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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
腐りかけた道標
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欲しかった言葉、その相手 1




 ギルド長に指定された集合場所はリーフマーケットというローランド商会が経営する総合売り場近くの公園だ。

 公園にあるベンチに座り空を見上げながら集合時間を待っていた。


「おい、緊張しすぎだもう少し肩の力を抜けよ」

「お目付け役? ベンさん」


 隣のベンチに誰かが腰を掛け話しかけてくる。

 肩を複数回叩かれ、その叩き方と声で隣の人物がベンさんだと判断し彼を見ず前を向き続ける。


「違うわい。元々土地勘のない余所者だけで作戦を進めるのは問題があるというギルド長の判断だ。他の組も冒険者だけではなく領兵を絡め、必ず地元の奴を入れて班を作ってる」

「そ、でも肩の力を抜くのは無理かな」

 

 己の震える手を見ていると、眼の前に黒色の靴が現れる。

 

「なら帰ったほうがいいんじゃないか? 足手まといが増えても意味ないしな」

「ヒュー、初対面の人間に絡むな。済まないな」


 顔を上げると目の前にはヒューと呼ばれたモヒカンの男性が片頬を上げ、嫌らしい挑発したような笑みを見せる。

 それを黒髪の男性が肩を掴み睨みつけ(たしな)めていた。


 黒髪の男性はこちらに頭を下げるとそれに合せ会釈をする。

 そして黒髪の男性は僕とヒューと呼ばれた男性の間に入り拳を握りヒューの頭を殴った。

  

「へ」

「兄貴痛いって」

「お前はこうしないとわからないだろ。次やったら盾で行くぞ」

「それはひでえって」


 頭を擦るヒューという男性に黒髪の男性は右腕を曲げ、ラリアットを仕掛けるように腕を振るう。

 だが当てる気はないようで、腕を5cm程動かし下げた。

 その仕草にヒューはビクリと反応、脅しだったことに安心し息を吐き出しす。 


「それにさヒュー、この子だって気負って固くなっている様子はないだろ」

「確かに……ま自力がなきゃ使えるかどうかはわからないしな。ただでさえ足手まといが一人いるんだから」


 黒髪の男性は振り返ると僕に向かって首を振る。

 ヒューは不貞腐れたように口を尖らせ黒髪の男性、その肩からこちらを睨みつける。


「ヒューやめろ」

「いいでしょ兄貴。地元でもない、その上本人がいないんだから。てっか、いつまで来ないんだイアンの野郎は」


 ヒューの目線に対抗しこちらも睨みつける。

 互いの目線が火花を散らす。


 隣のベンさんは笑みを浮かべながらその場で見守っており、黒髪の男性は語彙を強め注意するが、変わらず睨みつけているヒューに対して溜息を吐き頭を抱える。

 

 そして黒髪の男性からお叱りが来ない事を良いことにヒューは胸を張り「は」と腹から声を突き出すようにこちらを見ながら笑った。


 笑っていたヒューだが僕の後ろにある公園の時計が目に入った途端、目付きを鋭くさせ地面を強く踏みつける。

 

 黒髪の男性はそんなヒューの様子に今度は何も言わず目を逸らした。


「えっと」

「ああ、この二人はいつもこんなんだから気にしなくていいぞ。ちなみにイアンってのは昨日裏路地でお前を殴っていた眼鏡の奴な」


 彼らの顔を交互に見つつ何があったかわからず首を傾げる。

 そんな僕にベンさんは、耳に口を近づけ小さな声で教えてくれた。


 そこでようやくイアンが他所者としてシリウスに来れた理由がわかった。

 

 イアンという男は大した実力はなく、そしてプライドが異常に高いコンプレックスの塊のような男だ。

 それは僕の嫌いな男マティアス・ローランドように。

 

 支部を股にかけ活動をするための裏技の1つが高ランク冒険者とパーティーを組むことだ。


 パーティーとは通常個々の欠点を補う為に組むものだ。

 高ランク冒険者が自身の力をより活かすためにパーティーを組む、それならギルドも応援に呼ぶ際認めないほうがおかしいだろう。

 

 しかし今の問題はそこではない。


 ベンさんの話しを頷きながら聞いると何かが頭の中で引っかかった。

 そしてポンと左手を皿にして右手で叩く。


(イアンって確か裏路地で伸びているような?)


