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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
100/136

戦線構築

アーネスト視点


「さて、どうするか?」

「俺はこの場から退くことをオススメするよ」


 ロストが集めた資料を元にサイモンがいくつか怪しいダンジョンをピックアップし、そこを私達の部隊が確認する、それが今回のダンジョン調査の形だった。

 まさか初日、しかも一発目のダンジョンで当たりを引くとは思ってはいなかった。

 

 その証拠に相手の最強戦力と思われるエレボスがダンジョンの核がある場所に陣取っている。

 エレボスに良いイメージはない。

 正直こいつがいなければ今もあの城塞都市で過ごしていただろう。

 ただ今ほど技術も必死になって磨いてはいなかっただろう。

 盾を構え部下にも待機を命じる。

 部下の事は信頼しているが冒険者は気性が荒い者多い、そのためエレボスの態度とその圧力に暴発してしまうことを危惧したが……大丈夫そうだ。


 エレボスの圧は相変わらず凄まじい。

 確かに私にはエレボスがその身に宿す闇を感じ取る事ができない。

 それでもその身に宿る途方もない力は理解できる。

 だからだろう彼の自然体に腹が立つのは。

 戦闘において無駄な力を抜き、備える意味での自然体なら怒りが起きるはずもない。

 ただエレボスの場合は、ここが非戦闘地帯の街中であっても同じ態度を崩さないだろう。

 つまる所私達は敵として見られていない。

 この態度に気性荒い冒険者は舐められていると感じ頭に血を上らせ、隊列を乱した攻撃を始める者もいる。

 ロストが到着するまでの時間稼ぎもも兼ねて1つ疑問に思っていた事をエレボスに聞こうと考えた。


「純粋な疑問だがいいか?」

「嬉しいね、質問されることは珍しいから大歓迎だ」


 人懐っこい笑みを浮かべ、私の質問を嬉しそうに待つエレボスを見て、これが案外彼の素なのではと思う。

 親しみを感じてしまった己を律する為、左手で持った剣を地面に突き刺し左太腿を抓る。

 ただ心のそこでは今の彼が昔、城塞都市であった彼と重なる。

 元々エレボスは戦いを望んじゃいない。

 昔もただ街に入りたかっただけだと記憶の中で述べている、

 では何故今回はアンタレスに害するような行動をしているのか?

 そう真正面から聞ければよかったが、私も入れ込んでいる相手だ、緊張して口足らずに聞いてしまう。


「お前達の目的はなんだ」

「それはどっちの目的だ? 俺個人の目的か、それともコンラートの方か?」

「本当はコンラートと答えたいが、私個人としてはエレボス君の目的を教えてくれ」

「了解、だが悪くないな。コンラートとか言ったら絶対に教えなかった所だ。そうだな……俺自身の目的としては、どう話すべきか。どこまで話すべきか」

 

 エレボスは腕を組み眉を寄せる。

 呑気に考えるエレボスを羨ましく思いながら、盾を構えている左腕、その持ち手を強く握り直す。

 馬鹿げた技術だが部隊の長としてとても重要な技、それは顔から汗をかかなくする技術。

 部下たちには見えないがシャツやズボンの中はすでに汗でびしょびしょだ。

 それほどあの男の前に立っている事にトラウマが呼び起こされる。

 私が昔いた城塞都市から追い出される際住民達や元同僚から罵倒を受けた、それこそフィンとその奥方以外からだ。


「とっくに吹っ切れたと思ったんだが」


 あの日の光景が脳裏に過るとどうも体が震え始める。

 思い出される原因は勿論エレボスだが、不安、緊張などがピークに達するとどうしても頭に浮かぶ。

 

 エレボスも答えが出たようだ。

 組んでいた腕を外し笑みを消す、そして引き締めた顔で話しだした。


「俺の目的は、自分の生きた証を見つける事だ」

「生きた証?」

「そう、生きた証だ。ま最近諦め始めたから邪教徒に手を貸しているわけだが。俺を封印から解き放った女も同じことを考えていたようだしな。その女が求めた技術を使えば子供を残せるだろう」

