目覚めの日…
前話の暗い感じで終わりましたが、今話は其の続きです。
結構長文使用になってます。
では本編を読んで下さいね。
さぁ今日は何をしようか…。
其うだねぇ〜、スケッチブックを片手に取り敢えずは街をブラブラして、面白そうな物が有ればゲットして、疲れたらお気に入りのカフェでアイスコーヒーを飲んで、街行く人々をボ〜ッと観察しながらタバコで一服。
其れから夕食の買い出しに行くか、凰哦さんに連絡して何処かに食べに行っても良いよね…。
如何しようかなぁ〜。
上手く決められないや…。
あっ其うだ!其れならいっその事、正樹お爺ちゃんと美砂お婆ちゃんに、隆志さんと仲上さんに変異種の片平さんを呼んで、皆んなとワイワイ食事にしても良いよね?
勿論子供達も一緒に。
そして…後は…。
アレ?…後は…誰だったっけ…。
凄く大切な…大切な存在…。
僕達に幸せを運んでくれる、とてもとても大切な…存在…。
誰だった…け…。
……………。
何故直ぐに思い出せ無いんだろう…。
不思議不思議…。
幸福を運んでくれる僕達の守り神…。
僕と凰哦さんが名前を付けたのに…何故?…。
……………。
あれ?…凰哦さん…って…。
其う言えば…正樹…お爺…ちゃん?
美砂…美砂お婆ちゃん…って…。
あれ?あれれ?……隆…志?さん?………。
仲上って…誰?片平って誰なのだろう…。
分からない…分からないや…。
何で分からないんだろう…。
何故……覚えて無いんだろう…。
不思議不思議…。
ねぇ…誰か教えてくれないかな…。
僕は…如何しちゃったのかを…。
其れとね…僕は…誰………なの?………。
とある病院の、ICUの在る病棟の現在の様子は…。
「蓮輝ーー!蓮輝ーーー!!」
蓮輝を呼ぶ凰哦の声が、虚しく響く…。
其れでも力の限り大きく、そしてどんなに遠くても聞こえる様にと、凰哦は叫ぶのだった。
如何か俺の声が蓮輝に届きます様に、俺は此処に居るんだ、お前には帰って来る場所が此処に有るんだ、帰って来なきゃいけないんだ、皆んなが、俺がお前が帰って来るのを待っているんだと、其う願いながら蓮輝の名を叫び続けるのだった…。
だが聞こえて来るのは、蓮輝に繋がれた生命維持装置の音だけ…。
まるで眠りに付く者への…子守唄の様に…。
「ワアアァァアアーーー……蓮輝ーー!蓮輝ーー!!ウワァァォァーーー……アアァァ…アアァァ…蓮…輝……」
震えて泣き叫ぶ凰哦の心が壊れない様に、隆志は必死に凰哦を抱きしめていた。
隆志も泣き叫びたい気持ちでいっぱいなのだが、唯一の肉親で有る凰哦を差し置いて、自分迄其れをする訳にはいかないと、必死に堪えていた。
グシャグシャになった隆志の顔を見た正樹が、其の隆志の思いを理解し、そっと2人に寄り添う。
「凰君…済まない…済まない…。私には何もして上げられないよ…。して上げられなくて…済まない…うぅぅ…」
苦悶の表情で正樹は言う。
何もして上げられないと、役に立たなくて申し訳無いと、隆志と同じ様に声を殺して涙を流していた…。
片平は、自分迄同じ事をしてもただ凰哦が、気を遣われていると感じて、心の負担が増えてしまう事を懸念し、少し離れて見守る事に徹した。
其の片平の目にも、溜まった涙が溢れている。
人前では決して泣かない片平も、この時ばかりは我慢出来無かったのだ…。
「蓮輝…蓮輝…」
ただ泣きながら、蓮輝の名を呼ぶ事しか出来無い凰哦。
立つ気力も無く、何も考えられないまま、蓮輝の居るICUをただ虚しく見ていたら
「先生!患者さんの容態が急変しました!」
と、看護師が医師に告げ、病室は一気に慌ただしくなる。
人を焦らせるかの様に、心電図の警告音が鳴り響く。
「直ぐにディファブリレーターを用意!」
心肺停止をした為、除細動器が用意された。
