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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
外伝 シルヴァフォックス編
51/136

相棒

 ゲルドさんの店を出た後僕はギルドでお金を下ろし60万ルドの入った封筒を持ち従魔店に向かった。


「従魔かそんな選択し考えても見なかった」


 非力を埋める手段があるのならしがみつく。今回従魔店に行こうという話はシズカから提案された物だ。 

専門外で初めて行く店なのでシズカとの待ち合の前に下見くらいしておこうそんな魂胆だった。そうして1時間後僕はシズカとの集合場所である、カフェで顔を青くしていた。


「どうして不機嫌そうなんですか?」

「不機嫌じゃない、ちょっと気持ち悪いだけ」


 シズカは机に顔を突っ伏している僕を見てそう言った。気持ち悪すぎて注文したはずのオレンジジュースを飲み込めず、今できる事はストローを通じて吐き出す位。そしてなぜ気分が悪いのかと言うと。


「檻に入れられている魔獣を見たら気分が悪くなっちゃって」

「あの視線はなれないとキツイですよね」

「昔ってほどじゃないんですけど、檻に入れられた子供を見たことがあって彼らと姿を重ねてしまってね」

 

 シリウスでのマティアス邸のが原因だろうが、今まで似たような場所に行っていなかったから気づかなかったが僕の中であの光景はトラウマだったらしい。あの光景を思い出すと息苦しさを感じてしまい魔獣の姿を見ていられなくなってしまう。


「では従魔は諦めますか?」


 シズカの挑発をするような声。それに負けずと立ち上がり。


「ううん、今日決める、今日決めて僕はもっと強くなる」


 場所考えずに大きな声で宣言をしてしまう。


「ごほん」

「すいません」


 しかし此処は店の中だ。店主の釘を刺す視線を受けすぐに座り縮こまった。そんな僕を温かな目で見守るシズカ、せっかくだとある提案をしてきた。


「ではここでどんな魔獣がいいか考えてから行きましょう。そうすれば中ですぐに決められます。で、ロストはどんな従魔がいいんですか?」

「そうだね。……取り敢えず足が速くて乗って移動が出来る奴。あと戦いもある程度出来て鉱石の良し悪しがわかるのがいいな。それと最後にカッコいいの、な、何さ」


 そんな僕の要望に不思議とシズカ以外の視線も集まっている気がする。辺りを見渡すと案の定皆僕を見つめているが何故かその全てが生温かい眼差しだった。


「そんな魔獣いますかね?」

「今のは欲張っただけだよ。ここから折り合いを付けていくから」


 そこから十分程考えたが何も固まらない。どうしても頭の中だけで考えると欲張ってしまう。肘を机につき唸っていると。


「整理しましょう」


 そんな僕に助け舟を出すようにシズカは要望を個別に纏め始めた。


「足が速く移動ように使いたいのなら大型の狼系が良いでしょう」


 一つ一つの要望に沿って、オススメの魔獣と質問に答えてくれる。


「魔獣の血が混じった馬じゃダメなの?」

「あれは戦闘用に向かないのと一般的に街の外でしか置いておけないので従魔としての価値はだいぶ下がります。あと管理大変ですよ」


 確かに街中で連れ歩けないのでは従魔としての価値は大きく下がる。馬の魔獣は大型の物が多く殆どが街の中に入る事はできない。軍など公的な機関ならいいが、街に入れない従魔の殆どが関所近くの従魔専用の小屋を借りその中で世話をする。毎日関所まで世話に行くのは結構手間だ。それは選ぶ面で大きなマイナスポイント。それ以上に僕にとっては家族になるのだ、できれば同じ家に一緒に過ごしたいという子供じみたわがままも存在した。


「そして戦闘に趣を起きたいのならオーガ、オークなどもオススメしたいんですが」

「あれ驚いたね。まさかいるとは」


 オーガが首に鎖を付けられ大人しく座っていたのを見た時は流石に声に出して驚いた。魔獣とは? とも思ったが。


「ですがオーガ、オークはそれこそ軍だから世話が出来ている所もあるのでこちらもオススメは出来ません」


 確かに餌と場所が大きく取られる。また戦闘用の魔獣はどうしても数の優位が大きな強みだ。個人が契約する従魔としては様々な役目をこなせる小型の物がいい。


「どれも強力になるほど手間も掛かると。負担の少ない魔獣となるとどれになるのかな?」

「犬、猫、鳥になりますね」

「ほぼペットじゃん」

「ですよね」


 餌と散歩をしていればいいと。ただ犬猫の従魔は人気がないとも語っていた、その理由は。


「犬と猫は、狼系の魔物で代用できるので、魔法が使える希少種なら話は別なんですけどね」


 とシズカは溢す。となると。


「無難は狼系になるのかな?」

「はい、テイマーに本格的になりたいなら話も少し変わりますが」

「だよね」


 と僕は相槌を打つ。やはり性能面で言うなら足の早い狼系か。移動が早くなればテオ兄さんに頼らなくても直接鉱山に乗り込んで良質な鉄を確保できるようになる。これもあくまで方向性を決めただけだ。


