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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
外伝 シルヴァフォックス編
46/136

三人の王宮鍛冶師

何とか間に合った。m(__)m

 僕はデメテルを出た後ある人物と待ち合わせをしていた。


「ロスト、こっちですよ」

「シズカ、おまたせ」


 シズカは僕の足元から頭を一周眺めフフと笑みを溢す。


「何か私達普段と変わりませんね」

「まぁ、出会う度に模擬戦しかしてなかったからね」


 僕の服装はなんの模様もない無地の白シャツ、シズカさんも白い道場着の軽い服装だ。どちらも男女が出かけるにしては少々不釣り合いの服装、残念ながら華やかさは微塵もない。とはいえ共に過ごした時間の半分が模擬戦で占めている僕らだ、ある意味正しいのかもしれない。僕とシズカの目的は3日前に遡る。


「で、ロスト剣を買いに行きましょう」

「どうして? ほらここにも真剣はあるけど」


 彼女との日課である模擬戦は王都でも続いていた。当然場所はファトゥス流の道場だ。彼女の問いにライラで頂戴した剣を見せるが、シズカは少し迷いながら口に出す。


「こんなこと言ったらなんですが……ライラの剣はそれほど質が良いとは言えないですよね」


 その間も僕の顔を伺うような話し方をするシズカ、彼女は僕が武器を馬鹿にする発言を嫌っているのを理解しているからこそ言葉を選んで話しているのだろう。


「すいません気を使わせちゃって。まぁ、確かに鍛冶師の腕と剣の素材が良いとは言い切れないのは事実ですね。ただ剣を手にしたのなら使い切らないと剣に失礼なので」


 捨てるという選択肢は最初からないが、シズカさんの言わんとしている事もわかる。僕がライラの剣を手にした理由はあの町を守りたいという剣の作り手と剣そのもの気持ちを借りたかったからだ。そういう意味ではライラの剣をもう僕が使う理由はない。それにライラの剣も最後の一本、予備用の剣も仕入れてもいいだろう。


「では3日後に王都の広場で」

「はい、楽しみにしておきます」


 そして今日シズカの案内で彼女オススメの武器屋にやってきたわけだ。その武器屋は平民街にあるらしい。平民街に王都民が住むことは珍しいが貧民街の住人がお店を立てるのは結構あるらしい。この国の平民街と貧民街の差は公金の使われる金額で決まる。実情は平民街は警備が充実した繁華街、貧民街は住宅街、これが正確な状況だ。だから貧民街の住民は平民街でも普通に買い物をするし咎められることもない。あいにく現在の王族は皆善良だ。だからこそ差別の少ない住みやすい王都が生まれている。王都から北にある都市ではこうはいかない。


「ここですよ」


 白いレンガが特徴的な平民街の店と比べると茶色いレンガは独特な味があった。時代に取り残された印象が正しいのかもしれないがこのお店は変わる必要のなさを感じる。


「では入りましょうか」


 シズカが店のドアノブを掴もうとするが、その前にドアノブが独りで回り扉が開く。


「すいません」

「こちらこそ」


 ちょうど店から出てくる人とタイミングが合ってしまったようだ。青い髪を短く揃えた少女はこちらに頭を下げ丁寧に謝ってきた。少女はそのまま急いでいるのだろう、僕らの横を抜けそのまま走り去ろうした。しかし何の心境の変化だろう。少女は足を止めこちらに声を掛けてきた。


「余計なお世話になるかしら」


 そんな事を小声で呟いていたが覚悟を決めたような顔になり僕らに忠告してきた。


「すいません。余計なお世話かもしれませんがここのお店はやめた方がいいと思います」

「どうしてですか?」


 お店への期待を打ち破るような言葉に心が少し沈む。初めてのワクワク感を奪われている感じがして正直今すぐ耳を塞ぎたい。


「まともな剣が置いてなかったですもの。それでは」


 少女は言いたい事だけ言って立ち去ってしまった。僕とシズカは少女が見えなくなるまで見送る。シズカは僕の顔を覗き込むように少し背中を丸め顔色を伺う。


「どうしますかロスト」

「僕は自分の目で確かめるタイプなんだ」


 胸を張りながらそう答えるとシズカは吹き出すように小さく笑い扉を開けた。少女の余計な茶々が入ったが店に入る前から感じる雰囲気に興奮しっぱなしだ。そしてその期待は間違ってなかった。