 腹部に思いっきり電撃を流した為今日一日は起きないだろう。

 しかもその場に放置してきたのだ、起こす人間がいるとは思えない。


「はは」と目を右に逸らす。

 ベンさんはまだしも、眼の前にいた2人もこちらを凝視していた。

 

「おい、待て君何か知っているだろう」


 そして黒髪の男性は膝を曲げると肩に手を置き、真正面からこちらの目を見る。


「えっと……はい実は」


 仲間を傷つけられた事を激怒されるのではと、肩を掴まれていた為逃げる事も出来ずに体を縮こまらせながら説明をする。


 話しを聞き終わった男性は僕の肩から手を離し立ち上がるとヒューと向き合い互いに手を叩き合った。


「はは、最高だぜお前、よし兄貴俺はこのガキを認める」

「さっきと言っている事が違うだろヒュー、でも俺も同感だ。そういえば自己紹介がまだだったな俺の名はグレアム、こっちはヒューだ」

「はい、グレアムさん。よろしくお願いします。えっとヒューさんも、何ですか?」


 ヒューと呼ばれていた男性は笑いが収まらないらしく、腹を抱え膝を叩きながら今も笑っている。


 そして黒髪の男性、グレアムさんは右手を伸ばしてきた。

 急ぎベンチから立ち上がるとグレアムさんの手を両手で取り握手をする。

 

 ニッコリと笑みを浮かべるグレアムさんの後ろで笑い終えたヒューさんが身を屈め、緊張した面持ちで

グレアムさんの表情を観察していた。


「おい、どうしたヒュー?」

「いえ、兄貴大丈夫ですぜ、おいガキ正解だ馬鹿野郎」


 その視線に気付いたグレアムさんは手を握りながら振り返る。

 ヒューさんは背筋をピント伸ばしグレアムさんに顎を何度も上下させ頷く、そして彼が再び僕の方に向き直ると、何故か僕を見てサムズアップをした。


「えっと」

「そんなことより君の名前を教えてくれ」


 ヒューさんの意味のわからない行動に首を斜めに傾けていると、グレアムさんがこちらを向いて優しい顔で言う。

 

 冒険者生活内で此処まで好意的に接されたのはベンさん以来だ。

 胸を押さえながら息を深く吐き出し。


「はい、僕の名前はロスト・シルヴァフォックスです。急遽お世話になることになりますがよろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」

「おう、よろしくな銀狐」

「銀狐?」

「だってようシルヴァフォックスだろ、気に入らないか?」

「いえ、銀って所が気に入りました」


 笑みを浮かべながら手を上げたヒューさん。

 今まで言われた無かったあだ名には瞬きをしながら頭を傾げたが、名前の後ろが由来だと聞くと数年ぶりに自然と笑みがこぼれた気がした。


 銀、つまり鉄だ。

 それが師匠の残してくれた愛に思えて。


「お前、笑ってるぞ」


 ベンさんの驚いた声。

 彼に振り向くと余計な事を言うなと睨みつける。

 口笛を拭きながら目線を逸らすベンさんを見て頭に手を被せ溜息を吐く。

 

 だけどグレアムさんの温かい雰囲気、ヒューさんの真っ直ぐな心根、そしてベンさんが与えてくれる見守っているような安心感に少し肩の力が抜けた気がする。


 それから数十分後、僕とベンさんはベンチに座りヒューさんはその場で屈伸運動、グレアムさんはそれを見守っている。


 彼らの様子からまだメンバー全員が集まっていない事が予想できる。(イアンを除く)


 メンバーが集まるのを待てない僕は目を細め膝を揺する。

 心の中で沸き立つ焦りがゆっくりとした時間を許容できず徐々に苛立ちが湧き上がる。


 ベンチから立ち上がり、体を動かそうとした時だった。


「私が最後ですか?」


 下を見た一瞬、脇の内側から自分ではない手が伸びていることに気付く。

 そして腹部分を持ち上げられ足が宙に浮く。


 背中に感じる男性とは違う女性のしなやかで柔らかな体の感触。

 そして僕を抱き上げている背後の人物に腰を回し肘鉄を繰り出した。

 だがその肘鉄は空を切り、手を離されたことで地面に4足歩行で着地する。


「ちゃんと食べてますか? やけに軽いですね」

「失礼だと思うんだけど」


 立ち上がると先程までこの場にいなかった金髪の美しい女性を睨みつけつつ、額にびっしりとかいた汗を左袖で拭き取る。


 僕には知られたくない事がいくつかあるが、その一つが体重だ。

 

