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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
外伝 シルヴァフォックス編
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同業者にしか気付けぬ得意分野

「というわけでこれが僕の剣です」


 約束通りとはいかなかったが3日後、魔物の肉を捌き終わった僕はシズカと共に平民街にあるゲルドさんの店に向かい品評会に出した剣を二人に見せていた。剣を机に置き覆っている布を解く。そんな時とある疑問が浮かんだ。


「所でシズカさんは仕事はいいんですかい?」

「いいですよ、ガイに押し付けてきましたから」


 誇らしげに胸を張るシズカのその言葉に1週間前様子を見にいった時のガイを思い出した。


「ガイ、生きてる? ってわ」

「何とかな。エヴェンシェリンの奴がワークダイエットとかほざいた時は己の命を賭け、あの女に仕事をさせるため勝負を挑みかけたが」


 部屋にガイの姿はない、実際ガイの声は机一面に広がる書類の中から聞こえる。どうやらシズカがそう評したワークダイエットは一定の効果をもたらしておりガイは確実に痩せていた。失礼やつれていた。書類の山からガイを救出した後に労いも兼ね何が欲しいかを聞く。


「今度お土産でも買ってくるから元気だして。何がいい?」

「甘いもので糖が足りない」

「了解」


 体を起こすだけでも辛いのかそのまま机から動かずに眠ってしまったガイに軽く掛け布団を掛け、せめて書類の種類だけでもまとめてから部屋を出る。僕がガイに同情してしまうのはしょうがないだろう。シズカの仕事の雑さには僕も苦労させられていたのだから。


「ロストまだか」


 ゲルドさんの期待の籠もった声が僕を現実に呼び戻した。剣を持ちそして鞘から刀身を抜く。

 


「綺麗ですね」

「はぁ、これがからハイゼン一派は」

 

 くず鉄の合金とは思えぬほど剣の刃は美しくシズカとゲイルさんの評価概ね好評。だがそれぞれ別の部位に目を向けている。シズカさんはうっとりとした声を上げ剣の刀身に見惚れ、ゲイルさんは逆に剣の全体そして持ち手の部分に強い興味を抱く。ゲイルさんは苦笑いをしながらため息を吐き、


「これで数年ぶりの作品って鈍る前はどんだけだよ。ナイフとかも残ってないのか?」

「残ってないよ。作った剣は折れるまで魔物相手に振ってたし、剣はあくまで他者の命を奪う武器だからね。眺め埃を被せる位なら使い、汚し、壊したほうが剣に誠実でしょ」

「お前自身の剣を振るうことを師に禁じられているって言ってなかったか?」


 ゲルドさんの疑問も当然だ、だがその約束も最初からしていた訳ではない。それにゲルドさんが言っていた。


「もう少し師に対して不真面目になったほう楽だぞ」


 あの時は話さなかったが。


「うん、でもあの約束は師匠の遺言でもあったんだよね」

「悪いことを言ったな。そりゃ真面目に守りもするか」

「ううん、ゲルドさんの言葉も一理あるしね」


 ゲルドさんの一言、不真面目になれは僕に響いた。師匠との約束も最近は何か理由があれば破ってもいいかなと少し軽めに考えられるようにもなってきた。師匠には師匠の考えがあるが僕には僕の状況がある。であるのならば時と場合に合わせて柔軟に生きてもいいのではないかと。


「剣の話に戻りますけど、どうですか?」

「審査員が話した減点箇所は振りにくいでしたよね」


 シズカは実際に剣を握り、袈裟、逆袈裟、右薙ぎ、左に返し剣を納めた。初めて握る剣だが間合いの管理は完璧で店の中の物に掠りもさせない。僕は信頼しているから何も反応しないが。


「やめろ、店の中で振るうな」


 ゲルドさんはシズカを信頼していない訳ではないがやはり自分の店だ、傷つけられるかもと不安に思ってもしかたがないだろう。剣を振るうのを止めシズカは再び観察を始めた。


「確かに少し振りにくいですよね」


 何が理由かはわからない。しかし違和感を確かに感じるシズカはその正体を必死に探しているようだが、その手にあった剣をゲルドが取り上げた。


「あ」

「お前に剣を持たせていると店が壊されそうでヒヤヒヤするわい」


 剣をゲルドさんに取り上げられたシズカは少し名残り惜しそうな声を出した。一方手元に剣を持つゲルドは今まで以上に剣を見つめる。刀身には目もくれず鞘、柄を中心的に、そして最後に刀身の角度に目を向け僕に剣を返した。