「おお、いい腕だ」


 不思議と扉を開け漂う匂いで勘づきそして目で見て確信する。あの少女はこの店を酷評していたが店主の腕前はかなりのもんだ。確かに置いてある剣の性能は酷いが出来はいい。もし剣の性能しか見ておらず、職人の腕を見抜けないのであれば少女の目利きは2流だ。3流と言わないのは剣の性能はお世辞にも良くはない。つまりあの少女は間違ったことは言っていないのだ。ただあの少女の物言いからするとこの状況での正しい注文の仕方をわかっていない。


「店主いますか?」

「こんどは何だ……お前さんか久しぶりだな」


 シズカさんが声を掛けると店の奥から人影が現れた。といっても成人のような背丈ではない。僕より少し背の高いドワーフが現れた。


「シズカさんじゃないですか。今度は誰を紹介しにきたんだ」

「この子です」


 そう言うとシズカは僕の背中を押しドワーフの前に押し出す。


「初めましてロストです」

「おお、初めまして。それにしてもシズカさんが直接連れて来るのは初めてだな。まぁいい、好きな剣を選んでこい。特別に1万ルドで売ってやる」


 目利きの腕を確かめようとしているのだろう。でもこの店に飾られている剣はいらない。その殆どが出来の悪い外見だけ良くした見せかけの剣ばかりであるが中には100万ルドは下らない代物もいくつかある。僕ならそれを確実に見つけドワーフの店主その目の前に出すこともできるだろう。だがそれでは面白くない。ハイゼンの弟子相手に鍛冶の目利きで挑むのだ。このドワーフを心の底から折り逆に大金をせしめてやる。そんな負けず嫌いからでた荒んだ心を深呼吸で落ち着ける。

 

 よく考えればこの試験は僕が受けていいものではない。シズカさんが紹介してきた冒険者達は恐らく武器の重要性を理解してはいない未熟者だ。最近主流の魔力で強化すればいい、属性を付与すればいい、そんな奴らに対しての戒めみたいな面もこの試験にはあるのだろう。後は最近の市場の事情もある程度絡んでくるのだが、今回は高い安いではなく正解を選ぶとしよう。

 


「あの、シズカさん流石にドワーフさんに失礼なんじゃ」


 人前故にさん付けをしシズカに訴えるが本人は気付いてない振りを敢行した。それを聞いたドワーフの店主さんは。


「どういう事だ?」

「いや、僕元々鍛冶畑の人間なんでこの試験やってもドワーフさんが損するだけですよ」

「おい、シズカさん!! まぁいい、言ってしまった事だ好きに選べ」


 そんな太っ腹な事を言っていたドワーフさんだが僕が剣を持つたびに「あ」などの面白い行動をしてくれる。元々このドワーフさんは太っ腹ではあるのだ。このドワーフさんが打つ剣なら例え材料が石であっても1万ルドは普通に超える。都市一番の名物鍛冶師と言ってもいいくらいの腕だ。勿論爵位を与えられるクラスの化け物鍛冶師にはギリギリ届かないが。


「いや、選ばない。そのかわりに材料を容易するのでそれから剣を作って貰えませんか?」


 僕がこの店に持ってこようとしている素材は別にアダマンタイトなどの珍しい素材ではない。普通の鉄、銀、それ位のものだ。だがその一言を聞きドワーフの店主、その目の色が変わる。


「お主の名前はロストと言ったか? そこまで見抜かれたなら儂も名を言おう、ゲルドだ。ではお主の要望を聞こう」

「取り敢えずゲームは中止でいいですか?」

「中止どころか合格だ」

「ありがとうございます。では僕が良い鉄を選んで来るからそれで剣を作って頂ければ。剣の長さや重さの割合、持ち手の方もお願いします。そうだなレッドグリズリーの皮をなめした物で他細かい所はメモにでも書いておきます」

「了解だ」

「え、何が?」


 目をパチクリさせシズカは混乱していた。 先程までドワーフのゲルドに意地悪をしてやろうと考えていたのだが、気付いた時には何故かロストとゲルドが手を取り意気投合に近い状況になっている。

 

 そしてシズカがこの状況に置いていかれている事を僕は理解出来ていた。説明せねばならない。そう思いこの鍛冶屋の中で出来がいい剣をシズカに投げ渡す。シズカは剣を受け取ると刃の部分や持ち手の接合部分などを丁寧に見て行くが何がなんだかわからない様子だ。


