チームよそ者
僕がクレアさんの元に走っている間にも戦況は変わる。
彼女は機械の化け物の攻撃を華麗に躱しているが、レガリアを失い普通の少女と大差ない身体能力となっている彼女に当然といえる限界がきた。
「あ」
「……」
クレアさんは後方へのバックステップをする際に足を滑らせその場で体勢を崩してしまう。
無防備な状態でその場に立ち止まる事となった彼女を機械の化け物は見逃さない。
躊躇が存在しない機械故に砲台を彼女に向けて放った・
狙いはほぼ完璧、砲弾が着弾した後の煙が晴れたとしても彼女の哀れな姿を目撃するだけだというこの状況。
機械の化け物が突如左に体を動かし装備されている大型銃を連射する。
先程の少女とは違う人影が煙の中から現れ地面をそして何も無い宙を一度蹴ることで距離を稼ぎ機械の化け物その間合いから離れる。
「クレアさん大丈夫?」
「ちょっと待ってください、すいませんちょっと気分が」
顔を青くし吐きそうな彼女を見て少し安心する。
気分を悪くしいるのは僕がバク転で敵の弾を回避した時に酔ったからだろう。
他人の予想できない激しい動きで酔ったのだろう、彼女を攻めることはできない。
逆にそれ以外の外傷は足を軽く挫いただけで他はなさそうだ。
とにかく間に合ってよかった。
「お待たせしました、大丈夫です」
「モグ、強度はいらない、横に広い壁を作って」
「モッグ」
話し合うにもまず相手からの視界を切らなければならない。
現に機械の化け物は僕らに銃口合わせ続けている。
恐らく室内の使用だったため攻撃範囲を絞っているのだろう。
モグの土魔法により部屋の横を遮る壁が生まれると、土の壁は己の自重を支え切れず機械の化け物の方へと倒れ始める。
「で、クレアさん足はどうですか?」
「すいません、挫いてしまってあの機械の攻撃を自力で捌くのは無理そうです」
「そうですかでは質問を変えます。あの機械を一撃で破壊する手段はありますか?」
クレアさんは一瞬自分の銃に目を向けた。
「あります、2分ほど時間をいただければですが……」
ハッキリとしない物言いに疑問が残る。
威力の問題か? いや彼女の言葉は後半になるにつれ小さくなっていった。
クレアさんはここが何処かは分からないがアンタレスの街中である事は理解しているだろう。
そして街中で考えなしに強力な一撃を放てば2次被害が起こる可能性がある、
それなら僕でも対処はしようはある。
「わかりました、2分後クレアさんの頭上にあの機械を放り込むので撃ち抜いちゃってください、それまで時間は稼ぐので」
「本当ですか、信じてますよ」
クレアさんの迷いのなくなった顔を見て、どうやら彼女の心配ごとは街への被害で合っているようだ。
それと同時にクレアさんは寂しそうな、別れを確信したような笑みを向ける。
その表情が無性に気になるがそんな状況ではない。
土の壁は機械の化け物にぶつかるとそのまま砕け舞う。
多少の視界を汚しその時生まれた土煙が僕らを包み、これでクレアさんを隠す即席の鎧も出来た。
彼女の存在を隠すように僕は化け物の攻撃範囲に向かい走り出した。
機械の化け物の全長はおよそ3メートル程で大型銃と砲台が各面に2基ずつ、全身計16基ずつ総合的な砲門は計32機付いている。
様子を見るため前面の大型銃をギリギリまで引き付け、横ステップで緩急を使いそのまま側面へと移動。
その際ギアを上げカメラの移りが悪い前面と側面の中間部分に走り込むが側面の大型銃は一切の狂いも無く僕の背後へ射線を合わせ続け、ついには銃弾の嵐が背後から追ってくる。
左側面に逃げた僕であったが射撃は止まることはなく、大型銃が僕を左側面中央部に誘導、そしてもう一基の大型銃は僕の進行方向を潰すように銃弾を流しながら挟み撃ちにしてくる。
