新体制
時間軸は戻り2章の続きです。
僕は本部長に呼ばれギルドにやってきた。そして初対面のはずの空色の髪の少女に銃を向けられている。
「初めまして私の死神」
斬新な例えだった。死神という例えは元来畏怖の意味合いを持つが彼女の目に恐れはない。ただ真実を述べているようだった。
「はは、誰か助けて」
両手を上げ、助けを求めるように周囲を見渡す。今この場にいるのは黒髪の男性と本部長、その秘書の3人だ。
「クレアそこまでだ」
「はい」
黒髪の男性の声にあっさりと従った空色髪の少女は銃を下ろす。僕は内心ほっとしていると。
「では、話を始めよう」
今まで我関せずを徹していた本部長が何事もなかったかのように口を開き語りだした。それに文句を言いたくもなるがこの本部長は僕の事を嫌っている。今に始まった頃ではないと諦めることにした。
「ここに集まって貰った3人にはこれからチームとして動いてもらう。とはいえ王都で働いて貰うわけじゃない。他所の支部で問題が起こったらその救援に行くという形だ」
「ちょっと待って下さい。彼と?」
「そうだが問題あるか」
「いいえ」
空色の髪の少女クレアは本部長に文句があるという雰囲気を漂わせるが、それを本部長は黙らせる。机の上で肘を立て手を組み直しギルド長は話しを続ける。
「今このアトラディア王国は大変きな臭い。だから支部間の人員をできるだけ動かしたくない。なら他の国の冒険者を招き不要な人員を使う。そういうわけだ部屋は3階に用意させてある好きに使え、だが支部への救援その際の人員指定はさせてもらう。以上だ」
一方的過ぎる本部長の決定に唖然とする。秘書は哀れみの込もった目で僕らを見ており、黒髪の男性の表情は分からないがクレアと呼ばれた空髪の少女は状況について行けず全身を硬直させている。僕はそんな彼らの中で気付かれぬよう溜息を吐くのだった。
*
「私はクレア・プロビデンスですよろしくお願いします」
彼女はそれだけ言うと部屋を出て行ってしまった。僕らは本部長のあまりの物言いに辟易しながら用意された部屋のある3階に移動していた。そして互いに自己紹介をする流れになったのだが。
「僕本当に何をしたのだろう」
全く身の覚えのない物事は不気味だ。そもそも初対面どころか初認識、まぁ、僕は褒められた事をしてきた訳ではない、後学のためせめて僕を恐れるのなら理由を教えてくれ。そう心の中で嘆いていると黒髪の男性が代わりに頭を下げ謝ってきた。
「済まないクレアはああいう奴なんだ。2日3日経てば少しは落ち着くからそれまで待っていてくれ」
そんな残酷な宣告に目眩を覚える。手で頭を抑えながらこれからチームでやっていっても大丈夫なのかと不安感が襲ってきた。それとは別に黒髪の男性は頭を上げると僕に自己紹介をしてきた。
「初めまして俺の名はブルース・クロフォード、よろしくな」
クロードさんは左手を伸ばし握手を求めてきた。それに答えるために手を取り。
「はい、ロスト・シルヴァフォックスっていいます。こちらこそよろしくお願いします」
手を握りながらブルースさんを観察する。ブルースさんの容姿は整っている。長い睫毛に高い身長、体も適度に鍛え上げられ万人が望む英雄像そのものだ。
ただそんな完璧そうな人物は大抵持ち上げられただけの偶像が殆どなのだが、手を握っただけでわかるクロードさんは本物だ。彼の手の平はとてもゴツゴツしており長い鍛錬と戦歴を感じさせた。酒場でのマックスの会話を思い出しす。邪神教本部の壊滅に大きく尽力した人物、本物の英雄、そんな人物を間近で見ることができて光栄だ。英雄の肉体その興味故に体の隅々を観察する。骨格や呼吸のタイミング、鍛錬により生まれた骨の変形具合。
「でこれからのことなんだが……すまないそうジロジロ見られると」
「えっとクレアさんの無礼の件で少しだけ見なかった事にしてくれませんか?」
「ダメだ、っというか話しが詰まっているからな」
手を握ったまま観察しているのがよくなかった。ブルースさんの雰囲気は居心地の悪そうな、初対面の僕でもわかる、間違いなくあれは苦笑いだ。許されないらしいので一応頭をかきながら謝罪を述べた。
