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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
4章 英雄の卵
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落ちこぼれだから出来る事。


「フェン、ここまででいい。送ってくれてありがとう」


 3時間の飛行で王都に戻ってきた。王都から東の都市ミシェーラまで8時間掛かった事を考えるとフェンの飛行速度がいかに早いかが分かる。


 王都の手前でフェンに下ろして貰ったのは、何も話の通っていない状況でフェンに王都内部にまで送らせるわけにはいかないからだ。最悪フェンが王都城壁に付けられた対空装備で撃ち落とされ兼ねない。


「ああ、じゃぁ、あの木の影までで送っていくよ」

「助かるよ」


 フェンが下ろしてくれたのは王都城壁の目と鼻の先にある森。ここなら王都まで徒歩10分という距離だ。王都近郊でフェンが安全に着地できる限界地点だろう。というか森のおかげで安全に着地できるだけであって、空を飛ぶ事に関しては危険地帯に片足を突っ込んでいる。


「本当にありがとうフェン」

「ああ、こちらも。武運を祈る」


 そしてフェンは東の方に飛び立っていった。


「さて、王都はどうなっているのか?」


 グリフォンが近くに飛んでいれば王都内部はともかく、城門の中にいる兵士には緊張が走る。だが城門近くの門に騒がしい雰囲気はない。それだけじゃない、昼間であるはずなのに王都に入る為の検問所に列がない。これは異常だ。仮にもアトラディア王国の王都だ、平日休日限らず必ず検問所では列ができる。それが全く無いと言うことは数日前から検問所が完全に封鎖されているか、それとも誰も検問所におらず人が入り放題になっているかだ。


「お邪魔します」


 少し前まで寝泊まりしていた城壁の中にあるに宿舎に向かう。すぐには王都の中に入らない、少しでも情報収取してからだ。彼にも国の組織が寝泊まりしている場所だ、民間組織のギルドより情報が集まっている可能性がある。それにこの検問所には顔見知りが多い、だから不法侵入してもある程度の弁を立てごまかせるだろうという打算もあった。


「特に目ぼしい情報はないか」


 あるのは定期報告と王都城壁の門を封鎖し人の出入りを完全に断てという指示書。ここの人達は別にパニックになってここを放棄した訳ではないだろう。そう判断できる理由は死体が一切ない事と散らかっていないこと。検問所の門が開いていた理由は、いつまでも門が開かない事に怒った商人が強引に閉鎖された門を突破したという所だろうか。商魂逞しいと褒めるべきなのか、それともどうやって柵が降りている門を開け王都内に入ったのかと呆れればいいかわからないが。とにかくに僕も王都の内部に入る。


「1つ目ぼしい書類があったね。確か王城で兵士を再編成するって」


 間違いなく王都の内側で何かがあった。ただ再編成と言っている関係上間違いなく敵の数は多い。敵の数が少ないのなら再編成などしない。予測できる状況として、突如王都内に魔物が現れた、対処しようにも数に押され、現在その収集の為に王城で兵士を集めている、こんな所だろう。


「1度ギルドに向かうしかないか」


 地上は危険だ。民家の屋根に飛び乗りその上から移動を開始する。王都の屋根の上を移動しているとすぐにその危険を見ることができた。4足歩行の魔物が堂々と街中を歩いている。魔物の特徴といえば森などでみる魔物に比べ奇形かつ、複数匹の魔物の特徴を引き継いだ外見をしているといた所だ。キメラだ、そう断言してもいいが、キメラなどに見える断面の不適合感はない。最初からそういう生物だった。そう言われた方が納得できる。


「操られている様子はないか」


 魔法で何度か調べたが隷属魔法などで従えられている様子はない。だが魔物達は外見が全く違うのに互いを攻撃していない。彼らの中で明確に同種かどうかを判別する機能でもあるのだろう。


 だが落ち着いて見ていられるもここまで。


「お兄ちゃん」

「ロナ、お前はいいから逃げろ」

「やだよ」

「我儘言うな、俺にお兄ちゃんをやらしてくれ」


 魔物に足を噛まれ引きずられる一人の男性が目に入った。男性の年齢は15歳くらいか、そして男性が優しげな眼差しを向ける方向には店の棚に隠れる小さな女の子が、恐らく兄弟なのだろう。どちらも目元が優しい顔立ちをしている。


 魔物は器用に後ろ足を使い扉を開け店の外に男性を引きずろうとしていたその時、魔物は頭上から降ってきた何かに首を切断される。


 僕は急ぎ屋根の上を移動し兄弟達がいる店の屋根に到着後急ぎ飛び降りた。そして落下中に宙を蹴り落ちる場所と姿勢を調節、男性の足を引きずっている魔物の首目掛けて剣を振るった。


