思いを足に乗せて
僕達が合流地点に設定したのは地元の冒険者がよく利用する串焼き屋だ。ここでは魔物肉など持ち込みが許されており店の人に渡せば調理してくれる。ただ全ての肉が料理として出るわけではない。料理に出てこなかった肉は冒険者になったばかりで食べるのに苦労する新人に無料で振るまわれる。別の店、別の店主そうやって昔から続けられてきた伝統だ。そんな冒険者の為にあるような串焼き屋のドアを開け多くの人が中に入っていく。
「どうしたんだ。入ろうぜ」
僕らも店の中に入りリーザさん達を待つ。そういう話しだったが妙な違和感を店の扉の前で感じ取る。僕は悩んでいた。この違和感、正確には魔力か。店の中にその魔力があるわけではない。支部から出る時に店てもらった地図と場所を照らし合わせると裏路地だろうか。巧妙な事に僕とグラントさんが来るであろう方角の真逆にあり、僕の魔力感知範囲を知っている人物が計算をし痕跡を残した、そう勘ぐってしまうほど絶妙うな位置にあった。そしてそんな事を出来そうなのが1人向こう側のグループにいる。だがこれら全ては憶測だ。店の中に2人がいれば問題ない。しかしいなかったら僕らは時間まで待つことになるだろう。ルドレヴィアの時のように通信機があれば連絡が取れるが、あれは高級品、一般人が個人で所有するものじゃない。気になるなら行けばいい。それを辞める理由も所詮はすれ違いを防ぐとか、他人を待たせてはいけないなどのあくまで気遣い程度のものだ。だが行く理由も違和感がある、その程度のものだ。
「気になるなら行ってみるか」
「え」
悩み店の扉の前で考え込む僕の肩をグラントさんは軽く叩く。背中を押され、そして素直になることができた。
「はい」
「でもちょっと待っててくれ」
グラントさんは後ろを向きそれに合わせ僕も向くとそこには列が出来ていた。
「ゴメンなみんな、待たせちまって」
「いいよ、そこで立ち止まる新人がいない訳でもないからな」
店のしかも入口の前で考え込んでいれば行列が出来てもおかしくない。お店の人に申し訳なさを覚えながらグラントさんに背を押され近くの小道に押し込められる。
「で、何があったんだ?」
「店の入り口で魔力を感じ取ったんだ」
「魔力……、俺そのあたりはからっきしだからな」
魔力の感知、これらは人それぞれで得意分野が分かれる。この感知は主に2タイプある。攻撃性の魔力に過剰に反応するタイプと魔力そのものを感じとるタイプ。前者がグラントさんで後者が僕。
「で、この魔力自体知っ……ている気がするんだ。ただ合流地点も近いしどうしようかと、入れ違いになっても悪いからさ」
そんな歯切れの悪い僕の言葉にグラントさんは何か感じ取ったようで迷わず言った。
「いや、行くべきだ。今は情報も少ないし、もしかしたらリーザからのメッセージかもしれない」
「……」
リーザさんからのメッセージとはどういう事だろう。合流地点もすぐそこだ。なら店で合流した時に直接話せばいいだろう。ただリーザさんならやりかねないと別の意味での信頼と僕の魔力感知範囲を正確にに知っている人物は魔法の先生であった彼女以外にいない。
「ロスト、お前はアンタレスについてリーザから色々聞いているかもしれないが所詮リーザの浅知恵だ。
アイツは魔法と歴史などは詳しいがその場で住んでいると不思議と身につく場所ごとの肌感覚は鈍い」
流石に言い方が酷いとおもうが、グラントさんは自分の発言を言う毎に確信を強め、眉の皺はより深く、口元の表情も固くなっていく。何かを焦るように人差し指で店の壁を一定のリズム叩く。
「このアンタレスには魔法使いが少ない。闘技場なんかがあるせいで敬われるのは肉体の純粋な強さと武術
この2つだ。その為魔法使いは中々寄り付かないしリーザ以外に魔法理論を知っている魔法使いは定住なんかしない」
