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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
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それはほんの少し先のお話


 支配人ハイドラはある取引を控えていた。

 その取引とはこの闘技場の未来が掛かっている程重要な物。

 VIPルームの先にその人物がいる。

 蝶ネクタイを締め直し、己が毎晩丹精に手入れをしているヒゲを確認し心を落ち着ける。

 後はこれだけ、この会談さえ上手く成功させれば全て最善を尽くしたと言える。

 そして扉を開ける。


 部屋の中には美しい金髪の少女が椅子に腰を掛けている。

 使用人もそばに控え、いかにも彼女が今回の商談相手だと思えるが実際の所彼女は代理。

 本来の商談相手は彼女の父親だ。

 そして父親本人が来ていないということは私との商談その答えはすでに決まっているということ。


 ここで話さねばならないだろう。

 今回の商談その意味を。


 アンタレスの大闘技場は昔経営難だった。

 工業が悪かったということはない。

 問題なのは26年前に起きたダンジョンモンスターの氾濫が全ての原因だ。

 アンタレス大闘技場はダンジョンと繋がっている。

 大闘技場の建設にはダンジョンが出来るきっかけと密接に繋がっているため関係を切ろうとして切れるものではない。

 そしてここの問題点はモンスターの氾濫のせいで数年間大闘技場は工業を行うことが出来なかった事だ。

 多くの富を生み出すこの言葉には裏がある。

 そう維持費が莫大という裏話が。

 その際にできた莫大な借金。

 もちろんアンタレスの領主からも補助金は出てたが殆ど意味のなさない額。

 正直アンタレスは闘技場を中心に動いていた都市だ。

 つまるところ闘技場が動いていいなければ金が回らない。

 いや正確にはもう一箇所アンタレスの領内にあるがそこは金を生み出す場所ではある以上に技術を生み出す場所。

 それでもその都市のお陰でなんとかアンタレスという領は稼働できていた。


 そして莫大な負債を生み続けるアンタレス大闘技場は苦渋の決断をした。

 大陸中部に存在する企業連という組織、その中の1つゴルドラ一派に援助を求めた。

 元々お金を借りるだけのつもりであった。

 しかし彼らが求めたのは闘技場の経営権を半分寄越せという物だった。

 残念ながら闘技場側に選択権はその代わりとある契約をしその話しを呑んだ。

 

 数年後闘技場は再開し恐ろしい勢いで金を稼いだ。

 勘違いしないで欲しい。

 私達は別に支援がもう必要ないからゴルドラ一派を追い出そうとしているわけではない。


 現在闘技場はスタッフをそのままに1年毎に私達闘技場側とゴルドラ一派が持ち代わりで経営をしている。

 これは互いに経営時期を合わせない方が現場が混乱しないですむという先代ゴルドラ一派の当主と話し合った結果だ。

 経営時期を合わせないと言ってもゴルドラ一派の先代がご存命の時は餅は餅屋がやるべきだと私達とも良い協力関係で闘技場を経営していた。

 それは協力関係というよりはアンタレスの大闘技場を盛り上げる同士という言葉のほうが当時は正しかっただろう。

 先代は私達に足りない時代に取り残されないアイディアを多数授けてくれた。

 互いに互いを尊重し、ゴルドラ一派の先代もアンタレスの大闘技場の熱に呑まれるように時間を作ってはお忍びでよくいらっしゃっていた。

 だが先代が死に当主が変わると問題が起きる。

 私達闘技場側を自分たちの経営時期になると完全に追い出した。

 正直言うがまだこれだけならよかった。

 元々がそういう話し合いの元にゴルドラ一派から出資して貰ったのだこちらから文句は言えない。

 問題なのは私達が今まで作り上げてきた誇りある闘技場を穢し始めた事だ。

 ゴルドラ一派の経営年は八百長が横行し多くの魅力的な闘技者が他所の闘技場に行ってしまう。

 それだけではない。

 観客を悪く言うつもりはないが素人ですらも気付く程にある一定の闘技者を優遇。

 例を上げるとしたら、武器の持ち込み不可、アリーナに不規則で散らばっている武器を拾いそれを利用して戦う試合形式が闘技場には存在した。

 その武器の配置がゴルドラ一派が優遇する闘技者絶対有利で置かれている事があった。

 有利とはどういった内容か? ゴルドラ一派が優遇する闘技者の近くには闘技場で保管されている最高クラスの武器且つ得意な獲物を。

 もう一人の闘技者の周囲にはボロボロの武器しか存在せず、しかも剣などを主な獲物としていたその闘技者の近場には弓などの触ったことのない獲物ばかり。

 

 だからずっと機を待っていた。

 最高の準備が出来たこの瞬間を。

 