「200にチャージ!」
ドゥン…
「脈が戻りません!」
「次は300!」
ドゥン…
「未だダメです!」
「其れじゃもう1回だ!!」
……………………………
まるで映画やドラマの様な焦った言葉と、ピリピリして来そうな緊張感が、ICUから慌ただしく伝わって来るのだった。
この病院では、最も重篤な患者の集中治療室と、幾分か回復の見込みが有る患者に、手術後に入る治療室のパターンに分けられていて、ほぼ全体的に室内の中が見られるのは病院側の配慮で決められ、重症者が入るこの治療室は、重症患者が受ける治療を見る家族のストレスにならない為や、医師や看護師達の治療の妨げにならない様にと高い位置に窓を置き、中はよく見えない仕様になっている。
江田院長以外の全員が床に崩れ落ちたまま、ヘタレ込んでしまっていて、中の様子を見て理解していないのだ。
だからこそ、ICUから聞こえる医師達の声と緊迫感が、ドラマや映画の様にも感じてしまうのだが、やはり目の前で行われて伝わるリアルが其処に有るのだ。
慌ただしく過ぎて行く時間。
一体どれ程の時間が過ぎたのだろう…。
ICUから伝わる張り詰めた緊迫感が、凰哦達を圧倒してしまい、ただ静かに、其の成り行きを見る事しか出来無かった。
そして
ピーーーーーー………………
心電図の無情な音が、終わりを告げていた…。
「瞳孔に反応無し…心拍停止確認…。午前6時43分…死亡を確認…」
医師の死亡確定を告げる言葉が聞こえて来た。
「死亡……えっ……ウソ…だ…ろ?…蓮輝…蓮輝?…蓮輝…蓮輝……蓮輝!蓮輝ーー!!」
蓮輝の名を呼び続ける凰哦。
其の顔は蒼白になり、困惑から次第に苦悶の表情へと変化して行く。
何も考えられないくらいにパニックになる凰哦。
何を言っているのかも分からない事を早口で呟きながら、悶え乱れている。
隆志は、こう成る事が予想出来たから、力の限りで抱きしめていたのだが、暴れる凰哦を止められない。
暴れる凰哦によって何度も顔を殴られて、メガネは壊された上に口の中を切った為、口と鼻から血を流すのだった。
其れを見た正樹と片平が、2人掛かりで凰哦を抑え様とするのだが
「邪魔だどけ!」
と2人を吹き飛ばし、ICUへと向かおうとしたのだった。
一体凰哦の何処に、これ程の力が有ったのだろうかと、其う思う正樹と片平…。
其れでも隆志1人しがみ付き、何とか凰哦を落ち着かせ様と奮闘する。
「良い加減にしろ!俺の邪魔をするな!これ以上邪魔をするなら殺すぞ!!」
鬼の形相をして、口にしてはいけない事を隆志に向けて言う凰哦。
其の凰哦に怯む事も無く隆志は吠える。
「殺したければ殺せば良いさ!其れで凰哦、貴方の気が済むのならね!僕も一足先に彼の元へと行くよ!ほら早く僕を殺してみなよ!ほら早く!!さあ早く!!」
吠える隆志の言葉に、やっと少し冷静さが戻り、自分が何をしたのかしていたのかを知る凰哦。
「あっ…いや…」
段々と罪の意識が膨れて来て、言葉にならない凰哦。
「如何したんだよ凰哦!早く僕を殺しなよ!ほら早く!!」
「た…隆志…く…ん…」
「僕の大切な人は…蓮輝君だけじゃ無い…。貴方も僕の大切な人何だ…。青柳夫妻も、仲上さんも片平さんも…子供達にキュー君も…」
「…………隆志…」
「僕、凰哦貴方にだったなら、全然殺されても良いよ…。其れで心が楽に成るのならね…。だから…早く殺してよ…。貴方の心が晴れていないと、蓮輝君も悲しむだろうからね…」
其う言う隆志の顔は目を赤くして涙し、優しく笑った顔をしているのに、思い遣りと悲しみに無力感が入り混ざった表情をしていたのだった。
涙と凰哦に傷付けられて流す血で、グシャグシャになった隆志の顔はとても複雑な表情で、其の表情から隆志の心情を読み取るのは難しいと思われるのに、何故か凰哦だけは隆志の心の内を理解してしまう。