「もう一度見てから決めよう」

「それがいいですね。今日決める必要もないですしね」


 従魔店の人には悪いが今日は冷やかしになってしまうかも知れない。その事を心の中で手を合わせて謝り、再び従魔店に気持ちを沈み込ませながら入る。


「では、ここから別行動で、一人でじっくり悩みたいだろうしね」

「はい、では後で」


 店に入ってそうそうシズカと別々に散策する。流石は従魔店、様々な魔物を置いておかねばならない為店の面積がかなりある。正確には分からないが今まで歩いた感じだとギルド本部の3倍以上ある。


「うーん、高いな」


 先程シズカが言っていた様な魔法を使える希少種はやはり値段が高い。どれも1000万ルドはする超高級商品だ。王都価格である事は確かだろうが、王都以外でここまで多種多様の従魔を揃えられるのかと言われれば難しいだろう。そんな高級品に目を向けているととある令嬢の富豪買いが目に入った。


「こっちの右の、それと左も、ああ奥のも頂戴」

「はい合計1億ルドでございます」

「ではバトラー支払いを」

「はい」

「それにしても今日の従魔達、活きがよろしくないですわね」

「すいません」

「結構、ここの店は信用してますので」


 そう短く切った令嬢は更に手を止めず指を刺すことで従魔を指定してする。そして恐ろしいほどの金額が積み重なっていき獣魔を買い込んでいく。目の前にある殆どの高級品は姿を消し、その光景にほうけていると。


「行くわよバトラー」

「はい。お嬢様」


 そのまま彼女らは奥へと進んでいった。まだ買うのかと心の中で思いながらも手元の金額を見る。僕の予算は100万ルドだ。最有力の狼系の最低値が60万ルド。背伸びが少し出来る金額の筈だ。だがこの100万ルドという予算は令嬢の爆買いの後だとどうしても頼りなく思えてしまう。


「あの方を基準に考える必要はありませんよ」

「はは、すいません」


 先程の令嬢に付いていた店員の男性がこちらに声を掛けてきた。あのお令嬢には入れ替わりで別の人が付いており、人は見かけで判断してはいけないが僕の隣にいる店員さんより、新たに令嬢に着いた店員の方がお金稼ぎが得意そうだと偏見で見てしまう。

 

 彼女の買い方からして太客である事は間違いない。不快にさせてはならないと様々な権限を持つ者、彼女に今付いているのは恐らく店長だろう。そして今僕の隣にいる緑髪の男性は繋ではあったのだろうが太客に付いていたことから獣魔店での地位も高いだろう。


「自己紹介が遅れました副店長のルークです。お見知り置きを」

「はい、よろしくお願いします。すいません中々決められずに」

「いえ、ゆっくり悩んで下さい。貴方の新しい家族ですから」

「そうします」


 再び檻を見つめる僕だが、家族になる、その言葉が心に引っかかってしまう。悩みを深める僕に隣の副店長は「独り言ですが」と前置きをし話しだした。


「先程のお嬢様はあくまで自らが雇う傭兵の戦力拡充の為に従魔を買っておられます」


 あれほどの買い物もあくまで経費だと考えれば羨ましいが納得もできる。


「贅沢な悩みだとはわかっていますが、従魔を買うのであれば当人が出向きその目で選んで欲しいというのが私個人の考え方です」


 独り言という前置きだからこそ、彼の顔を見ずに檻に注力しているが僕だが、その心は副店長の話に趣を置いている。


「そしてここの店長は金だけでお客様と従魔を見る人物でしてね。それが悪いとも思いませんが個人的にこの店をそろそろやめようと考えています。もしよければ私が密かに経営しているお店に来ませんか?」

「勧誘だった!!」


 思わず彼の方に向くがそれでも迷わず首を縦に振る。勧誘だったとしてもこの人の考えには同調できる所は確かにある。 なら乗ってみるの手か。返事を聞いて微笑んだ副店長、いやルークに連れられ店を出た。


 そしてシズカはロストが従魔店に居ないことも知らず探し回る事になる。ここで意図せず生まれた問題は必ず後で尾を引く。それを知らず気分良くステップしながらルークの店にいくロストであった。


 *


「ここです」


 少し裏路地に入ったところがルークの店だ。看板には人面獣心、意味は道理を弁えない残忍な心。


「だめじゃん。この看板大丈夫?」

「だいじょうぶですよ。生き物を檻に入れ管理するなんて常人がやって良いことではないんですから」


 そう言われてしまうと言い返せず、ルークの後を追って店の中に入る。店の一階はそれほど広くないがやはり従魔店、本命は地下だった。


「ここは私が独自に集めた魔物がいる場所です」


 周囲を見渡すと結界こそ貼ってあるが檻は存在しない、放し飼いされた魔物がそこら中を歩いている。それだけではない、ここは地下の筈なのに日が入りそして自然な風を感じられる。王都の外と変わらぬ環境に驚いていると。