「なんというか……理解できる目的だった」


 私は盾を持つ手を一瞬離しそうになってしまった。

 それはそうだ。

 今まで意味がわからない化け物が理解できる化け物に変わったのだ。

 他の人間は知らないが私からしたら神が死んだという話と同レベルの衝撃だ。

 それにしても子供……子供か。

 出会い方が悪くなければエレボスとは友人になれた気がする。

 いい意味で緊張が解れた、先程もでのトラウマも引込、自然体で向き合うことができる。


「ま、それを一旦保留にしようか悩み始めたんだがな」


 私から目を反らし、天井、いや地上の誰かを思い浮かべているのだろう。

 ただ確信を込めた目ではなく、あくまで可能性を探るように目を動かしていたのが印象的だった。


「あ、ちょっと待て」


 エレボスは左手を上げ私達を制す。

 その後右手でポケットから丸い道具を取り出し耳元に近づける。


「何のようだコンラート、ああ、ああ、わかった、それじゃあな」


 私は部下に手を軽く上げ合図を送る。

 意味は戦闘が近々始まるという合図。

 内容は聞かなくてもわかった、どうせ私達を排除しろとの催促の電話だろう。

 正直撤退をするかどうかは今も悩んでいる。

 だが問題なのは時間がないこと。

 今もダンジョンの数は増え続け、その対処には人員が圧倒的に足りず、またこいつら邪教徒が居る限り安全を確保しながらダンジョンを潜れない。

 アンタレスとい地を守るためにも、ここで勝負をつける。


「悪いな催促の電話が入った、それに……お前らを逃がすなと。おしゃべり相手を殺したくはない……だからお前ら死ぬなよ。魔装」


 エレボスは右手で持っていた通信機をしまったあと、その場の地面に落ちている適当な石を拾いそう言った。

 右手から黒いモヤが石を包み、浸蝕し形を変え剣になる。

 エレボスの次の行動は簡単だ右の剣を振ったそれだけ、子供が木の棒を見つけてやるチャンバラごっこ見たいな振り方だが、剣先から黒い衝撃はが生まれ私達を呑み込む。

 元々まともに受けれるものじゃない事は理解している。

 盾を使い斬撃の軌道を真上にずらす、そしてダンジョン全体を揺らす衝撃が襲う。


「嘘だろ」

「ダンジョンの壁が」


 仲間たちの驚愕の声が後ろから聞こえる。

 当然その声の意味もわかっている。

 ダンジョンの天井が割れ青空が見えるのだから。

 ダンジョンは亜空間に存在する、それをぶち破るとはそれに目の前にいる男は何の消耗も見えず、笑みを浮かべている。

 ただのジャブ、軽い挨拶、絶望したくなるほどの生物的な差。

 ただそれもわかっていた事だ、だから生涯の意味としてエレボスを心の中でずっと見続けた。


「へぇやるな」

「そもそも今のは大した威力じゃないからな」


 昔城塞都市でエレボスが放った斬撃に比べれば威力は数段落ちている。

 だからこの程度は当たり前、本番はここからだ。

 心に宿る熱さがついつい顔に出てしまう。


「俺を前に笑うか、悪くないが後ろの連中はどうだか?」


 私は背後の仲間に目をやるが皆戦意喪失していたが誰も倒れていない。

 それだけで今までの努力が報われた気がする。

 その事実に私はついつい盾を持っていない左腕に目を向け左手でガッツポーズをしてしまう。

 正直戦意喪失している味方に立ち直れる言葉を投げかけるべきではある。

 部下たちには悪いがこうなるとは思っていた。

 エレボスの強さを言葉でなんども伝え利かせたが実物を見なければ納得させることはできないと思っていた。

 だからエレボスと戦う時最初から信頼しているのはロスト・シルヴァフォックスただ一人。

 エレボスの強さを感じ取り、恐怖と抗う覚悟ができている彼のみだ。


「……行くぞ」


 どちらにしてもロストが来るまでの時間稼ぎ、バレぬように仲間達を逃しながらどれだけ時間が稼げるか?

 後の戦いの為どれだけ消耗を抑えられるかそれが鬼門だ。


  

「大丈夫ですかロスト隊長」

「はい、すいません少し気になることがあって」


 ダンジョン内の調査を続ける中で不意に起きた胸の痛みをごまかすために僕は地面に片足を付ける。

 襲ってきた魔物、その最後の一匹を倒したタイミングだったか?

 体が重くなり、呼吸が少し苦しい。

 この感じ始めてレガリアを付けたときに近い。

 ただ今は立場がある、僕に従う人物達がいる、不安にさせないように取り繕う義務がある。

 急に座り込めば誰もが何事かと思われるが、言い訳を作れば納得し一応安心感を与える事はできるという我ながら浅はかな考えだ。

 

 立ち上がる前に僕の不調の原因を考える。

 僕の不調、それすなわち魔素が関係することが殆だ。

 まず腰に付けているレガリアを腰についている留め具を外し、手元で確認する。

 モグの寝床を外しているせいか随分広くなったと寂しく思う。

 彼は現在クレアさん達の所にいてもらっている。

 言うなれば警備、本人はついて来たそうな顔をしていたが、それでは僕が安心してダンジョンに潜れない。

 そう説明すると渋々ながら了承してくれた。

 そしてレガリアについているレベルの確認をすると


「レベル30か」


 レガリアのレベルが今までないほどに高まっていた。

 人体に悪影響を及ぼすレベルのラインは50、まだ20程の差はあるが僕の魔素適応障害の事を考えると、レベル40を危険ラインと考えた方がよさそうか。


「ん?」


 そんな思考を打ち払うように、腰袋が震えだす。

 立ち上がり腰袋から振動の正体を手に取る。


「はい、もしもし」


 信号の正体は通信機だった。

 そしてその内容は。


今はここまで


「ロスト、緊急だ、アーネストの奴がエレボスと出くわした」

「座標は」

「Y28X4Z12だ」

「下だね直接向かう」


 サイモンさんからの電話を切り、急いでレナさんとドットさんの元に向かう。

 ただ二人の表情は優れない。


「本当にやるんですね」

「オラも少し不安だ」

「大丈夫座標までは僕が連れて行く。それとエレボスとの交戦は考えなくて良い。二人で負傷した冒険者達を集めてレナさんのちから出転移する。ドットさんはレナさんが転移後そのまま下の階層の安全地帯に。アーネストさんは僕が連れていく。できるね」

