表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
外伝 シルヴァフォックス編
52/136

先生の教え

タイトルへ明日の昼頃、副題をつけようと思います。

 アトラディア王国王都貧民街ファトゥス流道場。現在時刻06:00


 朝日のみがこの戦いを見届ける。この戦いは生徒の新たな旅たちを祝福する物だ。


 互いに剣を構え立ち上がる。道場の中心部から床に均等の距離の付けられた線を頼りに位置につく。何度も行なってきた事だ。いつもの事だがこの線は意味をなしていないのかもしてない。均等に貼られた線からゆっくりと道場の中心に再び歩いていき剣が触れ合う、それがいつもの遅すぎる戦いの合図だ。


 鍔迫り合いの後僕の剣が弾かれる。上に剣が弾かれた事に従いそのまま上段から振り下ろす。レグルス先生は下段から切り上げを放ち、上段下段の剣のぶつかり合いになる。しかし筋力や体格などの差は大きい。打ち負け2メートル程の距離を僕は吹き飛ばされる。


 着地こそ隙なく行えたが重心は後ろに寄っていた。重心が前にない、その行動の遅れをレグルス先生は突くために距離を詰める。生物を超えた鋭さを見せ僕の前面に向かい勢いよく走り込む、それ前から突っ込んでくる、その光景を見せ玉に一切の減速なく円を描くように移動し僕の背後に回り込んだ。そして剣を振るい背後からの一撃。しかしその剣は僕の体の正面側で受け止められていた。探知魔法を併用することで情報の精度を上げ高度な先読みをする。その結果レグルス先生が背後に回ってくる事はわかっていた。左足を軸に体を回し先回り、いくらレグルス先生が早いとはいえ円の中心いる本人が一番移動する距離が少ない。読みさえ間違えなければ十分対処できる。


 攻め手が変わりバックステップで距離を取ろうとするレグルス先生に密着する。先生と同じファトゥス流の足運び+雷魔法を使った信号の強化、筋肉を操り爆発的な加速を生み出す。狙いはただ一点。先生のバックステップ後の着地する直前。


 レグルス先生を間合いに取り込めている。右足の踏み込みをすり足に変え、間合いの調整と踏み込み時に起きる体の動きを最小限に簡略化。そしてレグルス先生の足が地面に着く前に剣を振るうことに成功した。

 

 レグルス先生は空中で僕の左からの斬撃を剣で防御することには成功したがその衝撃で剣を手から弾き飛ばされる。また空中で剣を受け止めた関係上一撃の影響で本来の着地点よりも一歩遠い場所に着地する事になる。一歩遠い着地点になったということは地面に足が着くまでの猶予が僅かに伸びたという事。そしてレグルス先生の足が床に着き完全な着地が完了したとほぼ同時に僕の追撃の一振りが間に合った。


 圧倒的有利な状況だが嫌な予感がする。先生は両足の踵に重心が均等に乗った状況で待ち構えている。思い出されるのは最初にレグルス先生と戦った時の事だ、横から振り抜いた全力の一撃がレグルス先生の体に触れた途端全ての力を失っいその後回避不能なカウンターを決められた。雷魔法を使い今度は今まで行なって来た逆の事をする、信号を使い筋肉の動きを制御、そして体の動きにブレーキを掛ける。体が本来命令を終え行動の変更が効かないタイミングだったがなんとか止まることが出来た。先生はそれを見て降参したように抵抗をやめた。戦いを締めくくるように剣を振り抜く。


「そこまでだ」


 体を吹き飛ばされながらもレグルス先生は空中で一回転、そして勢いを殺すと何事もなかったかのようにその場に着地。その後先生から制止の声が掛かる。


「ありがとうございました」


 僕は姿勢を正し腰を曲げ頭を深々と下げる。今日は一種の試練の日だ。そして僕がファトゥス流の奥義を学ぶ事を許された日でもある。


 *


「でも早すぎじゃない?」

「嫌なのか?」

「とんでもない」


 床に腰を下ろし昨日から思っていた事を遂に口にした。僕がファトス流を学んでまだ1ヶ月半。普通奥義ってものは数年単位で型を磨きようやく学ぶことがことが許される崇高な物だと思うわけだが。