正樹と片平は、悔しくて悲しいのだろうと思ったのだが、凰哦は正樹達とは違い、隆志の自己犠牲の精神や、蓮輝と同じイジメ境遇を辿って来て他人嫌いだと言っていたのに、赤の他人でも自分の命を懸けて助けるだろうと思った凰哦。
今隆志が凰哦に向ける其の表情は、紛れも無く純粋に蓮輝と、そして凰哦の心が壊れてしまわないかと心配しているが、凰哦の辛い思いを分けて貰う事も出来無いと嘆き、凰哦に“殺すぞ!”と言われたのに、自分が凰哦に殺される事で、其の苦しみから少しでも解放されるなら、其れでも良いのだと覚悟を決めた表情だと、何故か確信してしまう。
「俺は…俺は何て事をしたんだ…。俺は何て事を言ってしまったんだ…」
こんなにも純粋で真っ直ぐに、しかも愚直に感じられる程善なる青年に、凰哦は未だかつて出会った事は無かった。
「嗚呼あああ…俺は…俺は!…何てバカな事を!…何で彼を…隆志を傷付けてしまったんだ!?嗚呼ああそんな…そんな…。こんなにも…こんなにも優しく…純粋な彼に殺すぞだなんて…言葉を口にして…しまったんだ……」
自分の犯した罪深さを恥じて大きく叫び、気が狂いそうになり、取り乱しながらも泣き崩れて、其の場に蹲って
「済まない…済いません…。隆志…君に暴力を振るって傷付けた上に…言ってはいけない言葉を…君に言ってしまった…。許される事では無いのは分かって…ます…。償いをしたくても…如何償って良いのかすら…分かりません…。どんなに償いをしたとしても、決して償える事では無い事も…分かってます…。償う事も許され無いと言う事も…分かってます…。俺は本当何てバカな事をしてしまったんだ…。幾ら取り乱していたからと言っても…。申し訳ありません…本当に済みません…」
自分の犯した罪に、何て愚かな事をしたのだと、してしまった事が許せない凰哦。
自分自身にとても情け無くて腹が立つのだが、そんな事を思っても何の意味が無い事も分かっていた。
だからこそ、何をして良いのかが分からない…。
如何して良いのか、何かをしても良いのだろうか、許されなくても償いだけはしたいのだが、其の行為さへ罪にならないかと、凰哦は隆志を見る事も出来ず、俯いたままただ泣くだけしか出来無かった…。
其処に片平が
「篠瀬君、君にはガッカリしたよ…。正直何を今更って思ったぜ…」
其う言い放つ片平。
正樹も続いて
「凰君、君の事を分かってるつもりだったが、此処迄激しく感情を表すとは思っても無かったよ…。君が辛い事も分かっているけれど、済まないが私も片平さんと同じ気持ちになってしまったよ…」
正樹も片平と同意見なのだと言う。
俯いたままの凰哦は、其う言う2人の悲しそうな目を見る事が出来無かった。
正樹と片平は、今の凰哦が蓮輝の事だけでも心が潰れそうなのに、更に罪の意識で心閉ざしてしまわない為、わざと其う言って蓮輝の事、今犯した罪は別モノとして考えて欲しいと、2人が凰哦を思う気遣いからだったのだ。
其処へ江田が加えて
「篠瀬君、医療を行う者としても君の言動は許す事は出来無いよ…。まさか君からあんな言葉を聞くとは、思いもしなかったな…残念だよ…本当にね…」
未だ蹲って罪悪感で震える凰哦に言うのだ。
江田もまた正樹や片平と同じ、ただ責める為に言っては無く、凰哦の性格を知っているからこそ、わざと其う言うのだった。
嫌な事、辛い事、悲しい事、其の他の負となる全てのネガティブな感情を1つに纏めて溜め込む凰哦。
其の溜まった負の感情は今回の様に爆発し、他人を傷付けてしまう事や、其の暴走で傷付けた事に対し自分自身を責め、自身の体や心を傷付けてしまう事を理解していた江田は、今回の暴走は違うモノだと、別々に分けて個別に後悔なり反省をして欲しいと思って言うのだった。