「すいません」
「いや、興味を持ってくれて嬉しいよ」
急ぎ握っている手を離すと彼の笑みの種類が自然な物に変わった気がする。隠しているだけかもしれないが温和に関係を築く気はあると信じて話しを進める。
「これからのことなんだがお前とクレアの二人で動いて貰うことになる」
「出来ますかね?」
僕は顎に手を置き考えていた。
思い出されるのは先程の態度。初対面で銃を突きつけるクレアさんの姿を見てとてもじゃないが協力し合うことが出来るとは思えない。
それに戦術面での相性もある。クレアさんの実力もまだはっきりとわかっていないが足運び、体の動かし方を見ていたがそれほど近接戦闘が特異なタイプだとは感じられなかった。恐らく遠距離攻撃が得な高火力タイプだろうがそうなると僕との相性は悪い。僕自身の戦闘スタイルが相手の有利を潰し一方的に相手を絡め取る撹乱タイプだ。視覚を潰し、耳を潰し、相手を混乱させ相手自らに隙を作らせる、とてもじゃないが後方援護が輝くような戦い方じゃない。それに不測の事態に備えるためにも戦闘タイプはできるだけ幅が欲しい。そう考えるのならできればブルースさんも一緒に来てくれたらありがたい。戦闘面でもパーティーの空気的にも。そんな期待を込めた目をしているとブルースさんは窓に近づき空を眺める。
「俺も同行したいが残念ながら無理だ。もしもに備えて俺は王都にいなければ行けないらしい」
(あ、これは既に本部長と話し合った後だな)
なるほど本部長にとって彼はいなくては行けない人材だって事だな。よくよく考えれば今ギルド本部には名の通った有名冒険者がいない。恐らく各地を飛び回り何かの調査をしているのだろう。そういう意味ではブルースさんは本部長が用意したアトラディア王国冒険者本部の切り札。そう推測できればクロードさんは本部から動かない、この決定が覆ることはなさそうだ。
ブルースさんは窓から離れ、彼専用に用意された机から1つの書類を取り僕に手渡す。そこには今回の派遣場所が乗っていた。西の都アンタレスと。そこでは子供の失踪事件が起こっておりその調査が行き詰まっていると書かれている。子供の失踪、それは僕に取って許せることではない所謂地雷を踏まれたと同義だ。後気になる文としては。
「騎士団と合同……ああ、アンタレス支部だからか」
「まぁ、そうなる」
正直頭を抱えたい問題が多すぎて現実逃避がしたいのが僕の心境だ。せめてクレアさんとの関係だけでも良好に持っていかなければと思い彼女の事を知ろうとブルースさんに質問をする。
「クレアさんとは付き合いは長いんですか?」
「3年ほど前からの付き合いだ」
「彼女は昔から?」
銃を突きつけられた状況がどうしても頭に浮かぶ。僕は苦笑いをしているのだろう。それはブルースさんの顔を見ればわかる、だって彼もぎこちない笑みを僕に見せていたのだから。
「ああ、一定時期毎にああいった言動をする事がある。ロスト・シルヴァフォックス」
「はい」
「クレアは精神的に不安定な時もあるが……頼んだぞ」
信頼ではない命令に近いお願い、さらには英雄が頼み事をするその意味を理解させるような壮絶な笑み。だが僅かに違和感もある。これがクレアさんを好いているという感情なら単純でいい。ただブルースさんの目に少しだけ影を見た気がした。そうどこか罪悪感に近い、やるせなさ、迷い? まぁいい。僕のやることは変わらない。
「わかりましたよ」
彼の圧力に屈した訳でもそれに首を突っ込む気もない、ただ何かあった時一早く動く為に備えを怠らないだけだ。ただもう一つ気になることがある。これはブルースさんだけではなくクレアさんもだが、彼らは僕の顔を見て誰か別の人間を思い返している気がする。色々と気になり、明日からの問題も山積みだが今はあっけらかんと新たな日々を楽しみにしている気持ちが何よりも強い。
拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。
また読みに来てくだされば大変うれしいです。
もしよければブックマークと評価の方をお願いします。




