後悔と反省
今話から章が変わりました。
其の最初のお話です。
では如何ぞ。
新しく造られた孤児院。
其処で子供達の面倒をみる職員として雇われていたのは、元組長で本当は強面警官の片平さんに、何時の間にか其の片平さんとお付き合いしていた、元看護師の仲上さん。
この2人、とても混ぜ合わせてはいけない、劇薬不審物さんなのでした。
余りの劇薬不審物だった為、直ぐ様お引き取りを願おうかと思ってたんだけれどね、片平さんの隠された特技により、解雇はせずに終わったのです。
其の後、こっそり本当の不審者撃退用のパニックグッズを凰哦さんにバレちゃいましてね、クレーンキャッチされたまま、病院監禁の運びとなりました。
更に、子供達に描いた絵本数冊何だけどね、2冊はマトモな内容の絵本何だけれど、残りは不審者の撃退法を分かり易く覚え易い様に、絵本にしたモノなのですよ…。
病院監禁された後、孤児院へ戻った凰哦さんが其れを知ってね、激オコワンコの凰哦さんの指示で、本当に誰1人としてお見舞いに来てはくれませんでした…。
電話もお財布も没収されたし、部屋から1歩も出てはダメだと、外から鍵を掛けられてしまいまして、マジ監禁なんですよ…。
辛い…辛過ぎる…。
隙有らば即座に逃げだそうとしましたがね、全く隙が無く、しかも僕の体力が続かなくてね、断念するしか選択肢は有りませんでした…。
トホホ…。
こうなりゃ不貞腐れて、ただひたすら寝てやろうじゃないか!
其れじゃ皆んなお休み!
フンッ!
…そして僕は…本当に…ただひたすら眠る事になる…。
こんな事なら…不貞腐れるんじゃ無かったよ…。
後悔は先にしよう…。
後からだと、ちゃんと後悔したんだと思うただの自己満足に成りかねないし、其れにね後悔をしようとしても、其の時に出来無い事も有るんだもんね…。
だから後悔は先にして、反省を後にしよう…。
本当は、反省も後悔もしなくて良いのが1番何だけれどね…。
でもね、反省も後悔もさ、何かしら行動を起こさないと出来無い事だよね?
何もしないで、何かをすれば良かったと思う反省や後悔は、何かをしようと思って行動するから、其の反省や後悔が生まれるんだと僕は思うよ。
言いたい事が纏まらないけどね、自分の言動で生まれて来た反省や後悔は、其の人の辿って来た足跡で、コレから新たに残す足跡の為に必要なモノ何だと思ったりしてるよ…。
だから僕もね、新たに足跡を残す為、前に進む力を身に付けなくちゃいけないよね…。
後悔は先にして、反省を後にしよう…。
そして、この先の自分がどれだけ前に進めるのか…其れを確かめ様と思ったんだ。
だからね、お願い…。
其の日が来る迄、前に進む為の力を沢山蓄えたいんだ〜。
其の日が来る迄の間、僕を黙って見守って、静かに眠らせてくれる?