僕の逃げ道を潰した機械の化け物は今だ両サイドに逃げられないように銃弾を撃ち続け、僕のいる空いたスペースに二門の砲台を向ける。
左右に逃げ道は存在しなくまた背後に逃げても爆風でやられる。
先程防げたのは相棒のモグの土魔法のおかげだが、今は別の仕込みを頼んでいるためそれも使えない、ならば。
逃げ道を塞がれた僕の取った行動は放たれた弾丸から遠ざかるように一歩下がり助走をつけてから機械の化け物相手に飛び上がる事だった。
宙を蹴り高さを稼ぐと機械の化け物、その真上を飛び越え右側面に移動しことなきを得る。
「砲弾の中身は魔法か、銃はともかく砲台の弾切れは狙えないか」
それに上空を抜け、弾を躱す方法は連続して使えない。
上空に抜ける方法は僕が機械の視野からいなくなった事を意味する、つまり機械の優先度が僕ではなくクレアさんに向いてしまう可能性が生まれてしまうわけだ。
クレアさんが狙われる事、それは僕らの勝ち筋の消滅を意味する。
右側面に抜けた僕を狙い機械の化け物は砲台をこちらに向けて魔法で作った砲弾を放つ。
回避する事は可能しかし確かめないといけないことがある。
「モグ一旦中止、盾頂戴」
「モッグ」
目の前に現れた土魔法で造形された盾を左手で持ち盾の角度を調節し砲弾を逸らす。
逸らされた砲弾は後ろの建物を形成する壁に直撃、大きな爆発音を伴い大穴が開くがそれ以上に僕はモグに言わねばならないことがある。
「モグ、造形が甘い後で練習」
「モグググ」
悔しそうな声を表す右肩に乗っている相棒を左手で軽く撫でる。
「モグ、援護ありがとう、最後の準備を頼むよ」
「モッグ」
モグは僕の肩を駆け下り、最近腰に追加された彼専用の部屋である腰袋に己の体を仕舞う。
僕は機械の化け物の持つ武器その射線を探知魔法で完全に把握しながら弱点を探る。
銃弾の包囲は直線だけじゃなく斜めのステップを絡める事で回避し、砲弾は盾で逸らす。
弱点だけではない、機械そのもの動き傾向、僕の動きに対してどう機械は体を動かすのか、優先順位は? 付いてるセンサーは何だ?、そのセンサーはどこに付いているか。
魔法を使いじっくりと見続ける事でようやく機械の化け物の目の位置が理解できた。
砲身の少し隣、5cm位の隙間にそれぞれ2つずつ隠されておりこれはどの面も同じだった。
正直砲身が爆発した時の事を想定し別の場所に置けなかったのかと考えるが銃や砲台の可動域にスペースを使いたかったとここは納得しておこう。
そもそもこの機械の化け物はあくまで砲台だ。
本来は砦の上で一方的に攻撃するの正しい使用方法なのだ、だから足が付いておらず自力での移動ができない。
本来の設計者の思惑をあえて外し悪趣味な奴が強固な装甲で相手に絶望感を募らせその状況を肴に楽しもうという魂胆が見え見えだ。
そして狙い通り僕にはこの機械の化け物を破壊する手段はない。
「後30秒、やるか」
観察は終了、僕の役目はクレアさんの頭上にこの機械の化け物を放り込む事。
回避し続けることは可能だがこのままでは攻めることは出来ない。
まさかアンタレス最初の出来事で全ての手札を切らされるとは思っても見なかった。
左腕に持っていた盾を捨て腰袋から注射器を取り出す、王都の出発前にルシアさんから手渡された物だ。
それを左腕の素肌、手首に近い場所に刺す。
そして注射器の中に入っているマナを体に注入する。
体全体が異常な熱さに包まれ目から見ている景色が一瞬真っ赤に染まる。
血液が沸騰したような感覚と鼻から何か熱いものが垂れる。
右手の甲でそれを拭うとその液体は赤色だった。
だが体の変化はそこで収まり、そしてようやく機械の化け物と僕は正面から向き合う。
首に付けている鈴を触り己を鼓舞するように丁寧に鳴らす。
「探知魔法高負荷モード」