「「はい」」


 最低限の作戦会議をし、皆一斉にダンジョン透過装置を使用する。

 時間を掛ければ2人も自分の力で座標を調整し自力でできると思うが今は時間がないため僕が全員分の装置を制御する。

 足元が抜け、ダンジョンの奥側に。

 土塊の中を移動すると思えば、色々なシャボン玉が存在する謎の空間に入り、そのまま宙を浮き移動する。

 先程まで調査と並行して透過装置の練習をしていたので2人ともこの光景に驚きを見せることはないが、レナさんのみが少し顔の表情が固い。

 これは彼女が高所恐怖症だからだ、透過装置は安定している。

 5分後に目的地の座標のダンジョンに侵入した。

 ただアーネストさんの姿は見えない。

 1度装置を使って座標を確認する。


「座標はY28X4Z12であってる」

「地図だとこのダンジョン比較的開けた場所が多いから」

「とにかく時間はかかるけど3人一組でうごーー」

「いました」

 

 このダンジョンの構成がどこも似ている為戦闘位置の予測ができない。

 また無駄にこのダンジョンは広く作られており移動までに時間がかかる。

 最短の方法が動きながらアーネストさん達の移動の痕跡を見つけることだと判断し、動こうとした時、ちょうど1人の女の子が現れた。


「ローラさん」

「レナちゃん、よかった助けが来ているからってそういう事か。来てアーネストさんの所まで案内する」


 レナさんの説明ではローラさんは小人族で先輩に当たるらしい。

 ローラさんに連れられるままダンジョンを走る。

 着いた位置はダンジョンの核のある部屋、扉を開け急いで中に突入する。


「皆!!」


 レナさんの悲痛な叫びが響き渡る。

 そこにはアーネストさん以外全員倒れていた。

 又その天井の様子が普段の土塊天井とは違う、薄暗く地下深い筈のダンジョンから青空が見えていた。

 一度探知魔法で状況を確認する。

 このダンジョンは今現実の空間と繋がっている。

 そしてもう一つ厄介なのは2種類の結界が張られていること、1つは闇の結界、も1つは透過防止の結界だ。

 これでは透過装置を使ってこのダンジョンから逃げ出すことはできない。

 

「ドットさん、作戦変更で転移魔法と一緒に地上に帰って下さい」

「わかりました」

「2人とも手はず通りに」

「「はい」」


 レナさんとドットさんは倒れている冒険者の元に行き、抱え1箇所に纏めていく。

 ローラさんもそれに従い冒険者の救助に加わる。

 僕がやることは1つだ。

 肺の動きが重い、だがこれは魔素が原因ではない。

 エレボスと戦うことの恐怖だ、だが今までも同じ生命を掛けるのは僕が今までこなしてきた最低条件、恐れる必要はあるが、体を固くする必要はない。


「っち」

「油断もあったもんじゃないな、小僧何処から出てきた」

「教えるか」

「ロスト来てくれたか」


 アーネストさんの体に隠れエレボスへの死角を作る、そして剣を振りアーネストさんが斬撃を弾く、その体が開いたタイミングで飛び出しエレボスの脇腹目掛けて剣を突き刺すが、黒いもやが剣を防ぎ浅くエレボスの脇腹を切り裂くだけにとどまる。

 完璧な奇襲であったが結果は失敗。

 すぐさま一歩下がりアーネストさんとの距離を合わせようとしたがタイミングが悪かった。

 彼は僕が現れた事で周囲の状況を再度把握しようとしていた。

 それにエレボスも先程までは連続で斬撃を放ってはいなかった。

 そこからアーネストさんは今が現状の更新ができる唯一の機会だとして一瞬背後を見ていた。

 問題なのはエレボスの一撃、先程とは違う、振り下ろした剣を返し、切り上げる、その一撃にも黒い斬撃が生まれていた。

 完全な認知外の一撃 

 このままでは正面に向いたと同時に斬撃がアーネストさんに直撃していただろう。

 その未来を変えるために僕がアーネストさんの前に割り込み斬撃を剣で斬り伏せる。


「ほう」

「すまない」

「いえ、僕もすいません、後ろの状況はレナさんとドットさんあとローラさんが救助をしています、それまで」

「ああ、耐えるぞ」


 一瞬の横並びの間に意思を擦り合わせるを完了させる

 そして僕らエレボスとの戦いは始まる。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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