必ず前に進むからさ…お願い…。
蓮輝の其の思いと言葉は、誰にも伝わる事は無かった。
凰哦に無理矢理病院に入院させられ、正しく監禁状態にされていた蓮輝。
蓮輝が凰哦との約束を破ったからだとされているが、実の所は違い、凰哦によって其うなる様に、仕向けられていたのだった。
日に日に衰えて行く蓮輝。
凰哦達を気遣って、気丈に明るく振る舞い、そしてどんなに辛くて苦しくても、辛そうな表情は一切せず、蓮輝を取り巻く人達に向け、笑顔と笑いを絶やさない様にしていた蓮輝。
そんな蓮輝の健気な姿を見ている事が辛いのは勿論なのだが、其れ以上に苦しく思えたのは、全身に転移した癌によって起こる激しい痛みと、脳に転移した癌が肥大した事で記憶が曖昧になり、そして起伏が激しくなったりして、言わないと決めてた罵る言葉を吐いてしまい、相手を傷付けたと、1人悲しみ嘆いている姿を陰で見ていた凰哦。
もうこれ以上、蓮輝に辛い思いをして欲しくは無い。
本音で言うのなら、今直ぐ病院で大人しく治療して貰えたならと思う凰哦なのだが、蓮輝の性格上、気遣われていると感じて仕舞えば申し訳無いと自分を責めるだろうし、無理をして平気を装う事が分かっていた。
何故ならば、天邪ッキーなのだから…。
其れに、騙し打ちして病院に入院させようとしても、勘の良い蓮輝は直ぐに気付き、入院してはくれないだろうと思っていた。
其の為、正樹と美砂、仲上と努に隆志と子供達にも協力を得て一芝居を打ってもらい、見事蓮輝を大人しく入院させる事が出来た。
皆んな、蓮輝の事を大切に思ってくれていたから、凰哦の要望を快く承諾してくれたのだ。
蓮輝を入院させる事が出来たのは、新しい孤児院の完成間近から、周到な準備と協力を経て、やっとの思いで実現出来たのだった。
其れ程蓮輝の勘が良く、更に蓮輝を騙さなければいけないから、誰もが神経を削って協力してくれていた。
凰哦は、無理をさせる皆んなに悪いと思いながら毎回頭を下げるが、誰1人として嫌な顔や文句1つ言わず、逆に凰哦を励ましてくれる。
大好きな蓮輝の為だと、其の蓮輝を誰よりも心配して此処迄頑張る凰哦を労って、優しく笑ってくれるのだった。
凰哦は其の温かい心に触れ、毎度張り裂けそうな心を癒されて、感謝しながら涙を流すのだった。
“こんなにも蓮輝を愛してくれてありがとう”と言う思いと、自分も皆んなに大切な者だと思ってくれている事が分かって、満たされる心と共に、負の感情を涙で洗い流していた。
そしてやっと蓮輝を入院させる為の、最初のキッカケのチャンスが訪れたのが、新しく出来上がる孤児院の時だった。
其のチャンスを逃さず、見事蓮輝を入院させる事が出来たのだ。
後は江田院長にも話を通して、協力を仰いだ。
何故ならば、蓮輝が脱走しない為に。
其のおかげも有って、隙さへ有れば脱走を試みた蓮輝を連携の取れた職員達が見事に阻止。
諦めの悪い蓮輝がようやく観念したのは、入院してから8日目だった。
元々イタズラ好きな蓮輝。
其の上天邪ッキーだから人の指示に従うのを嫌い、悪巧みに労力を厭わないので、何かしらしてやろうと常に考えているのだ。
他人嫌いだった頃は、本当に笑えないイタズラをしていたのだが、キューが現れて、其処から大切だと思える人が少しずつ増え、あれだけ他人嫌いだったのに、今では自分の事よりも、大切な人達の笑う事ばかりを考える様になっていた蓮輝。
今、蓮輝が行うイタズラは、後々に“蓮輝のイタズラは楽しいイタズラだった”と、懐かしく思えて笑えるモノが多くなっていた。
何故笑えるイタズラが多くなったのかと言うと、天邪ッキーながらにも、自分が仕掛けたイタズラで大切な人達が傷付かない為なのと、後は多分、心の何処かで自分の存在を覚えていて欲しいと、そんな願いが込められているのだろう…。