 眼の前の女性は僕を抱き上げ軽いと言っていた。

 体重を測るに近しい行為をされた、警戒心が跳ね上がる。


「お、揃ったようだ。ロストこの人が班のリーダールシアさんだ」

「ベンさん、ありがとうございます。初めまして僕はロスト・シルヴァフォックスです」

「私はルシア、よろしくね。君の話はグレゴールさんから話は聞いてる。ま、聞いたのは今回の事件とは別件でなんだけどね」


 危機感から左腰に掛けてある剣の柄に左手を無意識に置く。

 息を吐き出し、剣を右手で抜きやすいように数センチ鞘から剣を抜いた時だった、ベンさんに肩を叩かれ目を覚ます。


 瞬きをすると剣を抜きかけていた事に気づき急いで持ちてから左手を離す。

 その間もルシアと呼ばれた女性は僕をじっと見つめていた。

 

 首を振り、自身の緊張感を振り払うと眉を下げながら彼女に頭を下げた。

 顔を上げると、ルシアさんは手の指をバラバラに動かしこちらに少しずつ近づいてくる。

 それを見て僕は急ぎベンさんの背後に姿を隠す。

 

(それに別件か)


 ベンさんの背に体を預けながら顎に手を置き考える。

 

 ルシアさんは手を止めると他のメンバーに目を移しているが、ベンさんの背中から少し顔を覗かせる度に彼女と目が合う。


 彼女が僕に送る目を言葉にするなら品定め、それでは一言足りないじっとりとした目で僕を観察している。

 

 そこで思い出すのはある噂だ。

 

 高ランク冒険者は変人が多いという話をよく聞く。

 いや、変人と決めつけていたほうがきっと精神衛生上にはいいはず……なのだが、いや今はこの考えを抑えるべきだろう。

 

 そもそも今僕のやらなければいけない事はシルヴィアの救出、それ以外は雑音だ。


「ベンさん、グレゴールさんから貰った今日の作戦をお願いします」

「ああ、でもこれは必要ないもんだよな」

「「「は?」」」

「え、グレゴールの依頼に作戦なんてあるの?」


 ルシアさんがベンさんに目を向けると、彼は脇から茶色い封筒を取り出した。

 その中から一枚の紙を手に取ると、笑顔で縦に破り始めた。


 他のメンバーはべんさんの行動に目を見開きその場で固まる。

 

 彼らは既に背中を合わせて作戦を行なってきた。

 

 そこにはメンバーがどんな人物かといった人柄の把握もある程度はあった筈だ。

 ベンさんの行動は3人全員が固まる程度には驚かせる行動だった。


 普通はギルド長から貰った作戦書を破り捨てるという破天荒な行動は誰でも固まるかと、3人に心の中で手を合せつつ、ベンさんが縦に破いた紙を受け取り内容を目に通す。

 

「はぁ、手を抜きやがった」


 その紙には地図と赤い丸が書かれているだけ。

 ベンさんから茶封筒を貰い中を見るが他には何もない。


 そこで目を細めつつ頭をかく。

 ベンさんとは付き合いが長い、だからなんとなく次の行動がわかる。


「おい、ロスト仕事だ」

「ベンさん何しているんですか!!」


 ベンさんは右側にいる僕の肩を掴むと中央に寄せ、皆の前に突き出す。


 そこでルシアさんも正気に戻り、体を震わせ声を荒げた。

 しかしベンさんはルシアさんを見ずに僕に目線を向けたままだ。


「お前の仕事だ、最短距離で行こう」

「わかった、わかったよ。いつも通りってわけね」


 肩に置かれたベンさんの手を振り払い溜息を吐く。

 そして目を細めながら笑みを浮かばせベンさんを見つめると、彼は僕と似たような悪い笑みを返す。

 

 振り返ると僕らの様子を見て班のメンバーは頭を傾げていた。


 だがまぁ話さなくていいだろう、時間が勿体ないし。


 ベンさんが言っていた最短最速、あいにく僕も同じ考えだ。

 こんな所で作戦会議をちんたらやってはいられない。

 胸元から鈴を取り出し、右手の中で跳ねさせる。



「で、どうするんだ」

 

 ヒューさんは辺りを見渡しながら言った。

 ベンさんはそれを聞き自慢気に背中を伸ばす。


(まったく他人事だと思って)