ここまで言われて僕もようやく気付く。僕たちの合流場所付近でアンタレスでは希少な魔法を使った後の残滓を感じる。ここで気にしなければいけないのは魔力残滓の種類。レガリアを媒介に魔法を使った場合の魔力残滓と自力で魔法を使った場合の残滓は微妙に違う。そして今回の魔力残滓は自力で魔法を使った場合のもの。自力で魔法を覚えた物はここアンタレスに中々近寄らない。今その魔法使いがアンタレスにいる理由、そう例えば何か仕事をするとために外からやってきた、こう考える事もできるのだ。情報が全く無い現在、動く根拠にするには十分過ぎる。ただ僕らが考えるあの魔力は高確率でリーザさんの物であり、何か悪巧みをしているのではないかと怪しんでしまう。
「いや、このパターンだと」
「「リーザ」さん」がや何をやらかしたか」」
僕とグラントは同時に顔を合わせる。この状況証拠で確実に近い推論ができた。そうとなっては急がなくては、僕が走って現場に向かおうと小道から大通りへ出ようとした時グラントさんの動きは鈍い。
「先に行ってくれ」
振り返るとグラントは自らの足を擦りながらそういった。確かに足を引きずっているグラントさんに合わせるより僕1人で現場に向かった方が到着は早い、だが今の僕らはチームなのだ。
「おい」
「こうした方が早いから」
腰に付けている魔素浄化装置を起動させレガリアを起動する。上昇した身体能力でグラントさんの膝に腕を回し抱えあげる。そして建物の壁を蹴り上がりそのまま魔力が合った場所へと屋根伝いに移動する。
「ここか」
「あいつ」
屋根からおり魔力のある裏路地に着くと互いに頭を抱えた。その裏路地は逃げ道となる通路は背後に一本のみ、その道も見通しが悪く拐われても誰も気付かない。最後は音だがこの程度は魔導具を使えば気付かれることもないだろう。周囲の音を消す魔導具なんてものは1000ルドで買える代物だ。計画的な誘拐犯がけちる金額じゃない。
「リーザさん狙って攫われたね」
「だな確実だ、だとすれば」
僕は一度鈴を鳴らし探知魔法を発動させる。地面に張り付き見境なく魔力反応を探していたら日が暮れてしまう。リーザさんもチームを分けた直後に誘拐させたのなら敵を探る囮捜査だけではなくそれ以外の目的もあるはずだ、その為の時間稼ぎが指定された合流時間。元々この作戦はリーザさんが前もって計画していたものだろう。最後のピースは僕。正確には魔法理論を理解しリーザさんが残した痕跡を確実に追える人物が必要だった。
「見つけた」
裏路地の左側、打ち捨てられたゴミ袋の下に魔法陣が隠されていた。先程までの残滓とは違い、ハッキリとリーザさんの物だと言い切れる。この魔法陣を使えば先程の魔力とは比べ物にならないほど正確にリーザさんの後追える。それにしても。
「クレアさん本当についてないな」
「ああ、あの嬢ちゃんには同情しちまうぜ」
僕の言葉にグラントさんも大きな同情を彼女に向ける。リーザさんの性格上事前の説明などは決して行なわないだろう。その為何も知らずにクレアさんは誘拐されている、その事が哀れでしょうがない。
「さてと」
立ち上がりグラントさんの方に笑みを浮かべながら近づく。
「じゃ、急ごうか」
「いや、まて今度は自分の足で……」
「我儘いっちゃダメ、急がないと」
僕は両手を前に拒絶をするグラントさんに対して全力の踏み込みで真正面から確保しようと走り始める。グラントさんまで後3歩の所で歩幅を短くし残り2歩で横にスライド。その横移動は体の姿勢を一切変化させずに行う。そして最後の一歩、足が着いたと同時に最高速でグラントさんの横を抜け背後から抱き上げる。
「じゃあ、行くよ」
「へ、いや待って。自分で……」
最後まで言わせず再び壁を蹴り屋根に飛び乗り走り出す。今度は先程とは違って不安定な魔力を追っているわけじゃないからもう少し速く走れる。
屋根だからこそ細かな段差が足の正確性を奪う。正しく踏み込み続けるには足場の情報が最も重要だ。どれだけ力強く踏んでも大丈夫か? 右足と左足の高低差からくるバランス。どこまでも誠実に一歩と向き合うからこそ、鋭さ、速さ、力強さが際立ち相手との差を如実に表し続ける。
「さっきより速くないか」
「ま、我慢してよ」
ようやく屋根の色や形状でどのような足場か本質が掴めてきた。本質をつかめればある程度の目測で動くことが出来、つまりは脳の処理、把握速度が上がる。
