ヒノとオペラと瑞希
イメージ壊したら、ごめんなさい。
秋真っ盛りの紅葉が芸術的に世界を彩る。青いトレセン学園の服が微かな風に揺らめく。服に根強く着いていた皺が伸縮を繰り返す。ポケットの中の薔薇の刺繍の入ったハンカチの感触を快く楽しむ。
ヒノアラシは飼い主の頭の上に乗り、オレンジの髪をクシャクシャにして無邪気に飛び降りた。
足の筋肉痛を我慢して、逃げるヒノを追いかける。昨日の皐月賞は優勝したが、代価は高く付いた。
紅葉が降りかかる。
真っ赤に熟れた木々と黄色を露出した木々の間から、テイエムオペラオーはヒノを探して優雅に歩いて見せた。
金木犀の匂いが優しく鼻を擽る。
ヒノはからかっているように長い鼻を上下に振っていた。
クックックと不敵に笑うと、オペラの手が降って来た紅葉を軽く叩いた。
「僕に挑戦かい?全く悪くないね!」
ふと、金木犀に混じってフワッとした甘い香りがして、振り向く。
低くも高くもない声で彼(彼女)は言った。
「オペラさん、ヒノだけでなく僕も見て欲しいな」
最近流行りのLGBTQのTに当たる暁山瑞希だ。
ふんわりとしたピンクの髪を赤い小さなリボンで結わえてある。一応、男だが、男として生きることは想像できずにいた。
しかし、何故なのか一応、女性のオペラに同性のイメージをどうしても抱くことができずにいる。つまり、オペラを漢だと見ている自分がいた。
オペラは高らかに笑って、走り寄って来た瑞希を抱き止めた。オペラの方が7センチ小柄だが、力強さではオペラの圧勝である。
「君はいつもキュートだ。僕の目に狂いが無ければ、君はちょっとした女の子よりずっと可愛い。毎日、君のことを見ているよ!」
瑞希は筋肉でガッシリした足を意識しながら、力強さにウットリし、顔を赤らめた。
「オペラさん、そう言うのズルいよ。僕だって、あなたのこと女性として愛したいのにそんな訳にはいかなくなっちゃう」
「いいのではないか」とオペラは涼しい顔で、優しく諭すように言った。
「僕は僕というウマだ。君は君という人だ。男、女、どちらに属しても結局、僕達は惹かれ合うのさ!」
オペラは言い終わるとそっと瑞希の頬に触れた。
瑞希は一瞬ビクッと身を震わせる。間近でこんなことされたら、怖くなって来るというものだ。
その指はよく手入れされ、爪の先まで美を追求されていた。筋肉でできた美脚と釣り合いの取れた指先が頬を掠める。
「ダメだよ、オペラさん。僕、我慢できな...ッ」
オペラ同様、芝居がかってるが、瑞希はそう反応をしざるを得なかった。脚がガクガク震える。
思わず、オペラに抱き着き、寄りかかった。
耳元でオペラが囁く。
「何を我慢するんだい。可愛い僕だけのハニー」
瑞希の喉から喘ぎ声が漏れ出した。
「やめてよ。意地悪しないで。オペラさん、僕、こういうことに慣れてないんだ」
そう言う瑞希を見上げ、美し過ぎる笑みをオペラは作った。
「僕の人生を捧げる人は君だけだ。だからやめない。慈しむ程度、慣れて貰わないと困ってしまうよ!」
オペラが瑞希の耳タブを優しく舐める。
瑞希の喘ぎ声が甘くなる。
突如、ヒノが走って来て、オペラに猛烈なアタックを仕掛けた。
オペラは踏みとどまったが、瑞希が派手に転ぶ。瑞希に服の袖を掴まれていたオペラも釣られて、転倒し、瑞希に覆い被さる形になった。
オペラも瑞希も顔を染めて見つめ合う。お互いの視線が交差し、相手をたまらなく好きであることを再確認した。
もうそろそろ、アルファ島の出港の時間だ。
キスはしようと思えば、いつでもできるとオペラも瑞希もタカをくくって、立ち上がる。もちろん、オペラが先に立ち上がり、瑞希に手を貸して、起こし上げた。
気のせいか手に熱が篭っていた。顔もほんのりと赤い。
ヒノはそんな2人を不思議そうに見つめ、先に船上した。楽しそうに背中から炎を吹き出している。
オペラの不敵な笑い声が響いた。
「僕より先に行ってしまうなんてね!君は何てせっかちなんだい」
オペラが船に乗り込む前に瑞希は走って、船に乗り込んでいた。
「オペラさん、僕の勝ちだよ」
船の中に収まったヒノと瑞希を見つめ、オペラはヤレヤレと首を振って、美しい笑みを浮かべた。
「そういうゲームだったのかい。全くしてやられてしまったではないか!!」
ヒノと瑞希がキャッキャと笑う。
オペラは愛おしく目を細め、自らの体を船に押しやった。後、10分もしたら、秋の道から出港するだろう。アルファ島は蜜柑の生産地として有名だった。
船内のバイキングで瑞希はフライドポテトばかり食べている。
ヒノは苦いポロックを好んで食べていた。
オペラが選んだのは薔薇の形をした人参ソテーだった。
2人と1匹は白いバカンスに相応しいパラソルの付いたベンチでゆっくり寛いでいた。
ヒノが甘えるように鳴く。
オペラはそれを力強く持ち上げ、膝の上で抱き抱えた。大人しく丸まる。比較的、落ち着いたヒノアラシなのだ。