何かを告げる予感
「じゃ、一旦ここでお別れだね。クレアさんモグの事もお願いします」
「はい、ロストも頑張ってください」
クレアさんとモグとはここから別行動となる。
彼女はグラントさんやリーザさんと共に冒険者として活動しギルドの人々に理解と協力を仰ぎながら実績と信頼を内部から作っていく。
そしてモグもだが、ダンジョンとはいうなれば土塊の洞窟だ。
まぁ違う場所も所々存在するらしいが、おおよそが洞窟。
だからモグラの魔物であるモグが役に立つ。
土の中の探知や魔法、クレアさんの手助けをしてくれるだろう。
「とはいえ部屋は隣だし、困ったことがあったら言ってください」
「はい、私は相談してもロストは人に打ち明けなさそうですから、私に相談してくれる事は期待してますよ」
「相談事はないに越したことはなと思うよ」
冗談です、と人差し指を伸ばし口元に持っていき、クレアさんはウインクしながらそう言った。
魔眼を持つクレアさんが問題を期待してしまうと、実現しそうで少し怖かったがともかく僕らのアンタレスでの生活をそれぞれ歩みだした。
*
先程クレアさんとそんな話しをしていた僕だがとある場所に来ていた。
ある意味有名な場所ではあるが名称はない。
アンタレスやシリウスなどの大きな都市は魔物に対してのその地区の最終防衛ラインになる。
そのため街そのものをぐるりと囲む大きな壁が存在する。
僕はその壁の一角、俗称叫びの崖に来ていた。
この場所は殆どの都市に存在しその目的は簡単だ、不満を大声で吐き出すこと。
「「レガリアのバカヤロー」」
2人分の叫び声が響き渡る。
さらに偶然が重なり何故か全く同じ言葉、同じタイミング。
他人の不満に反応するのはこの場でマナー不足なのは承知だがそれでも声の主に目を向けてしまう。
「えっと」
「おそろいだね」
くっすりと笑う銀髪の少女。
先程闘技場のVIPルームで見た試合に出場していたアリサという少女がそこにいた。
「ちょっと話す?」
「まぁ……はい」
彼女の誘いに断ることが出来ずにそのまま叫びの崖を降りて近場にあったベンチに座った。
少し、ほんの少しだが興味があった。
彼女程成功している闘技者が何故レガリアに不満を持っているか?
不満を思っている事柄は予想が付いている。
そしてその不満は恐らく僕とは同じだが理由が違うはずだ。
「それはそうと君さっきVIPルームにいたよね」
「まぁ……支配人は僕の師匠の昔からの知り合いらしくて、その時の昔話をしていたんですよ」
あえてここは嘘をつかない話しをする。
理由は彼女が闘技者だからだ。
真っ当な手段で進んできた者が裏道をしようとする人間の事を快く思うはずがない。
ある意味そういう配慮であったが。
「てっきり支配人に闘技者にしてくれと直談判しようとしてるのかと思った」
つまりアリサさんは支配人の回し者?
身構えはしない、表情、感情全てを隠しただ笑みを浮かべる。
ただ心臓の動きが早くなることだけは止められない。
そして恐る恐るその事をアリサさんに聞いてみる。
「どうしてそんな事を?」
「ああ、勘違いしないでね。正直よくある話しだから、特に闘技者の認定試験が受けられないこの時期は」
「怒らないんですね」
「怒らないよ。だって闘技者になっただけなんだから。そこから試合に勝てるかは本人次第、試合中の過度な忖度とか試合前の妨害工作は許さないけどね」
アリサさんは鋭い目つきで空を睨む。
彼女もそういう困難を乗り越えて来たのだろう。
だがその話しを聞くとやはり自分の悩み事がちっぽけに思える。
ちっぽけとい言っては語弊がある。
その悩みはこれからも僕の目の前に降りかかり続ける現実。
力で何かを守りたいならこの問題はこれからも乗乗り越え続けていかなければいけない。
常にある壁、だからこそちっぽけな悩みだ、ちっぽけな悩みにしなければいけない。
「僕の相談を聞いて貰ってもいいですか?」
「いいよ。折角だしね」
「ありがとうございます。確かに僕はアリサさんが言う通り支配人に闘技者にしてくれと頼みました」
「やっぱり」
アリサさんはこちらを向き表情や声のトーンをほぼ一切変えずに指を鳴らす。
感情を乗せるのが下手な人なのだろう。
だが彼女自身が怒りの感情を本当に持っていない事がわかる。
だからこそ話しやすい。
「僕は支配人さんから返答を貰ってません。支配人さんからはただ1つ、今年から闘技場はレガリアの使用が許可されたとだけ話されました。その話しを聞いて僕は支配人さんに先程の闘技者になりたいっていうお話の返事を保留にしてもらいました」
「どうしてまた保留に?」
「僕は短時間で実績を稼ぐ必要があったんです。ただそれが難しくなったから」
「違うでしょ」
「え」
