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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
2章 立ち上がるために
34/136

そして王都へ

「なんでオイラがこんなめにあわないといけないんだ」


 高価な服を着ている5人の男子にトイレに連れ込まれ壁に追い込まれる。


「お前がもっと上手くやっていればオットーは父親に勘当されなかったんだぞ」


 男子の1人がオイラの後頭部を掴むと、便器に力強く叩きつけた。便器には赤い汚血痕が見て取れる、そして頭を一度便器から持ち上げられ、オイラを囲む男たちの醜悪な笑みが見て取れる。その時のオイラの感情は苛立ちだった。ただ暴力に対する感情ではない。


(折角清潔にしたのにお前らのせいで汚れただろ)


 丁寧に掃除をした、自分でも上手く出来たと心の中で密かに自信を持っていたこの場をただくだらない鬱憤を晴らす行為の為に汚される、それに酷く苛立ちを覚えていたのだ。


 あの悪魔のようなガキが珍しく掃除はオイラに向いていると昨日褒めてくれたのだ、ほんの少し気合を入れて掃除していたんだけどな。あのガキは気に食わなかった、だからこそあのガキの賞賛は認められた気がして少し嬉しかったのは内緒だ。それとはまた別に掃除を終えた場所でリンチをするとは他人の努力を無に帰す行為だ、悪辣であり個人的には大変不快だ。


「おい、なんか言えよ」

「っぐ、ゲェぇぇ」

「汚いな」

「なんて不潔だ」


 腹を膝で蹴られ、その衝撃でお腹の中の物を全て吐き出してしまった。5人の高価そうな服にオイラの吐瀉物が飛び散り汚す。服を汚され怒りに身を任せた5人は再びオイラの後頭部を掴み便器の中に入れ、その状態でトイレの水を流すレバーを引いた。

 

「ごぼごばごば」


 男たちの一人がレバーを何度も何度も引き水を流し続ける。オイラは呼吸が出来ず、走馬燈のように今までの出来事が頭を通り過ぎる。どうしてこうなったのか? そんな事はオイラが一番わかっている。


 オイラ、ガイ・ロウデウスはここルドレヴィアの元施設長だ、とわいえ只の傀儡それでも満足していた。


 オイラはロウデウス家の3男だった。ロウデウス家の周囲の評価は王都周辺の土地を持つが目立った所のない中小貴族。オイラは3男、家督を継げない。長男のスペアになる必要もない自由な立場だ、それが一般的な価値観だがロウデウス家は違う。ロウデウス家にとっての3男の立場は必要のない不要な命。両親の愛情はなく、従者、領民にも馬鹿にされる、文字通りのいらない命だ。


 そんなある日オイラはロウデウス家から追い出された。誰も住んでいない土地、ルドレヴィアを餞別に押し付けられて。当時オイラは13歳、成人もしていないオイラはどうすればよいか分からずルドレヴィアの森でサバイバルをしていた。


 そんな時転機が訪れる、ギルドのお偉いさんがオイラに会いにきたのだ。彼はこの森を冒険者の為の施設に使いたいと申し出てきた。だから貸してくれないかと。オイラは恥ずかしい事に今だに家族への執着心を捨てきれなかった。成果を出せばまた家に戻れるかもしれない、両親から愛を受け取る事が出来るかもと。そしてそのチャンスが今、目の前にあった。3ヶ月後にはルドレヴィアにギルドの施設が建っていた。ギルドのお偉いさんにオイラがだした条件、それはこのルドレヴィアに建つ施設の管理者にオイラをすること。そして施設の長になり両親に報告をした。家族は大変喜んだ。もちろん正式な場でロウデウス家の後継者になるつもりはないと宣言もした。兄と争う理由になるもの、そんなものは欲しくもなかったからだ。ただ家族としての愛が欲しかっただけだ。その晩初めて父と2人きりで食事を共にして認められた気がした。それに褒められたのだ。生まれて初めての経験に用意された部屋でこっそりと嬉し涙を流した。

 

 それからオイラはお父さんの言うことは全て聞いた。いけないと分かりつつギルドの施設内で貴族達を優遇しその毎に父に褒められる。そしてその日がついにやって来た。砂上の楼閣である我が城にシズカ・エヴァンシェリンという女がやってきたのだ。