 首を落とした直後、男性の足を掴むと店の中に放り込む。そして僕も店の中に入り扉を締め、入口近くの棚を扉の前に転がし即席のバリケードを作った。そして急ぎ投げナイフを腰袋から取り出すと、扉の取っ手近くに押し付け、そのまま魔法でナイフを溶かし溶接、扉を固定した。


「ガウガウ」


 仲間がやられたのを確認した魔物達は店の扉目掛け突撃してくるが、溶接された扉のおかげで少しは時間をい稼げる。


「こっちへ、逃げるよ」

「うん」


 男性を背負い少女を腕で抱き上げる。店の裏口から外に出ると、壁を蹴りそのまま屋根の上に脱出した。    

 屋根逃げたその10秒後、魔物達は店の扉を突破し中に入るがすでに僕らは脱出した後。男性を屋根に寝かせ僕は下の通りを見つめる。


「ちょっとまってて」

「どこいくの?」


 それを見た少女に問われるが、僕は口元に指を立て、屋根の上から後ろ向きに通りへと落ちていく。


「内緒、お兄ちゃんを守って上げてね」

「うん」


 少女から死角に入るとすぐに態勢を変え、着地に備える。そして着地する前に腰袋に入っている煙玉を地面に叩き付けた。一面に広がる白煙。魔物達が鼻を動かし僕の位置を探っているが。


「近距離で匂いが何の役に立つ?」


 前提が違う。こちらは十八番で必殺の構え。補う程度では対抗できない。そして蹂躙を開始した。目が利かぬ魔物達の首をそのまま落としていく。悲鳴を上げさせないように一撃で仕留め10秒後には周囲にいた魔物達17匹を全滅させた。


「厄介だな」


 魔物達の強さは問題ない。そもそも僕の戦闘スタイル的に魔物の強弱より集団か個人かの方が重要だ。そして集団は乱してやれば意外にチョロい。


 今回言った厄介、その意味はこの魔物達の特性。魔物達の命を奪い、その死骸を少し放置するとその肉体が突然消えた。明らかに人工的に作られた存在だが、問題は普通の魔物より魔素を多く含んでいることだ。        

 それは今の僕にとって逃げられない毒を巻かれていると同義だ。


「しんどいな。だけど泣き言は言っていられないか」


 そして剣を納め煙の外側から現れた集団に目を向ける。煙の中に入ってきたのは一人の獣人、貧民街のまとめ役の一人ネロさんだった。


「お前さんか、煙が突如現れたからな、まだ逃げ遅れた人がいたんじゃないかと思って駆けつけたんだが」

「……」

「な、なんじゃ」

 

 無言を貫く僕を見て少し戸惑うネロさんだが、本当に心臓が痛かったのは僕の方だ。ネロさんは歳を重ねた獣人、彼らの特殊技能である獣化が解けなくなっており普段から魔獣に似た獣姿で過ごしている。平時ならここまで僕も驚かないが、魔物が街中に現れた緊急事態のこの最中、紛らわしい獣の格好で歩き回らないで欲しい。しかも視界の利かない煙の中に無遠慮で入ってくるのだ。戦闘中は咄嗟の判断をしながら限界まで頭に入れる情報を制限している、あと一瞬ネロさんが煙の中に入ってくるのが早かったら魔獣と判断し斬りかかりに向かっていた。


「ネロさん」

「何じゃ」

「あの……街中出歩かないで下さい。ややこしいから」


 僕だけではない、後方で武器を持っている自衛団? の彼らも同様に頷いていた。


「何を言う、この獣共とわしの見事な毛並みを間違える奴などいない」

(わかるかそんなもん)


 これ以上言っても意味はないと諦め言葉を呑み込む、屋根の上で倒れている兄弟を回収しその場を離れた。


 そしてネロさん達に情報を聞いたのだが、彼らも詳しい事は知らないらしい。突如街中に魔物が現れ、それに皆てんてこ舞い。何度か街中で兵士が陣を組み魔獣の討伐をしたのだが、倒しても倒してもどこからともなく現れきりがない。王城一箇所で王都住民全てを匿える訳では無い。だから地区ごとに身を寄せ合い避難しているらしい。ネロさん達がここにいるのは逃げ遅れた人々がいないかのパトロールをしていたかららしい。そしてネロさん達の懸念通り実際逃げ遅れた住民がいたわけだ。


