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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
外伝 シルヴァフォックス編
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デメテルレガリア教室

時系列的には2章最終話時点の本部長室入室から半月前です。

 レガリア。それはこの世界の人間が魔物と戦うための知恵であり力。たが使えはするがどのような仕組みかをわかっている人間は少ない。そしてここにも知識を持たない人物がいる……そう僕だ。


「ではレガリアの講義を始める。ロスト君はレガリアがどんな仕組みで動いているか知っているかね」

「いえ、知らないです」

「だろうな、まずそこから始めよう」


 デメテルにある一室を借りスーリヤさんの講義は始まった。スーリヤさんは指示棒で黒板に大きく書かれた図を指す。それは丸く白い物体で今僕の手元にあるレガリアと同じものだ。


「レガリアの機能は魔物の成長過程を参考にしている。皆知っている通り魔物の成長は早い。それは互いに喰らいあい互いの魔石に生命力に馴らされた魔素を取り込んでいるからだ。相手を喰らいその体内にある魔素を取り込んだ魔獣の魔石は成長しそれは肉体にも現れる。これが魔物の強くなる仕組みだ」


 何故かは知らないが生命力に馴らされた魔素でなければ魔石は成長しない。これは学会でも長年の疑問とされている。


「そしてこの仕組みを人間用に調整したのがレガリアだ。レガリアの核は魔物の魔石を調整したものでありこの技術は一般的に公表されていない最重要機密の1つにもなっている。ロスト、レガリアの起動時に現れたレベルの表記とは何かわかるか?」


 手の中にあるレガリアを見つめる。レベル……僕が魔素浄化装置にレガリアを繋いだ際に現れた数字だ。このレベルの表示、王道だとやっぱり。


「僕の魔石が成長したって事でいいんですか?」

「己の肉体がと言わなかった所は評価しよう。だが違う。レガリアの核である魔石は生命に馴れた魔素で成長する。レベルそれは魔石が生命に馴れた魔素を吸収し切れぬ時にレガリア内に溜めていおける魔素の量を表している。つまりレベル1=魔素貯蔵量1%って事になる」

「魔石の魔素吸収速度ってそんなに遅いの?」

「ああ、すでに死んだ魔物の魔石を利用しているとな、どうしても生前の吸収量と比べると遅くなる。といってもそこらへんは国ごとの技術力でも差は出るから一概には言い切れんな」


 つまりレベルは強さに関係ないってことか。冒険者であれば魔物を倒す機会なんていくらでもある。いずれは魔素がレガリアから溢れてしまう。昔は妬んでいたので気付いていなかったが、僕以外の冒険者は確に休息日というものがあった。それはレガリア内の魔素の調整をしていたからなのかもしれない。調整しながらの冒険者生活、僕はそんな生活とは無縁だった。


 気の向くままに森に向かい魔物と戦い続けた。あるときは1ヶ月の間シリウスに戻らなかった事もある。長期の野宿をした後、シリウスで受けた配分依頼は何故か街中の雑用しかなく、もしかしてステラさんが僕に内緒で魔素の調整をしてくれていたのかもしれない。ともかく普通の冒険者も大変だ。そんな呑気に考えていた僕だったが。


「とは言ってもレベルにも恩恵はある。この世界には危険地帯が山程あるのは知っているな。まぁお前のいた迷いの森はまた少し事情が違うが。危険地帯の特徴の1つに空気中の魔素濃度が高い事が挙げられる」

「つまり魔石は魔素の濃度が高ければ高いほど活性化するって事?」

「そう。そしてその状況を擬似的に再現しているのがレベルだ。先程言っただろう? レベルとはレガリア内に留めて置ける魔素量を表している」


 スーリヤさんは僕に指示棒を向ける。少し自分で考えろということだろう。そこから考えられる情報で僕は思考する。レガリアは自らの吸収しきれない魔素を蓄え環境を作る。最初から100%魔素を貯め続ければ最も効率よくレガリアは稼働する。しかしステラさんや他の冒険者の行動から考えると魔素を貯めすぎないように冒険者は休息日を取り入れている事は確かだ。

