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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
70/136

悪夢までの前日譚1

 明日の更新はお休みか、ものすごい短文になるかも知れないです。

 少々家庭の事情が絡んでしまって、本当に申し訳ないですm(__)m


 それと最近文が荒くなっているのは自分でも把握しています、これから気おつけていこうと思うので見守っていただけるとありがたいです。m(__)m

 

 僕があの孤児院にたどり付いたのはある依頼が来たからだ。 

 僕らがアンタレスに居る時に泊まっていた宿屋ハナダイ、その受付にある荷物が届けられた。


「おう、お客さんあんたに荷物が届いてるよ」


 そういって受付のおじさんから受け渡されたのは一枚の封筒とメモ。

 内容は……。


「旧市街の教会に住んでいるクラリスという人物にこの手紙を渡してくれ。クラリスという人物が手紙の受取を拒否をしたなら彼女と共に居るはずのターニャ司祭へ……つまり雑用だね」


 余程の大物か?

 郵送サービスを使わずに冒険者に手渡す。

 そのクラリスさんへ自分たちは貴方の為なら人員を惜しまないというアピールのつもりかだろう。

 僕のような特殊ランクを使っている時点で虚勢以外の何ものでもないが。

 元々その孤児院に行く予定ではあった。


「本当は私も一緒に行くべきなんだよね」

「しょうないよ、クレアさんは今はダンジョンに潜っているんだから」


 クレアさんと朝食を一緒に取る時にこの話しを切り出した。

 だが一緒に行くわけにはいかない。

 なんせアンタレスの冒険者支部と旧市街は真反対の位置にある。

 少し申し訳無さそうに笑うクレアさんを首を振り大丈夫だと伝える。

 朝早く宿屋を出て夜遅くに返ってくるクレアさんには大きな負担となる。

 それに今の彼女は新しい一歩を歩みだしたばかりだ。


 彼女は今変わろうとしている。

 今まで人と深い関係を拒絶していた彼女が自ら魔眼の事を話した。

 もちろん信頼できる相手のみではあるが彼女自身から動いたということは何かしらの心境の変化があったと考えられる。

 自分自身を変えるきっかけをクレアさんは見つけたようだが残念だがそれが何だったのか僕にはわからない。

 停滞している僕だからこそ今の彼女は眩しくて応援したくなる。

 僕に出来ることは少ない、せめて雑事は出来るだけ僕がやろうと心に決めていた。


「ロストも無理してませんよね」

「大丈夫、怪我をしても死なない事だけが取り柄だから」

「待ってますからね、相談」

「今はないからね、相談」


 互いに顔を合わせクッスと笑い合い僕らは再び別れた。



 旧市街はある意味正しい都市像が見える。

 このアンタレスの基本営業形態は屋台。

 むしろお店を構える方が珍しい、いや儲からない売り方だ。

 アンタレスの商売人の殆どは闘技場を見に来る外からのお客さんがターゲット。

 しかしその闘技場の経営はともかく領が管理する施設。

 だからこそ領はその近くに店を構える店舗を厳重に選ぶ。

 選ばれる店の殆どが接待用の高級店、それ以外の店は許可証を出された屋台。

 このアンタレスで店を構えるということは外からの売上を捨てアンタレスに住んでいる住民向けの商売に限定される。

 そういう意味でアンタレスに住む人々を見れる正しい住民像が旧市街というわけだ。

 

 ここアンタレスに来てまだ数日だが屋台ではなくお店が並んでいる光景は王都の貧民街に似ており懐かしさを覚えてしまった。


「ロベルト・どうしてるかな」

「モッグ」


 従魔を方に乗せ、僕は旧市街を探索した。

 むしろ探索が目当てと言っても良い。

 手紙を届けるのが主な目的とはいえ息抜きも大切なのだ。

 数件武器屋をモグと共に巡り互いにガラスへ顔を押し付ける。

 出来の悪さにがっかりしたりふと気になった道具屋に入り、紐を回すことで音がなるた鳥笛を見上げに買ってみる。

 そんな直感が指差す方へと歩いて旧市街をくまなく遊び尽くす。


 ただそんな楽しい時間は終わりを告げる、1つのとても重要な問題が発生したのだ。

 そう、宛もなく彷徨っていた僕らは迷子になった。

 お腹も減り、遂に僕のお腹からくぅ〜〜 という可愛らしい音がなる。

 