「それにしても大丈夫か、お前さん?」

「何が?」


 ネロさんは僕の顔を指差す。


「いや、顔色悪いぞ、それに下の機械も凄い音が鳴ってるだろう」


 顔色か……いくらポーカーフェイスに自信があっても顔色は無理だな。それにネロさんが言った機械とはレガリアに繋いである魔素浄化装置の事だ。現在浄化装置はゴーという音を鳴らし稼働している。これは先程の魔物を倒した直後からこの変化が始まった。レガリアのレベルの件もあるし、今魔素の事は出来るだけ考えたくはない。


「大丈夫ですよ。それよりロベルトは無事ですか?」


 宿屋に止まらせていた関係上逃げ遅れてはいないだろうが。無事を確認できない限りは心配なのだ。


「ああ、無事さ、今避難所にいる」

「そうですか……ありがとうございました」


 ついほっとしてしまい気が緩んでしまったが、それではいけないと両頬を叩き気合を入れる。


「どうするんだ、お前はこれから」

「嫌な仕事をしてきますよ」

「嫌な仕事? 」

「ええ、閉じこもっている馬鹿どもの尻を蹴りに行くんです」 


 そう呆れ気味に笑った。



 そして僕はアトラディア王国ギルド本部に乗り込んだ。何をするかは決まっている。


 現在本部は機能不全に陥っていた。それはある一人の人物が意識を失った事から発した。兵士達と冒険者が合同で王都内の魔物を倒していたその時だった。本部長代理であるジェイクさんも前線に出ておりその際何者かに襲われた。ジェイクさんも無策で出ていた訳では無い。本部に所属する4番目に凄腕と名高いパーティーと共に行動していた。現在の本部、その最高の戦力を持ってしても、突如現れた襲撃者に負け、現在意識不明の重体。トップがいなくなり冒険者の多くは本部に立て籠もり出てこなくなった。


「よし行くか」


 本部の扉の前で深呼吸をする。僕に出来る事は限られている、だけどその中には僕にしか出来ない事もある。それは逃げ道を奪ってやることだ。この怠け者共を引き連れ前に進むのは誰かに任せ、連中の尻を蹴り上げるのだ。


 バンという音と共に本部の入口を開ける。本部内は酷いものだ。兵士の一部は冒険者に救援を訴えていたが誰も聞き耳を持たず、さらには真っ昼間から酒を飲んで酔いつぶれている奴もいる。受付達も同様でこちらはお酒こそ飲んでいないが暗い顔で蹲っているものが殆どだ。


「なんだ、本当に使えない連中だな」


 そんな彼らに向けて僕が出来る事はエリート意識を刺激してやることだ。普段、上から目線で僕を見下ろす。実際地位は彼らの方が上だから見下されてもしょうがないのだが、ともかくこの状態で重要なのは下に見ている筈の奴に馬鹿にされる事。


「なんだと小僧、特殊ランクのくせに調子に乗るな」


 本部に入った時大げさに扉を開けたおかげで皆の視線がこちらに集まっている。その証拠に僕の挑発を聞いた本部様の冒険者はこちらを囲むように集まってきた。冒険者だけじゃない、受付や職員達も。


「何か間違った事言ったか? トップが崩れただけで動けなくなる臆病者が本部の冒険者だと、いやまだ動けなくなっているだけならいい。完全に動く準備すらしていない酒を飲んで酔いつぶれている馬鹿はなんなんだか?」

「貴様」


 彼らの反応は様々だ。図星を突かれ下を見るもの、眼の前の男性のように拳を振り上げこちらに殴りかかってくるもの。


 男性の拳は躱さない、真正面から受け止める。だがここはズルをした。ファトゥス流のもう一つの奥義、不動を使う。これはレグルス師匠が足を止め僕の攻撃を受け止め、カウンターをする時に使っていた技だ。 

 相手の攻撃、その力を完璧に操り体の外に抜く。これを上手くやられると攻撃した方は体が動かなくなる。まるで相手の体に自分の体が吸い寄せられているのではないかと勘違いするほどに。不動は攻撃を受け止め相手の体を完全に開かせる技だ。完全に開ききってしまった体は特別な動きをしなければ体は動かない。普段人間の体は引く動作であっても筋肉の何処かは、押す際の動きを行い予備動作を作ってから動作に入る。その片方を封じられるとどうしても体は普段の動きが出来ずに無防備な状態で硬直する。体を完全に無防備な状態にすると良いことが1つある。防御を解いた相手に全力の一撃を打ち込める所だ。


「ぶは」


 男の攻撃を不動で受け止める。受け止めた位置は顔面、そのお返しに腹部へとアッパー気味に拳を振り切り男を吹き飛ばす。1回2回と回転し僕を囲んでいた人の輪に受け止められる。流石はレガリアのレベルが60を超えた状態だ。今なら普通の冒険者よりはレガリアの身体強化その恩恵は大きいはず。


