘技者のランクを適正に定めるために負けるまで1つの試合形式でしか戦わせない。
それは何の混じりっけのない一対一の戦い。
持ち込み武器ありだがそれ以外は何も許さない。
そのままの名前だが、試合形式名は決闘。
そして新人闘技者の特別制度とは一試合勝つ毎に強制的に1階級上げるという物だ。
これこそが俺が連勝に拘る理由、普通に階級を上げても話題性はない、そして何より時間も。
手っ取り早く、このアンタレスで名前と信頼を勝ち取るにはこの制度を利用するしかない。
ただ予想外なのは初戦のはずの俺の試合が無駄に盛り上がっている事だ。
3戦目くらいから注目される始めるのが当初の予定、問題なのは俺が闘技者になるために利用したあの支配人、ハイドラがいらぬプロモーションをしやがった事だ。
内容は2つ、昔からアンタレスの住人知られる有名人、闘技場の総支配人ハイドラが始めて推薦枠で闘技者にした男という点。
もう一つは俺がレガリアを使わないという点だ。
前者の説明はいらないだろうから省くが、今年から闘技場はレガリアの使用が許可された。
正直、今までの伝統を覆され文句がある闘技者とアンタレスの住民は多い。
だが闘技者がレガリアを使っても彼らを攻める住人はいない。
それだけレガリアという物の有無が生み出す戦闘力には絶対的な差がある。
そんな中、無理を背負い、レガリアなしで闘技場に挑もうとする馬鹿がいる。
馬鹿を見ようと人々が集まり、無名の新人闘技者の試合でありながら上の観客席はほぼ満員という珍事が起きた。
ハイドラの狙いもわかる。
もし俺がこの試合に勝ち、そして勝ち続けるれば俺はきっとアンタレスにいる住民と闘技者の夢になる。
先のことも考えた策なのだろう。
だからこそ俺はこの先楽な戦いが1つもないことを理解してしまった。
ハイドラ達風にいうなら企業連の不正、八百長、今回のそれも異常な程わかりやすい。
決闘形式の試合での不正とは何かわかるか……戦カードを弄ることだ。
今回の俺の相手はゴールドランクの闘技者。
言ったろ新人闘技者の特別制度で戦う相手は同ランクの闘技者。
「全く、俺はただ確実性が欲しいだけなのにな」
これから俺が勝ち続ける限り対戦カードはずっとマスターランク未満の高位ランク闘技者とばかり戦わされる。
「まぁ、やることは変わらないか」
そういって目を塞ぐ。
体の状態は良くはない。
教会の事件の後の手術以降は薬を貰う以外の処置はして貰っていない。
あれからディルクに気功術を学び、リーアさんから前貸して貰った技術書からルイン対抗魔法を練習している。
布団の上で休めといろんな人に言われるが、それで眠れるのならそういている。
布団に入ると考え込んでしまう。
子供達は今無事なのか? そう考えると今この場で寝ている自分の首を絞め殺したくなってしまう。
だから鍛錬を続けた。
剣を振り、倒れることで眠りにつく。
気功術を学びその先、ファトゥス流奥義に胸を馳せる。
ルイン対抗魔術を練習するたびに相手の手段を削り取るイメージを固め続ける。
そうやって今まで自分を保ってきた。
心はこの日を待っていた。
気持ちは高ぶるが、それでも失敗したらと臆病風に当日吹かれ始めた。
だから、早く始まってくれ。
「すいません、ロスト選手時間です」
扉を叩かれる音を聞き、目を開け立ち上がる。
言葉を述べず、案内をするスタッフに導かれてアリーナの裏側に着く。
そして入場口、名前を呼ばれ中に入る。
外の日差しに、対面から自分と同じ様に入ってくる槍使いの男性。
金髪の18歳くらいか。
体つきは悪くない、武器の状態も、ただ相手さんの表情には焦りが見える。
そして位置に着く。
互いの距離は5メートル程。
一歩では届かない、絶妙な距離。
しかし現代ではレガリアがあれば話しは別と追加の文言が出る。
「両者、用意始め」
実況者の声。
剣を握り直し目の前の相手を観察。
そこで思い出した、剣を警備員の人に返してなかったなと。
そんな不順な考えを貫くように、一歩で相手の槍使いは距離を詰めた。
勢いを活かした真っ直ぐの突き。
突きを鞘で逸らす。
穂先を抜け胴金が鞘を擦る。
そのまま槍使いの男性は俺の背後を取ると折り返すように再び穂先を前に突撃。
「なるほどフェアは鼻からなしか」
俺の怪我の状態は運営を通して伝わっているということか。
剣と槍、間合い有利を使った戦い方じゃない。
前面、後面、出来るだけ俺に足を使わせてミスを待つ。
完治していない足を狙っている、だが俺が完治していなくてもこの戦い方は目の前の槍使いには合っている。
彼は雷を全身に纏い高速移動を可能にしている。
スタイルとしては一撃離脱の戦法が最も合っている。
俺もその方法で全身を強化しようとした経験はある。
だが俺にはそれが出来ない。
魔力が足りなかったのだ。