アリサさんはその時初めて僕をしっかりと見た。
今までは暇つぶしと興味のみ。
耳と口こそ貸すが、頭では別の事を考え、目は半目で他人事。
今はそう彼女自身が僕の本心それを聞きたがっているようで。
僕の目を本心を逃さぬように飛びかかる勢いで見つめている。
「大丈夫、私も同じ気持ちだから」
「うん、本心はきっと憧れが落胆に変わったから」
闘技場は僕に取って憧れの1つだ。
理由は簡単だ。
レガリアを使わずに戦う。
それは僕に取って始めて生まれる平等な戦い、いやもしかしたら自分を少しは認めることができる機会になると勝手に期待していたのだろう。
本来手が届かない、誰かと対等な戦いができる場。
それが突如なくなって戸惑い、だからこそ支配人さんという本来捕まえることが難しい重役との機会を溝に捨てた。
僕は戸惑いを理由に逃げてしまった。
そんな僕とは対象的にアリサさんはまるで同士を見つけたかのように目を輝かせていた。
「そう、私達も同じ。私達闘技者は皆レガリアを使わないことに誇りを持っている。例えそれをお遊びと嘲る人間がいても構わない。ただ自分が持つ技術のみで戦う。その事が誇りだった。ごめん私の話しも聞いてくれる?」
「はい、大丈夫ですよ」
先程の嬉しオスナ表情とは一変アリサさんは険しい顔をしていた。
唇を歪め、眉間を寄せる。
そして背中を丸め両手を組んみおでこに付ける。
「私は今とても大切な時期なんだ。闘技者にはランクがある。その中でマスターランクはトッププロと称される最高ランク。その最高ランクにもう少しで私は成ることが出来る。だからこそ悩んでいるんだ、レガリアを使うかどうか。レガリアの使用が許されたら殆どの人が使うだろう。誇りとか言ってたけど殆どの闘技者は使うだろうね、相手が使うから自分も使うしかないっていう理由で。私も心境だけなら使いたくない。でも私の周りの人は皆手強い。相手がレガリアを使ったとしたら私もレガリアを使わないととてもじゃないけど試合に勝てない。そんな不平等で私の夢が遠ざかってしまうのなら私は……ごめんね、私は」
俯きながら泣き始めたアリサさん。
僕は誰かの思い入れがあるそういった話しは大好きだ。
だから思い入れがあるからこそ、その思い入れの強さで苦しんでいるのを見るが嫌だ。
彼女を放っておけず、考えずに言葉を吐き出してしまう。
「使えばいいじゃないですかレガリア」
「え」
「使った上で相手に勝てばいい。相手と対等な条件なら使わない理由はない。違いますか?」
「えっと、そうですけど」
「それにレガリアを使わない元の形態に戻したいならアリサさん、貴方が試合に勝ち上に進み発言力をもつしかない、それだけの熱意があればきっと出来る」
それだけ言うと僕はベンチを立ち上がり宿屋に向けて歩き出す。
別に恥ずかしかっただけだ。
僕自身の思いの弱さが。
僕はアリサさんのように闘技場にそれほど強い思い入れがない、最悪レガリアを使用しない環境であれば闘技場でなくてもいいのだ。
でもきっとアリサさんは闘技場じゃないと駄目なんだと思う。
そんな人の前で僕自身が闘技者になりたいと話してしまった。
笑いもの以外のないものでもない。
「待って下さい」
アリサさんが背中から声を掛けてくる。
先程の悩んでいる声ではない、何か決心した言葉。
振り返ると彼女は僕にどこから持ち出したかわからない赤色の剣を向ける。
「すぅ、はぁ、よし私からの貴方の答え。貴方は闘技者に成るべきだと思う。理由は憧れ。それだけでいい。今の私に取って正しい憧れを闘技者じゃない人が持っていてくれるそれだけで頑張る理由になるから。
それにありがとう。貴方のおかげで覚悟が決まった。私はレガリアを使って戦い抜く、そして必ずレガリアの使用不可のルールに戻して見せる」
「そっか応援してるよ」
「それと、私待ってるから貴方が闘技者になるのを、そして私と試合をする時を」
「考えてみるよ」
僕とアリサさんは互いに笑顔をむけ、そのまま何事もなかったかのようにわかれた。
彼女にああは言われたが僕は闘技者になるつもりはなかった。
それは覚悟が足りないからだ。
誰かの夢となる場、その意味を理解してなかった。
今のままの実績を作りアンタレスの支部の冒険者に認めさせる。
この程度の弱い思いではレガリア使用可能という環境もあわさり埋もれて終わる。
なら今後どうするか?
その答えはこれから探すしかない。
拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。
また読みに来てくだされば大変うれしいです。
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