 今までの鬱憤を張らせ少しスッキリしながらも目線を周囲に向ける。少し怯えたような顔をする冒険者達。


「恥ずかしいと思わないか。街の人達は今だ逃げ遅れた人がいるか、それを確認する為に避難所から抜け街中を探し回っている。それなのにお前たちは」

「だって、ジェイクさんが倒れて……」


 そこで頭の中の何かが切れた。最近切れやすくなっている事は理解している。だがこの発言だけは我慢ならなかった。


「ふざけるなよ。お前たちはなんだ、上がいないと動けないのか。他の支部からスカウトされて来た才能ある冒険者なんだろう。それを自負に他の支部の冒険者達を見下していたんだろう。俺のような特殊ランク冒険者を下に見て、虐げてきたんだろう。言動には責任を持てよ。お前たちは王都で生活してきて何も思わないのか? 親しい隣人が今、命を掛けている。彼らの為に何かしたいとは思わないのか?」


 会話の途中から何かを投げられるが気にしない。木のコップだけならいい。どこから取り出したかわからないワイングラスやコップに陶器の皿。だがあくまで投げるのに留めているのは彼らも思う所があるからだろう。


「恥を知れ、その奢り高ぶったプライドを、悔い改めろ己の恐怖心と戦おうとしないその弱さに」


 彼らの弱さを僕は責める気はない。ただ1度腐った心を叩き直すにはこれくらいの荒療治が必要だ。そして剣を握りこちらに斬りかってくる相手が現れた。だがその剣筋は鈍い。酒をやっていた影響か? それとも己の後ろめたさが剣に出ているのか? 


「付き合ってはやれないんだけどな」


 そう誰にも聞こえない小さな声で呟く。


 体は今までにないほどに動くが、重く意識は朦朧としている。頭の中が熱で焼かれているようだが自分で始めた事だ責任位は取るさ。気功術を使いオーラの結界術を発動させる。男が剣を振り下ろす前に間合いに入り込み鞘に入ったままの剣で振り抜き吹き飛ばす。


(全く気持ちよく眠りやがって)

 

 吹き飛ばされた男性は意識を失っているがその顔はどこか気持ち良さそうだった。今僕を直接攻撃してきた奴らはまだ気骨がある連中だ。今の自分を打ち破って欲しそうで。そういう奴は問題ない、次の奴もそうだ。こんどは武器を持たぬ、拳を使う獣人だ、攻撃に迷いが見て取れるのに、攻め方は真っ直ぐ一辺倒。フェイントなど、頭を使った攻め方をされれば僕だってこんな簡単に彼らには勝てない。つまり、受け止めてやらねばならない。


 突き出した右拳を払い除け、そのままファトゥス流の足運びを使い、一切減速しないでそ懐に潜り込む。       

 そして彼の顎を柄頭で強打、脳を揺すられ頭が下る獣人を人の和の方に蹴り返す。


「次」


 その次は剣士だ。剣を持つ手を強打し、武器をその手から引き剥がすと、そのまま袈裟斬りにする。と言っても剣は鞘から抜いていない。そのまま回し蹴りで再び人の輪の中へ。一人、人の輪から出た所で魔法を放った人間がいたが、同調を使い魔法に干渉、鞘で魔法を打ち返しこちらも無力化。


 それを何度こなしただろうか。新人以外はほぼ全員、人の輪が途切れはじめる程続けた。心臓は早くそしてあまりに大げさに強く鼓動を刻む。頭が焼けそうな事は先程と変わらないが、今後は視界に捉えた情報が赤く染まりはじめた。指先、足腕に力が入らない。だがこれで役割は果たしただろう。


 再びバンと勢いよく開かれる後ろの扉、誰が来たかはわからない。だが冒険者達の顔は明るい。


「まさか、帰ってきたのか」


 そんな職員達の声で誰が帰ってきたのかは理解した。本部長の話だと今回邪神教の本拠地にギルドが送り込んだ戦力は本部長にその秘書のエヴァさん、アイリーン率いるパーティ4人これが全て。そして現在ギルドから離れており尚且つ人々の希望となれるのは二組だ。本部最強の冒険者達か、公爵令嬢率いるパーティー。せめて姿を拝んでやろうと後ろを向くが、足が思ったように動かずその場で態勢を崩す。だが誰かに支えられ転ばずには済んだ。その事に感謝を述べたいが意識を保たせられずにそのまま気を失った。

 技術でぶん殴っていた人間に身体能力を渡すとこうなります。

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