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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 西の都アンタレス
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アンタレスの特色

取りあえず一週間感覚でタイトルを変えていこうと思います。

「アンタレス冒険者ギルドはお前らを必要としていない」


 ギルド長室に居座っている人物が僕らに浴びせた第一声がこれだった。



「ではミリアムちゃん、また合いましょうね」

「はいクレアちゃんも」


 互いに女子同士、僕が寝てる間に親睦を深めていたようだ。ここはアンタレスの鉄道のホーム。皆足を止めることなく本来は出口に向かっていくはずだが今日は多くの人が足を止め、ある人物達を眺めていた。それはクレアさんやミリアムさん彼女ら二人だ、そのどちらも誰もが振り返る美少女、そんな注目を集めるのは必然で、人混みに疲れてしまう僕は先に駅からて一息つく。

 

「それにしてもアンタレスか」


 遠くからでも見える大きなコロッセオを見ながらそうつぶやく。

 

 西の都アンタレス。この場所には普通の土地とは違う特徴がある。それはダンジョンという無限の資材採取場がある事だ。ダンジョンに潜り膨大な素材を得ることで都市に還元する。アンタレスにあるギルドは他の支部でいう配分依頼が存在しない。ダンジョンに潜る事に特化した軍隊それがアンタレスのギルド支部なのである。


「正直東の都がよかったな」


 本当は南の都であるシリウスが一番気楽だが、それでは外に出てきた意味がない。東地方の特徴として他の場所から逃げてきた部族の寄り合いみたいになっていることか。又歴史的な建物が多く存在し自然と共に生きている。迫害されてきた種族が集まったという理由で皆警戒心が強いが、ここアンタレスのギルドで王都から来た冒険者という肩書を背負うくらいなら正直信頼の勝ち取り方はいくらでもある。そういう意味でここアンタレスは2番目に来たくない都市でもある。

 

 今回は騎士団と手を組み事件を追うらしいが、その理由の1つにアンタレスの支部がダンジョン関係以外では基本的に動かない方針のためである。ここでの問題点は現地の冒険者から協力を得られないので僕らよそ者は一から情報基盤を築かなければいけないことだ。領兵と連携できる騎士団の団員は後日合流。騎士団と冒険者の手を組ませている事から王国の本気度が伺えるが現場は酷いものだ。騎士は冒険者を下賤の者と見ている者も多い、彼らと対等な立場で作戦に関わるなら何かしら役に立つ情報を騎士がアンタレスに来る前に得なければいけない。そうでなければ今回のアンタレスでの子供の失踪事件、雑用以外何も出来なくなってしまう。それは僕にとってかなり歯がゆいものだ。


「それに子供の誘拐事件か。どうしてもマティアス邸の地下の件との関係性が気になる」


 元々気になっていた。子供だけを誘拐する意味はなんだ? シルヴィア達は売られるわけではなく、日常的に行われていた事も血を抜かれることのみ。子供達で何をしていたか? だが僕がそれを今考えても時間の無駄だ。

 

 その組織を見つけ出しそこから情報を盗んだほうが建設的、といってもシリウスで組織を見つけるよりは明らかに難易度が高い。そもそもシリウスは迷いの森を監視する為に作られた城塞都市だ。根本的に犯罪組織の根ざしを許さず、もし発見しようものなら草の根分けても探し出し特権使って土壌毎燃やし尽くす位の意気込みを持っている。


 だが大抵の都市はある程度犯罪組織との折り合いを付け運営されている。流石に誘拐はやりすぎだが都市を回すには表も裏も必要。表で罰則を作り裏では掟で縛る。事後処理と事前の阻止、それを裏と表が連携してやっているのだ。そのため膨れ上がった中小多数の裏の組織、それらを絞り調べる、これらの作業を事前情報なしで行なうと膨大な時間が掛かる。だけどまぁ