「その剣正直酷いでしょ」

「確かに酷いですけど、試験なので酷い剣も混じっているんでしょ?」


 そこで僕は大きなため息を吐く。何もわかっていないと、そこで助け舟を出したのはゲルドさんだ。ただし僕への。


「ルシアは妖刀持ちだから目利きは疎いぞ」

「そうだった」

「バカにしてます?」

「「もちろん」」

「よし二人共表に出ろ」


 そんな馬鹿騒ぎをしつつ話を進める。


「まぁ、そこは僕が仕込んどくので。その剣の性能が悪いのは別にゲルドさんが手を抜いているからではないんですよ」

「ではなぜですか?」

「王都に流れている鉄、ミスリルそれら含め質が悪いからです」

 

 この剣の出来は悪くないのだ。接合部分は剣を支え、刃の部分もしっかりと研がれている。長さも振られた時の事を考え作られている。持ち手は握りやすいよう少し削り溝を作っている。細かい気配りが散りばめられた完成した良い剣のように聞こえるが、使い手がその剣を握るとどこか物足りなさを感じてしまう。その理由は素材の質の悪さ。

 

 テオ兄さんと税関であった時に気付くべきだった。なぜ王宮鍛冶師自ら素材の調達に鉱山へと出向いたのか。まぁ外に出ること自体はなくはないがテオ兄さんは超が付くほどのインドア系、理由がなければテコでも外に出ない。


「品評会に出す剣を作くるために製鉄所に行った時の話しなんだけど。その時に売られていた鉄がどれも酷くてね。あのレベルの鉄しか作れないならすぐにあの製鉄所には誰も買いに行かなくなる。そのはずなんだけど鉄を買いに来る人は僕がいた僅かな時間だけでも大勢いたんだ。それを不審に思って色々調べている内にある話を聞いたんだ。どっかの大貴族様が鉱山から掘ったばかりのまともな鉄を全て自分の懐に入れてしまっているという噂を」


 ここにある出来の悪い剣の素材である鉄は、製鉄所が苦労し、不純物の多い鉄の中で何とか作りだし一品を使用している。それでも質の悪い鉄であることは変わらない。どんな物でも素材の善し悪しは完成品の出来栄えに作用する。ここまで酷い質の鉄では絶対に良い武器は作れない。ただ今王都で変える鉄の質はどれも同じ。鍛冶師が工夫をしなければまともどころか、酷い剣すら作れない状況になっていた。

 


「で、ロストお前は何処から質の良い鉄を持ってくる?」


 当然の疑問だが僕には切り札がある。


「僕の兄弟子から貰ってくるよ。品評会用の剣の素材もそこから貰ってきたし」

「兄弟子? 名前は?」

「テオ・ホワイトドッグス」

「王宮鍛冶師じゃないか」


 大切な人が褒められるのは気分がいい。それに師匠と同じ王宮鍛冶師になった兄弟子。


「ふふ」


 この誇らしさだけでパン3つはいける。


「何で兄弟子に作って貰わないんだ、いやそもそも自分で打てばいいじゃないか」


 ゲルドさんのその発言に僕は口を膨らませていた。僕もゲルドさんが言ったように自分が作った剣で戦いたい。だがそうしたいのは山々だが僕には師匠との約束がある。そして約束であるのならば僕は守らねばならない。


「師匠から、自分と師匠そしてテオ兄さんが作った剣を実戦で使うことを禁じられているんだ」

「またどうしてだ?」

「わからないよ。でも師匠の指示には従うのが弟子ですから」

「そこはもっと柔軟でもいいと思うが、俺なんて師の言う事聞かないから3回ほど破門になってるからな」

「それはやりすぎでしょう」


 今までの会話を黙って聞いていたシズカが自信有りげな微笑みを携え会話に入ってくる。


「なら、他の王宮鍛冶師に頼んで剣を作って貰うのはどうでしょう」

「いい案だけど、言伝てあるの?」

「ない……ですね」


 僕とシズカが唸っていると、ゲルドさんが怒ったような顔で机を叩いた。


「それ以前だの問題だ。そもそもだシズカさん、あんたは現在の王宮鍛冶師を知ってるのか?」


 ゲルドさんの質問にシズカは自身満々に腕を回しながら。


「知らないです」


 と返した。ゲルドさんは口を大きく上げ唖然としたがそれも一瞬、すぐに僕の方にも顔を向け同じ質問をする。


「ロスト、お前は」

「テオ兄さんだけかな、後故人なら師匠かな?」


 王宮鍛冶師なんて師匠やテオ兄さんが持っている役職で同じ顧客を得た位の認識だった。僕自身王宮鍛冶師の称号を持っているがそれも小さな子供が貰う名誉称号程度の物で、つまり僕の知識もそこで止まっているわけで本物がどれほど凄いのかよく知らない。