後は其れを凰哦が理解してくれたら、正樹、片平、江田の3人は其れで良かったのだ。
ボロボロになりながらも、震えて蹲る凰哦を今も優しく抱きしめたままの隆志。
相変わらず其の優しさで、背を摩りながら
「3人はああ言いましたが…賢い貴方なら既に気付いてますよね…?3人の本当の気持ちを…。今回僕にした事は、後で2人で話しましょう…。ですから其の前に、青柳さんと片平さんを吹き飛ばした事を先ず謝りましょう?出来ますか?」
隆志が其う聞き、俯き蹲りからやっと顔を上げる凰哦。
渋メンの面影も無いくらいに、グジャグジャな顔をした凰哦を
「謝る前に、先ずはグシャグシャの其の顔を何とかしましょうか?…ちょっと待ってて下さい…」
と言いながら、持っていたティッシュとハンカチで、凰哦の顔を拭く。
自分もグシャグシャなのに、如何して其処迄無償の奉仕をする事が出来るのかと思う凰哦。
「さぁコレで良いでしょ…。其れじゃ起き上がって、2人に謝罪しましょうか…」
スッと立ち上がり、手を差し伸べる隆志。
其の隆志の言葉にコクンと頷き、差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。
そして正樹と片平の前に立ち、深々と頭を下げながら
「正樹父さん…片平さん…許される事では無いと思いますが、謝らせて下さい…。とんだ無礼と私の行いで、お2人には迷惑と不快な思いをさせてしまいました…。心から謝罪します…本当に…済いません…」
頭を下げ続ける凰哦の足元に、ポタポタと流れた涙が溜まっていた。
何時迄も下げ続ける凰哦に
「俺はアレくらいは慣れっこだからさ、其れは気にして無いから。不快に思ったが、謝罪の言葉をしっかりと聞いたから、俺は其の謝罪を受け取るよ…」
片平は、素直に凰哦の謝罪を受け入れた。
「私も片平さんと同じ、凰君の謝罪をしっかり受け入れたから…。ただ歳のせいか、凰君に吹き飛ばされた時に腰打っちゃって…ちょっと痛いかな?…ハハッ…」
全てを受け入れてしまえば、逆に罪の意識が残ると思った正樹は、全てを受け入れるのでは無く、少しだけ罪を残す事にした。
「私達は其れで良いから、凰君…分かっているよね…。私達よりも、キチンと誠意を持って謝罪しなきゃいけない事をね…」
「……はい勿論分かってます…。正樹父さん、片平さん、本当に済いませんでした…。では彼に謝って来ます…」
「あぁ…」
「あいあい…」
2人は凰哦の背を押す様に返事をする。
隆志の方へと向きを変え、隆志の前に立ち
「隆志さん…俺の…私が君にしてしまった事を…謝らせて頂けないでしょうか…」
隆志にも深く頭を下げ、謝罪する前に、謝罪を聞いて貰う為のお願いをする。
許されるとは思って無い。
許されて良いとも思って無い。
だが、自分が犯した罪に向き合う為にも、お前のした事は罪だと相手に認めて貰わなければ、謝罪したくても出来無い。
其れは、ただの自己満足にしかならないのも分かっている。
其れでも彼には謝罪しなくてはいけないと、心の底から思う凰哦だった。
だが、隆志から言われたのは
「僕は後で良いです…。先程も其う言ったでしょ?後で2人で話しましょうと…。僕より先に院長先生にも謝罪して、蓮輝君に会いましょう?…きっと待ってくれてると思いますから…」
この一連の事で、取り乱す程になったのにも関わらず、蓮輝の事がスッポリと抜け落ちていた凰哦。
其れは正樹と片平もだった…。
其処に江田が
「私にも謝罪は必要無いですから、先ずは彼の手当をしないとね…。其の前に、皆さん此方に来て下さい。そして部屋の中を見て下さい」
柔らかい表情で江田がICUの中を見ろと言う。