「もう少しスピードを上げるよ」
現在合流地点の飲食店から西に向かって爆走中だ。それにグラントさんが怖がるのも無理はない。自分ではない誰かに自由が何一つ利かない状態で抱き上げられる。しかも僕は今高所を走っているのだ、怖がるなという方が無理だ。
「思ったより揺れないな」
「さっきは魔力を追うことに注視してたからね。今回はリーザさんの仕事がしっかりとしてるからそれほど
意識を割かなくて済んでるからかな」
少し馴れたのかグラントさんがリラックスした面持ちで僕に話しかけてきた。嬉しいことを言ってくれる。先程から屋根毎の高低差が結構キツイ為、ジャンプで飛び移るという行動が多い。それでも次の一歩を考え続ける踏み込み、グラントさんの揺れがきつくないという一言は一歩一歩に力が込められ制御できている事を示す。修行をして学んだことが正しく出来ている証なのだから。
「ねぇグラントさん」
「何だ」
移動中にこの話だけはしなければいけない。今後の事を考えても。
「本当は足治ってるんでしょ」
「……そうだ」
僕の腕の中にいるグラントさんは己の足に目線を合わせ同意をした。ポーションで傷は簡単に治せるのだ。それこそ欠損でもしなければ簡単に。神経などがガッツリ持っていかれた場合はリハビリをしなければいけないが。
最近馴れてきていたが欠損が治るエクスポーションをポンポンと作れるデメテル人々がおかしいだけであって普通の薬屋では見つかる物ではないがこの大都市なら1本2本は見つかる。リーザさんなら自分のせいでグラントさんが怪我をしてしまったのならどんなに金を掛けてでも強引にでも治させる筈だ。
「足の半分以上食われちまってなアンタレスに戻った後、街で一番高いエクスポーションで欠損は治ったんだがリハビリが必要だった。といってももうリハビリは終わったんだがな」
「え、リハビリ終わってたの?」
「ああ、情けない話だが今でも日常生活の中でどうしても足を引きずっちまう」
「よくある話だね」
足のリハビリ中だと思っていた僕は驚いてしまった。だがこれもよくある話だ。どんなに優れ心が強くても体の一部を失ったという恐怖は心だけではなく体にも染み付く。でも安心した、リハビリを終え治っているのならあとはきっかけがあればいいんだから。
「あそこだね」
「おい、流石にこの高さは」
屋敷が周りの家より少し低い位置にあるせいか10メートルという高さが生まれ、それを前に僕は迷わず飛び込む。一歩二歩と宙を蹴り、徐々に高さとスピードを落としそのまま10メートルという高さのの衝撃を完全に抑え着地する。
「到着」
「はぁはぁ、もう絶対乗らない」
「さっきまで乗り心地がいいって言ってたじゃん」
「言ってないわ。思ったより揺れないな言っただけだわ。それに最後ので帳消し」
「まぁまぁ、でもとりあえず」
「ああ」
今僕らは住宅街にいるが周囲に家はない。あれだけ屋根を蹴り移動していたのにこの場所だけくり抜かれたように建物が存在しない。理由は簡単だ目の前の建物、まるでこの地を治める領主が住んでいるのではというほどの豪邸があるからだ。
「っても」
「そうだね悪趣味だ」
この開けた場所ははまさしくこの豪邸の存在感を立てるために存在している。住宅街にあるのであれば平民であることは確実だ。そしてこの建物の主人は大金持ちの商人が最有力だろう。街に強い影響力を持つ相手だ。リーザさんの魔力痕跡を追って来ました、入れてくださいなんて理由で押し通れば後日僕らは権力で簡単に潰されてしまうだろう。本当にこの家なのか? 間違いは許されない、もう少し様子を見よう。しかしそんな臆病風に吹かれた者はここにはいない。
「入るか」
「うん」
僕とグラントさんは迷わず豪邸の入口へと歩いていく。大きな門だ。タダ柵があるだけじゃない。しっかりと建築物を塀が囲んでおり門番が駐在する部屋まで存在する。僕らが門に近づくと慌ただしい音を立て奥から門番が息を切らして出てきた。
「どんなご用事でしょうか?」