「潰すことは決めている」


 この件は資料を見た時から怒りがふつふつと湧いてきていた。シリウスにいる孤児達への僕が勝手に決めた恩返しでもあるが子供を攫い、未来を奪う。


「安心しろ地獄に送ってやる」


 怒りの籠もった瞳で顔を上げる。列車で眠っていたのは自分を抑えるためだ。ただ冷酷に相手を追い詰めるには血が登った頭では判断が鈍る。その無駄を削ぎ落とす為に。




「すいません遅れました」


 ようやく駅から出てきたクレアさんは僕に気軽に声を掛けてきた。いや、初対面がおかしいだけだったのもあるがそれにしても軽すぎである。


「偽物?」

「失礼な。いや私が悪いねごめんなさい」

「いや、僕も失礼な態度でごめんなさい」


 互いに頭を下げどちらも譲らず己が悪いと謝っている。ずっと頭を下げ続けても話が進まない。どちらかが引かねばならないと頭を上げるが何故か互いの顔が目の前にある。妙な息の合い方に吹き出し笑い合ってしまう。


「支部にも行かないとなのでこのくらいにしときましょう」

「はい」

 

 僕はこの時感じたのが安堵だった。初対面時のクレアさんの態度から組むのは難しいと思っていたからだ。だが互いに緊張が程よくほぐれある程度の会話も問題なさそうな雰囲気。アンタレスでの出始めとしてはベストではないか。


「そうだ、モグラさんありがとうございます。おかげで簡単に合流できました」

「モッグ」


 クレアさんの足元から従魔のモグは僕に駆け寄り足を伝い体を登っていく。そして彼の寝床として新たに併設された袋に入っていった。そして上機嫌に僕はクレアさんをアンタレスのギルド支部へと案内をする。クレアさんも機嫌良さそうに鼻歌を歌っている。今なら聞けるのではないか? 初対面の時僕に死神といって銃を向けた理由を。まだ早い、そう心の中の自分も言うが彼女に背中を任せるためにはそれだけは聞いておかなければいけない。意を決して背後にいるクレアさんに振り返る。


「あのクレアさんは何で僕を死神って呼んだんですか?」

「その節はすいません。ちょっと怖くて?」

「怖い?」

「はい、私は……」


 間の悪い事にその言葉の続きは打ち上げられた大きな花火がかき消してしまった。ようやく聞ける答えを邪魔され機嫌が悪くなる……そんなことはない。まだ聞くタイミングではなかったと自然と胸に収まっていた。それに彼女は迷わずに応えようとしてくれた。探知魔法で確かめていたからわかる、クレアさんの心音は確かに大きくなり緊張していた。それはクレアさんに取ってある種の深い意味合いの事を話そうとしてくれていた証拠。それが嘘かどうかはクレアさんの体が現す言葉をを観察しているばわかる。それに内容の重大さよりも僕が今欲しかったのはクレアさんが信頼できると思える要素。正直に話そうとしてくれたのならば僕も背中を任せられる。

 

「大きな花火ですね」


 クレアさんも話し難い内容だったようで何事もなかったかのように花火を見ている。いや彼女の目は昼間の見えにくい筈の花火でありながらも大きく目を見開き唾を飲み込み見入っている。恐らく話すことよりも花火に夢中なのだろう。


「まったく、この人は」


 溜息を小さく吐き僕自身クレアさんとは違う意味で花火に思いを馳せる。


「そっかこの時期か」

「あ」

 

 クレアさんも前後の話しを思い出したのだろう。僕の方を申し訳無さそうに見る彼女に首を振り、今はいいと伝える。僕の答えに少しほっとしたようで柔らかな口調で僕に疑問を投げかける。


「この花火は何なんですか?」

「闘技者の試合が始まる合図だね。あの音だとマスター階級の試合かな?」

「闘技者?」

「うん。アンタレスの名物興業、様々な形で順位を競う一種のイベントだ。ここ以外で表すなら武術大会に近いかな」

「見たことある、それにしても派手ですね」

「うん、それにダンジョンレースの時期だからね」

「ダンジョンレース?」

「ダンジョンの中で誰が一番速くゴールまで行けるか競争するんだ」

「危なくないですか?」

「大丈夫、管理されているダンジョンで行うレースだから」


 クレアさんは正面に見える大きなコロッセオに目線を向けた。拓けた中央通り、その先にある堂々としたアンタレスの象徴を。


「時間があったら見てもいいかもしれないね。僕は出禁になって見れないけど」

「何したんですか」

「僕にだってわからないさ」


 首を傾げるクレアさんに両手を開きわからないと現す。彼女に説明できる事と言えば出禁になった前後の状況をそのまま話すくらいか。


「簡単にいうと○×クイズに正解してたら出禁になった」

「なんですかそれ」


 小さくころころ笑う彼女を見て、仲良く出来そうでよかったと本当にそう思う。これから僕らを待ち受けるアンタレス支部は言動を気にしなければいけない地雷原のような場所なのだから。