今し方、亡くなったばかりの蓮輝を見る者達に気遣って、わざと柔らかい表情をしたのかと思った凰哦達。
でもやはり、死んだ蓮輝を見ると思うと、足が重く歩みが遅く成るのだった。
ICUの中が見える窓迄来た時
「彼は未だ生きてます」
と、江田が言う。
「「「!!!」」」
エッ!と驚く凰哦達。
聞き間違いじゃないかと
「え…江田院長…。生きてるって…生きてるって如何言う事…何です…か?…」
思わず江田に聞く凰哦。
「其うだ!如何言う事だよ院長さんよ!?」
「先程死亡確認が有ったのに…院長さん、其れは一体如何言う事かね…?」
片平と正樹も意味が分からないと、江田に問うのだった。
「喜ぶべきでは無いのですがね、先程お亡くなりになったのは、此処で治療している数人の患者さんの1人で、身内のいない方が亡くなったんですよ…」
江田の其の説明に、“ハア!?何だって!?”と慌てて中を見る凰哦達。
其処に見えたのは、亡くなったばかりの見知らぬ人。
其の少し奥に、蓮輝が眠っていた。
繋がれた機器の多さにも驚いたのだが、心電図には、ちゃんと心拍数が表示されていて、呼吸器によってしっかりと呼吸している事も見て取れた。
「あぁぁ…生きてる…生きてる…。蓮輝はちゃんと未だ生きてくれてるよ…嗚呼ぁ…良かった…良かった蓮輝…生きててくれて…。嗚呼ぁ…嗚呼嗚呼ぁ…嗚呼ぁぁあぁぁ……ぅわあぁぁああぁぁーーー…嗚呼ぁーーー……」
蓮輝が生きてると分かり、また声を上げて泣く凰哦。
安堵した途端、其の場に倒れ気を失う。
「凰君!!?」
「篠瀬君!!」
「凰哦!?」
正樹と片平に隆志も、気を失う凰哦に驚き声を掛けるのだが呼び掛けに反応は無く、其のまま凰哦も入院してしまう事になった。
其れからはと言うと、隆志の治療を済ませながら凰哦を検査した。
検査の結果ストレスによる失神だと言われ、凰哦を病院のVIP専用の個室に移して一晩様子見となり、後に合流した美砂と仲上に簡単に説明してから、子供達の世話などが有るからと、隆志1人が凰哦の付き添いとして残る事になった。
正樹達も其の方が良いだろうと判断。
何故なら目を覚ました凰哦が、直接隆志と2人きりで話す事が出来るからだ。
其れに怪我をした隆志も病院に居れば、何かと便利だとも思ったからだった。
1度戻った片平が、着替えとスペアのメガネを届けに来て
「宮津隆志君だったね?」
「はい。片平さんも隆志と呼んでくれて良いですから。今後一緒に働くのですから、其の方が楽だと思いますので…」
「其うかい?其れじゃ早速。…なぁ隆志、お前さんは本当にアレで良かったのか?」
「えっ?アレでとは…」
「殺されてもってヤツだよ…。其の前に、何度も殴られてもいたのに、殺すと言われたんだぞ?」
「あぁ其れですか…」
「あぁ其れですかって、何軽く言ってるんだ!?お前さん、少しヤバいんじゃ無いのか?」
「アハハッ其うかも知れませんね…」
「アハハッてなぁ〜…。よく笑うと言われる俺からしても、流石にこんな事されたら笑えねぇ〜ぜ…。其れなのに、お前さんは笑うだなんて、本当に頭の中がおかしいとしか思えないんだが…」
「あっいや…済いません…。笑ったのは僕自身ヤバいのかもって思ったら、笑うしか無かったかと言う感じでして…」
「成る程確かになぁ…納得…。で、本当の所は?」
「あの時思った事は全て本気で思いましたよ。今も其の気持ちは変わってません…。僕にとって、其れをするに値する大切な人達何です…。僕が今迄生きて来た中で蓮輝君を始め、凰哦に青柳さん夫妻に、片平さんと仲上さんに子供達…。其れとキュー君…。どの存在も僕にとって大切で…掛け替えのない、とてもキラキラした宝物何です…」