「うちの流派はあくまで下地だ。今まで教えた技も小細工みたいな物だしな。だから覚えておけ全ての力は足から始まる。足の踏み込みを疎かにすれば拳、剣、技は決して輝かない。」


 口酸っぱくこの一ヶ月半言われ続けた言葉だ。だがその言葉がとても重要だと真の意味で理解できている。


「はい、わかりました」


 座りながらも先生の目をしっかりと見て返す。意思の表示でもあるがそれ以上に感謝が伝わるように。僕はこの道場に来て確実に強くなった。シリウスで燻っていた時はやれることは全てやったと諦めていたが所詮胃の中の蛙だった事を認められた。


「これはこれで問題だな」

「なんですか!」

 先生は溜息を吐き、呆れた顔で僕を見る、それに少しむっとなる。


「お前は手の掛からない教え子だが真面目すぎるな」

「それの何処が悪いんですか」


 手を上げ反論する僕に今度は呆れもせず真剣な顔で僕に目を向けた。


「ロスト、お前に課題と金言を与える。」

「課題と金言?」


 思わず姿勢を正し前傾姿勢で言葉を待つがその言葉はある意味拍子抜けだった。


「お前の課題それは不真面目になれだ」

「不真面目?」

「そう、ロストお前はよくも悪くも誰かとの約束に縛られすぎている」

「ダメですか?」

「ダメだ」


 僕の嫌そうな顔に、先生は語りかけるように話を続ける。その言葉には実感が含まれているような気がした。


「もっと自由に生きろ。もっと楽しめ、場の流れに身を任せてみろ。その方がきっと生きていると言える」

「でも……」


 両親の顔を知らない僕は親しい人に嫌われるのが怖い。いや僕だけじゃない誰だって怖いだろう。だからこそ誰かとの繋がりを薄めぬよう約束を守ることを使命として生きてきた。いきなり生き方を変えろだなんて。


 何故か少し息苦しかった。体は震えだして目から光がうしなわれていくような。底なし沼に落ちていくような感覚がする。今までの己を全て否定された気がして、体の底にある臆病さが顔出す。


「怯える事はない、もしお前が約束を破ったとして周りの奴は本当にお前を嫌うのか? 皆お前の頑張りは見ているしそれが不義をしようとして約束を破ったわけでないのは知っている。だからしょうがないって許してくれるんじゃないか」


 不思議とその言葉は僕の息苦しさを奪い去った。確かにシズカなどは間違いなく笑って許してくれそうだし、ルシアさんは僕の健康を第一に気遣うだろう。ロベルトはああ見えても心配性でデメテルに向かわずに道場から家にボロボロの状態で帰った僕を自室に閉じ込めルシアさんを呼びに外に出ていった。

 

「ルシアやシズカは、お前の事が嫌いになる前に矯正を考え始めるぞ」

「あはは……そうだね」


 真っ暗だった視界が光を取り戻し、先生の顔を映し出す。


「もっと自信を持て、お前と親しい人は俺の目の前にいるロストの事が大好きだと」

「うん」


 今までなかった実感だ。不思議と頬が緩み、力強く顔を上げる。

 

「これが今回の課題。不真面目になれだ。頑張れるな」

「はい」


 先生は勢いよく立ち上がり、手を強く叩く。鋭い、「パチン」という音が静かな周囲に広がり響く。僕はその音を聞き、腰を上げ素早く立ち上がる。


「では奥義を伝授するといっても気術が使えないお前じゃ使用できないのもあるが問題ない。気術を覚えたら使えるように仕込んでやる」

「お願いします」

「あと金言だがな……」


 こうして月日は流れ、本部長室に僕は呼ばれた。新しい試練が待つ西の都アンタレスその幕が上がる。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


もしよければブックマークと評価の方をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