「すいませんが、ガイ・ロウデウス、あなたを拘束します」


 曰くこの施設が貴族たちの犯罪、その隠れ蓑に使われている。曰く、邪教、闇組織との関係性が疑われる。曰く、冒険者組織としてこれ以上の貴族との癒着は認められないとのこと。


「待ってくれ。オイラは貴族生徒に多少融通しただけで……」

「そうでしょうねあなたは」

「オイラは?」

「ええ、あなたの父親は違いますけどね」


 わかっていた。お父さんがあくまでオイラを駒として見ていたことは、そしていずれ使い捨てられる事も。その後オイラは施設の監督責任を問われ土地と地位を奪われこの施設で奴隷のような下働きをしている。


 風の噂で聞いたがお父さんは捕まり、そこから悪事に加担していた貴族達が芋づる式に捕まっていったらしい。だがこのアトラディア王国において王家の力は弱い。それでも家長を捕まえる事ができたのはシズカ・エヴァンシェリンの存在があったからだろう。それでも取り潰すことができた家は男爵まで。だが今代の王家は力はないが王族は皆優秀だった。貴族達から大幅に私財を奪い取り力を削ぎ落とす、そして貴族たちと大きく開いた力の差を大幅に詰めた。結果民達に存在する口減らしそれが貴族たちの間でも広がっている。


 コイツらがオイラに暴行をするのは、この口減らしでここルドレヴィアを卒業した際に貴族籍を抜けなければいけないその報復だろう。元々ルドレヴィアに来ている時点で貴族の2男3男なのは確定している。貴族籍を抜けるのは所詮早いか遅いかの差でしかないのにオイラに八つ当たりをしている。いやそんな事もわからないからオイラで憂さ晴らしをしているのだろう。そう思うと笑えてくる。優秀な貴族様達、こんな事もわからないお前らは今後苦労するんだ。ざまぁみろと。

 

「へ」

「何だてめぇまだ物足りないのか」


 つい笑みがこぼれてしまった。怒りを高める貴族共は遂に一線を超える。きっかけは1人の提案だった。


「こいつ殺そうぜ」

「そうだな……平民1人殺しても問題ないだろう」


 誰が言ったかわからない。今だ貴族であるが特権階級の力を何1つ持たない彼らが勘違いをし呟いた。自分たちより身分の低い奴らに何をしても構わない。そんな残酷な事に何1つ疑問を抱かない彼らにオイラは危機感を覚え逃げ出そうとした。


「うわぁぁぁぁ」


 強引に体を振り回し拘束を吹き飛ばす。あいにくオイラは太っている。だからこそ体重の差で拘束を抜けられたのだろう。急ぎトイレから逃げ出そうとすが、命の危機故の火事場のバカ力を使用しても人数差には劣る。二人吹き飛ばした所で勢いを失い、最悪な事に集まった貴族達の中で最も体格の良い貴族の目の前でつまずきその場に転び、そこを拘束される。武術でも嗜んでいるのだろう、再び抜け出そうと暴れるが男の腕はピクリとも動かない、そして背中に膝を乗せられ全体重をを乗せられるとオイラは完全に動けなくなってしまう。そんなオイラに今出来る事は惨めな悲鳴を上げるくらいだ。


「こいつ」


 オイラが逃げようとして暴れその際に吹き飛ばされた貴族も体勢を整えこちらに近づいてくる。床に抑え付けられているオイラに怒りの目を向け、感情のままに蹴りを入れようとしたその時、ある人物がトイレに現れた。


「っひぃぃぃ」

「何をしている」


 響き渡る声、外からもう1人の男性が現れた。新たにトイレに入ってきた男は床にオイラの目の前にまで来てからわざわざ膝を曲げそしてオイラの顔をぶっ叩いた。


「ブッホ」

「それを貸せ」

「は、はい」


 近くにいた貴族生徒に指示をしモップを持ってこさせ受け取る。そしてオイラを床に抑えつけている男の背後に立つ。カンカンとモップの先端で床を叩く音が聞こえる。オイラは足に手に力を入れタイミングを待つ。そして新しく来た男、エリックがオイラを押さえつけている体格の良い貴族の後頭部をモップの木の部分でぶん殴った。後頭部を突如叩かれ気を失う男、拘束が緩んだタイミングでオイラは立ち上がりトイレから飛び出す。本当に正確が良いと思う。だってわざわざオイラを叩き警戒を薄めた後に死角である背後から強襲とは。突如の事で生まれた場の空白。動けぬ男達からエリック含めて安全に逃げられる。