「ありがとう。惚れ惚れする剣だ。次剣を作ったらまた俺にも見せてくれ」

「はい、ありがとうございます。そうだ僕これから行く所があるのでこれで失礼します」

「ロスト、私はもう少ししたら行きますので先に行ってて下さい」

「わかったよ。先に行ってるね」


 勢いよく店の扉を押し外に飛び出す。しかし勢いを付け過ぎたせいで扉は可動域の限界に着くとそのまま反発、僕に襲いかかるように扉が戻って来る。


「イデ」

「気をつけろよ」

「わかりました」


 小躍りしそうな気持ちを抑え今度は扉を丁寧に開け、締めると飛び上がるように外に駆け出していった。

 

 そんな僕が去った後のゲルドさんの店では。


「で、どうしてシズカさんは残ったんですかね?」

「ロストの作った剣、その剣の鍛冶師としての評価を聞きたいと思いまして」


 ゲルドは面倒くさそうに目を細めるがシズカはゲルドの態度にむしろ確信を深めたように笑みを深める。彼女自身答えを欲したのだろう。なぜ振りにくいか、その答えはきっと自分と基準点が違うゲルドが知っていると。ゲルドは再度溜息をし。


「本当に良い剣だ。それにしても品評会という場でその評価ならしょうがないが、そのルーミアという嬢ちゃんはまだまだ修行が足りないな。振りにくいに決まってるだろう。これはロストという剣士が自分が振るうことを前提に作ったオーダーメイド品の剣なんだから」

「オーダーメイドですか?」


 最近の品評会では実際に王国の騎士団長が振って剣の良さを確かめる、そんな審査が追加されたと噂に聞いていた。それにしてもオーダーメイド? 剣なんてそこらへん変わらないのではないか?


「はぁ、わかっていないな。あの剣はロストが振るうことを計算しつくされた剣だ。そりゃあ成人男性が振れば体には合わない。実際に何かを斬る際には重要なポイントが幾つかある。重量バランス、重すぎては振れないし軽すぎては力を込めて剣が振れない。一番斬りやすい角度は決まっている、この角度を工夫なく剣を振っただけで生み出すには、それこそ腕の長さと剣の形状を計算して作らねばならない。それから持ち手に入れられている切れ込み、恐らくだがロストが握れば文字通り手に吸い付くように作られている。あそこまで剣と対話出来ている奴は俺でも見たことはない」


 現在最も王宮鍛冶師の称号に近いと言われている男がここまで言うとは。


「ま今回は素材の悪さと研磨の方にも多少甘さは見られる。将来、いや総合的にはすでに俺を超えている。正直まいったよ、届かない領域を見せられた気がして。だからこそ今後見るロストの剣は楽しみではある」

「ふふ、そうですか。では私もロストの元に向かうので」

「ああ、また来てくれ」


 感情が抑えきれず、扉を吹き飛ばし外に出る。


「ちょっと、店の扉を壊すな」


 気分が良すぎたのか店の扉その留め具を壊した気がするが気にしない。そしてシズカも街の中心部に姿を消した。


 哀れにも外に倒れ込む扉を見て今日何度目か、そして一番虚しいため息を吐くゲルド。一度店の奥に入り工具箱を持って扉を直すために外に出る。

 

 そして壊れてしまった留め具の交換をしているとあり得ない思考が過る。ロストの鍛冶の腕は自分を超えている。それはハイゼン・ディード・ダルフィンの内弟子、正確には義理の息子であるという事実で納得できる。数年前の腕は知らないがドワーフの価値観ではハイゼンは最も偉大な鍛冶師の一人だ。ハイゼンにその弟子テオ。当たり前のように王宮鍛冶師である彼らの一派、ならば名がばら撒かれ過ぎて本物がわからなくなったシルヴァフォックスの最有力は候補は……流石にないか。


 ロストは自ら作った剣を振るうことを禁じられている。必ず何かがあるはずだ。何故ならロストいう鍛冶師が最も得意としている事は使い手にあった剣を作ることだ。肩幅、肘から手、骨格や腕の長さ、足の膝で分けれれる重心のバランス、これら様々な物の差で生まれる剣が最も力の入るポイント。他にもあるだろうが俺にわかるのは精々この辺りまで。ただ言えることはロストが品評会に出した剣は彼が振るうことで完璧に至る。それを何故封じる? 有り得ないだろう。ロスト本人に問いただしたい気持ちもあるが彼が何も知らないという確信もある。どちらにしても己の手が届かぬ所だ。騒ぎ立てず胸の奥にしまっておくことに決めたゲルドであった。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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