 溜息を吐きながらベンさんを見つめる。


 ベンさんを先頭に僕らはリーフマーケット裏の住宅街に来ていた。

 そこの特徴は複数人が同じ屋根の下に住むアパートとい形態が多いが、問題として少しガラの悪い奴らが多めに住んでいる。


 ローランド商会は警備の面もかなり力を入れている。

 そのおかげで地元の人達も安心して買い物に来ているが一歩深く入ればこのような場所だ。

 

 といってもシリウスにはこのような場所は数多くある。


「ベンさん何故資料を破ったんですか? あれには領兵やこの地区の冒険者が集めた情報があったんですよ?」

「問題ないさ」


 依然咎めるようなルシアさんの言葉を軽く流し、ベンさんは振り返り僕に頷く。


「本当に此処でいいの?」

「ああ、頼む」


 大きく息を吐き出し慣らしも兼ねて指を鳴らす。

 それに合せ魔法を使うが、返ってきた反動でしゃがみ込みその場で胃液を吐き出した。

 

「大丈夫か?」


 青くなった顔を見てグレアムさんが近寄り背中を擦ってくれる。

 手で大丈夫だと示してから立ち上がると、左手で眉を揉みながら背後のリーフマーケットをそしてベンさんを睨みつけた後、溜息を吐きながら住宅街の奥に無言で足を進めた。


「おい、何処まで行くんだよ」

「悪いなヒュー、それとロスト近かったか?」

「近すぎ、ちょっと人に酔った。はぁ信じるんじゃなかった」

「悪い悪い」

「いいよ、早る気持ちは僕もあったから。丁度いい薬だ」


 ヒューさんが先に進む僕に手を伸ばそうとしたがそれをベンさんが肩を掴み静止。


 吐いた原因であるベンさんの謝罪を耳で聞きそして足を止めた。

 

 先程の位置からせいぜい500メートル進んだだけであり、周囲には目に突くような建物は何も無い。

 他のメンバーは先ほどの位置と何が変わった? と頭を傾げている。


 先程からずっと右手で持っていた鈴の着いたチョーカを首に着け、ベンさんの方に向く。


「ベンさんやるよ」

「ああ、頼む」


 首元にある鈴を魔力の込めた右手の親指で弾くと鈴からは綺麗な透き通るような音が響く。

 ヒューさんはともかくグレアムさんとルシアさんは耳を閉じ、その音に聞き入っていた。

 

 音は響き、波は広がり続ける。

 そして波が通った場所、そこから滝のような情報が頭の中に直接叩き込まれた。

 

 眉を細め全身から汗が吹き出る。

 だが入ってくる情報はどれも有用だ。


 薄くなった魔力の残滓、砂などの靴に運ばれた来た残留物、肉眼では見えなく成る程薄くなった足跡。

 建物の木材の味などそれこそ様々。

 

(最後のは余計か、センサー切っとかないと)


 口から唾を数度吐き出し、教えられた木材の味を吐き出す。


 これがレティシアが王都に向かっておよそ2年、試行錯誤の後に会得した魔法だ。


 僕は魔法がまともに使えない。

 初級魔法のファイヤーボールは魔力を炎に変換して放つだけの単純な魔法だがそれすら習得出来なかった。

 

 理由は簡単、体質だ。

 僕は体質により魔力を他の物質に変換出来ない。


 もしファイヤーボールと似た事をしたいのなら、自前で火を用意→魔力を送り込み火を制御、また魔力を燃料に火の火力を増強→敵に向かって放つ。

 普通の冒険者が意識1つで出来ることを複雑な手順を加えてやらねばならない。


 この体質のせいで一般魔法と呼ばれている物は全て習得出来なかった。

 そんな僕が縋ったのがオリジナルの魔法。


 専門的な知識が必要な魔法を作るという作業。

 諦めの悪さと運良くリーザさんという魔法に詳しい人と知り合えたことでなんとか形になった。

 

 僕の魔法体質のいい所は主に2つ。

 あくまで魔法ではなく自然に発生する現象への調整が主な為、魔法感知などの警戒網には一切引っかかず、極めて高い隠密性を持つ事。

 

 そしてもう1つは燃費がいいことだ。

 

 何かを生み出す、それは少量でさえ多くのエネルギーを使う。

 調整する事にしか魔力を使えない関係上、僕が魔法を使う際に使用する魔力量は初級魔法と比べても微微たる物だ。

 