 

 エリックの事は信じていた。何故ならエリックは唯一拒否権のないオイラと違って自分から真面目に東棟を掃除をしている掃除仲間だからだ。このまま上手く行けばと思っていたがそうはいかなかった。

 

「何処行くんですかね」


 トイレから逃げ廊下に出ると二人の男がいた。容姿は所謂荒くれ者でまだ制度が確立されていないここルドレヴィアにおいて貴族生徒は付き人を1人まで許すという廃止されていない制度を使ったのだろう。 もしかしたら彼ら傭兵を使い反乱でも起こすつもりではないのだろうか? 貴族生徒達からすれば大義ある行動と思っても不思議ではない。


「エリック様何でそいつを庇うんですか? ルーデリスト伯爵家は我らがアトラディア王国において上位貴族と同等の力を持つ、そんなクズ庇う必要もないでしょう」


 二人の男の廊下を塞いでいるせいでトイレから追ってきた貴族生徒達と全く距離が作れていない。これでは挟み打ち合う、そして懸念通りトイレからオイラ達の後ろに貴族生徒が現れた。有利な状況だからだろう、エリックに貴族生徒は問うた、貴族としての誇りをないのかと? その奢った考えにエリックは羞恥が混じった表情でため息をする。


「だからだ。お前らみたいな醜悪さを世間の貴族像にされても困る」

「なるほどあなたは貴族ではないようだ」

「おいドイル、エリックのような力のある貴族に俺らの辛さはわかんないだろ、やっちまおうか?」

「ありだな。ここで問題を起しても貴族や平民の身分差は関係ないそんなルールがここにはあるからな」


 貴族共がニヤリとした顔を向けきた。エリックも流石にこの状況は厳しいようで思わず後ずさるまったく、貴族生徒もふざけたことをする。エリックの方が立場が高いそう判断すれば今度は身分など関係ないと言い張る。そんなクソ共にいい思いをさせるくらいならと歯を食いしばりオイラは覚悟を決めた。


「エリック逃げろ。オイラが時間を稼ぐ」

「何を言ってるんだ」

「そもそもオイラの問題だ、迷惑掛けて悪かった」

「ガイ、っふありがとう」


 顔の整ったエリック不意の嬉しそうな笑顔に同棲のオイラでもドキドキしちまった。エリックの後ろにいる荒くれ者へと一歩前に出る。盾になり足止めが出ればそれで御の字、それ位に思っていたがエリックの言葉がそれを遮る。


「でも、憧れてたんだ、ピンチに立ち向かうって」


 そんな青臭い考えを言うエリックにオイラは面倒くさい奴だと思っていた。



(全くさ、貴族共の道楽はどうなってんだか)


 いるんだよな、厳しい教育を受けてきた故に英雄譚に憧れるバカ共が。誰かのために、誰かと一緒に無理難題に挑む。それにワクワクする奴が。


「実はオイラも」

「じゃぁ、いくか」


 面倒くさい人間はどうやら二人いたらしい。退路を切り開くように二人して荒くれに飛びかかった。



「馬鹿な奴らだ」


 荒くれ者に踏みつけられたオイラ達二人がそこにいた。知っていた、でも忘れていた。貴族は自分で戦わない。戦乱の世なら先人を切ることもあっただろうが今は太平の世。いくらここルドレヴィアで学んでいるからといって本職からしたら所詮はおままごと。本職に勝てるとしたら公爵とか辺境伯クラスの大貴族が金を掛けレガリアの力を使と幼い頃から丁寧に育てた子息令嬢くらい。