昨夜隆志の器の大きさを知ったばかりなのに、此処でまた、隆志の純粋で穢れなき其の心は、何処迄も広く果てしなく、限界が無いのだと感じた片平。
こんなにも出来た者に出会った事が無いと、片平も思うのだった。
余りにも大きい器の持ち主。
片平は、凰哦と蓮輝に江田の3人以外にも、いや其れ以上に信用と信頼出来る者は、隆志1人だけだとも思ったのだった。
其の隆志が作り出す優しい笑顔で言うから、グッと込み上げる熱い思いが、無意識に片平を泣かせていた…。
こんなにも無垢で純粋な心を持っている隆志の心が、何時か壊されてしまう事が有るのかも知れない、心壊された時に自分は彼に対して、其の心を救う事は出来はしないだろうと、思ったのだ。
何故なら隆志以上の器の持ち主で無ければ、彼を支える事など出来そうに無いからだ…。
そんな事を思うと隆志の心を危惧してしまい、寛大過ぎる事がとても不便に思えて、無意識に泣いてしまっていた。
「片平さん!?どどど、如何されました!?涙流して…何か辛い事でも有りましたか?…其れとも具合でも悪グゥ!」
隆志に有無を言わさず強く抱きしめる片平。
「あぁ痛て〜よ…お前さんの其の優しさがとても、とても痛いな…。本当何処迄バカ何だ?優し過ぎるぞ?…お前さんの其の心が何時か傷付いてしまわないか、壊されてしまわないかと思うと、胸が痛むよ…」
「……………」
「だから其うならない様に、優しさも程々にしてくれよ?頼むからさ…」
「……………」
片平の胸の中で、無言で頷く隆志。
片平は、人に泣いている所を見られたく無かった事と、純粋な隆志を守ってやりたいと思う気持ちで抱きしめたのだった。
この時片平の中で、つい先日迄其の他大勢と同じ位置付けされて居た隆志が、自分の守るべき者達のリストの上位になったのだ。
守る者が1人増えた喜びに満ち溢れ
「何か有ったら、俺に何でも言ってくれ!お前さんなら喜んで何でもしてやるからさ!あっ後其れとな、俺も堅苦しいのが嫌だからよ、努と呼び捨てにして良いぞ〜!何ならツトツトとか可愛く呼んでくれてもOK〜♪ってか、ツトツトって良いなぁ〜。ツトツト…ツトツト…ブフッ!ツトツトって!ブアッハハハハハハハ〜!ツトツト…アッハハハハハハハハ〜……ゲホゲホゲホ…」
「…………」
「ヨシッ!今度から俺をツトツトと呼ぶ様に!コレは決まりにするから宜しく!其れじゃ俺ツトツトは帰るなぁ〜。ツトツト……ブフッ……ツトツト……アッハハハハハハハハ〜ゲホゲホゲホ……」
抱きしめられたかと思っていたら、嵐の様に1人騒いで帰って行く片平ツトツト。
其のツトツト呼びを拒否する事も出来無いまま、ただボーゼンとしてしまう隆志だった…。
「えっ?…」
其の一言が精一杯の隆志は、この先片平を呼ぶ時に、“ツトツト”と言わなければいけないのかと思うと、とても憂鬱に成るのだった。
何か有れば遠慮無く言えと言ったツトツト本人に、何かが有っても絶対言わないと心に決める隆志であった。
そして今も尚眠り続ける凰哦の心配をしながら、部屋に在るソファーに深く腰を掛け、ふぅ〜と一息付いたと同時に気が抜けてしまい、深い眠りに付くのだった…。
色々と有った1日。
多分其々出会った日の中で、今日が1番辛く長い日になったのだろうと、隆志は思ったのだ。
傷付き傷付け、嘆き悲しみ、悔み悔やまれ、そして絶望も味わった悲しい日。
こんなにも辛い事が1度にやって来る日は、2度と来ないで欲しいと、皆んなには優しい日が続いていて欲しいと、其う願いながら夢の中へと落ちて行く隆志だった。
後は蓮輝の為にも、蓮輝を支える凰哦の心が壊れて無い事を祈るのだった。
今話も辛い感じの話になりました。
ですが、未だ終わってません。
次話もサブタイトルを引き継ぐ事になります。
では次話をお待ち下さい。