 

 スーリヤ先生は今だ僕に指示棒を指さしている。解答を待つにしても一度引っ込めればいいのに。今までしっかりと停止していた彼女の持つ指示棒がほんの少しブレる。そこでようやく気付いた。スーリヤ先生が指示棒で僕を指すそれこそがヒントだったと。


「多すぎる魔素は人体に有害だと言うことですか?」

「そうだ。魔素は生物に馴染み易いが同時に劇薬だ。ロストお前ほどではないが危険も伴う」


 そこでスーリヤ先生は指示棒を下ろす。少し指示棒を持っていた右腕を擦っていたのを僕は見逃さなかった。

 

 そしてスーリヤ先生はパンと黒板を左腕で大きく叩く。そこにはレガリアのレベルに対するマニュアルが載っていた。


 レベル10、身体能力の強化(小)、体の免疫能力及び生命力の上昇(大)

 レベル30、身体能力の強化(中)、体の免疫能力及び生命力の上昇(中)最も体の負担が少なくバランスのいい状態。

 レベル50、身体能力の強化(大)、体の免疫能力及び生命力の上昇(小)身体能力こそ高いが常に体に負担を強いている状態である。

 レベル60、身体能力の強化(特大)、体の負担(小)息をするだけで体に負担が掛かり、もし魔素をレガリアから抜いたとしても、後遺症が残る可能性がある。

 レベル70 死にたいの?

 レベル80 死亡


 後不要


(最後の方適当だね!!)

 

 とも考えたがわかりやすくもある。僕の体質の事を考えるとこのマニュアルのっているレベル+20くらいが体に掛かる負担と思ったほうがいいだろう。


「最後にスキルだ、ある意味お前には一番必要な知識だろう」

「僕のレガリアはレベル機能しか動いてないんだよね」

「だから重要なのさ、この事実は」

「?」


 スーリヤ先生は一度咳をわざとらしく行う。彼女の顔はいつも通りだが目の奥が異様に輝いている。あ、ここから先の話は彼女が喋りたくて堪らない所だというのが一目でわかる。


「レガリアの核、魔石。その成長はレガリアに元々搭載されている強化術式を強くする。あくまで魔石自体の成長が術式の能力を強化しているため核が持っているエネルギーを何一つ使っていない。このエネルギーは何に使うか? 魔物に置き換えるとしたら使用法は肉体の新調や炎のブレス、毒の性能向上などだがレガリアではこれをスキルとして使用する。人間が使用する技術をレガリアの核が覚え肉体に自動で再現してくれる。もちろん実際に習得したのと比べれば多少使いにくく、使いこなす為には鍛錬も必要だ。だが人類は数の確保を容易にする手段を確立したのだ」


 頬を赤らめ、大きな場所を借り人生一番の発表するかのような何もかもがオーバーリアクションのスーリヤ先生を思考から追い出しながら今聞いた話を消化する。


 スキルは技術を再現したもの。つまりその技術を自力で習得すれば僕でも使える。よく考えれば魔力での肉体強化は自前で出来ている。あまりに身近な技術だったため気付かなかったが。シリウスで冒険者をしていた頃の事だが1ヶ月掛けて習得した魔力を使った身体強化術を新人が2日で覚えた時は流石に自暴自棄になりかけたが、習得速さの秘密はレガリアのスキルか。なるほど納得した。自らの気付きでこの事実に到達する事は可能だっただろう。正直数ヶ月前の諦めていた自分をぶん殴ってやりたいがそれ以上に今まで嫌遠していたレガリアの未知が既知になった。その喜びのほうが勝る。


「これで、最後の項目以外の説明を終了する」

「最後の項目? 」


 まだ何かあるのか? スーリヤさんが黒板に書いてあったマニュアルを消し片付け始める姿を見て疑問に思っていた。そして彼女が黒板を消し終わり明確に視線を送った相手を見て最後の項目それが余計にわからなくなる。この部屋には今3人いる。僕、スーリヤさんそして先程から死んだ目をして蹲っているルシアさんだ。アガレスさんから聞いた話だが、ルシアさんは人前ではレガリアを決して使用しないらしい。そういえばシリウスでの廃城で戦った時も確かにレガリアを使ってなかった。


「来いルシア」

「……はい……」


 ルシアさんはいつもの自身満々な声ではなく全てを諦めた表情でトボトボと黒板の前へと歩いていく。本当に何が始まるの?