「で坊っちゃん達コイツラどうするんですか?」

「殺せ。喧嘩でやりすぎたといえば所詮冒険者。気付かないだろう」

「了解。悪いなお前らみたいな連中嫌いじゃないが仕事何でな」


 ここまでか。諦め掛けたオイラにエリックは話しかけてきた。ただとても小さな、オイラにしか聞こえない声で。その声はえらく楽しそうでそしてえらく無責任な声だった。


「ガイ、大丈夫さ保険を掛けてきた」

「保険?」

「そう」


 チリン。


 そんな変哲もないだが恐ろしく透き通った鈴の音が鳴る。それが一歩一歩人が歩くペースでなり続ける。


「誰だ」


 荒くれ者の声が廊下に響くが返事は帰ってこない。鈴の音だけが鳴り続けその度にオイラとエリックは冷や汗が吹き出す。現に先程笑顔だったエリックも今では顔を青くし、ほんの僅かに全身を震わせている。その鈴の音はオイラ達に取ってトラウマが現れるその前兆でしかないのだから。

 


「エ〜〜リッ〜〜ク〜〜」

「っヒ」

 

 地獄の悪魔が外に這い出る、しかもその声には怒りを帯びたていた。流石のエリックだが己の名前を呼ばれた時に悲鳴を上げてしまった。オイラもあの状態のアイツに名前を呼ばれたらきっと悲鳴を上げてしまうのでエリックには同情を向けた。だが1つ疑問なのだがあの悪魔のような男があそこまで怒る事は中々ない。


「何したんだよお前。」

「俺の掃除担当地区を荒らしに荒らし回ってからきた。何をしたかというと机を崩しまくって窓ガラス全部割ってきた。その後水道の蛇口を全開にしただけじゃなく排水口も詰まらせてきたから周り全部水浸しだ」


 テヘと言う声が聞こえそうなエリックの笑顔にオイラの体は動けなくなった。あの悪魔ロスト・シルヴァフォックスはついこの前まで1人で東棟を掃除してきたからかこの場所に凄い愛着を持っている。そのため掃除のチェックがめちゃくちゃ厳しい。掃除の甘い場所を何度も何度もやり直させる。そう……何度も何度も初日はほぼ徹夜だった。しかもチェックをする際に鳴らす鈴がとても心臓に悪い。まさに悪魔。だからこそエリックのしたことに恐怖しか覚えない。


「なんて恐ろしい事したんだ。あの悪魔に」

「ははは、大丈夫だって手伝ってくれるだろ友達」

「エリック……エリック」


 再び聞こえる悪魔の叫び声に怯えを深めるエリック。そんな情けない友人だがその存在に心が満たされる。


「当然だろ、オイラのダチ」

「ああ」


 そして荒くれ者達もロストの姿を目に捕らえた。


「なんだ、ガキか?」


 どうみてもルドレヴィアに来るような年齢ではない。しかしその以上さを感じ取ったのか荒くれ者の一人が剣を構える。一方ロストはというと両腕をぶら下げながらも手にはモップを握っている。


「あ、ガキ痛い目に合いたくなければどっガ」

「エリックーーーー!!!!!!!!」


 弾けるような声と共にロストは駆け出した。荒くれ者はその突撃に反応できずモップの先端が腹を突く。 

 人間の腕力だけでは絶対に生み出せない軌道で荒くれ者の一人はオイラ達の真上を飛び越え廊下の向こうへと姿を消す。


「サム、てめぇ」


 もう一人の荒くれが声を荒げ吹き飛んだ味方の方を一瞬向くがそれが大きな隙となった。少年はいや、悪魔はすでに荒くれ者の背後を取っていた。悪魔は荒くれ者の背後に飛びかかると首に腕を回し締める。


「離せ」

 

 傭兵は抵抗しているようだがその技は完璧に決まっていた。最初こそ首に通された腕を掴み外そうと抵抗をしていたが徐々に手から力が抜けていき壁に寄り掛かるように意識を失った。


 まだ貴族生徒は3対1で人数有利なはずだが荒くれ者が抵抗できず倒された相手に怯え動けずにいた。悪魔の目線は貴族生徒にキツく向けられる。 その目は次はお前だと、言われているような気がするだろうわかるわかるぞ、オイラ達はわかる。貴族生徒達は蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出した。