立派なフルプレートの鎧だ。だがあの門番に適切な鎧だとは思えない。門番が僕らに近づいてくる時何度も転びそうになりながらもやっとの事でこちらに来た。見栄を張らずもう少し軽い鎧でもいいのでは。
「わかっているんだろう」
グラントさんは恐ろしい顔で門番に警告する。口角を上げ、眉間には深い皺、目はギラギラと獣のように輝きを放っている。その彼の隣にいるのはグラントさんの横で身長で微笑んでいるが奥底の感情を一切読ませない僕。
門番はその威圧感についつい槍を構えてしまった。それもしょうがないだろう、この門番は所詮見せかけの門を飾るための存在だ、彼に門番としての役割を求めている人間はいないだろう。その証拠に門番が持つ槍の穂先は一度たりとも糸を張り詰めたように止まっていない。ガタガタと穂先は揺れその光景に僕は不機嫌になる。
「冒険者だ。意味はわかるな」
「侵入者だ、応援を頼む」
門番はグラントさんと僕らの雰囲気にボロを出してしまった。これはこれでありがたい。そもそも僕らの根拠などリーザさんが残した魔力だけだ。魔法で有名な場所ならともかくアンタレスという地では証拠として弱い。そしてアンタレスだからこそ効果的に働く証拠がある。荒くれ者が多いこのアンタレスという地、先に手を出した奴が圧倒的に悪いのだ。門番は最後まで僕らに応援を呼ばせて貰えた。それは僕らに取っても自らの身を守るための保身を得たと等しい。それに僕らはまだ「冒険者だ意味はわかるな」としか言葉を言っていない。それで侵入者と断定し応援を呼ぶとしたならば僕ら荒くれ者の冒険者からしたら間違いなく黒と断定できる。
「死ねぇぇぇ」
槍を持った門番はグラントさんに槍を突き刺す、がグラントさんは何処からか取り出した炎を纏った大剣を一振り。門番は吹き飛ばされ門を貫くとそのまま後ろの豪邸、その固く閉ざされていた扉までこじ開けてくれた。だがこれは正直。
「やりすぎじゃない」
「大丈夫だ、多分」
「ま、いいか」
グラントさんの一撃で門は焼け溶け殆ど形を残していないが、それより心配なのは先程吹き飛ばされた門番の方だ。素人丸出しの門番だがグラントさんの一撃をまともに受けしかも一切衝撃を逃せていないように見えた。グラントさんが大丈夫と言ったのだ、もし死んでいたら責任はグラントさんにあると自分に言い聞かせ足を並べ気の利いた門番が開けてくれた扉から中に入る。扉の内側に傭兵が隠れていたようだが門番が扉をこじ開け、その衝撃により吹き飛んだ重い装飾品ばかりの扉の下敷きになり一人は伸びていた。しかしその場には傭兵は2人、つまりあと1人残っている。
「うう」
「お、グラントさん1人起きてた」
「ちょうどいいか。コイツから話を聞こうか」
幸いもう一人の傭兵は扉の下敷きになっていないようだが、扉に吹き飛ばされた余波で意識は朦朧とし、こちらの傭兵も戦える状態ではない。
あまりの建物の広さにリーザさん達がどこにいるか、それを探す手がかりがないこの状況をどうするか悩んでいたが幸いな事に僕らの前に武器もない傭兵がいる。意識がある傭兵に近づいた僕は彼をうつ伏せにし手を後ろに組ませる。そこを膝で押さえつけ動きを完全に封じると耳元であくまで優しく囁き掛ける。
「ねぇ聞こえる、あの音?」
「音?」
「そう、君に向かって向けられている魔法の音だよ」
実際は何も聞こえはしない。ただ必要なのは危機感を持たせること。先程起こった映像を頭の中の想像で補完させる。
「さっき、君の仲間が吹き飛んだところ見たでしょ」
「ああ」
「それを今から押さえつけられている君に放とうと思います。で、君は何か僕に言いたいことある?」
「助けてくれ、何でも言うから」
「うん、いいよ。何でも言ってからね」
傭兵は簡単に折れてしまった。いや実際に仲間が吹き飛ばされる所を見てしまったのだろうか? 吹き飛ばされる僅かな一瞬この葉柄は心の準備が出来たいたのだろう。だから避けられない一撃で留まり意識を失わずに彼は今辛うじて喋れている。それほど不意に与えるダメージを大きい。だが目を覚ましているということは今だ恐怖の時間は続くということ。
「で、傭兵さんの知っている事を教えてね。あ、いい忘れてたけど僕はさ、相手の嘘がわかるら。嘘ついたらさっき言った事を実戦するからね」