「ぐっぐ」

「何モグ?」


 僕の肩を激しく叩く相棒に力ない声を返す。

 するとモグは首を伸ばし、鼻を激しく動かす。

 僕もそれを真似し鼻を動かしていると左の方からいい匂いがするのだ。

 お金はある。

 元々シリウスで働いていた時の貯金はかなりの額がありアンタレスに来る前にだいぶ卸してきた。


「ありがとうモグ、行くか」

「モッグ」


 相棒もお腹が空いてたのだろう。

 肩で飛び跳ねるモグを一度腰袋の横に併設されている巣に戻し、匂いを決して逃さぬよう屋根での移動を選択、そしてたどり着いたのが。


「パン屋ピースか、でもどうするモグ」


 時刻は11:00時頃、込み始めの時間ではあるが既に店の外まで列が出来ている。

 そして今悩んでいる間にも3人ほどが新たに列へと追加された。

 

「ま、救世主さまの顔くらい拝まないとね」


 僕は急いで列に並ぶ。

 この店に来たことが吉兆の印だった。

 屋根に飛び乗り、パンの匂いを追って走っていると右の方に目的地の教会が、ここのパン屋を少し奥に行くと、大通りが見えた。

 お腹も満たせ、迷子も解消ここで売上に貢献しないと罰が当たってしまう。


 店に入り、甘く香ばしい香りに浸されながら僕は人気だというクリームパンとコッペパンを中心に買い込み店を出る。

 屋根を走っている時に見つけた広場に足を運び昼食とした。

 魔物が何を食べてはダメか分からなかったため、コッペパンを買ってみたがモグが一番最初に手を出したのはクリームパンだった。

 小さな手と口で自分と同じくらいの大きさのパンを2つほど、ぺろりとお腹に入れモグは巣に戻っていった。

 僕はコッペパンを一つお腹に入れた後用事を済ませるために教会に足を運ぶ。



 教会ってのはどんな場所でもそれなりに敷地を使う物だ。

 それこそ村人が10人以下の集落でも存在こそすれば一軒屋ほどの大きさは確約される。

 そう考えるとこの教会はアンタレスという都市にある事を考えれば小さい物だとも思う。


 このベルディア大陸には2大宗教がある。

 女神を信仰するグローリア教と7大精霊を信仰する精霊教だ。

 僕の今いるアトラディア王国の国教はグローリア教だが別に精霊教を否定してはいない。

 というよりこの国は主義主張にあまりにも寛容過ぎるため現在進行形で問題が起こりそうになっている。

 僕が行ったことのあるシリウス、王都、アンタレスこの3つは土地の背景があってそれほど差別は見られないが東と北の都市の宗教観での争いはそれは酷い。


 そして今回僕が来た教会はグローリア教の教会だ。

 敷地に入り教会の扉を開け中に入ると、子供達が忙しなく動き回る落ち着かない教会だった。

 上から見た時に気付いたがこの教会の隣には孤児院があり敷地も裏で繋がっている。

 その関係で日中は子供達を教会で預かり教育を受けさせたりする。

 これは教会が地域への貢献をしているアピールであり孤児院側も教会から支援金を得るための手段。

 とにかくこの孤児院が経営に関してお金の心配がないのは安心だ。


 教会の扉を開け中に入る。

 まずは挨拶をと近場のシスターに声を掛ける事にした。


「すいません、一つお聞きしたいんですがここの責任者の方はいらっしゃいますか?」

「はい、私がここの司祭、ターニャと言います何か御用ですか?」


 僕に声を掛けられ振り抜いたシスターはとても綺麗な金髪、そして小柄な体格をしていた。

 それにしても若いと思う。

 外見や雰囲気的に16歳位かな、いや司祭と言うことを考えるともっと歳は上かな。

 どんなに小柄な女性であっても145センチ以下の身長の僕からしたら皆背が高いのだけどね。

 

「え、え〜と若いですね」

「はい、ありがとうございます」


 ニコニコと笑うターニャ司祭だが、その笑顔の裏に何故か威圧感を感じる。

 いや、この感じ歳の事か?