 だが安心してくれ貴族生徒達よ、オイラとダチ知っている。この悪魔が貴族生徒を追うことはない。何故ならこいつの狙いはエリックだからだ。


「さてエリック、責任は取ってもらうね」

「ああ覚悟はできている」


 首を捕まれ引きずられるエリック、潔さは認めるが何故か一緒に引きずられるオイラ。手伝う気では合ったため構わないが何故か釈然としない。


 引きずられていく中吹き飛ばされた荒くれが気を失い廊下に転がっていた。あの荒くれの倒し方、尋常ではない怒り具合なのは明らかだ。


「う、重い。蹴りながら連れてったほうが楽かな」


 そんな悪魔の泣き言が聞こえるがこれだけは聞いておきたい。


「エリック、オイラを何で助けた?。」


 同じ掃除仲間、ピンチ故に信用もする。だがそれはオイラがエリックを信用する理由だ、あの危険な状況エリックがオイラの味方をする理由にはならない。


「理由は簡単だ、俺を平民にしてくれたからだ」


 なんとエリックほどの力を持つ家でも口減らしをしたのか。でもどうしてそれがオイラへの恩になるんだ? 疑問に思っていると答えはエリックが教えてくれた。


「俺はさ貴族の次男で、兄貴のスペア。そんな中で市街にこっそり出るのが俺の唯一の娯楽だった。身分を隠しこっそり働き、その中でその……恋人が出来たんだ。だから……その……ガイのおかげで何の心配もなく結婚を申し込む事ができる」


 少し頬を赤くするエリックに対して。オイラが思ったことは。


「結婚式には呼べよ」

「当然だ。特等席を用意してやる」


 盛んな事だがオイラ、ガイは終生の友を得た。ただそんな喜びも目の前の悪魔がもたらす地獄があるせいで純粋に喜べない。


「管理人引きずるのやめてくれ、お前背が低いからめちゃくちゃ擦れて痛い」


 この一言が原因で管理人の掃除のチェックが今まで以上に厳しくなったと未来のガイは後悔するのだがここだけの話。




 それがここ2週間くらいの出来事だ。僕は久しぶりにルドレヴィアから出て平原を歩いている。目的地はアトラディア王国の王都だ。目的は資材の補充、主に傷薬、解毒剤、ポーションなどそのた諸々。ポーションは傷やランクにもよる傷を塞ぐ程度ならその場出来る。のだが消毒機能がなかったり傷跡が残りやすいなどの欠点がある。


 そのような棲み分けがあるため資材の購入は多岐に渡る。これらを買い集めるのであるならば王都が好ましくまたこの国のギルド本部への報告書の提出もこの時に行われる。まぁそれ以上にルドレヴィア周辺が田舎だというのが王都まで資材の補充に行く一番理由なのだが。小規模の街ならそこそこ存在しているが人口が10人以下の集落の比率が他の土地と比べて圧倒的に多い。だから冒険者の施設が建てられる場所として選ばれたわけなのだが、そもそもアトラディア王国において冒険者の地位はそれほど高くない。

 

 アトラディア王国。

 このベルディア大陸において陸の孤島と呼ばれる国だ。とは言え規模が小さい訳では無い。国力としては大陸第三位という所か。それに連邦とか諸国連合が加わると流石に3位の地位は怪しくはなるのだが。


 ルドレヴィアの冒険者施設から80キロの距離がある王都へ僕が徒歩で行っている理由は簡単だ、規則その一言で表せる。現在シズカの起こした内部通報によりルドレヴィアは再構築を求められている。でなければ再教育中の僕が東棟の管理人を任されるわけがない。又再構築中のためか現在ルドレヴィアはある程度落ち着きをみせるまで規則第一に動いていため融通が利かせずらない働き難い環境になっていた。そもそも再教育プログラムを受けている人間が資材の補充に単独で行くことすら予測されていないため馬車を借りることはできない。その対策として本来ならばシズカが王都への道に同行するはずだったが、シズカの方に仕事が入ってしまい彼女は一旦そちらで仕事を終えた後現地から直接王都に向かうらしい。シズカは高位冒険者な為本来なら拘束することは難しい。そんな中での事だ最低限の融通としてシズカが前もって馬の貸出許可を特例として出す書類を作るはずだったが、あの人諸々の書類と手続きを忘れていたようで僕は徒歩で王都に向かうハメになった。

 

 僕がシズカをさん付けで呼べない理由は初対面の状況だったりもあるが、詰めが甘く容姿に反して脳筋の為そのサポートをしなければいけない場面がこの短い期間に多々あった。シズカのミスであるし王都に行かなくても文句は言われなさそうだが、そういうわけにもいかない事情がある。資材の量が多いため正式な発注書が書面で必要であり、また王都の本部への報告書の期限が迫っている関係上シズカが王都に着くよりも早く提出しなければいけない。