 ここまでの説明だと僕の体質がさしたる問題ないように感じてしまうだろうそんな事はない。

 

 何かを生み出せないというのは攻撃には向かないものだ。

 戦いの中で何度も感じてきた。

 ここで一般魔法が使えれば苦労せずこの魔物を狩れるのにと。

 

 そして魔法がまともに使えれば僕の冒険者としても評価は一段階上の物になっていただろう。


 それに僕は戦いに比重を置いている人間だ。

 真正面から挑み、相手をねじ伏せ、見下ろす。

 そこで相手を貶めたいとも、優越感に浸りたいとも思わないけど。

 とにかく真正面から相手をねじ伏せたい。

 子供っぽいかもしれない、でもそれが憧れであり、僕が目指すレティシアの後ろ姿だ。


 僕はオリジナル魔法の総称を代償魔法と名付けた。

 そして今使っているのがその中の1つである探知魔法。


 自然界の似た能力でいうならエコーロケーション。

 そこから魔法で色々感知できる物をくっつけたのがこの魔法だ。

 違う点は音で出した振動をあくまで魔法の媒介に使うだけであって、音の反響で情報得ている訳では無い事だ。

 

 そしてこの探知魔法は365度全ての角度から、目で見れるよりも小さい物を鮮明に見落としなく情報を頭に叩き込んでくれる。

 そこには実際に触ったような触覚もあり、間違いなく僕を支える切り札だ。


 (これは)

 

 左側の2階建てのアパート、その中に見覚えのある魔力を感じ取った。

 それは先ほどシルヴィアを攫った男達の1人、その残留魔力だ。

 

 この薄さから考えると3日前のものだろう。

 アパートにいる連中へ差し入れをしただけでアジトに繋がっているかわからない。

 それにしてはアパートに入ったきり、今いる道には一本しか残像魔力を見つけられない。

 この道に戻ってきたなら行きと帰り、2つ分の残像魔力がなければおかしい。


 考えられる要素としては、眼の前のアパートにアジトへ繋がる道が隠されているか。


 左にあるアパートに顔を向けるとそれに合せベンさんを除いた他のメンバーの目も同じくアパートに向う。


 足が思わず前に出る。

 爪先に重心が集まり目の端が黒く染まり視界が狭まる。


 だが今回はパーティーでの作戦だ。

 首を振り、集中する意識を振り払うとルシアさんに向く。

 そして重心を踵に下げ彼女に手にした情報を話そうとした時だった。


「行け」


 胸元から葉巻を取り出し、火を着けたベンさんは前を向きながら言った。

 その言葉を聞いた途端、足を踏みしめ眼の前のアパートに向かって走り出した。


 背中を押された気分だった。

 右足をまずは踏みしめ地面を蹴り上げる。


 そして魔法によって叩き込まれる情報を元にアパートの1階、その左から3番目の扉に向かいナイフを投擲する。


 アパート内部の構造は外から見たイメージとはだいぶ違う。

 

 1階部分の壁は全て破壊され、ワンフロアとして繋げられており、そこに家具を散乱させ男たちが寝転がっている。


 そして1階の左から3番目以外の部屋から入ろうとすると扉に仕掛けられトラップが発動する。

 部屋に入ろうするものは扉を開けた直後真正面から飛んでくる毒を塗られた矢に貫かれ、その場で命を落とすだろう。

 

 そんな罠が貼られているが僕には関係ない、なんせ見えているから。

 

 左から3番目の扉にナイフが命中すると扉にゴンという音が鳴り、門番役として玄関入口にイスを置いて座っているが男が立ち上がりドアを開ける。


「誰ですかね、たっく」


 見張りの男はドアチェーンを掛けながらドアを僅かに開け外を確認する。

 不用心にドアを開けるとほぼ同時、その隙間から鞘を突き出し男の鳩尾に叩き込む。


 鳩尾を突いたが意識を奪うには威力が足りず、男は鞘を掴み笑みを受けべながら後ろを向く。

 恐らく仲間に声を掛けようとしたのだろうが、その前に鞘の先端から電流が流れ男は体を震わせその場で泡を口から吐いて倒れる。


 この電流は僕の魔法だ。

 体を動かす電気信号を強化し、制御、そして触れている相手や金属部分を通して相手に流し気絶させる。

 殺さず制圧する時によく利用する魔法だ。

  