「現在の王宮鍛冶師は三人。テオ・ホワイトドッグス、デイジー・ディアスコーピオン、そしてシルヴァフォックスこの3人だ」


 他の二人は知らなかったが碌でもない予感がプンプンする。それにシルヴァフォックスか、僕が貰った名誉称号に似ているな。


「テオ・ホワイトドッグスは一番真面目な鍛冶師だな。目指しているのは汎用的な剣の極地。デイジー・ディアスコーピオンこいつは魔剣制作にしか興味のない鍛冶師だな、その為なら違法行為も気にせず行う。最後にシルヴァフォックス、こいつは得体が知れないというよりも逸話のみが一人歩きした存在だな」

「逸話?」


 実績が物を言うそれは何処も変わらない。でも逸話とは?


「王族主催の品評会で大貴族の圧力すらも剣の出来でねじ伏せた。俺たちアトラディア王国にいる鍛冶師の中で伝説的な存在だ。そして奴の実績はこれだけだ。これだけで王宮鍛冶師になった」


 その話を聞いて僕の中で会ってみたいと胸の奥が熱く叫ぶ。それに光栄な話だ、そんなすごい人と同じ称号が貰えるなんて。そんな凄い人だからこそ子供称号みたいな形で色々な品評会で名がばら撒かれているのかもしれないが。


「で、そのシルヴァフォックスって鍛冶師は何処で会えるの?」

「偽者の場所なら知ってるが本物は知らん」


 ゲルドさんに詰め寄りながら問うが何か事情があるのかゲルドさんは口を紡ぐ。いや歯を食いしばっている。


「なるほど大貴族すらねじ伏せた。そこがポイントだね」

「ああ、王族はその存在にあやかり偽者まで立て名を与えた」


 仮にも王族貴族主催の品評会なのだ。武器と職人の情報はどちらも厳重に管理されているはずだ、それななら。


「でも品評会なんだから剣を出した当人くらいわかるんじゃないの?」

「残念ながら分からなかった。その剣自体、地位のある人間が品評会に強引にねじ込んだ物でな、第第的に王家は探したが見つからず、また誰も名乗り出なかった」


 いい事を聞いた。独り歩きし大きくなった職人。だが腕は超一流なら僕の鍛冶師としての目標は。


「目指せシルヴァフォックスってとこだね」

「ロスト大きく出たな」

「僕は仮にもハイゼン一派の1人だからね。なら目標は大きくだ」

「そうだ今度ロストの剣を見せて下さい」


 シズカのその一言につい溜息を吐いてしまう。品評会に剣を出した、それを聞いたときからシズカは落ち着きがなく、どこかムズムズしていたのは知っていたがそれが理由か。


「ダメだったでしょうか?」


 中々返答の出来ない僕を見て、体を左右に動かし不安を表す彼女に申し訳なさを感じ己の恥を晒す。


「ごめん、自分の剣に自信がないんだ。最近は品評会の事が不安で夜も中々寝付けないし」


 シズカは目線を合わせながら僕の両手を自身の両手で包む。


「それでもです。よくない結果だったとしてもスタートが地点がその場所なだけです。これから精進を続ければいい。違いますか?」


 そう抱きしめるような笑顔で言葉をくれた。


「わかった。シズカさんとゲイルさんに酷評されるため、品評会から剣が戻ってきたら持ってくる」

「多分酷評は出来ないからそこそこ期待しておくぜ俺は」


 とゲイルさんは言っているが流石にそれはないだろう。武器を作るのをやめて1年以上立っていた。ブランクを考えるとまともな剣は出来ない。こんな言葉がある、1日休めば5年分腕は錆びる。5年は言い過ぎだがそれでも腕は落ちる。