そして最後の切り札を切る。
剣を鞘から抜きゆっくりと機械の化け物に歩みだす。
何の小細工もないただ真っ直ぐに、生き物だったらどうしただろうか? 警戒をして様子を見ただろうか? どちらにしても機械だそんな心理的なプレッシャーは意味をなさない。
機械の化け物は砲身に魔法を貯め、大型銃をこちらに向け攻撃を開始する。
大型銃の弾丸その軌道は打ち下ろし気味に放たれる。
だから前進後退などの前後の動きも回避に適している。
僕は放たれた弾丸を今までよりも1段速い速度で前進する事で射線から逃れる。
前に出れば自然と砲台の真正面から突き進むことになるが構わない。
ドーピングの効果もありこのスピードなら砲台のチャージが終わるまでに接近が出来る。
機械の化け物は近づかれた事で隠していた刃の付いた鎌形状のアームを左右に展開、挟むように振るうがその鎌の攻撃をジャンプして回避すると同時に足場とする。
そのまま飛び上がり正面の砲台の付け根の部分を2台まとめて剣で斬り落としそのまま着地をせずに宙を一回蹴り左の大型銃を持っているアームと再び宙を蹴り右側の大型銃も切り落とす。
これで右側面の無力化に成功する。
機械は悲鳴を上げないが困惑じみたものを感じている。
そうだろう先程まで僕の高速戦闘の練度は高いとは言い切れない。
多少スピードが上がった所で行動一つ一つに生まれていた足捌きの甘さ、切り返しの際に落ちるスピードを狙えば迎撃を完璧に行えるはずだった。
しかし先程の攻めにはそのスピードの低下が何一つ起こらなかった。
それにだ先程よりも機械の化け物の動きにピッタリと合わせるように動かれ、まるで弾丸そのものが意思を持って僕から離れていくような錯覚を生み出していた。
そのタネが探知魔法の高負荷モードだ。
高負荷モードと言っても難しい事をしていない。
探知魔法を高速戦闘に合った情報の会得回数にチューニングしただけだ。
結果、相手の目の動き方や足の重心、死角での秘事、剣の軌道や次の予備動作、そして自分自身の次の足場と行動のズレ、相手からの見られ方、それら全てを戦闘中に合った速度で把握できる。
探知魔法の高負荷モードの高負荷とは僕自身の疲労と首にかけている鈴を表している。
この高負荷モードは何せ1秒間1000回以上探知魔法を使っている。
僕の代償魔法は極端に魔力消費が少ないからまだいいが、その種火今回でいう鈴が起こす波その発生回数が異常に多い。
今も僕の持つ鈴は熱を帯び、いつ砕けても分からない。
どちらにしても短時間しか使えない切り札なのだ。
右側面を完全に無力化した僕は助走をつけクレアさんがいる正面に向かって飛び上がる。
クレアさん指定の時間まで後10秒、背後では恐ろしい程の魔力が彼女から発せられ銃に収束している。
機械の化け物もクレアさんの危険さに気付いたのだろう。
攻撃対象を正面のクレアさんに変え、4門からなる一斉射撃しかしその銃から弾が発せられる事はない。
助走を付けた僕が一飛びで左側の大型銃を2段目宙を蹴ると同時に2砲門を三段目で右側の大型銃を一度のアタックで全て斬り落とすと同時に腰袋からモグが出てきた。
準備完了、その合図を受け今まで中速に入れていた体のギアを最速にまで押し上げ機械の化け物その背面目指して走り出す。
ただその時僕はは左側面を通る選択をする、理由は時間がないからだ。
クレアさん指定の時間まで後5秒。
機械の化け物も右側面に来ることは読んでいた。
だが速度のギアがもうもう一段階あることは予想外だったらしい。
左側面を駆け抜ける僕に遅れて大型銃を振り回し機械の化け物は追うが射線が追いつかず結果一発も弾を撃つことが出来ずに側面を抜けることができ
た。