「スーリヤさん、お願い、本当にお願い、ロストの前ではやめて」

「ではロスト最後の授業だ。レガリアの適合率が高いと稀に起こる事象を紹介しよう」


 せめて話を聞いてやれよ思うがスーリヤさんも聞いてはいるのだ、無視をしているだけで。そして僕も興味が勝り話の流れを絶対に止めることはない。そこでようやく観念したのだろう、ルシアさんは何も言わなくなった。


「ルシア、やれ」

「……」


 彼女がレガリアを起動したその時、一瞬眩い光が生まれる。思い出されるのはレティシアが初めてレガリアを触った時の光景だ。少しトラウマとなっている光景、背中の汗が皮膚の上を滑る、それが肌感覚でわかってしまうほど緊張してしまう。そして彼女のお尻と頭に変化が起きた。


「ロストどうだ感想は」


 ルシアさんは目元に涙を溜めつつキッとスーリヤさんを睨みつける。スーリヤさんも嫌らしい笑みをしているわけだが、そして僕の言葉もまたルシアさんをとんでもなく傷つける。


「エルフでケモミミ、盛りすぎだね」


 ルシアさんには獣人の尻尾と耳が生えていた。僕の言葉を聞き、頭を抱えて座り込むルシアさんを置いて授業は進む。


「どうやら魔素には様々な情報が含まれているらしくてな、それこそ獣人、人間、亜人それこそ色々だ。だからかレガリア、いや正確には魔素と相性のいい者がレガリアを使うと別の種族の特徴が現れる事がある。まぁ今回は実例が近くにいたので紹介しただけだ、例え耳が生えたとしても別に変な後遺症が出るわけじゃないので安心してくれ」


 そしてスーリヤ先生は背筋を正し。


「授業はここまで」

「ありがとうございました」

「うん、今後も励むように。それと後始末を頼む」


 そして何事もなかったかのようにその場を去っていった。


「えっと後始末って」


 膝を抱え蹲るルシアさんを見つめる。後始末あとは恐らく彼女の事だろう。いつもとは違う自信のない体を縮こませた姿についつい頭を撫でてしまう。


「こんど、埋め合わせをするよ。それとその耳かわいいですよ」


 ルシアさんは僕に顔を見せず。


「ありがと」

 慰めを受け取ってくれた彼女だが、僕の心は正直そこにはない。僕の興味はルシアさんに生まれた耳と尻尾に注がれていた。

 

(その耳で音は聞こえるの? 触覚はさわり心地はどうなんだろう?)

 

 このルシアさんの変化にはある種の感動を覚えていた。そして欲望を抑えられずに口に出してしまう。


「触ってもいい?」

「す、少しならいいですけど」


 ルシアさんは顔を少し赤くはしていたが目は真剣に僕を見ている。そこまで見つめられると触りづらいがこの機会を逃すわけにはいかない、そして恐る恐る手を伸ばす。ケモミミまで後10cmもない。どんな触り心地だろうとワクワクしながら手で触れようとした時。


「終わったかお前ら。て、何してんだ」

「せ、先生」

「オプシディアさん、ルシアさんに耳ーー」


 勢いよく扉を開けたオプシディアさんの方に向き事情を説明しようとするがルシアさんに後ろから抱きかかえられ手で口を塞がれる。


「せ、先生診察です。診察」

「そうか、すまなかったな」


 そう言うとオプシディアさんは扉を閉め離れていった。彼女のオプシディアさんに対する取り乱した様子から再び耳を触りたいとは言えなかった。こんどこそは、そんな夢を僕は胸に秘めるのであった。

拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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