 とにかく何が地雷かはわからない。

 無駄な事は言わずに要件だけを伝えよう。


「あの、クラリスという方にギルドから手紙が」


 ジャケットから封筒を取り出し見せる。

 目の前の封筒をターニャ司祭に受け渡そうとした時に急に僕の背中から伸びた手が封筒をかっさらう。


「あ、それ私の手紙だね」


 手紙を奪った人物はおっとりとした声に僕の肩に掛かる少し薄い桃色の髪。

 目の前のターニャさんの目を細めた相手を非難しているような表情。

 しかしターニャさんの声の質からして激しい怒りではなく呆れの感情が強い。

 となる彼女が。

 

「クラリス、少し強引ですよ」

「いいじゃん、私の手紙なんだしね」


 後ろを向き僕が持っていた手紙を奪った女性をそこでようやく目にした。

 桃色の淡い髪だが目は眠そうに今にも閉じられていると勘違いされるほど細くしか空いておらず、少しふらつきながら教会に設置されている長椅子に寝転がる。

 背丈はターニャ司祭よりも少し高く、体のラインを隠すシスター服からでも胸の膨らみがわかるほどにスタイルがいい。


「あ〜〜あの親父の手紙か、今度はヘクター経由で送ってきたか」


 手紙の裏を見て宛先を確認したクラリスさんはどこか納得しながら封筒さえ開けず手紙を破き出した。      

  ちなみにヘクターとは家の本部長の名前だ。

 その事に驚きながらもクラリスさんの言ったまたとい言葉に引っかかりを覚える。


「あ」

「ちょっと、クラリス、せめて持ってきた人がいる前で破るのはやめなさい。失礼ですよ」

「だって、中身だって変わらいよ……きっと」

「手紙を破った事は怒ってませんってクラリス聞いてますか!!」

 

 そんな自由過ぎるクラリスさんの元へと足音を立てながらターニャ司祭は近づいていき叱りつけているが、クラリスさんは耳を塞ぎ背中を丸めると鼻歌を歌いだす。

 クラリスさんに何を言っても無駄だと悟ったのかターニャさんは諦め今度は僕の方に歩いてくる。

 そしてゆっくり腰を曲げ僕に謝罪した。


「すいません、クラリスが」

「いえいえ、大丈夫です、僕はこれで」


 正直僕は手紙を届けるように言われただけで目の前で手紙を破られてもなんにも思わない。

 ただ謝罪されたのなら受け入れないとターニャさんが納得できないだろう。

 クラリスさんの行動には驚いたが、元々の本部からの指令が手紙がクラリスさんの元に渡ったったかの確認をしろとの事だったので予め手紙の運命がこうなることは本部長も予想出来ていたのだろう。

 なら僕のお使いはこれで完了だ。


 教会の建物から外に出た時にみょうに小腹が空いていたので残していたコッペパンを口にする。

 その時キューというお腹の音がなった。

 僕の音ではない、目線下げると僕の胸位の位置に黒髪の男の子がいた。


「……」

「えっと」


 黒髪の少年は何も言わない。

 だが目で僕のパンが欲しいとも訴えてもいない、ただ僕を見上げているだけだ。

 少年の無垢な目。

 ただじっと僕を見続けるその気まずさに負け少年にコッペパン半分にして手渡した。


「……」

「いいよ、君のだから」


 黒髪の少年はコッペパンを受け取るが決して食べようとしない。

 頭をできるだけそっと左手で撫で、君のだと言って上げると右手で持っていたパンを無表情で口にしだした。


 (何かこう、いいな)