「とはいえ悪くないかな?」


 最近忙しかったからゆっくりする時間が欲しかった。それに最近嫌なこともあった為リフレッシュがしたかったのだ。


「はぁ、祈りを忘れずにか」


 ルドレヴィアにいた邪教の関係者それが神父様だった。神父様正確にはコーレル司祭は邪教に所属していた。目的は何もわからない。だが僕が彼に支えられていた事も事実だ。それに彼が非道な事をするな人物にも見えないが……。


「割り切れないよね。簡単には」


 時間もあるしゆっくり行こう。僕は野宿を苦とは思っていない。4日かけてゆっくり王都に向かう事を決めフサフサの草原に寝転がる。そしてカバンから一枚の便箋を取り出した。便箋の中が少し分厚いがこれは彼らの善意だ。僕への手紙を1つの便箋にまとめ送ってくれている。確かに複数の便箋は少々かさばる為ありがたいが恐らくお金の節約の方が主な理由だろう。


 手紙は孤児院にいる子供達からのものだ一通、そしてグレゴールからのものが一通だ。グレゴールからの手紙の内容はシリウスで起こった事件、その状況の最終報告。グレゴールの手紙の内容で気になるのは、シリウスの犯罪組織それを管理していただろう男、クロードが一緒にいた仲間たちを連れて牢から逃げたこと。ま、僕自身そんな事もあるか程度で。僕自身クロードの印象は不思議でチグハグ、何をしたいのかわからない男。それ以上でなればそれ以下でもない。

 

 そしてもう一つの手紙には恐るべき事実が書いてあった。それは地下に囚われていた子供たちの殆どが僕よりも年上だったことだ。


「ま、驚いただけなんだけど」


 子供たちの手紙には最近の出来事が書かれていた。シルヴィアが剣を振り始め冒険者を目指している事、院長先生が怖い事。教会に行ったら友達が出来た。それこそ本当に他愛もない普段の生活。そんななんでもない手紙を読むと何故か心がとても穏やかな気分になる。


 そしてこの手紙の中で最も嬉しい事は子供たちの名前を知れた事とシリウスに帰ってきたら会いに来てくれという旨の話が孤児院の院長の手紙に書かれていた事だ。院長曰く子供達からいつ僕が孤児院に来るかを毎日聞かれて大変だそうだ。院長の人となりは知っている。子供たちが入っている孤児院はかつて僕もいた所だ。もしシリウスに帰ったら会いに行こう。


 そのためには子供達の顔をしっかりと想像しておかなければいけないな。手紙には子供達の名前とその特徴が書かれているが生憎写真はない。子供達に会った時顔と名前が一致していないと誰をどう呼んだろいいかわからない。だから手紙に書かれた特徴から想像しておかねばならない。


「アレスにディルク、ドーラにフレッド、ルディ、モナそしてシルヴィア。彼らに会うためにもまずは王都にだね」


 手紙に記されていた子供達の名前を大切に胸に抱くように読み上げる。そして余韻を大事にするように静かに空を眺める。


「流石にそろそろ行かないとね」


 休憩が長過ぎるな、王都に向かう4日間、休憩が長すぎて最後の一日走り放しは嫌だ。立ち上がり歩き出す。そんな時に僕よりも少し背の高い草が揺れボロボロの少女が現れた。少女は草むらから飛び出すとその場で倒れるがそれでも僕を見上げて手を伸ばす。


「助けて下さい」


  少女は最後の力を振り絞り僕に呼びかけ意識を失った。


 シリウスに居た頃よりはつよくなった。シズカと模擬戦をし新たな知識が付いた。その程度では誰かを救えると奢るつもりもなければ、自分から物事に首を突っ込みその結果必ず自体が好転するそん自信はない。

 でも自信とは成功の積み重ねだから、それに胸を張って生きるためにこの少女を見捨ているいう選択肢は端から僕にない。


 僕は水筒の中の水を魔法で冷やして少女の顔にぶちまけた。慌てとび起きる彼女に近づき。


「で何があった」


 誰もいない、助けも入らないそんな野原で僕の新たな戦いのゴングが鳴った。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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