そして機械の化け物の背面に入り込むと屋敷の壁に爆走、その際に胸元から銃を取り出し機械の化け物の砲台近くにあるセンサーをノールックで2連射。
弾丸には雷が纏っており機械の化け物のセンサーに直撃、僅かな時間だが機械の化け物は背面のみ完全に情報の会得手段が消えた。
そしてこれが詰め。
銃を捨て、剣を両手で握ると、振り返り空いたスペースを使い全力で走る。
機械の化け物も視界を潰れこそしたが事前の状況を元に僕へと大型銃と砲台で予測射撃を行う。
1回目の予測射撃は一斉射撃と言える物だ。
大型銃、砲台計4基がこちらの場所へと正確に弾を飛ばす。
しかしスピードは緩めない、予測射撃故に生まれるタイミングのズレ。
それを突き弾が届く前の射線を潜り潜り込む。
2回目の射撃は範囲射撃、計4基の武装を使いそれぞれの場所へ射撃を行う。
運の悪いことに、違うな、正確な予測により砲台の1基の射線に僕はいる。
「モグやれ」
砲弾が発射される直前、僕は最後の準備をしている相棒に声を掛ける。
モグは土魔法で機械の化け物の足元に土の土台を生み出し持ち上げる。
天井スレスレまで持ち上がった機械の化け物の放った砲弾は射線がズレた影響で砲弾は僕の頭上を通り過ぎる。
モグにこの土台を作らせるにあたって明確な指示を出していた。
1つは土台の高さ。
2つ目はその形状、クレアさんがいる正面方向は土台の高さを低くしろと。
土台の構造故にクレアさんの方向に機械の化け物は自重で勝手に落ちていくはずだった。
しかし足元に付いているアームを利用しその場で耐えようとする、クレアさんの頭上に落とすには後一歩足りない。
だがそれはわかっていた事だ。
最後の攻防中一度も減速しなかったのはこのためだ。
宙を蹴り、機械の化け物がいる天井付近にまで近づくとそのままタックルを決める。
それが最後の一押しとなり機械の化け物は己の重さに耐えきれず坂の上から転げ落ちるようにクレアさんの頭上に放り出される。
「今だクレアさん」
「はい、ありがとうございます」
クレアさんに合図は必要なかったと僕はその時理解する。
僕が言う数秒前から彼女は銃を構えその場に置いていた。
そしてクレアさんが銃の引き金をを押し込むと片手銃の弾丸それを幾つ集めても足りないほどの極太の光が機械の化け物を呑み込んだ。
光が収まっても機械の化け物の姿は見えず恐らく消滅したようだ。
「お疲れ様」
僕は壊れた道具たちに労いの言葉を掛ける。
ライラで貰ってきた最後の剣は剣の中腹から折れた。
首にあった鈴も負荷に耐えられずに砕け地面に落ちている。
僕は折れたライラの剣を鞘に、鈴をハンカチで包むとそれぞれを大事にしまい込む。
そして思い出す先生の言葉を。
「本当に勿体ないな」
「何を?」
「わかってるだろう、お前の探知魔法高負荷モード、情報を得るという面では確かに近接戦闘で使えるレベルにまで追いついた、いや追い抜いてしまった。だから奥義を使えるようになれ、そうすればお前はもう2段階先にに進める」
先生から道が提示されている分、迷う必要がなく気は楽ではあるのだ。
ただやはり考える事は自分の力のなさだ。
僕自身の戦闘スタイルそのウリは対応力にあると個人的に思っている。
しかしこう簡単にメタが張れてしまうとなると。
「はぁ、ま今はいいや」
ともかく今日は疲れた。
天井に開いた大きな穴から微かに見え始めた星を見ていると頭が少しだけふらつく。
高付加モードを使った影響だろう、体を少し休ませる為に腰を下ろした。
拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。
また読みに来てくだされば大変うれしいです。
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