長くても、後数ヶ月後には尽きて消えてしまう自分の命…。
其れが分かっているから、少しでも多くの笑顔を作って、僕が此処に居たんだと言う軌跡を残そうと、辛い体でも労力を惜しまずに頑張っている事を、凰哦達は分かっていた…。
だから蓮輝に気付かれる事なく、上手く入院させる事が出来た時は、皆んなが良かったと安堵したのだ。
だが病院からの報告で、何度も脱走しようと試みてる事を聞き、バカ野郎!大人しく出来無いのか!と誰もが思い、8日目になってやっと諦めたと知った時は、蓮輝の執念の凄さを改めて知る一同だった。
後は蓮輝が大人しくしていてくれたなら、無理をする事が少なくなる分だけ体の負担も減り、病状の悪化速度も落ち着くだろうと思っていた。
そんな凰哦達の思いとは裏腹に、次の日の朝早く、病院からの連絡で目の前が真っ暗になってしまうのだった。
蓮輝が入院して8日目の日、蓮輝が諦めた事を報告する為、正樹と美砂に隆志を孤児院に呼び出しし、孤児院にて報告を済ませて安堵したせいか、張り詰めていた気力が一気に抜けてしまい、その日は全員で孤児院に宿泊する事にしたのだった。
この日の晩の話題は蓮輝の事ばかりで、其々がヤキモキした事や不満に思った事、笑いに楽しさや嬉しさ、人とは違う視点や豊かな発想に言葉の表現力。
其れに前向きで切り替えの早さなど、蓮輝の話題は尽きる事無く、皆んなワイワイと賑やかに話が弾んで行くのだった。
蓮輝がこんなにも多くの人達に愛されているのだと、とても嬉しくなる凰哦だった。
早々に就寝した子供達を其々見届け、食堂に大人だけが集まり、片平が作ったつまみと軽く1杯と言いながら、何杯ものお酒を呑み、また蓮輝の話題で盛り上がる。
隆志以外が受けた、蓮輝のお仕置きの恐怖話が1番盛り上がって、其処からしばらくは、蓮輝のする事の殆どが相手の事を思っての言動が多く、其の言動にとても感動したと言う話へ移行し、とても細かく他人の事を観察しているから、誰が何を欲しているのか、して欲しいのかしたいのかを先読みして、さり気無く手助けをする気配りの良さ。
彼が本当に他人嫌いだったのかと思う程、蓮輝の取る行動の全てが、人を愛する故に出来る事なのだと思える一同なのだった。
凰哦は、此処に居る皆んなが蓮輝の事で盛り上がり、蓮輝の事をとても大切に思ってくれているのだと知り、目頭が熱くなりながら、嬉しく幸せだと思った…。
其の蓮輝が今、余命幾ばくも無い状態でいると思うと、あれだけ盛り上がったのに、段々としんみりとして来て
「何故あの子が…あんなに良い子なのに…蓮ちゃんが…ううぅぅ…ううぅ…辛い思いを…しなければいけないの?…」
美砂が堪らず咽びながら涙し
「其うだね…うぁあぁぁ……ああぁ……あぁ…蓮ちゃん…何故蓮ちゃん何だい…如何して蓮ちゃんが辛い目に遭わなければいけないんだい……ううぅ……」
正樹も胸の中で溜めていた思いを吐き出す。
「僕にやっと心から想える友達が出来たのに…何もして上げられないよ……ううっ…うううっ……」
隆志も悲痛な表情をしながら、溢れてくる涙が止まりそうに無い…。
仲上も
「バカな事ばっかりしてたけど…其のバカな事が笑顔に変わる事を初めて知ったわ…。 彼のおかげで他の患者さん達も心持ちが変わって来て…患者さんや私達がどれだけ癒されたか分からないわ…」
目に涙を溜めて、蓮輝の行いに感謝するのだった…。
「俺は正直余り良く知らないけれど…久々に会った時思ったよ…。何て純粋なんだとな…。憎まれ口叩いたり、イタズラするのがちょっと行き過ぎる所も有るけれどよぉ…其の全てが他人の事を思っての言動だと分かった時、あぁ…何て純粋なんだろう…ってな…篠瀬君や江田院長以外にもさ、信用の置ける人物何だって…素直に思えたよ…」
片平も、蓮輝の本質を見抜いていた…。