 アンタレスの支部についた僕らはそのまま扉を開ける中に入る。一斉に視線が僕らに向き見知らぬよそ者を観察する。アンタレスは配分依頼が存在しない、つまりギルドに出入りするのは事実上ギルドの関係者のみだ。またこの支部は軍隊のような場所で他のギルドとは違い明確な出勤時間が定められている。だからこそ他の支部よりも部外者は注目を浴びやすい。


 だが僕には別の感慨深さがあった、まさか僕がこの目を他人から送られる日が来るとは夢にも思わなかった。落ちこぼれの僕が、連れて来てもらった場所であるけどいずれは自力でたどり着きたい場所だ。


 受付につくと本部長から貰った手紙をクレアさんが渡す。受付の方は手紙を読み、僕らをそのまま2階にあるギルド長室に招いた。そして第一声が。


「俺たちアンタレス冒険者ギルドはお前らを必要としない」

「でも私達は本部から」

「ああ、お前さんたちには悪いと思う」


 取り付く暇者ない拒絶。クレアさんの脈拍、体温が上がりそれは彼女が熱くなり始めていた事を表していた。


(やばい)


 普通の冒険者ならこのタイミングで僕らが話し合っている人物に疑問を持つ。怒り、冷静でなくなったらその事をきっと突いてしまう。そしてそれはアンタレスのギルド支部にとって最悪のタブーでもあった。


「そもそもギルドちょ」

「クレアさんストップ、はは、すいません」


 僕は急いで彼女の口を手で塞ぐ。僕はともかくクレアさんまでこの場で問題児になられては困る。そうなれば僅かに存在するアンタレス支部との連携、その可能性すら完全に絶たれてしまう。

 

 クレアさんが言おうとしたタブー、それはギルド長ではない人物が本部からの要請を断るのかという事だ。あの第一声に対してクレアさんが頭に血をのぼらせ上から物申すのも理解できる。しかしそれはここアンタレスとい場所において最も悪手なのだ。アンタレスの支部は昔ギルド本部のせいで酷い目に合っている。いや正直に言おう、アンタレス支部は壊滅仕掛けた。だから王都から来た人物と言うだけで態度が悪い、またアンタレスギルド支部長の事に口を出されると何があっても協力しようとしなくなる。クレアさんを背中で隠しながら僕は椅子に座っている初老の男性に声を掛ける。


「で、僕らはどういう立場で入ればいいですか?」


 あくまで顔を伺うように。もう彼らとの対等に交渉できる立場ではなくなってしまった、そして幸運な事に椅子に座っている男性は心が広いようだ。既に数十年前の出来事、口に出しきらねばある程度は見逃してくれるらしい。その証拠に男性は口こそ固く結ばれているが目元は優しい。勘弁してくれこっちの心臓は動きすぎてもう痛いんだから。

 

 ともかくあの言い方からして追い返す訳ではなさそうだ。ここでの動き方をまず決めるために話を聞かなければ。


「ああ簡単だ。ここにいる冒険者達と同じように扱う。実力が認められていけばお前らの依頼も同じようにギルドの指針になるだろう」


 道は得られた、なら収穫としては十分だろう。クレアさんの失言はしょうがない、というか間違いなく僕の失態だ。彼女はここ大陸西部の人間ではない。ブルースさんは大陸中部で功績を上げその後本部長ヘクターに呼ばれ大陸西部に最近来た。ならブルースさんとの会話でクレアさんが大陸中部出身だと気付くべきだった。大陸中部出身だから僕ら大陸西部の冒険者が当たり前に知っている情報を彼女は知らない。


「わかりました。お時間いただきありがとうございました。では失礼します」

「……失礼します」


 まずは一通りの説明をしてからだ。クレアさんを連れ僕は逃げるようにギルド長室を後にした。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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