 僕は子供の味方であるそれは僕自身が掲げている己のルールだ。

 シリウスで囚われている人達が子供だったから立ち上がれた。

 自分と同年代でそして明らかに自分より弱い存在だったからだ僕は再び立ち上がれたし自分にほんの少し期待できた、恥ずかしくて情けない話だがそれが真実だ。

 でも子供達を救うという非日常以外で今まで接することはなかった。

 シリウスの孤児達もライラにいた子も、事件以降会っていない。

 だから落ち着いて子供と接する事がとても新鮮で自分がやりたい、子供達を守ることそれを手の平で感じられて自然とやる気が貰える。


「レクトに気に入られたね、珍しい」

「脅かさないでくださいよクラリスさん」


 寝転がっていた筈の彼女が僕の後ろに音も無く立っていた。

 しかし驚いたのは僕だけで、パンを食べている少年、レクトの無表情は変わらない。

 唯一変化は雰囲気だけだがパンが食べれて幸せそうな所だ。

 そんなレクトをクラリスさんは優しそうな目で見ている。


「レクトはさ、喋れないんだ。親に酷い虐待を受けててね、ここの孤児院でも懐いているのは私だけ。もしよければまたレクトの顔を見に来て上げて欲しいな」

「……」


 クラリスさんは目を見開き綺麗なアメジストの瞳に僕を捉え優しく微笑む。

 綺麗で誰もを包む優しそうな笑み。

 だからなのだろう。

 今のクラリスさんを見るとどこか親近感を覚える。

 

 だが彼女がきっかけで僕が孤児院に来る決心をしたわけではない。

 話しを聞いていたレクトもパンを右手で持ちながら左手で僕の服その裾を掴み、先程と同じ様に僕の顔をじっと見つめる。

 その表情に再び負け。


「わかった。わかったから。これからも来るから」

「……」

「よかったねレクト、まぁ少年今から大変だろうけど頑張て〜〜」

「?」


 手を振りクラリスさんは教会の中に戻ってしまう。

 彼女の言った今からその真意がわからずにレクトに目を向けるがレクトはすでにパンの方に意識が向いている。

 そんな時にレクトとは違う。

 子供の達の声が聞こえてきた。


「あ、レクトさっき見てたぞ。お前だけパンを貰ってずるい」

「そうだ、そうだ」


 気づくと数十人近い少年少女が僕を囲んでいた。

 レクトは僕の背中に隠れ、追及をかわそうとしているが流石に分が悪いか。

 彼を悪者にさせないように。


「じゃぁ、皆一人一個ずつね、ここの孤児院にいるお友達の数を教えてくれないかな?」

「えっとね29人だったと思う」

「わかったよ、少し待ってて」


 僕はそう言うと宙を蹴り屋根に飛び乗り急いで先程のパン屋の元に向かう。

 そしてレクトを除いた28個のパンを買い、急いで教会に戻った。

 10分も掛かっていなかったと思うが、どこの噂も広がるのが早いものだ。

 教会の入り口には子供が既に並んでおり一人一人に配っていった。

 お金の問題はない。

 最悪師匠の遺産に手をつければ問題ないし、僕がシリウス時代に稼いだ金額があれば余裕で一年位は続けられる。

 レクトに会いに行く為だけなら数日に一回教会に行けばいいと考えていた。

 しかしほぼ毎日僕が教会に行く事になったのは男たちの目線が原因だ。

 空を蹴る、ある意味それは男の子の憧れ。

 そんな輝かしい者を見るような視線で「明日も来てね」と多くの子供達に言われれば毎日僕は教会にいかねばならない。

 選択肢はない、こうして僕の新しい習慣が決まったのだった。



「ちょっといいですか?」

「はい」


 そして孤児院に通いだして2日後。

 僕の孤児院へのパンのお届けは有名になっているらしくパン屋ピースの店長さんが声を掛けてきた。


「もしよければ孤児院に届けるパンを次から出来立てを持って行って貰えませんか?」

「ありがたいですけど、いいんですか?」


 僕が来る時刻が昼の13:00〜14:00頃、ちょうどピークが終わって落ち着いた頃だ。

 時間的には問題ないだろうがそこまでして貰っていいのだろうか?