今は眠っている子供達もきっと、蓮輝の事を悪く言う者などいないだろうと、この場に居る全員が思ったのだった…。
そして凰哦は思った…。
(蓮輝…こんなにもお前の事を想ってくれてる人達が、此処に居るぞ…。何て嬉しいんだろうな…。誰もが短い付き合いなのにな、俺だけしか分かってやれ無かったお前の性格や心のあり方を、皆んなちゃんと分かってくれているぞ…。其れだけお前の事を知りたいと、其う思ってくれたって事なんだぞ…。本当に嬉しいよなぁ…とてもありがたいよなぁ…幸せだよなぁ…)
キューが来て、其処から自分と蓮輝の2人は変わり始め、あんなにも他人だと思って一線を引いてたのに、今では其の他人がこんなにも大切で、掛け替えの無い宝物の様な存在なのだと思った…。
其う思いながらゆっくりとお酒を呑み、黙って皆んなを見ていたら…
「凰さん…大丈夫なの?…」
と、美砂が心配そうに声を掛けてくれる。
「え?…」
別に、何処も何も悪くは無いのに大丈夫なのかと聞かれ、疑問に疑問で返してしまう。
「え?って凰君、まるで蓮ちゃんの癖の様に、呟きながら泣いているのだもの…」
正樹が其う言わなければ、泣いている事など気付かなかったのに、其の上蓮輝と同じ様に呟いていたのだと知る。
「父さん母さん、私…呟いてました?…」
「あぁ呟いてたよ…」
「えぇっ!?…ななな、何て呟いていましたか…?」
「あ…えっとね…凰さんの呟きはね…」
未だ涙が止まらない凰哦を見て、言葉に詰まる美砂。
其れを理解した隆志が
「僕が何て呟いていたかを話しますね…」
と言って
「両手を出して下さい」
と、凰哦の手を出して欲しいと言う。
凰哦は言われた通りに両手を隆志に出すと、隆志は其の手を優しく握るのだった。
「!?宮…」
「隆志と呼び捨てで構いませんよ?…驚かれたでしょうが、今はこのまま僕の手を握っていて下さい」
「あ、あぁ…ありがとう隆志…君…」
「では何を呟いていたか言いますね。蓮輝、お前はこんなにも沢山の人を幸せにする力が有ったんだぞ…。だからお前も幸せにならないといけないんだ…。なのに何故なんだ…。何故お前が辛い思いをしなきゃいけないんだ…。何故もう直ぐ死んでしまうんだ!?…嫌だ…死なないでくれよ…俺達を…俺を残して行かないでくれよ…。お願いだから…頼むよ蓮輝…。頼みます神様…如何か神様…お願いです…蓮輝を助けて下さい…と……」
凰哦の呟きを其のまま語る隆志。
両手を握らせていたのは、自分の呟きの内容を知り、何かを掴んで縋って無ければ、崩れ落ちて立ち上がれないだろうと思った、隆志の優しさからくる機転であったのだ…。
思わず強く隆志の手を握りながら声を出して泣く凰哦。
強く握られた隆志は顔色1つも変えずに、隆志も涙を流しながら、優しい眼差しで凰哦に微笑む。
其のおかげで、声を上げ泣き崩れそうになったのだが、隆志の手の温もりと優しさを感じ、隆志の両手に縋り付きながら泣き続けるのだった。
美砂と正樹が凰哦を抱きしめ、同じ様に泣いてくれる。
仲上と片平は、凰哦に何と言って良いのか分からず、声を掛けられない事を悔やみながら泣いていた…。
隆志は何も言わず、ただただ凰哦の手を握り続け泣き止むのを待ち、其の後そっと凰哦を抱きしめ背中を優しく摩り
「この先も辛い思いをするでしょう…。僕も辛いです…。だから今溜まってる辛い思いを全て吐き出しましょう篠瀬さん…。先に待ち受ける辛い現実を受け止める為にも…ね…」
声を震わせながらも其の言葉には力強さが有って、隆志の芯の強さを知る凰哦達…。
「僕も辛いと言いましたが…篠瀬さんが受ける辛さは如何程かだなんてとても計り知れませんし、分かる筈も有りません…。辛い気持ちの大きさなんて、本人じゃなけれは分かる筈も有りませんから…。でももし、其の辛さを分ける事が出来るのならば、少しでも良いから僕で良ければ分けて下さいね…」