「私も楽しみにしていますね」

「やめてよ、今からドキドキしてきた」


 と二人にしてプレッシャーを掛けられ、再燃した不安に頭を抱えながらも、期待されるそれはそれで嬉しくもある。品評会から剣が戻ってくるのを楽しみに待つのであった。


 その数日後、品評会の結果は失格。僕は2日ほど暴れに暴れたのだった。そしてとある人物との再会が待っているとは思いもしなかった。


 テオ視点


 「そう言えば忘れていたな」


 ロストの戸籍関係の話だ。アイツの戸籍は少々ややこしい事になっている。いやそれ以上にアイツの認識がか。ロスト本人は国から送られた称号であるシルヴァフォックスという名を子供名誉賞とでも思っているだろう。だから本人が言っている王宮鍛冶師は半分冗談、周りからはからかわれていると認識している。

 

 そもそもハイゼン師匠のやらかしが問題の発端だった。少し昔4年程前だったか。ロストが作った剣を師匠が盗み出し王都の品評会に出した。元々その品評会は主催者である大貴族が自分の財を自慢するパフォーマンスの為に開いたものだった。その中で現れたのがロストの剣だ。周りの人々は彼の剣が他のどの品よりもダントツで素晴らしい事を理解してしまった。しかしその場は大貴族のパフォーマンスの場、こっそりと品評会の場から外されると誰もが思っていた。そしてそれこそがハイゼン師匠の狙いでもあった。。

 

 本人は俺の弟子凄いだろうくらいの気持ちを味わいたいだけ。賞には興味ないし取られても困る。何故なら弟子から盗んできた物だったからだ。しかし皆の予想を外れ主催者の大貴族はロストの剣に賞を与える事を大々的に発表した。大貴族の考えとしては自分の所有する作品よりも圧倒的に優れた物であり、それは有象無象にもわかるほどだ。ここで自分の作品たちを選べば他の貴族達に目利きが出来ない成金だと思われてしまう。ならここは負けを認めて器の大きさを見せよう、そう考えたのだろう。


 そしてハイゼン師匠の思惑は外れ剣は賞を取り返ってこなかった。問題なのはロストの方だ。剣がなくなった事自体は盗んだ翌日から本人に知られていた。そもそもロストは自分の剣を作り終えると迷いの森に突撃し剣が使えなくなるまで帰ってこない。本人曰くそれが礼儀らしいが、そのため彼の鍛冶場には剣のストックなんてものはありはしない。 1つしかない己が打った剣がなくなれば誰でも気付く。最後の問題点としてバレ方がよくなかった。俺とロストはよく師匠の付き添いで居酒屋に顔を出す。そこで酒に酔っ払った師匠が知人の革職人にロストの剣の自慢を始めた。しかもその時ロストは隣におり、本人がいる場で犯人が自白したのだ。そこからロストは烈火のごとく怒り続けた。流石に暴力を振るうまではしなかったが数日間は大好きなはずの師匠と一言も喋らなかった。そこで師匠も師匠で変な言い訳をしたのだ。賞を取ったと、お前は凄いんだと。ここでまた勘違いが生まれる。知人の革職人の男性が「子供なのに凄いなと」ロストに言ったのだ。そこで彼は子供用の品評会で賞を取って称号が与えられたと勘違いをしたのだ。結果正式な場で称号を貰った筈が子供用のお遊び、力のない名誉職。周りの大人が自分を王宮鍛冶師というのはからかっているだけだと変な齟齬が生まれてしまったのだだから。俺はロストが王都に来たらこの事を説明しようと思っていたのだが。

 

 俺はロスト・シルヴァフォックスという人間を憎んでいる。あの子の才能を憎んでいるわけじゃない。ただあの子の鍛冶師としての存在とあり方を憎んでいる。

 

 絶望を与えられ、嫉妬を覚えさせられ、そして師を奪われた。そして以上に憧れ、恋焦がれ、憐れみ、そして何よりも俺の中の剣士の理想像を染めてしまった。


 憎しみなんてものはちっぽけなものだ。それ以上に家族として愛し、誰よりも認めている俺の宝物。師との最後の約束。

 

「あの子から奪った物を返すかどうかの判断はお前がしろか」


 ただ一言だけロストに伝えていいのなら何があっても俺はお前の兄弟子であり味方だ。それだけは伝えておきたい。

拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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