「いや、大丈夫だ」
全てを喋り終えた後、傭兵はただ震え続けていた。
*
傭兵から2人がそれぞれ別の場所で捕らえられているという話を聞くことが出来た。リーザさんは当主がいる執務室。クレアさんは大広間で捕らえられているという。
「おい」
「はぁ」
6人ほどの黒服の男たちが廊下から現れた。黒服達が現れた方角が執務室という守るべき人物と逆の位置だと考えると僕らの強襲は完全に予想外だと思われる。彼らはこれから執務室に戻り当主を守るのだろう。運悪くその移動中に丁度出くわしてしまったという訳だ。
「動くな」
「銃か」
クレアさんと同じ獲物。片手銃をこちらに向け静止を呼びかけてくる。体型はそれぞれバラバラだが、しっかりと間隔を取り、狭い場所でそれぞれが射線を通せるように訓練されている。練度は高い、速攻で片付けるのは難しそうだ。それ以上に足を引きずっており機動力の無い人物に射撃武器を持っている相手と戦わせるわけにはいかない。グラントさんは剣を構えるが、彼の前方に僕が立ちふさがる。
「何やってる」
「まぁまぁ、グラントさんはリーザさんの所に行ってよ」
「だが」
恐らく不安なのだろう。足を満足に使いきれない自分が1人で言って役に立つのか。さっきの一撃をを見れば役には立つでしょと、心の中で悪態をつく。
射撃武器、人数差、これらが組み合わされると厄介度が増す。厄介さその正体は相手の思考の変化によるものだ、一人一発、急所でなくても当てられれば儲けもの、黒服達からすると人1人のハードルが下がり自身の仕事を行いやすくなる。だからここで削られるわけにはいかない。
話は変わるが腹に据えかねている事が1つある。そしてそれをこなすために僕は彼グラントと組んでいるのだ。
「はぁ」
「ロスト?」
「甘ったれるな。好きな女が捕まってんだろ。なら行けよ。自分の不甲斐なさなんか吹き飛ばして走れ。
男ならそれくらいできるだろ」
僕の突然の荒々しい言葉に驚くがグラントの体は固まらず走り出す。その言葉が染み込んでいくように、グラントさんの眼力から力強さが溢れ出す。
「ああ、任せた」
グラントさんは僕の背後の通路を走り出した。不格好に躓きながら、情けなくフォームを崩しながら、倒れる事だけは決してせずに。
「行かせるーー」
「相手を間違えるな」
目の前の銃を構えた黒服が呑気に声を発している時には戦闘は始まっていた。その証拠に最後方にいた黒服は銃を僕に向かって撃っている。動きの余波に気づき撃ちはしたが、奥の黒服でも僕の動きは予想外だったらしい。正面、進行方向を潰すような射撃に対して僕は壁に向かい垂直な角度を保った横走りを見せる。通路はそれほど広くない、つまりだ狙う相手を間違えればそれそのものが決定的な隙となる。
「っぐ」
鞘から剣を抜かず最前列にいる男が大切そうに持っている銃、その手首めがけて剣を振り抜く。手首を強打された男はそのまま銃を真上に投げ飛ばしてしまう。銃を失い放心状態の男、まだ残っている体の勢いを利用し男の鳩尾めがけて柄頭で突きを放つ。突きで吹き飛ばされた男は一番奥のリーダー格と思われる黒服の所に吹き飛び射線を1つ僅かな時間だが潰す。ちょうどその時空中に投げ出された銃が僕の背丈に合う高さにまで落ちてくる。それを左手で掴み、腕を外向きに一振りする間に3発早打ちで放つ。その弾丸全てが相手の持つ銃に着弾、追加で3人から銃を弾き遠距離攻撃手段を奪い去る。
「悪いな射撃武器を外したことはないんだ」
残りの敵は5人。頼むよグラントさん。多分リーザさんも同じ気持ちだから頑張って。彼女の見つめる目が貴方を見返す時グランドさんに語っていた。互いに鈍感だとは思うが仲良くね、と彼に心の中で声援を送り敵と向き合った。
拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。
また読みに来てくだされば大変うれしいです。
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