流石、蓮輝の本質を見抜いて告白したくらいでも有る隆志の優しさは、紛う事なく純粋で有り清浄なモノだった。
其の心に触れた凰哦は
「隆志君…うぁぁ…あり…あり…ありがとう…ううぅぅ…うああぁぁぁーー………」
隆志の胸の中に顔を埋め、声を上げて一頻り泣くのだった。
其の間ずっと隆志も泣きながら、あやす様に凰哦の背を摩り続けるのだった。
“大丈夫…大丈夫…気が済む迄、幾らでもお付き合いしますから…”
と、凰哦を安心させながら…。
其の隆志の姿を見た正樹と美砂に、仲上と片平も心打たれるのだった。
こんな素晴らしい青年が居た事を、とても嬉しく誇りに思いながら…。
そして何時しか凰哦の不安や辛い気持ちも落ち着き、お酒も入ってたせいか、泣き疲れて眠ってしまっていた。
隆志も同じで、お酒が入った状態で凰哦をあやし続けた事と、隆志も辛い思いをしていたのを全て吐き出し、其の重圧から解放された事で、凰哦を抱きかかえたまま眠りに落ちてしまう。
眠りに付く2人を見た正樹達が、部屋に運ぶのは流石にキツいと簡単に食堂を片付けて、2人分の布団を用意し寝かせる事にした。
初めは別々に寝かせるつもりでいたのだが、寝てる者を起こさず2人を引き剥がす事が出来ず、結局諦めて2人一緒に寝かせる事にした正樹達。
其の後スヤスヤと寝息をたててる2人を微笑ましく思いながら、“お休み”と見届け其々も各々の部屋で就寝する。
全員が就寝したのは午前1時過ぎだった…。
其れでも何時もの習慣で、早く起きた凰哦。
目を覚ました時、目の前にスヤスヤと眠る隆志が居て、“何故!?”と、とても驚くのだったが、うろ覚えながらも隆志の優しい心に触れて、気持ちが軽くなった事を思い出し
「隆志君…ありがとう、感謝するよ…」
未だ眠っている隆志に、其う感謝の気持ちを伝える凰哦だった。
「う〜……ん…。ん?…あれ…此処は…。僕何でこんな所で寝てるんだろう…」
目を覚ました隆志に驚く凰哦。
寝ぼけながらも同じ布団に、凰哦と一緒に寝ていると気付く隆志…。
「!!」
「!?」
驚いた2人は無言で固まり、汗が止まらない…。
「ななな、何故篠瀬さんが一緒の布団で寝てるんです!?」
「お、俺にもよく分からないよ!俺も目が覚めたら、君が居てビックリしてたんだから!」
未だ状況を把握出来ていない2人。
でも
「如何やら君に不安を取り除いて貰ったまま、寝てしまってた様だよ…」
「あっ其うでしたね…」
「寝てた君に言ったけど、ちゃんともう1度しっかり言うよ。隆志君ありがとう、おかけで心が軽くなったよ…」
「其う何ですね、其れは良かったです」
「……何故かな…」
「?…えっ?如何されました?」
「私も他人と親しくするのが苦手なのに、不思議と嫌な気持ちにならないんだよ…。やっぱりアレかな?隆志君に不安を取り除いて貰ったからかな?…一緒の布団にこうして居るって言うのにな…って、何キモい事言ってんだ俺!?ヤバい奴じゃないかよ〜〜!」
「プッ…アハハッ!」
「おいおい隆志君、何笑ってるんだ!?」
「いやだって…ちゃんと元気になったんだと思ったら、嬉しくなって笑ってしまいましたよアハハ…」
「フッ…フフッ…如何やら其の様みたいだよ…。本当ありがとう隆志君」
「いえ、僕で良ければ何時でも話を聞きますから篠瀬さん」
「………う〜ん……」
「えっ?また如何されました?」
「やっぱり其の篠瀬さんって言われるのがイマイチなんだよなぁ〜…。隆志君、君も蓮輝みたいに凰哦と気軽に呼んでくれないかな〜?其の方が俺としては、気持ち的に楽なんだがダメかい?」
「そ、そんないきなりは無理ですよ!」
「ゆっくり慣らしてくれたら良いから、出来れば是非お願いしたい」
「……分かりました…。でも慣れる迄時間が掛かりますけど良いですか?」