「おまたせしてすいませんソフィア様」

「別に待ってないから大丈夫だよ、時間が勿体ないから父様の返答だけさっさと伝えていいかな?」

「はい、よろしくお願いします」


 今回の商談相手である彼企業連のお偉方の一人、ただしゴルドラ一派とは対立関係の方だ。

 しかしその娘の彼女もお飾りというわけではない。

 いくつもの企業を父とは関係ないところで持ち莫大な資産を持っている。

 いやある意味彼女は経済界で父以上に恐れられている。

 安全のマージンこそ取っているが彼女自身興味があることにその莫大な資産を注ぎ込む。 

 人であったり企業であったりそれこそ対象に統一性はない、ただ目に止まった物にひたすらに金をつぎ込む。

 そしてその対象が大コケしたせいで自身の下にいる会社以外の資産を全て失ったり、はたまた未曾有の大成功を起こしたりする。

 その読めなさ加減から経済界では破壊者と言われる。


 彼女と実際に相対していると理解できる。

 彼女は遊んでいるだけだと。

 本当に自分の興味が持てるものがわからないからただ漠然とリスクを愉しむ。

 いい意味で言えば情熱的な人間、悪く言えば人をそして自分の深さを知らぬ浅すぎる若者。

 

「夢は眠っている時に見るものだ、と言ってたよ」

「ほう、それはどういう意味ですか?」

「お父さんの言った言葉の意味は私にもわかる。せめてゴルゴン一派との関係を切ってからそういう事は言って欲しいって事だよ。アンタレスの大闘技場の経営権、そんなほっとけば大金が入る事案、どこの愚か者が手放すのだろうかねって話し」

「で、話しはそこまでですか?」

「いや、一週間前に10年間止めていた話しを突如動かしのたですからゴルゴン一派と縁を切る方法があれば私が聞き、行けそうなら手を結んでこいと」

「なるほどありますよ。というか今それが叶いつつありますけどね」

「え?」


 ソフィアは私の言葉が信じられないとでも思っているのだろう。

 目を見開き私の表情や体の動きを何一つ見逃さぬように目を向ける。

 しかし彼女の表情から僅かに出た思考は困惑。

 僅かに目が泳ぐソフィアを眺めながら余裕を持って若者に与えられた試練、その経過を見つめ続ける。

 

「どうやら貴方は本当に知らなかったようですね、先代ゴルドラ一派当主と我々闘技場側が結んだとある契約を」

「待って今考える」

「答えを言ってしまっているようですが?」

「わかってるからちょっと待って」

「はい」


 考え込むソフィアを見てハイドラは相変わらず彼女の父が面倒くさい人間だと思っていた。

 何故ならハイドラはこの契約のことをすでに彼女の父に伝えているからだ。

 若者の悩む顔をニコニコしながら見つめる。

 そして2分程でソフィアは答えを見つけたのだろう。

 

「多分だけど闘技場側が指定した闘技者がこの時期に個人売上一位を記録すること?」

「間違ってないですが70点位でしょうか。正確には私に与えられた1度きり指定権、それを使って指名する新人闘技者がデビューした年限定且つこのダンジョンアタックの時期限定で個人売上一位を取ることです」

「何を言ってるんですかそんなの無理……いや今年からゴルドラ一派が追加したルールだと」

「ええ、今年からこの大闘技場ではレガリアの使用が許可されます」

「ならレガリアとの適合率が高ければ」

「でもそれでは面白くない」

「は?」


 令嬢に見合わぬ言葉遣い。

 正直彼女にはそちらの方が本性的にあっている気がするが、例えそれが本性でなくても皆同じ返答をしたのではないか?


「私達闘技場の未来を背負うのですからレガリアを使わない真の闘技者でなければ」


 この答えは半分本心、そしてもう半分が戦略だ。

 観客に永続的に興味を持って貰うには物語性が有効だ。

 そう今回なら。


「穢された伝統、蔓延る八百長。そんな中で現れた一人の闘技者が強敵と戦いながら勝ち進む。しかも穢さた我らの誇り、それを肯定するかの様にレガリアを使わない。断続的に興味を引く? そんな勿体ないことはしない。1度たりとも目を話させない。確実に個人成績一位は超える」

「はぁそれで勝てればですけどね。多分ですけどその指定した闘技者が試合に勝てばその試合の工業金があなた達の指定した闘技者に加算されるであってますか?」

「ええ」

 

 ソフィアの顔は呆れの色が強い。

 当たり前だろう。 

 レガリアを使う、それは今の戦闘に従事するものは当たり前の感性だ。

 いや使わないという選択肢が存在しないといった方が適切か。

 ソフィアからしたら父の言った夢の意味をようやく悟った気分だ。

 席を立ち、その場をソフィアは立ち去ろうとする。


「いいのですか?」

「何が? 無駄な事に時間を使うのは嫌いではないですけど、何にも時間を使わない事は嫌いです」

「いえ、そうではなくソフィア様の父上が言った言葉、貴方はここに確かめに来たのでしょう」

「いえ、だから」

「確かめればいいじゃないですか、今から始まりますよ()()()()()、私が選んだ勝てる闘技者の試合が」


 私の一言で防音であるはずのVIPルームにまで観客の声援が届く。

 その声に吸い寄せられるようにソフィアは窓に近づきアリーナを見つめる。


 そう彼のお陰で揃った。

 最後のピースは、数年前に見たあの少年だった。

 私が自慢だった闘技者達を一瞥しただけで見下した少年。

 そして私達が自分たちが愚かだったと納得させられたあの少年。


 だが彼が目覚めるのはもう少し先のお話。

 

 

 

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