 ドアが開くのを防いでいるドアチェーンは鞘から僅かに剣を抜き、刃の部分で両断。

 音を立てずにドアを締めると部屋の中に侵入する。


 そして腰袋から煙玉を取り出し、男たちが寛いでいる正面の部屋に向かって煙玉を投げ入れた。

 

 今の季節は1月。

 よほどの事がなければ皆窓は開けない、

 

 そのため屋外で半径10メートルを白煙に染める煙玉が室内で炸裂。

 一瞬で部屋の中を白に染るだけでは飽き足らず、煙を吸い込んだ男たちは蹲り咳き込んでいる。


 唯一脱出出来たのは窓に近かった男のみ。

 それでも窓ガラスを割る強引な脱出だった。

 

「お前ら窓に突っ込め、開けてる暇なんかなないぞ」


 男は外に出ると身を屈め手で口を抑え煙が晴れるのを待つ。

 

 その時男はある音を耳にした。

 鈴の音だ。

 何回何回もなるその鈴の音を警戒し身を屈めて口を閉じる。


 家の中に何かがいるのはわかっている。

 だが視界が利かぬ中に飛び込む勇気はない。

 自分が破った窓から離れ、家から死角になるように壁に張り付く。

 

 そんな男の状況は全て探知魔法で理解していた。


 目と口を塞ぎ探知魔法を連続使用することによって視覚を確保し煙の中を歩く。

 そして足元に蹲る男達の元に向かい鞘を突き立て電流を流し気絶させる。

 これをただ煙の中で行い、処理をし続ける。


 ただそんな中でも例外がいた。

 息を止め目を煙で充血させながらも1人の男性は剣を両手で握り構えている。

 だが視界は利かないようで、大げさなほど首を左右に振り必死になって周囲の状況を把握しようとしている。

 

 その首の動きに合せ懐に潜り込むと、左手で持った剣を振るい男性の右手首を直撃させる。

 男性は顔を歪ませるが、歯を食いしばり剣を振り落とすのを拒否、鞘は男性の右手首の上に乗せられるように受け止められた。

 

 だがその次の瞬間、鞘から電流が流れ男の手首を麻痺させる。

 そして右手が剣から離れるとそのまま下で剣を握っていた左手に鞘が乗り電流を流す。

 ついに男の両腕が力なく落ち、剣が手から離される。

 

 そしてガラ空きになった男の腹部目掛け体を捻り右拳を叩き込む。

 男性の体はくの字になるがまだ足には力は残っている。

 腹部に力を入れ耐えようとする男性、その時ジリという音がなる。

 男の体は力なく後ろに倒れ背後にあるソファーへ乗りかかる。

 

「ったく、何なんだよ、お前ら外に出てこい」


 外から聞こえる男性の声。


 煙が薄れ始めたからだろう。 

 中を覗こうと、家に足を踏み入れる。

 

 だが依然視界を封じる程濃い煙に注意を引かれ足元の意識が薄くなる。

 そこを狙い腰袋から取り出した投げナイフを投擲、男の両足にそれぞれ一本突き刺さる。


「お、俺の足がァァァ」


 足を踏み外した男は家の外に背中から倒れ込む。 

 背中を打ったのにも関わらず男は体を丸め足に刺さったナイフに手を伸ばし、くぐもった声と共に引き抜き、ナイフをその場に投げ捨てた。


 だがナイフを抜くのに夢中だったか、背後に立つっていた僕に気付かない。


 男の後頭部を踏みつけそこに鞘を近づける。


「まってくれ、俺は死にたくない」


 聞こえるのは男の命乞い。

 両手を組み激しく揺らしながら祈る男性の耳元に口を近づけ。


「大丈夫、殺しはしないから」


 優しく語り掛けただけなのだが、男性は電流を流していないのに泡を吐き気絶してしまった。

 膝を着き、男性の頬を叩き反応を見たが動かない。


 溜息を吐き男性の足元に近付くと腰袋からハンカチを取り出し2枚に破く。

 そして男性の穴が開いた足に縛り付け、一応の応急処置を終える。


「これで終わりだ次にいこう」

 

 普通なら1人位は眠らせず起こしたままがいいのだろうが必要ない。

 

 今必要な情報である隠し通路がどこにあるかはわかっている。

 気絶している男性の顔を蹴り上げ部屋の中に向かった。

 


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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