「其れ!以前に蓮輝にも言われたよ。いやぁ〜ちょっと前の事なのに、既に懐かしいなぁ〜」
「へぇ〜其うなんですね…。では今後は凰哦さんと呼ばせて頂きますね…」
「ありがとう、其うしてくれると嬉しいよ」
「アハハッ…」
未だ同じ布団の中で和やかな感じになっていた時、突然凰哦の携帯に着信が入る。
携帯の着信音で、驚き慌てて布団から飛び出す2人。
よくよく考えてみると、かなりキツい絵面のままで居た事に焦り、すかさず誰も見ていない事を確認する。
朝早い時間だったからか、幸い誰も起きて来ては無く、ふぅ〜と安堵する2人なのだが、鳴り止まない着信音に“何故こんな朝早くから電話が掛かって来たのだ”と、不安が急に押し寄せて来るのだった。
嫌な予感しか無い。
出るのを躊躇ってしまう凰哦。
「篠…凰哦さん!早く電話に出ないと!」
隆志の言葉で気を強くして、電話に出ると
「篠瀬さん、こんな朝早くから済いません。今直ぐ病院に来て下さい!河橋さんが昏睡状態になりました!」
ガシャーン…
凰哦の手からこぼれ落ちる携帯…。
携帯から声が未だ聞こえるが、携帯を拾い上げる事すら出来そうに無い…。
目の前が真っ暗になる凰哦は、直ぐ側に居る隆志の声も聞こえ無くなるのだった。
必死に呼び続ける隆志。
其の隆志が、凰哦の携帯を拾い代わりに電話の内容を聞くのだが、やはり隆志も愕然としてしまい、まともに話が入って来そうに無い。
其れでも昨夜、凰哦に自ら言って約束した、辛い事を分けて貰う為に何とか持ち堪えて聞くのだった。
其のやり取りをしていた時、凰哦を呼ぶ隆志の声で異変を感じた正樹達が、食堂へと駆け付けて来た。
そして隆志から聞かされた内容に、美砂と仲上は膝から崩れ落ち、声を上げて泣くのだ。
正樹と片平は、悲痛な表情になりながら、凰哦のサポートに徹する事にした。
表情を無くし、動く事すら出来ない凰哦。
其の凰哦を正樹と片平が、何とかして病院へ連れて行こうとするのだが、何も考えられない筈なのに、頑なに拒否する凰哦を連れ出せそうに無く、一刻を争うのにと焦ってしまう。
もしかしたら、このまま死んでしまうかも知れないのに、死に目に合わずこのままでいたら、絶対に後悔すると分かっているので、尚更焦る正樹と片平。
美砂と仲上は、未だ泣き崩れているだけで、役に立ちそうにも無い。
だがただ1人だけ、隆志だけは違った。
「しっかりしろ!凰哦さん!」
其う言うと同時に、凰哦の頬を平手打ちして
「言ったじゃないですか!僕に其の辛さを分けて貰うと!僕も凰哦さんと一緒に居ますから!だから気を強く持って下さい!大切な蓮輝君の為にも!」
隆志は凰哦をギュッと抱きしめながら、凰哦の意識が戻るのを待つのだった。
「…蓮輝…蓮輝ー!…蓮輝ーー!!」
隆志のおかげで思考停止が解けた凰哦を連れ、病院へと車を飛ばす片平。
泣き崩れる美砂と仲上に子供達を任せ、後から合流して貰う事にした。
病院に着くなり、全速力でICUへと向かうと其処には江田院長が待っていた。
「蓮輝!蓮輝!!江田院長!蓮輝は…蓮輝は如何なんです!?無事何ですか!!」
息を切らしながら叫ぶ凰哦。
凰哦の問いに、悲しそうな顔をしながら首を横に振る江田院長。
「!!」
駆け付けた全員の時が一瞬止まる。
「そ…そんな…」
全員が膝から崩れ落ち、言葉を失うのだった。
震えが止まらない凰哦。
其の凰哦を落ち着かせる為、力の限り無言で抱きしめる隆志の目は、悲しみと悔しさが混ざり、大量の涙が溢れていた。
隆志に抱きしめられながら
「蓮輝ー!蓮輝ーー!死なないでくれーー!!俺を置いて行かないでくれよーーー!!!蓮輝ーーー!!!」
泣き叫ぶ凰哦の声が、病棟にただ虚しく響くだけだった…。
其の声は、決して今の蓮輝には、届く事などないのに…。
新章最初の内容は如何でしたか?
では次話を待ってて下さい。