「私、あそこの孤児院出身なんです。だから少しでも恩返しがしたい、でも私の経済能力じゃ流石に毎日パンの差し入れをすることは出来ないので」

「いえ、みんな喜びますよ、ありがとうございます」


 何事も出来立てが一番美味しい。

 それを食べられるなんて幸せの一つだ、謙遜しているが何かを作るという作業が大変であることには変わらない。


 ありがたい申し出を受け僕と店長は時間を決める。

 明日から出来立てのパンをあの子達に渡すことができる。

 ただ出来立てを貰えるならできるだけ早く届けたい。

 ならこれから屋根のルートを使うことになるだろう、パンの入った2つの袋を片腕ずつ抱え込み下見も兼ねて登り今日は屋根の上を進み教会に向かう。


 そしてこ孤児院に通いだして1週間がたったある日、その光景を見て僕は見て焦る。


「レクト」


 教会を見渡せる位置まで来ると柄の悪い大人にレクトが絡まれているのが見えた、しかも教会の敷地内でだ。

 レクトに罪はないだろう。

 家の中にいたら大人が殴り込んで来たようなものだ。

 いつもは減速するために使う空中での蹴りを加速に使いレクトと大人たちの間に割り込む。


「何やってるんだ。ここは教会だぞ」

「ああ!! 何だガキ、俺達はもうすぐここの土地の主になるんだ、何してもいいだろ」


 パンを後ろに置き、レクトを僕の背中に隠す。

 そして僕は筒から剣を取り出し刃は抜かず男たちと相対するが。


(しまった、足が)


 先程のレクトとこの男たちとの間にいち早く割り込みたくて着地を考えない加速をした事で足を痛めてしまた。

 後悔はしていないし、騒ぎを立てれば後ろの教会の人達が出てきてくれるだろう。


「どうせ、オジサンら地上げ屋でしょ。宗教が関係した土地は金で変えないからって子供に嫌がらせとか本当に労苦でもない」

「なんだと」

「よせ、黙らせれば済む話だ」


 男たちは拳にメリケンサックを付け、足を広げ構える。

 構えを見ればわかるが腕前は大したことはない。

 問題は僕、足を使い動き回るスタイルの僕に足の負傷はかなりキツイ、であるならば。

 剣を胸に抱きかかえる。

 相手が拳なら間合いの広さを活かすのみ。

 攻撃にも防御にも見えない僕の構え、だが男たちは何故か下がる。

 

「おいビビるな、行くぞ」

「ああ」


 二人して僕に殴り掛かる。

 一人は問題なく倒せるがもう一人からの一撃は覚悟しなくてはならない。

 丹田に力を込め男たちを迎え撃つ。

 そんな時、教会の扉が僕らの目の前に吹き飛んできた。

 木製の扉は歪み、正直素手で人がしたとは思いたくない無惨な姿。


「え」

「何だ、なんだよ」


 扉を見て腰が引けた男達はすぐにその場から飛び上がり走り去っていった。

 ほんの少し肩から力を抜き、不足のことがあっても対応できるようにレクトを呼ぶ。

 

「レクトこっちにおいで」

「……」

 

 僕の指示にレクトは走って従う。

 その数秒後、教会の入り口から人影が大きく飛び上がり目の前に着地。

 飛んで来たのは見覚えがある緑髪の少女だった。


「ミリアムさん?」

「あれ、えっと、えっと、えっと」

「ロストです」

「そうそれ、ごめんね、お騒がせして」


 列車の一室で同居した程度の関係だ、覚えていなくてもしょうがない。

 まだ顔が出てきたのは恐らく仲良くなったクレアさんの連れだからだろう。

 だが、今気になるのは彼女がどうして教会の扉から吹き飛ばされてきたのかだ。


「ちょっと勧誘しくじっちゃった」

「ミリアム、アンタは此処を出ていけ」


 そう言って現れたのは、気だるさを決して脱がない女であったクラリスさんだった。

 教会の入り口から一歩で数十段の階段を飛び越え、着地の際に大きなドンという音がなる。

 普通は今の彼女の姿に畏怖、恐怖を覚える。

 少し変わった奴なら尊敬や憧れかも知れない、でも僕がクラリスさんを見て思ったことはやはりレクトに会いに来てくれと僕にお願いしていた時と同じ猛烈な既視感。


 過去の折れてしまった自分と同じ匂いがした。


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