だから俺の使う雷の肉体強化術は体の神経信号を強化する事と筋肉そのものを俺が手動で動かすこの2つ。
本当に闘技者には凄い人が集まっている。
よかった油断できそうになくて、此処がゴールじゃないから。
俺のゴールは子供達を救う所だから。
「くっそ」
槍使いは焦っているようだ。
何度も槍で突入しているがそれら全てが躱され、いなされている。
そして俺の表情は至って冷静、槍使いの男性はきっとこのままでは自分の方が先にばててしまう、そう考えているのだろう、だが実際は違う。
俺も出せる手はない、正直付いていくだけで手一杯だ。
前面背面、側面含めた目の追いつかないほどの速さ、あくまで防御に集中しているからこそ防げている。
それに今も足の傷が開かないか結構来にしながら戦っているのだ、レガリアの有無も考えると体力切れは俺の方が絶対に早い。
でも顔に出さない、それが相手を追い詰めることを理解している。
チャンスは1度、だが今のままでは机上の空論。
剣を1度鞘に納抱きしめる。
最近集中力が増している気がしているがやることは変わらない。
だが今までよりも先が見える。
上があることは理解していた、でも決して届かない壁みたいなものがずっとそれを封じていた。
今ならその壁を超えられる。
槍使いの男性は下がる。
その距離は試合を開始した時の俺と彼のアリーナでの待機場所と同じくらい。
違うのは槍使いの意識だろうか。
彼は今捨て身となった。
雷を纏い制御できる全力を込め、突撃。
俺の体の芯を狙った防御無視の突撃、その攻撃は本来人に放たれるものじゃない。
城壁を守る門を正面から打ち破るのもだ、それを受けては俺もただじゃ済まない。
だが無傷で防ぐ手段など鼻から存在はしない、今までも紙一重で回避していたのにさらに速度が上がってはそれも難しい。
そしてその捨て身の一撃を足が踏ん張れない今の俺では真正面からでは受けられない。
だから当たる直前後ろに自分から飛ぶ。
雷と同化した言えるその一撃、いくら衝撃を自分から逃がしたとはいえアリーナの壁まで吹き飛ばされる
。
この結果は当たり前だ、それだけ強い相手だ。
「これで決める」
そう言って再び獣ように姿勢を下げ、捨て身の一撃を槍使い敢行しようとしている。
槍使いも限界だろう。
足が震え、息も荒く、さっきほど発した声はどこか絞り出すような声だ。
槍使いが考えられる一番勝率の高い手段をリスクを理解した上でやってくる。
実際は持久戦が一番勝率が高いが俺の焦りのない表情がそれをさせなかった。
だからといってこの方法が悪手かというとそうでもない。
この槍使いは俺が最も逆転しづらい戦いをしているからだ。
力のゴリ押し、搦手が得意なタイプの俺からしたら最もやられたくない方法。
普段なら絶対に勝てない相手、だが今の自分なら普段届かない壁の先に手が届く今なら。
「食らいつけるか? いや自分に期待するしかないか」
こちらも抱いていた剣の持ち手を掴み抜刀術で迎え撃つがそのフォームは独特だ。
持ち手の部分は額の位置に近い、まるで祈るような格好だ。
不格好な抜刀術、手袋越しに伝わる持ち手の部分が手とより密接になる感触。
そして槍使いが身体全体を引き絞り、そして突撃。
雷を纏い、瞬き1度の時間で俺に直撃する。
そんな僅かな時間を俺もまた駆け抜けた。
久しぶりの感覚だ、王都で人攫いにあったミーシャを助けたあの時、俺に向かってきた馬車を両断した時の感覚。
剣を振り、鞘に納める。
それと同時に後方の槍使いに変化が起きる。
穂先の先端が割れ、その切り込みは胴金に続いていく。
そして槍使いの体にまで伸びていった。
バサリと落ちる音。
それを見ずに俺は自分が入場したアリーナの入口とは逆、槍使いが入場した場所から出た。
俺の入ってきたアリーナの入口の方には槍使いがいた、そこを通るのは相手を侮辱していると考えたからだ。
命の心配はないだろう。
ここは闘技場、結界も貼ってあるしそういう意味では安全な場所だ。
俺がアリーナから姿を消して数秒後背中かから大きな歓声が聞こえる。
普段なら跳ねるほどに喜んでいたのだろう。
しかし今はそんな気分じゃない。
俺は子供達を救うためにここにいる。
楽しんではいけない、緩んではいけない、それこそが確実性を俺から奪ってしまう。
だが剣をだけば集中力が増すそれはわかっていた。
ある意味ドーピングに近いかもしれないが試合前から抱いていれば試合開始直後に最高の一刀を触れるのではないか? それは確かな収穫と言えた。
拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。
また読みに来てくだされば大変うれしいです。
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