「ふふ、すごいでしょ。いや〜〜ハーフエルフに生まれて迫害こそ受けましたが、地下に楽園を作れる魔法の才能をくれた両親に感謝ですね」

「なるほど、僕は自慢に呼ばれたわけですか?」

「いいえ、気に入った魔獣がいれば売りますよ。ま、まともな魔獣は少ないですけどね」


 ははは、と天を見上げながら腰を反らし笑うルークから意識の端に押しやり周りの魔獣に目を向ける。そこは確かに不思議な魔物のオンパレードだった。


「狼なのに羽がある」

「ええ、変異進化が原因ですね。従魔店だと見栄えが悪いから売り物にならないらしいので私が買い取りました。さぁ、もっと悩み、魔獣達を見て下さい」


 ここまで来たら魔獣を撫でたいと近づくが触れるすんでの距離で逃げられてしまう。それにムカつき維持になって逃げた魔獣を追いかける。


「ちょっと待って〜〜」

「はは、見事に避けられてますね」


 それを5回ほど別の魔物にも行い結果全員に拒絶された。心が傷ついたので一度足を折りたたみ地下の端で体育座りをする。そうなのだ、何故か魔獣のみならず獣系の生物に避けられる。動物好きの僕はその度にちょっぴり傷ついているが誰も慰めてくれない。


「おや」


 ルークの意外そうな声と共に何か突かれるような感触がお腹に生まれる。視線を向けるとそこにはモグラの魔物がいた。モグラの魔物は僕が腰に差している品評会で出した剣を軽く突付く。見たいのかな? と思い剣を鞘から抜き刀身を地面に置く。


「もぐ、もぐぐぐ」


 と、とてもモグラとは思えない声を出しながらも魔物は興奮しているようだった。その行動は僕の心を癒やし触ることができるのではと期待を募らせる。もう触れられるならもふもふじゃなくてもいい。そんな馬鹿げた思考と共に、もしかしてこの魔獣は武器の良さをがわかるのではないかと期待感を強く持つ。

 

「お前剣の良さがわかるのか?」


 そう僕が問うと、恐ろしい勢いでモグラの魔獣は首を振るう。そしてモグラの魔物は口の中から何かを吐き出した。吐き出した物はミスリル鉱石とアダマンタイト鉱石だった。ミスリルとアダマンタイト、そん希少金属を持っている事にも驚きだが、その2つの鉱石を指を刺しモグラの魔獣は僕に何か訴えている。


「この剣の素材? どっちでもないよ。この剣は鉄を使ったのさ」


 ポケットから剣に使用した残りの鉄を床に置いた。


「モグ、モグググ」


 モグラの魔獣の言葉を最初から通訳すると。


「この綺麗な剣の素材は何だ? この2つ、ミスリルやアダマンタイトじゃないのか? 」


 そうこのモグラは言っている。そしてモグラの魔獣は僕の剣に感銘を受け従魔にしてくれと何度も頭を下げているわけだ。。正直そこまで褒められるとむず痒い。何度も頭を下げる必死さは言葉が伝わっていないと思い焦っているのだろう。


「大丈夫わかっているから」


 それを表すようにモグラの頭を撫でる。抵抗せずに受け入れ気持ちよさそうにしている魔獣を見て決めた。


「ルークさん、この子にする」

「わかりました、ありがとうございます」


 一番嬉しそうな表情をしているルークさんを見ると本当に魔獣が好きなんだと確信できた。シズカと共に出した獣魔案の殆ど無駄になってしまったがこのモグラの魔獣は僕に取って最も重要な事を満たしているからいいだろう。それは家族として仲良くやれるか。乗れることや戦闘が強いなどは正直この波長が合うか合わないかに比べれば粗末なものだ。


「お題はお客様がご提示して下さい」


 変わった形式だ。魔獣の価値は僕が決めろか、なら僕の心は決まっている。


「今ある全額100万ルドで」

「お買い上げありがとうございます」


 そのまま契約の魔法陣を僕の右手と魔獣の双方に掛け正式に完了した。


「行こう」


 その一言を聞いてモグラの魔物は僕の体をよじ登り肩に陣取る。


「すっかり懐かれましたね」

「はい」

「モグ」


 とても幸せそうなルークさんを見るに魔獣以外にも懐かれた気がするがまあ良いだろう。


「では名前を決めましょうか」


 ルークさんの一言で相棒は期待を籠もった目で僕を見つめる、ならとっておきを出そうと胸を張り、


「なら名前はエザルモ三世だ」

「モッグ」


 モグラの相棒は気に入らなかったようだ。それを表すように僕の肩を足踏みする。なら次だ。


「リンリングラベル」

「モグ」

「カラガルリンス」

「モグ」

「クロマーク」

「モグ」


 そんな事を一時間近く続けルークの提案で鳴き声から取ったモグという名に落ち着いた。


「安直すぎない?」とモグとルークに言ったらモグは僕の襟を掴みこれでいいと泣きながら訴えていたので本人の希望を優先したそして……。


「何かありますか?」

「いえ、何も」


 元いた従魔店に戻るとシズカは優しそうな笑顔を浮かべていた。しかし目の奥は笑っておらず恨みが込められていた。そして道場でいつもの3倍以上ボコボコにされたのは言うまでもないだろう。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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